ずっと一緒だよ。~突然過保護なイケメン幽霊に憑かれたら・・・!?

優奎 日伽 (うけい にちか)

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9. ずっと一緒だよ。

ずっと一緒だよ。⑧

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 ***


 そろそろ解放してあげないとな、と婚約者の働く姿を見ては思う。

 沙和から離れて自由に動けるようになってから、偶に碧の職場を訪れている。何をするでもなく、ただ彼女を見守っているだけだ。
 この数年で、碧は何かの拍子に涙を流すことがなくなり、作り笑いの数も減ってきた。心から笑ってくれる姿を見れば、ほっとして椥の口角もあがる。

 けれど。
 少しずつ過去になっていく自分に寂寥感を感じる。どうにもならない時の流れと、生者と死者という覆しようのない現実を前にして、一体何が出来るというのだろう。
 彼女には未来がある。
 いつまでも死んだ椥に取り縋って、過去を振り返ってばかり居てはダメだと、頭では理解している。

(けど…納得出来てないんだよな)

 ほとほと女々しい奴だと思うが、簡単に忘れてしまえるほどの想いではなくて……。
 それでもいい加減、彼女を解放してあげるべきなのだ。

 気が付いたのは、沙和から離れられるようになってから直ぐのことだったか。
 椥が死んでからと言うもの、沈みがちな碧の陰になり日向になり、さり気なさを装って見守る視線があった。
 生きていたらそんな事もあるだろう。ない方がおかしい。碧はまだ若くて綺麗だ。性格だって良いし、ちょっとした仕草が可愛いのだ。男が放って置く筈がない。

 そんな事は解っている。
 しかし。
 碧を労わりながら、垣間見える男の恋情を刷いた双眸に気が付いた瞬間、碧に近付くその男へ激しい怒りと嫉妬、彼女への独占欲に支配され、荒れ狂って噴き出した感情。

 男だけを狙って起こる怪奇現象に、周囲から悲鳴が上がった。
 眼前で起こる出来事にすっかり血の気を失った碧が、まさか男を庇うなんて思いもせず、彼女の蟀谷から流れた血で、椥は正気に返った。

 大荒れに荒れたフロアで茫然と立ち尽くす碧の同僚たち。
 自分だって怪我しているのに、それよりも相手の男を心配する碧の姿を目の当たりにして、椥はようやく本当に理解できたのかも知れない。
 どんなに乞い願おうと、生き返って彼女の隣に立つことは二度とないのだと。



 ゆっくりとした彼女の心の変化。
 月命日には決まって墓参りをし、墓前で椥に語りかける愛おしい存在を見るに付け、まだ彼女の心の中に居ることに仄昏い喜びを感じつつ、微笑んで眺める。そんな日々がずっと続けばいいと願う反面、心の何処かで脅えていた。
 そしてそれは現実味を帯びていく。

 同僚の男は無理に椥を忘れることはないと慮りながら、着実に椥から碧の心を奪って行くのに、何も出来ない己がどれほど歯痒かったか。
 ある日彼女は沙和を呼び出し、『他の人を好きになっても良いのかな? 椥は許してくれるかな?』と、沙和が椥の姿を視られることを知っている上で訊いて来た。

 顔色を窺う沙和に、椥は答えることが出来なかった。
 黙したままの椥に代わって沙和は『許すも許さないも、碧さんが不幸になる方が悲しむよ。きっと』と椥をじっと見つめて言い、さらに『お兄ちゃんが悔しがるくらい幸せになって下さい』と付け足すと、良いよね? と心の中で語り掛けて来た。

 正直言ったら良くない。
 けど、碧に幸せになってもらいたい気持ちも嘘じゃない。
 彼女を幸せにする役目を担うのは、自分でありたかったけれど……。
 家に帰ってから、沙和に日本酒の一升瓶を供えて貰い、ヤケ酒した。
 二日酔いにならなくていいと、強がりながら半泣きで言ったら、沙和は困った顔で微笑んで『お兄ちゃん大好きだよ』なんて言うものだから、涙腺が決壊してしまったのは余談だ。



 沙和の結婚が決まった。
 篤志にはまだまだ不満は残るが、沙和が好き過ぎる点に於いては及第点だろうと評価はしている。

 仮に結婚しなくても面倒は見るからね、と言っていた隼人は暫く不貞腐れていたが。
 兄ちゃんも同じ気持ちだぞと、弟を慰めてみたものの、ジト目で睨まれ裏切り者扱いをされて、ちょっとばかし切なくなった。
 奈々美は奈々美で『あっくんがお兄ちゃんよ。良かったわねぇ』とにこやかに隼人の神経を逆撫でした。

 結婚の了承を貰いに来た時に、沙和が篤志に取られると言って泣いていた隼人を慰めたのは奈々美であったのに、素でそんなボケたことを口にした。この時椥から本気の殺意を感じ取った沙和が、身を挺して奈々美を庇ったので、沙和に免じて我慢してやった。
 尽々奈々美とは波長が合わない。合わせる気もないが。

(沙和が奈々美に懐いてるってだけでもムカつくってのに、俺の逆鱗を爪でカリカリカリカリ引っ掻きやがって。これが無関係だったら此処まで腹も立たないものを。ホントあの女だけはっ!)

 奈々美が沙和の事を本当の妹のように可愛がっていることは、嫌だけれど認めよう。
 しかし。本来なら椥が収まるべき場所に、至極当然とばかりに収まっている奈々美が大っ嫌いだ。
 人とテンポも思考もズレているのに、危機回避能力だけはすこぶる高くて、椥が未だ一矢報いたことがないのが、また何とも憎たらしい。

 成仏するまでにせめて一太刀と思っているが、“どーしてこのタイミングで!?” と紙一重で躱され続け、憤然としながらも最近は半ば諦めている。
 きっとこのまま奈々美に腹を立てつつ、何も出来ないまま成仏するのだろう。


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