63 / 65
9. ずっと一緒だよ。
ずっと一緒だよ。⑩
しおりを挟む挙式の間ずっと牧師の後ろでガンくれている椥に、沙和と篤志は終始顔を引き攣らせることになる。
招待客は、二人が緊張のあまり引き攣っていると思っているようだけど。
椥がこの結婚式を静観する訳がないと、妨害になれ過ぎてしまった二人には、悲しいかな、断言できてしまう。
この時、傍から目に捉えられない攻防が繰り広げているとは、隼人と美鈴以外がまさか気付くわけもなく、一見粛々と進行していく。
挙式の見せ場になる頃。
宣誓しようとした篤志の口を押さえつけ、誓わせないようにする椥をヴェール越しに睨みつけると、目を右往左往させて離れて行く。そんな兄を冷ややかな視線で追いかけて牽制しつつ、沙和が宣誓すると椥が目をうるっとさせて、次には悔しそうに篤志の頭を小突いていた。
指輪の交換になり、またも椥の手が伸びてくる。つい、沙和が小さく舌打ちしてしまったら、ビクビクして手を引っ込めた。
(まったくもお。不興を買うのが嫌なら、余計なことをしなければ良いのに)
こっそりと溜息を吐く。
どうしても邪魔せずにはいられないとは、困った兄だ。
誓いのキスが宣言され、篤志がヴェールアップした。目が合うと何方からともなく苦笑が浮かぶ。本来ならここで、幸せに満ち満ちた微笑みを交わす所だろうに。
篤志の顔が近付いてくる。
沙和はそっと瞼を下ろし―――椥の舌打ちを聞いた。
刹那、沙和は椥を横目に睨んだけれど、篤志は咄嗟に唇から頬に軌道修正するほどのプレッシャーを与えられていた。
(不憫すぎるよ、篤志)
結婚証明書の署名の段になり、今度は篤志の手をがっちり掴んで邪魔をしてきた。書かせまいとする椥に抗ってると、流石に少し騒つく。篤志が咄嗟に「緊張で手が震えて」と言ったら、如何にも篤志らしいと笑いが漏れた。
根性で書き上げるまで大分時間を要した所為か、篤志は疲労困憊の様相を呈している。心配そうに篤志を窺う沙和の耳元で『後悔しないか?』と何度も確認しながら、やっぱり署名を邪魔してきた。新郎新婦が揃いも揃ってそんな事をしているから、お陰で牧師に「ふざけないで下さい」と囁くような声で叱られ、椥を睨もうにも牧師の目の前でそんな素振りを見せる訳にも行かず、悔し涙を浮かべれば、やっと手を開放された始末である。
牧師も椥も、ちょっと狼狽えていた。
そう言えば婚姻届けの時も散々邪魔されたんだった、と数日前のことを思い出す。
書く度に使い物にならなくなり、一旦諦めた振りで椥がいない間にフェイント提出したくらいだ。その後烈火の如く(篤志に)怒り、役所のデータを改竄してやろうかと不穏なことを呟いていたが、本気ではない事を祈るばかりだ。
かなり不安……ではあるが。
二人の結婚式なんて絶対に出ない! と宣言していた美鈴が、披露宴の早々から浴びるように酒を喰らい、日本人形のような端正な面立ちが、半眼の呪い人形の形相に様変わりした頃、篤志に絡みまくっていた。
彼女が沙和の事で篤志に管を巻くのは、まあ通常運転である。だから二人の因縁を知る者は誰も美鈴を止めないし、旧友たちがその無法地帯にわざわざ挑んで行く辺り、沙和には酔狂としか思えない。
それでも、揶揄いの言葉と共に祝いの言葉を貰えば、胸の中がほこほこと暖かくなった。
旧友たちに「だらしない顔」と冷やかされれば、篤志は「数多の邪魔や困難もあったけどさ」と椥と美鈴に素早く視線を走らせる。それから沙和の顔を愛おしそうに見つめると、蕩けそうな笑みを浮かべた。
「やっと沙和をお嫁さんに貰えたんだから、こんなに幸せな事ってないだろ。顔が緩むくらい許せって」
と返して、仲間たちからぐちゃぐちゃに捏ね回されていた。
招待客の余興が始まると、準備の為にひな壇から人が引いて行く。
二人の間に割り込んで、腕を組み踏ん反り返る椥へ躰を僅かに向け、篤志が「椥さん」と声を掛けた。沙和と椥は豆鉄砲を喰らったかのような顔で篤志を見る。
これまで頑ななくらい “幽さん” と呼んでいたのに、一体どういう心境の変化だろうか。そんな兄妹の戸惑いをスルーし、篤志が言を継ぐ。
「俺、沙和の事、絶対に大事にするから。椥さんの妹、大切にするから。それくらいしか出来ないかも知れないけど、それだけは自信あるから。だから、見ててよ」
揺らぎのない真剣な眼差しで、篤志は椥を見上げる。そんな彼にちょっと感動して目元をウルウルさせていると、
「あ、でも俺、沙和似の可愛い子供欲しいんで、そこは邪魔しないで欲しいんだけど」
至極真面目な顔で思わぬ言葉を吐かれ、ぶわっと熱が一気に噴き出した。
顔、耳と言わず、もう全身が熱くて堪らない。
椥はぷるぷる小刻みに肩を震わす沙和を見、背中からふわりと妹を抱きしめた。
『ほざけ。お前の都合など知るかっ』
「じゃ椥さんは、沙和のかっわいい子供、見たくないんだ?」
『う……それは……見たい、が。イコール篤志の子だろうが…………沙和。処女受胎とかできない?』
本気で言っているだろう兄を、肩越しに見たまま固まった。
先刻の熱が冷めやらないうちに、新たな熱が上昇してくる。が、先ほどとは少々趣が違う熱である。
(しょ、処女…処女受胎って……間違うことなく処女だけどさ! こーゆーデリケートな事、何故お兄ちゃんに言われなきゃなんないかな!? それも結婚式でっ)
しかも今の今まで忘れていたのに、初夜の不安まで思い出させてくれた。その所為で心臓が大変なことになりそうなくらい乱打している。
椥が問題行動ばかり起こしてくれるから気が紛れていたのに、思考が式の終わった後の事に向いてしまい、緊張がぶり返してきた。
『悪い悪い。口挟み過ぎたな』
沙和の動揺を素早く感知して、椥がそっと頭を撫でた。
椥の変わり身の早さに言葉を失って凝視していると、兄は心の中に語り掛けてくる。
(傷を見て篤志が退いたら、さっさと離婚して、帰っておいで。お兄ちゃんはいつでも大歓迎だ)
(……)
(もし丸ごと受け入れてくれたら、幸せにして貰えばいい。ちょっと癪に障るけどな)
ちょっとと言いながら、大分不満そうな顔をされ、沙和は小さく吹き出した。
(ぷっ……素直じゃないなぁ。ねえ、お兄ちゃん)
(ん?)
(大好きだよ)
(知ってる)
(ずっと、一緒にいてね?)
沙和の言葉を受け取って、椥が苦笑しながら篤志に目を遣った。
(……篤志が嫌がりそうだけどな)
(そうだけど)
大概ブラコンだと思う。けど、偽りない思いを取り下げる心算もなく、じっと兄の返事を待っていると、椥の指が沙和の心臓の上に止まった。
(俺たちは、一蓮托生の仲だ。ずっと一緒だよ。だろ?)
沙和がこくりと頷くと、椥は顔を綻ばせて『よしよし』と頭を撫でてくれる。チラリと篤志に目を遣ると、少し複雑そうな笑みを浮かべていた。
0
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
訳あり冷徹社長はただの優男でした
あさの紅茶
恋愛
独身喪女の私に、突然お姉ちゃんが子供(2歳)を押し付けてきた
いや、待て
育児放棄にも程があるでしょう
音信不通の姉
泣き出す子供
父親は誰だよ
怒り心頭の中、なしくずし的に子育てをすることになった私、橋本美咲(23歳)
これはもう、人生詰んだと思った
**********
この作品は他のサイトにも掲載しています
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長
五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編を加筆修正しますので、一旦一部公開とさせていただいています。
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜
王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。
彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。
自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。
アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──?
どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。
イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。
※本編を加筆修正する予定ですので、一旦一部公開とさせていただいています。
*HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています!
※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)
話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。
雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。
※完結しました。全41話。
お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる