眠る指切り

耽創

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 舞夢が扉を引っ張る。扉をいちいち閉める為、校舎内は既にひんやりとしていた。
「靴、脱がすね」
「ありがとー」
 舞夢に靴を手渡し、言も自分の靴を靴箱に入れる。舞夢は車椅子からでもちょうど置きやすい場所にある自分の箱に入れる。
 右折するとエレベーターが見える。その前に先生が立っており、言はペコリとお辞儀をする。
「おはようございます先生。エレベーター使います」
「おはよう光さん。夢無さんは、使う?」
「いいえ、僕は階段で」
 原則、階段昇降が難しい人間しかエレベーターの使用許可はおりない。断ることをわかったうえで、先生はからかったのだ。
 エレベーター横にある螺旋階段に爪先を置く。言はあまり運動は好きじゃない。だから爪先で歩いて少しでも運動量を増やそうと思っている。2階に行く最後の段では少し肩で息をしながら昇りきる。
 1年生の教室は3階だ。彼がこの小さな運動を行い始めたのは中学2年生のときだ。中学からこの市立の学園に通っているが、なかなか辛い気持ちは拭えない。階上を見ながら小さく息を吐く。
 階段を昇りながら、ズボンに入っている髪留めをギュッと握る。
 地は白に近いピンク、大きく丸っこい桜の花が1つくっついている可愛らしい髪留めだ。幼い頃、舞夢が言にあげた物だ。言の大切なお守りだ。
 数秒握ったあと、もう1度息を吐く。3階にたどり着くと舞夢が待っていた。
「待ってたよー」
「待たせちゃった」
 舞夢は白い歯をこぼし、言が横に来るとゆっくりと進み出す。
 教室の扉はどちらも閉じられていた。言は車椅子が当たらないよう後方の扉をいっぱいいっぱいに開く。言は舞夢を先に入らせ、自分の席に向かう。
「おはよー」
「あ、舞夢ー。おはよー」
 舞夢の友人がニコニコ手を振る。舞夢も机へ向かいながら器用に手を振る。
 言は静かに着席し、復習用のノートをペラペラと捲る。何も考えないよう、静かに捲る。そうして朝の20分を潰し、授業間の10分を潰し、放課後を待つ。
 舞夢は狭い机の間を行き来できない為、友人を呼び話に混ざる。他愛無い会話や授業内の疑問を話す。そうして朝の20分を潰し、授業間の10分を潰し、放課後になる。

 あまり、好んでいない時間だ。少なくとも言にとっては。
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