空想体験記

南関

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小人体験記

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 私が体験した小人達の集団は今時珍しく、人間の家と庭を使い住んでいるらしい。月と共に寝るのは家、太陽と共に活動するのは庭ということだ。

 我々人間は朝になると、眠い目を擦りながら1日を始めていくわけだが、彼らも同様であるらしい。

 朝、寝袋から目覚めた。小人である彼らも次々に起き出して、寝具を一箇所にまとめている。

寝袋は細かく裂いたゴミ袋、鳥の羽、たんぽぽの綿毛など、断熱効果のある軽い物を小さく切り植物の葉で包み丸めたもので、布団やベッドのように畳んだりはしない。

家で手に入りやすいからか、ゴミ袋の寝袋が殆どだ。

片付け終わると、1人の男が太陽を象った杖を振り回しながら走り回っている。彼を見て外を見る小人も多く、どうやら今の天気のことを伝えているらしい。

朝飯の時間となり、出てきたのは砕かれた硬い豆らしきものと乾燥した柑橘類の皮一つ、そして骨製の椀に野草を煎じたお茶一杯だ。

小人の食事の相場が分からないので、これが良いのか悪いかのもの分からないまま、とりあえず食べる。



...不味い。丸太でも噛んでいるのだろうか?調味料もなく味も豆そのものの素朴さで、いささか食欲が湧かない。

何とか口に入れようと悪戦苦闘するも、徒労に終わった。どうしようもないので柑橘類の皮を食べる。うん、美味しい。その芳醇な香りに魅せられる。

夢中で蜜柑の皮を食べていると、突如

「O.I auti naim」(彼らに文字はない。音を我々人間の音の中で似ている表記で記す。)

驚き振り返ると屈強な男が豆を指差している。

聞いたこともない言葉であるが、今は私も小人であり、何故か直感的に理解できた。彼は

「おい、全然食べてないじゃないか。」

と言っているに違いない。

「aimy」

彼は豆が食べたいようだ。自分の飯なので相手に渡すつもりはない。しかし言葉を返そうとしても、なんて言っていいかさっぱりわからない。

相手の言葉は分かっても、自分からは話せなかった。それでも自分の豆だと示すために口に入れるしかない。一口で食べれるものではないので四苦八苦し、彼の前に皺くちゃ間抜け面を晒している。

彼は暫くこちらを見ていたが、少し笑いながら頷き、近づいてきた。そのまま、強靭な力で私の豆を奪い取ったのである!

力負けした顎は取られた反動で痛み、私はすぐさま取り返すどころか顎に手を当てうずくまってしまった。

それでも何とかしようと男に潤んだ目をやると、そこには先程取られた豆が彼の手元にある。よくみると濡れているのか、煌めきが美しい。

この男、豆に茶をかけているのか。

彼はかけ終わると、拳をそのまま豆に叩きつける。見た目通りの怪力は豆を粉々に砕いた。

私は見ていて、あの男に力では勝てないと思った。豆は諦めようとしたが、次の瞬間、目の前に割られた豆は置かれている。

思わず食べた。うまい。先の硬さはどこへやら、茶の香りも織り混ざり、豆に合う。

がっついていると、男は豆の欠片を齧りつつ、どこかへ歩いていった。食事の食べ方を教えてくれたいい奴であったが、食ってたそれ、私の豆だぞ。

まあいいかと再び食べ始める。

後になって分かったことだが、小人の料理は干物や植物の種がメインで、生活用品を作る上で余る骨を食べる程度、肉や魚は食べない。飲み物は水や茶、乳は飲む。アルコールは無い。コーヒーのようなものはあるが儀式用のため貴重である。

それにしても小人というのは顎が大きく歯が固いようだ。種や固いものもバリボリ食べる。食生活が影響しているのか?

完食。満足。たらふく食べすぎた。もう動きたくない。殆どがすでに食べ終わり仕事を始めている。観念し重い腰を上げて、庭へ向かった。

小人も集団生活しており分業するが、あえて項目で分けるならば、①ものを採取し用具を作る、②外的から守り建築を行う、③集団の統制をする、これら三つである。

今回私が体験したのは①②で、③集団の統制は世襲でよそもの厳禁のようだ。

庭で採取する仲間と合流する。皆お喋りしていた。

「O.I npah」

軽装だなと1人に言われたので、おどけて見せる。彼女は笑っていた。

その内に指示する者が来て、各自作業を始める。出来るならば誰よりも役に立ちたい。庭に散らばり食べ物や素材を集めていく。皆服についている袋がパンパンだ。私も負けずに採取したものを詰めていく。

 小人は人間よりも小さい。皆知るところであるが、その奥妙さは体感してこそだ。

庭、平らに感じる地面は大小のクレーターのある危険な土地であり、手にとるような花びらは絨毯の様であり、ものが落ちれば地震のように感じるのである。虫や犬などの外敵に見つからないように動くことも肝要だ。

豆や綿毛はともかく、3人は寝転べる巨大な花びらなど一人で持ち運べないものの多く、複数人で担いでいくものもある。

ある程度採取した後、加工に入っていくのだ。もちろん手作業であり、不器用な私には不安しかない。

私は布を製作することになった。採ってきた植物を繊維だけとる。太いスジはさらに細長く裂く。これくらいなら私でも出来るので、嬉しい。

ひたすら割いて裂いて、日は真上まで来ている。そろそろお昼だ。お腹減った。さて何が出てくるんだろうとワクワクしていたが、一向に昼ごはんを食べる気配がない。仕方なくもう一度裂きはじめる。

ひたすら夢中に裂いて、時間も経つ。太陽も影を長く照らしていて、とうとう我慢できない。

周りをチラチラ見始める。お腹をさすり、ぐうと鳴らしてみるが、皆各々の作業に夢中だ。

もしかしたら朝しか小人は食べないかも知れない。と少し青ざめたところ、視界の隅、一人が懐から何か取り出して口に含んだ。

豆である。しかも見覚えのある、朝のもの。彼はもらっていたのである。

「O.I npah」という彼女の言葉を思い出した。
皆の服の袋が膨んでいないことに気づいた。

私は狼狽した。昼ごはんを貰い損ねたのかしらんと考えた。違う。朝の豆、あれが1日分の食料なのだ。

私はこの食べられない状況下、より一層強烈な食欲が湧いてくるのを自覚した。目の前の裂いているスジすら食べ物に見えた。

私は思わずかぶりつこうとしたその時、



頭に響く咆哮、左遠方からだ。

ふと目をやると、そこには猫。巨大な猫が大きすぎる目玉を向けている。

一目散に逃げる。恐ろしい。私は家へ向かう。

ふと振り返ると、皆猫の方に勇しく向かっている。いつの間にか槍や針を持ってきており、持っていた豆を投げつけている者もいた。

私は臆病者だ。見ているだけしかできなかった。

皆猫に刺突している。針は蜂のものだったり人間の手芸で使うものであったり、竹を細く削ったものだ。うまく組み合わせて槍にもしているのだろうか、猫も手を引っ込め嫌がっている。

__・__#


大きな音がして、砂煙が舞う。大きな影と共に猫は何処かへ消え、風圧に飛ばされた仲間が自分の方へ転がってきた。

こうして無事危機を脱した。幸い怪我人はいないようだ。

日が暮れた。作業も終わった。夕食はなく、各々取り出している朝の豆を齧る。私は猫に投げられたものを拾い、こっそり食べている。味など気にせずただ食べている。

彼らは宴もせず歌も歌わない。大きな音は外敵を呼び寄せるという。

各々ひっそりと槍針を取り出し武術鍛錬をする。私には教えてくれなかった。彼らは声は出さない。私は見ることすら許されず、ただ月を眺めていた。そして就寝する。

こうして私の小人の体験は幕を閉じた。

1日を通して彼らの生活を体験し、どれも新鮮なものであった。しかし場合によっては命を危険にさらす時もあり、もし誰か小人の世界に迷い込む時があれば、用心すべきだろう。

人間に戻り、朝食のパンとコーヒーを飲みながら、思い出しつつ記した。人間社会は料理が豊富で、味も美味く、3食食べることが出来て、外敵もおらず、何とも文化的で安心であることを改めて感じる。やはり人間こそ一番であろうな。

(J・U・カートン 述)
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