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始まりの森編
ダルマ落としとポーション
しおりを挟むそんな訳で、蛮行に及ぶ事数十分……心の中では何か落とせ、靴か腕装備どっちでもいいから落とせ! とリフレインが酷い。まるで野盗だ、我ながらちょっと情けない。
だけど何故だか、こんな時にはまるでドロップ運が働かない不思議。ファーの《幸運付与》は、レア種の引き寄せにしか効果が無いのかと激しく問い質したい!
そして10匹目のコボルトが、何故か盾を落とすと言う……。
――継ぎ接ぎの手甲 耐久2、防御+2
うん、これは盾だな……『継ぎ接ぎの手甲』って名前だから、一瞬待望の腕装備かと思ったけど。どうやら手首と肘辺りの2か所を、縛って固定するタイプの盾で大きくは無い。
しかも軽量化を狙ってかそんなに厚みは無いし、防御力も当然高くは無さそう。それでも気に入ったのは、左手が自由に使えるので両手武器も使用可能と言う点だ。
これは良い新装備だな、まぁ多少の補修は必要かもだけど。他のドロップは、相変わらずのゴミ武器と廃棄装備……耐久値が1とかは、まだマシな部類である。
人間には使用不可能の、バッテン記載の防具すら混じっていると言う意地悪仕様。そんな中から辛うじて拾った手甲である、大切に使って行かなければ。
ついでにレベルが9に上がった、あとちょっとで念願の2桁である。いやまぁ、そこまで急いで上げるつもりは無いんだけどね。
琴音とあまりレベルが離れると、高確率で怒られるからなぁ……まぁでも、少しだけベテラン勢のレベル上げのコツってのが分かった気がする。
要するに、敵の群れの多い場所に陣取ってひたすら倒して行けば良いのだ。そんな都合の良い場所を、レベル帯に応じて見付けて行けば良いだけ。
そんな嗅覚的なモノを、恐らくベテラン冒険者は持っているのだろう。まさに自分にとっては、今のこの場所みたいなポイントの有効利用である。
後は時間と体力の許す限り、ひたすら敵を狩って行くだけで良い。とにかくレベルが上がって一段落ついたし、スキルPも再び増えてくれた。
念の為に確認したけど、今度はちゃんとスキル2P増えていてホッと安堵の吐息。前回はトラウマ物だったしね、あの悪夢はもう味わいたくない。
区切りも良いので、俺は『魔除けの香炉』を取り出して野原の端っこでしばし休憩を取る。ステータスチェックと、それからスタミナの回復を兼ねたクールダウン。
相棒のファーは、ひたすら咲いてる花と戯れている。
これからの予定だが、今日の最初に決めた計画に変わりはない。このまま北の森に分け入って、4つ目の虹色の果実をゲットするのだ。
ついでにポーションを落とす敵とやらを、移動しながら見極めるつもり。何しろ昨日の激戦で、瓶ポーションはほぼ使い切ってしまったのだ。
今後も結構な数、冒険をして行けばこの薬のお世話になるのは目に見えている。補給はとっても大事、でないと思い切って大物とも戦えない。
誠也の話では、北の森は密林みたいになっていて進み難いんだそうな。琴音のネタバレぎりぎりトークでは、出て来る敵は妖怪系が多勢を占めるそう。
何それマジでと、妖怪って単語でちょっとテンションが上がっている俺である。とは言え、このゲーム内が既にファンタジーなんだけどね。
俺の隣では、ちっちゃな妖精が野原で花と戯れてるし。それでも新しいマップは常に、期待と不安で満ち溢れてるのは確か。
何が出て来るか分からないし、変な仕掛けや強敵モンスターは言うに及ばず。ちょっとした油断が命取り、冒険するって傍目で考えるより遥かに大変なのだ。
そんな感じで気を引き締めて、俺たちはいざ樹海の中へと分け入って行く。
進むにつれて、コボルト達も単独出現の山鳥も、いつの間にか出現しなくなった。植生にも変化が出て来て、樹と樹の密度もグンと高くなって来ている感じ。
うねった根っこやブッシュのせいで、移動がどんどん大変になって来る。移動が辛いとの前情報だったけど、確かに体感した今なら分かる。
これは樹海エリアを踏破で別エリア到達は、空でも飛べない限りは無理! 途中に安全な、中継エリアでもあってくれれば別だけど。
そんな事を考えていたら、不意にファーが警告を発して来た。それに気付いて身構えたら、真上からの攻撃……いや何かが落下して来たのか?
それはダルマだった、ファーの警告が無かったら脳天に直撃してただろう達磨落とし。いやいや洒落を言ってる場合じゃない、コイツはどうやら敵らしい。
そいつは落下の次は、体当たりでの攻撃を仕掛けて来た。
こちらも盾で受けての、短槍での突き返しをお見舞いしてやる。なんかファンシーだな、森の中でお供に妖精を伴って巨大なダルマと戦うのって。
体当たりが強烈なダルマも、最初の落下の不意打ちを凌げば何の事は無い。呆気なく倒し切って、そして待望のドロップ報酬を得る流れに。
そして判明、どうやらコイツがポーションを落とす敵だったらしい。そうなると話は違って来る、どんどん落ちて来いと樹上に念を送ってみたり。
それを察したファーが、高く舞い上がって隠し達磨を探し始めてくれた。それを地上から追跡する俺と言う図式、実際は木の枝やら根っこが邪魔してスピードは遅いけど。
ファーがお茶目な囮役をしてくれているのか、全然関係ない場所にボトボトと達磨が落ちる音が響く。俺はそれに駆け寄って、『猪突』込みの一撃を見舞う。
なかなかのコンビプレイで、ポーションはあっという間に半ダース♪
そんな浮かれムードを一変させたのが、まさかの茂みの中からの不意打ちだった。上ばかりに気を取られていたせいで、当然ながら発見が遅れた感は否めない。
敵もやりおる、ってか死角からの深い一撃を喰らって俺は大慌て。急いで敵の姿を確認すると、どうやらイタチの姿をしているみたい。
名前を確認すると、向こうは“鎌鼬”と言うらしい……なるほど、妖怪括りではある。ってか、そもそも達磨は妖怪なのか?
スッパリと斬られた足元の一撃は、どうやら移動力低下のバットステータスまで付いていた。しかも敵さん、魔法の詠唱を始めてしまった……こちらは当然、止める術も無し。
って、簡単に諦める俺では無い! この恨みと痛みは倍返しだ、鎌鼬も詠唱中だし下手に動けまい。そんな算段で、小さな的に向けて牙の短槍での投擲をお見舞いしてやる。
これが見事にヒット、そして止まる敵の呪文詠唱。
体力も一気に削ってやった、ざまぁ見ろと不意打ちの仕返しに喜び勇んでいると。何故かダルマに後ろから突進され、少なくないダメージを受けてしまった。
あれっ、ファーさん……こっちの現状に気付いてらっしゃらない? 調子に乗って敵を呼び過ぎ、地上に落ちてじゃれ付いて来るダルマの数が4体もいるんですけど?
おいこらっ、ファーさん……無闇に敵を招き過ぎだってば! 彼女が己の失態に気付いた時には、敵による包囲網は完全に完成していた。
好き勝手な方向からの突進体当たりに、こっちはヘロヘロ状態だったり。辛うじて致命傷を避けているのは、盾の防御のお陰もあると思う。
そして《風の茨》で後方の敵を絡め取ったお陰で、敵の突進方向をある程度狭められたせいもある。移動力低下の効果はまだ有効なので、突進して来た敵に《Dタッチ》をお見舞い。
回復と視界塞ぎを喰らわせて、俺は束の間の有利を得る事に成功。短槍は投げてしまって手元に無いので、残りは棍棒で仕留めて行こうかな。
その頃には大慌てのファーが戻って来て、自分の招いた混沌にプチパニック状態。大丈夫、君にはちゃんと後で説教だ……今はこの窮地を脱するように、祈っていてくれれば良い。
ってか、突進して来るダルマをバッティングの要領で打ち返すのは結構面白い。鎌鼬には再度の魔法攻撃を喰らったけど、その頃には移動力低下のBステータスは回復していた。
お返しにと、俺は近寄り様にとどめの棍棒の一撃を見舞ってやる。これでようやく窮地を脱して、後はポーション回収作業をこなすだけ。
そうこうしていると、何だかんだと短時間で1ダース近く集まってしまった。ここはファーに感謝……いやいや、やっぱりさっきのは説教案件だな。
何故か敬礼で畏まっている妖精に、以後は気を付けるようにと厳しい顔を作っての厳重注意。甘やかしだけが愛情では無い、時に厳しくが心の良心ストッパーを作ってくれる。
これが無いと、交友関係の形成が修羅場になる事請け合い。
琴音がまさにそうだった、彼女の短気で癇癪持ちな性格は、子供の頃から洒落にならなかった。1人っ子の甘やかしも手伝って、家の中外にまさに敵無し状態。
それにストップを掛けたのが、何故か俺だった訳だ。それを琴音が愛情と感じて、今に至ると言うね……人生は侭ならないと言うが、本当にそう。
ボタンの掛け違いもあれば、ある日掛かったまま外れない場合もあるのだ。まぁ、そんな事は今はどうでもいい、時間節約に余り始めたポーションと蜂のドロップの蜂蜜で体力と魔力の補給をして。
ちなみに蜂蜜は、さっきの野原の戦闘で結構貯まっていた。ファーが物欲しそうな素振りだったので、彼女にもちょびっとお裾分けしてやる。
叱った後でアレだけど、仲直りは早い方が良いのは当然ではある。嬉しそうに甘い蜜を舐める妖精に、しばしホコッとなっていたら。
次の瞬間、いきなり視界を炎が占めてビックリ。素早く確認すると、どうやら敵に奇襲を受けた模様。しまった、せっかくの魔除けの香炉を使うのを失念していたよ。
慌てて武器を手にして、攻撃して来た敵に神経を集中させると。どうやら今度は狐型のモンスターの様子、名前は“妖狐”と言うらしい。
さっきの鎌鼬より、体躯は大きいし結構強そうな顔立ちをしていた。
――密林は色々と油断大敵だ、さて妖怪退治の続きを始めようか。
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