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セラフィーヌサイド 4
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覚悟を決めて嫁いだセラフィーヌであったが、ガエルは結婚式の夜、すなわち初夜に体調が悪いから日延べしようと延期を申し出てきた。
セラフィーヌもそれには快諾したものの、少しの違和感は覚えた。
そしてその数日後、憧れの君のクローズ侯爵が使用人を連れて領地へと旅立つとガエルは本性を現した。
セラフィーヌに対する丁寧な態度は消え失せ、横暴にふるまうようになった。
「お前がいらぬことを言ったせいで父上から不審感を抱かれてしまったではないか」
と、顔合わせの時に、ガエルがまだ恋人と別れていないとセラフィーヌが言ったことをなじられた。
「お前の家には多額の支援金を渡している。次期侯爵夫人の座はお前にやるが、それ以外は渡すつもりはないし、大人しく俺の言うことを聞け」そういい捨てた。
(この~クズガエル! どうせなら婚約中にしでかしなさいよ)
そうすれば、ガエルと結婚することもなく、クローズ侯爵に責任を取ってもらい、今頃は幸せいっぱいの新婚生活を送っていたはずなのに。
フェルマンがガエルに任せていった仕事も使用人に丸投げしどんどんおざなりにし、そしてやっぱりというか隠し通していた愛人のもとへと通うようになった。
きっと今更ばれたところで、貴族の妻は娶ったことだし愛人くらい許されるだろうと考えていると思えば腹が立つ。
悔やんでも悔やんでも後の祭りだった。
ガエルがセラフィーヌをないがしろにするため、使用人たちもセラフィーヌに対してだんだん雑な世話をするようになっていく。
初めのころはきちんと仕事をしない使用人に苦言を呈していたが、改める様子もない。
多勢に無勢。セラフィーヌが何とかしようとしたところで無駄な時間と精神が削られるだけだった。
侯爵邸の使用人とはこのような質の低いものだったのかとあきれるが、義父がいたときの執事は厳しくきっちりした人だったし、使用人たちもきちんとしていたはず。
実は執事筆頭に、優秀な使用人は義父についていき、残った使用人も自分の意に沿わないとガエルに辞めさせられたり、逆に優秀な者たちはガエルに愛想をつかして自らやめていったりしていた。
セラフィーヌはガエルと残った使用人たちにさっさと見切りをつけ、彼らのためになることは一切しないと決めた。
まず夫人としての仕事を放棄し、聞く気のない使用人たちに注意や指導などもしなくなった。
本来それは使用人たちが自分のレベルアップのために必要で、能力が上がれば給金のアップや条件の良いところへ転職できるのだが知ったことではない。
そして面倒で手間のかかるたくさんの書類仕事や他家への手紙の返事なども押し付けられていたが、わざとたくさん間違えた。
初めはガエルも執事も仕事のできないセラフィーヌを能なしだと馬鹿にして笑っていたが、間違えたところを訂正するのはガエルや執事。間違えていないかチェックし、訂正するのに余計に時間と手間がかかるようになると笑うどころか苛立ち始め、文句を言いながらもセラフィーヌに仕事を回さなくなった。
セラフィーヌは仕事をしなくてすみ、そのしわ寄せは使用人にいく。
まったくもっていい気味である。
ガエルや使用人から嫌味を言われても、どこ吹く風である。その暴言はすべて日記にしたためてあり、それは素敵な侯爵様の後妻への道へとつながる大事な証拠。
何を言われても聞き流し、暇を持て余すと気が付かなくていい事にも気が付いてしまう。
すぴーすぴー。そう音が聞こえてくるかと思うくらいガエルの右の鼻からはみ出た鼻毛が呼吸に合わせて気持ち良く泳いでいる。
こんな仕事もできないのかなどと文句を言われている間も、すぴーすぴー……笑いがこみ上げるのを必死で我慢する。
それからは顔を合わせるたびに、鼻を注視してしまいそうになるのと、思い出し笑いをこらえるためにうつむいてやり過ごそうと頑張るが、時々震えてしまう。
頭からすぴーすぴーが離れないのですもの。
うつむく姿を見て私をやり込めたと思ってガエル喜んでいたようだが、実際は笑ってしまうから下を向いて我慢しているだけなの。
早くクローズ侯爵に訴えたいところだが、ガエルと使用人たちが一丸となってセラフィーヌのことを仕事もできない妻失格だと言われると、実際に仕事を放棄している以上言い返せない。
私の日記だけでは分が悪い。
それに最悪のケースとして、クローズ侯爵もすでに愛人のことを把握したうえで放置している可能性が無きにしも非ず。ガエルが結婚前まで誠実なふりをしていたように、侯爵もセラフィーヌの手前、誠実ぶっていただけかもしれない。
もしそうならガエルの裏切りよりもそちらの方が悲しいけどね。
いっそのことガエルが暴力でも振るってくれたら、証拠ばっちりでガエル有責で離婚できる。
しかし残念ながら敵もそこまで馬鹿じゃないらしく実力行使はしてこない。
万が一にでもそのチャンスが巡ってくれば大いに煽り、機会があればさっと頬を差し出し、ついでに転げて全身打撲の暴力痕の診断書を手に入れようと考えているのに。残念だわ。
とうとうガエルの愛人が堂々と屋敷に出入りするようになった。
それを待っていたセラフィーヌはクローズ侯爵に手紙を書いた。侯爵家の馬車で迎えに行かせていたから第三者の目撃者が得られると考えたからだ。
もちろん普通に頼んだのでは手紙を握りつぶされるのは目に見えている。
セラフィーヌは盛大に応接室の窓を割った。自分の部屋の窓を割ったのでは下手をしたら修理をしてもらえない。さんざん文句を言われたが、掃除をしようと思って力が入りすぎたとかなんとか適当に言っておく。
そして修理に来た職人の案内や世話は自分でしてください! と使用人に命じられ、ハイハイと快諾した。
そしてその職人に宝石とともにこの手紙を出してほしいとお願いをしたのだった。
あとは無事手紙が届くことと、クローズ侯爵が誠実な人間であることを願うばかりだ。
セラフィーヌもそれには快諾したものの、少しの違和感は覚えた。
そしてその数日後、憧れの君のクローズ侯爵が使用人を連れて領地へと旅立つとガエルは本性を現した。
セラフィーヌに対する丁寧な態度は消え失せ、横暴にふるまうようになった。
「お前がいらぬことを言ったせいで父上から不審感を抱かれてしまったではないか」
と、顔合わせの時に、ガエルがまだ恋人と別れていないとセラフィーヌが言ったことをなじられた。
「お前の家には多額の支援金を渡している。次期侯爵夫人の座はお前にやるが、それ以外は渡すつもりはないし、大人しく俺の言うことを聞け」そういい捨てた。
(この~クズガエル! どうせなら婚約中にしでかしなさいよ)
そうすれば、ガエルと結婚することもなく、クローズ侯爵に責任を取ってもらい、今頃は幸せいっぱいの新婚生活を送っていたはずなのに。
フェルマンがガエルに任せていった仕事も使用人に丸投げしどんどんおざなりにし、そしてやっぱりというか隠し通していた愛人のもとへと通うようになった。
きっと今更ばれたところで、貴族の妻は娶ったことだし愛人くらい許されるだろうと考えていると思えば腹が立つ。
悔やんでも悔やんでも後の祭りだった。
ガエルがセラフィーヌをないがしろにするため、使用人たちもセラフィーヌに対してだんだん雑な世話をするようになっていく。
初めのころはきちんと仕事をしない使用人に苦言を呈していたが、改める様子もない。
多勢に無勢。セラフィーヌが何とかしようとしたところで無駄な時間と精神が削られるだけだった。
侯爵邸の使用人とはこのような質の低いものだったのかとあきれるが、義父がいたときの執事は厳しくきっちりした人だったし、使用人たちもきちんとしていたはず。
実は執事筆頭に、優秀な使用人は義父についていき、残った使用人も自分の意に沿わないとガエルに辞めさせられたり、逆に優秀な者たちはガエルに愛想をつかして自らやめていったりしていた。
セラフィーヌはガエルと残った使用人たちにさっさと見切りをつけ、彼らのためになることは一切しないと決めた。
まず夫人としての仕事を放棄し、聞く気のない使用人たちに注意や指導などもしなくなった。
本来それは使用人たちが自分のレベルアップのために必要で、能力が上がれば給金のアップや条件の良いところへ転職できるのだが知ったことではない。
そして面倒で手間のかかるたくさんの書類仕事や他家への手紙の返事なども押し付けられていたが、わざとたくさん間違えた。
初めはガエルも執事も仕事のできないセラフィーヌを能なしだと馬鹿にして笑っていたが、間違えたところを訂正するのはガエルや執事。間違えていないかチェックし、訂正するのに余計に時間と手間がかかるようになると笑うどころか苛立ち始め、文句を言いながらもセラフィーヌに仕事を回さなくなった。
セラフィーヌは仕事をしなくてすみ、そのしわ寄せは使用人にいく。
まったくもっていい気味である。
ガエルや使用人から嫌味を言われても、どこ吹く風である。その暴言はすべて日記にしたためてあり、それは素敵な侯爵様の後妻への道へとつながる大事な証拠。
何を言われても聞き流し、暇を持て余すと気が付かなくていい事にも気が付いてしまう。
すぴーすぴー。そう音が聞こえてくるかと思うくらいガエルの右の鼻からはみ出た鼻毛が呼吸に合わせて気持ち良く泳いでいる。
こんな仕事もできないのかなどと文句を言われている間も、すぴーすぴー……笑いがこみ上げるのを必死で我慢する。
それからは顔を合わせるたびに、鼻を注視してしまいそうになるのと、思い出し笑いをこらえるためにうつむいてやり過ごそうと頑張るが、時々震えてしまう。
頭からすぴーすぴーが離れないのですもの。
うつむく姿を見て私をやり込めたと思ってガエル喜んでいたようだが、実際は笑ってしまうから下を向いて我慢しているだけなの。
早くクローズ侯爵に訴えたいところだが、ガエルと使用人たちが一丸となってセラフィーヌのことを仕事もできない妻失格だと言われると、実際に仕事を放棄している以上言い返せない。
私の日記だけでは分が悪い。
それに最悪のケースとして、クローズ侯爵もすでに愛人のことを把握したうえで放置している可能性が無きにしも非ず。ガエルが結婚前まで誠実なふりをしていたように、侯爵もセラフィーヌの手前、誠実ぶっていただけかもしれない。
もしそうならガエルの裏切りよりもそちらの方が悲しいけどね。
いっそのことガエルが暴力でも振るってくれたら、証拠ばっちりでガエル有責で離婚できる。
しかし残念ながら敵もそこまで馬鹿じゃないらしく実力行使はしてこない。
万が一にでもそのチャンスが巡ってくれば大いに煽り、機会があればさっと頬を差し出し、ついでに転げて全身打撲の暴力痕の診断書を手に入れようと考えているのに。残念だわ。
とうとうガエルの愛人が堂々と屋敷に出入りするようになった。
それを待っていたセラフィーヌはクローズ侯爵に手紙を書いた。侯爵家の馬車で迎えに行かせていたから第三者の目撃者が得られると考えたからだ。
もちろん普通に頼んだのでは手紙を握りつぶされるのは目に見えている。
セラフィーヌは盛大に応接室の窓を割った。自分の部屋の窓を割ったのでは下手をしたら修理をしてもらえない。さんざん文句を言われたが、掃除をしようと思って力が入りすぎたとかなんとか適当に言っておく。
そして修理に来た職人の案内や世話は自分でしてください! と使用人に命じられ、ハイハイと快諾した。
そしてその職人に宝石とともにこの手紙を出してほしいとお願いをしたのだった。
あとは無事手紙が届くことと、クローズ侯爵が誠実な人間であることを願うばかりだ。
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