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7. 失くしたくないから…ですか?
失くしたくないから…ですか? ①
しおりを挟む正直、沙和はまだ覚悟が出来ていない。
先の見えない不安がある。
けれど、自分の不安を盾にして保身を図り、幽さんの不安を蔑ろにするのは違う。彼は飄々としているけれど、沙和とは比較にもならないほど不安な筈だから。
自分大事で幽さんが傷付くのは、良心が痛む。
ずっと胸の痛みを抱えていくくらいなら、沙和の不安など些末なことに感じた。
だから、沙和の不安を慮って遠慮していた幽さんを引き連れて……というか、嫌でも付いて来ざる得ない彼と、記憶の鍵となる町に来ていた。
電車に乗るまで幽さんが躰の主導権を取ろうとしたけど、今回ばかりは断固として抗った。ここで譲ったらずっと、幽さんの犠牲の上に沙和の平安が成り立っていく。そう思ったら意地でも渡せなかった。
駅に降り立った途端に気持ちが騒めき、足が出なくなる。そんな沙和に『やっぱり帰ろう』と幽さんが肩に手を置き、意固地になっている彼女の耳元で優しく諭すように言った。
幽さんを肩越しに見、頭を大きく振った沙和は意を決して足を踏み出した。
平日の日中だと言うのに、商店街はそこそこ賑わっていた。
幽さんが申し訳なさそうに、ずっと沙和から離れないまま辺りを見ている。この間までの嬉々とした感じは形を潜めてしまっていた。
こんな風に気を遣われると、すこぶる居心地が悪い。となると沙和が率先して動くしかないではないか。
やれやれとこっそり溜息を吐いた。
幽さんがこうも消極的だと、何処に記憶の欠片が転がっているか分からないのだから、店を虱潰しに当たって行くしか、沙和には思いつかない。
(一体何店舗あるんだろう?)
商店街の終点から軒並み並ぶ両脇に視線を走らせて、目を引き戻す。
数百メートルの間に路面店もあれば、小さなビルのテナント店もあったりで、軽く眩暈がした。
『沙和。無理しなくて良いんだぞ?』
ふらついた沙和に、眉宇を顰めた幽さんが言う。
『大丈夫。意外とお店が多くてビックリしただけだから』
『そうか…?』
こくりと頷き、沙和は商店街の中へと足を踏み出した。
子供の頃はこんなに店があるなんて気付かなかった。沙和が行く店なんてたかが知れていたし。
懐かしい店もあれば、知らない店もある。
人を探していると店員に断って、店の中を覗いては幽さんの顔を見るけど、これと言った成果はない。
二十軒目を出たところで、目に飛び込んで来た肉屋に引き寄せられるように向かった。
母にお使いを頼まれてよく来た店だ。
(ここの店のメンチと肉じゃがコロッケ、大好きだったんだよねぇ)
ショーケースを覗き込むと、奥から見覚えのある初老の女性が出て来た。
「何にします?」
ふくよかなオバさんが満面の笑顔で訊いて来た。
「『メンチと肉じゃがコロッケ』」
声が被り沙和が “ん?” と首を傾げて幽さんを見る。幽さんも目を瞬いて彼女を見下ろしていた。
「いくつ差し上げます?」
「『二個ずつ』」
反射的にそう答えて、またも声が被った幽さんを丸くした目で見上げた。
(数まで被るって……?)
困惑したような幽さんが口元を手で覆って沙和をじっと見下ろし、暫く何事か考えた後、彼女の疑問に答えるように彼は口を開いた。
『ここに、よく買いに来てたかも?』
幽さんは自信なさげに言ったけれど、沙和もそう思う。
(覚えてないかも知れないけど…)
沙和は口元を引き締め、メンチを紙の小袋に入れているオバさんを見た。
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