女装をしたら、えらい目に遭わされました

葵井しいな

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 「――あ、やーっと来たわね!」

 姉貴の部屋を出て、一階のリビングへと降りてきた俺は、姉貴と向かい合わせで座っている京介に視線を移した。
 京介はいつも遊ぶときは比較的ラフな格好が多いのだが、今日はどうにもビシッと決まっているような気がする。

 視線が合うと、空気がピーンと張り詰めた。

 「…………」
 「…………」

 京介も、俺も一言も発することが出来ないでいる。
 向こうがなにを思ってくれているのかは分からないが、こっちは恥ずかしいやらド緊張やらで頭が真っ白になっているのだ。
 そらそうだろう、親友に女装姿を見せるとか正気の沙汰ではない。
 口の中が渇いて、目がめっちゃ泳いでしまう。

 「なーにしてんの。ほら、こっち座りなさい!」
 
 この場の空気に耐えられなくなったのか、姉貴が率先して声を張り上げてくれた。
 まぁ、リードしてくれとお願いしてあるので当然と言えば、当然なのだが。

 おっかなびっくりソファーに腰を下ろし、顔を俯ける。
 心臓はばっくばくで、冷汗がヤバい。助けて。

 「さてと、全員そろったことだし」
 「ねぇ、亜里沙さん。ひとつ、聞きたいことがあるんだけど」
 「ん、なに?」

 姉貴が口を開くタイミングに合わせて、京介も声を上げる。
 なんだろうと顔を上げてみると、ちょっと困惑してるらしかった。

 「この場になんで麻耶がいないのかなって」
 「……っ!」

 いやいるぞー! 目の前にいるんだぞー!
 そう叫び出したいけど、ぐっと堪える。
 バレたら死だ。お互いに。

 てか、京介のやつマジで俺が麻耶だと気づいてないんだな。
 言うてまだ一言も発してないから、そのせいかもしれない。

 なんてことを考えている横で、こともなげに亜里沙が言った。
 
 「あー、麻耶はね、お星さまになっちゃったのよ」

 は? なに言ってんだこのクソ亜里沙。

 「それはどういう」
 「あたしがノックもせずに部屋に入ったらさぁ、あたしの下着でオナニーしててね、見つかったもう死ぬ……って部屋に引きこもってるのよ。だから、そっとしといてあげて」
 
 よし、この女あとで絶対泣かす。
 
 「そうなんですか……。麻耶、あんまり思い詰めないといいけど」

 いや、お前はなんで信じてんだよ。
 ふっつーにおかしいと思うだろ、俺シスコンなんだよ~とか一言も言ってないはずだよな!?
 なんなのこの場! 俺を辱めようの会でも開いてんのか!

 ふつふつと湧き上がる怒りを必死で抑え込んでいると、京介がチラチラと俺(女装姿)の方に視線を送ってくる。

 「それで、そちらの女性は」
 「あ、この子? そういえばまだ紹介してなかったわね」

 しただろ今さっき。
 ありもしない話をでっちあげた時にな。

 「あたしと同じクラスの子なんだけど、麻子まこっていうのよ」

 え? なにその名前、初耳なんですけど……。

 驚愕のあまり隣を振り返ると、亜里沙はウインクをしてきた。
 どうやら一通りのキャラ設定を考えているらしい。
 不安しかないけど今は乗っからせてもらうか。

 俺は正面へと顔を向け、京介と視線を合わせる。
 
 「は、初めまして……麻子、って言います」
 「あ、はい。僕は舞浜京介です。よろしくお願いします」
 
 隣で亜里沙が「お見合いかよ……」と小声でツッコんでいたが、それどころじゃない。
 緊張でめっちゃ声が裏返った。キーが三オクターブくらい上がってた気がする。
 そのせいでマジもんの女声になってたわ。

 「麻子、さんは綺麗な声してますね」
 「え、あ、ありがとう……」

 京介はなぜかうっとりしたような顔をこちらに向けてくる。
 すると隣に座る亜里沙に肘で小突かれた。
 耳に手を当てられて、内緒話をする感じで話しかけられる。

 「(ちょっと、最初はドスの利いた声で好感度を下げとけって、昨日の夜にアドバイスしたでしょ!)」
 「(いや、そうしようと思ったんだけど緊張で声が……)」
 「(はぁ……ま、ここからでも立て直しは利くわ。あたしが流れを作るから)」

 居住まいを正し、亜里沙は言った。

 「京介君はさ、今から時間とかある?」
 「はい。今日は学校も休みですから、ヒマですけど」
 「じゃあさ、この子を遊びにでも連れてってくんない?」
 「へ?」

 姉貴の言葉に京介は驚いているようだった。
 ちなみに俺も驚いている。
 いきなりお外はハードルが高いのでは?

 「姉k……亜里沙、ちゃん。遊びにってどういう」
 「家の中にいてもやることなくて退屈だろうし、その点、外なら取れる行動もたくさんあるじゃないの」
 「取れる行動って」
 「(もちろん、嫌われるためにいろいろなスキンシップを実践してこいってことよ)」

 つまりは丸投げってことですかい。
 あとは二人きりでどうにかしろと。

 「(む、無理だって! そんなの!)」
 「京介君、お願いできる?」
 「(聞けよ! 人の話!)」
 「わ、分かりました」
 
 分かっちゃったよ、できれば断ってほしかった……。

 呆然とする俺をよそに、京介はにこりとはにかむ。
 隣で亜里沙がささやいてくる。
 
 「(大丈夫よ。あんた京介君の親友なんでしょ? 一番近くで見てきたんだから、彼がこういう女は嫌ってことぐらい知ってるでしょう?)」
 「(そりゃ、なんとなくは……)」

 京介はイケメンだ。
 ゆえにいつも女子たちに囲まれていて、そこではいろいろな展開が繰り広げられている。
 そこでのことを参考にして、嫌われてこいということらしい。

 ぶっちゃけ、すげー嫌なんだが……。
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