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第4話『取捨選択』 Side宗也
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智幸さんのカメラが壊れた。
それを発見したのは、終業のホームルームも終わり、俺が天文部の部室を訪れた時だった。
扉を開けた途端、机の下に転がっているところを見つけた。机の上に置いていたことは記憶にあったため、何かの拍子に落下してしまったのだと容易に想像がついた。
そうとう強い衝撃が加えられたのか、レンズは開いたまま突出し、電源すら入らないまま駆動しなくなっていた。
「……最悪だ」
俺は、持っていた通学鞄などを全て床に落とした。教科書のあまり入っていない鞄は、勢いよく跳ねて金具の擦れ合う音を掻き鳴らす。ふくらはぎに倒れかかってきたそれを、俺は反対側へと蹴り飛ばしてカメラに駆け寄った。
「どうしよう、智幸さんのなのに。なんだよこれ。電源入れても何の反応もないじゃんか」
シャッターのすぐ傍にある電源スイッチを何度も動かすが、カメラが動く様子はまったくない。電池が入っていないのかと確認したが、昨日充電したばかりのそれはしっかりとはめ込まれていた。
「どうかしたの」
目に入ったボタンを手当たり次第に押しまくっていると、掃除当番で遅れて来ていた菜摘がやってきた。美晴も一緒だ。
俺は慌てて二人に顔を上げ、
「大変なんだっ」と、何を説明するよりも先にカメラを見せた。
菜摘も美晴も、ひどく驚いた顔を見せながら、すんなりと事態を把握してくれた。
「ねえ、部長くん。電源すらもつかないの?」
「ああ、ダメみたいだ。スイッチを入れても何の反応もないんだよ。智幸さんに借りてたんだぞ。なんて言って返せばいいんだよ」
みんなの口調が落ち込んでいくのがわかる。俺も、明るく取り繕おうなどと思えるほどの余裕は無かった。
このカメラは智幸さんに借りたものだ。最近はカメラの使い方も徐々にわかりはじめ、菜摘と相談して智樹さんにお願いしていたのだった。カメラの操作にもっと慣れるため、数日間だけ貸してほしい、と。
誰がカメラを壊したのだろう。
全員が全員を、視線だけで様子見する。
俺も例外ではない。固く口を閉じ、こっそりと二人を見やった。
菜摘か、美晴か。はたまた別の人間なのか。鍵はしっかりと閉めているが、部外者の悪戯という線も消しきることはできない。
そもそも、これは事故なのか、誰かが意図的にやったことなのかすらもわからないのだ。考察するには情報が少なく、推理も漠然としない。
だが、もっとも考えたくない選択肢が俺の中では鮮明に浮かんでいた。
唯一、はっきりとしている情報源。俺の、記憶。
最悪のケースが頭に浮かぶ。
俺が壊したかもしれないのだ。
まだわからない。状況が良く飲み込めていない。焦る気持ちばかりが湧き出て、うまく思考が回ってくれなかった。
「とりあえず、智幸さんに素直に言うしかないかな」
貸し出しの提案を初めに言いだしたのが菜摘であっただけに、さすがの彼女の声にも、いつものような軽妙な調子が感じられなかった。きっと責任を感じてしまっているのだろう。
窓も開けずに籠ったままの空気のような生ぬるさと、ただただ気まずい雰囲気だけが部室に満たされていた。
部屋の隅に立っていた美晴も、一言も話そうとはしなかった。よほどいたたまれないのか、目が合いそうになると慌てて俺から逸らしていた。
きっと今の俺は、焦りと不安で鬼よりも醜い形相になっていることだろう。焼け付くような焦燥が胸を駆ける。
事実がどうにせよ、俺たちの管理の悪さが招いた結果だ。デジタル一眼レフカメラなんて、安いものでも数万円は当たり前のように軽くかかる。そんなものを壊してしまったのだ。
気分は最悪だった。つい少しまで昂っていたはずの気持ちが、静かに冷めていくのをひしひしと感じた。
イヤに意識がはっきりとなった頭の中に残ったのは、途方もない現実味と後悔。
気味の悪い汗が、そっと背筋を伝っていった。
それを発見したのは、終業のホームルームも終わり、俺が天文部の部室を訪れた時だった。
扉を開けた途端、机の下に転がっているところを見つけた。机の上に置いていたことは記憶にあったため、何かの拍子に落下してしまったのだと容易に想像がついた。
そうとう強い衝撃が加えられたのか、レンズは開いたまま突出し、電源すら入らないまま駆動しなくなっていた。
「……最悪だ」
俺は、持っていた通学鞄などを全て床に落とした。教科書のあまり入っていない鞄は、勢いよく跳ねて金具の擦れ合う音を掻き鳴らす。ふくらはぎに倒れかかってきたそれを、俺は反対側へと蹴り飛ばしてカメラに駆け寄った。
「どうしよう、智幸さんのなのに。なんだよこれ。電源入れても何の反応もないじゃんか」
シャッターのすぐ傍にある電源スイッチを何度も動かすが、カメラが動く様子はまったくない。電池が入っていないのかと確認したが、昨日充電したばかりのそれはしっかりとはめ込まれていた。
「どうかしたの」
目に入ったボタンを手当たり次第に押しまくっていると、掃除当番で遅れて来ていた菜摘がやってきた。美晴も一緒だ。
俺は慌てて二人に顔を上げ、
「大変なんだっ」と、何を説明するよりも先にカメラを見せた。
菜摘も美晴も、ひどく驚いた顔を見せながら、すんなりと事態を把握してくれた。
「ねえ、部長くん。電源すらもつかないの?」
「ああ、ダメみたいだ。スイッチを入れても何の反応もないんだよ。智幸さんに借りてたんだぞ。なんて言って返せばいいんだよ」
みんなの口調が落ち込んでいくのがわかる。俺も、明るく取り繕おうなどと思えるほどの余裕は無かった。
このカメラは智幸さんに借りたものだ。最近はカメラの使い方も徐々にわかりはじめ、菜摘と相談して智樹さんにお願いしていたのだった。カメラの操作にもっと慣れるため、数日間だけ貸してほしい、と。
誰がカメラを壊したのだろう。
全員が全員を、視線だけで様子見する。
俺も例外ではない。固く口を閉じ、こっそりと二人を見やった。
菜摘か、美晴か。はたまた別の人間なのか。鍵はしっかりと閉めているが、部外者の悪戯という線も消しきることはできない。
そもそも、これは事故なのか、誰かが意図的にやったことなのかすらもわからないのだ。考察するには情報が少なく、推理も漠然としない。
だが、もっとも考えたくない選択肢が俺の中では鮮明に浮かんでいた。
唯一、はっきりとしている情報源。俺の、記憶。
最悪のケースが頭に浮かぶ。
俺が壊したかもしれないのだ。
まだわからない。状況が良く飲み込めていない。焦る気持ちばかりが湧き出て、うまく思考が回ってくれなかった。
「とりあえず、智幸さんに素直に言うしかないかな」
貸し出しの提案を初めに言いだしたのが菜摘であっただけに、さすがの彼女の声にも、いつものような軽妙な調子が感じられなかった。きっと責任を感じてしまっているのだろう。
窓も開けずに籠ったままの空気のような生ぬるさと、ただただ気まずい雰囲気だけが部室に満たされていた。
部屋の隅に立っていた美晴も、一言も話そうとはしなかった。よほどいたたまれないのか、目が合いそうになると慌てて俺から逸らしていた。
きっと今の俺は、焦りと不安で鬼よりも醜い形相になっていることだろう。焼け付くような焦燥が胸を駆ける。
事実がどうにせよ、俺たちの管理の悪さが招いた結果だ。デジタル一眼レフカメラなんて、安いものでも数万円は当たり前のように軽くかかる。そんなものを壊してしまったのだ。
気分は最悪だった。つい少しまで昂っていたはずの気持ちが、静かに冷めていくのをひしひしと感じた。
イヤに意識がはっきりとなった頭の中に残ったのは、途方もない現実味と後悔。
気味の悪い汗が、そっと背筋を伝っていった。
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