25 / 34
番外編 一肌脱いじゃう 1
しおりを挟む
また短編で番外編を、と思い書き始めましたが、長くなってしまいました(*´▽`*)。
10話くらいになる予定です。よろしくお願いします。
==================================================
ステファンの背を器用に駆け回るトカゲの姿を後ろから見て、ロイドは目を瞠っている。
ステファンの前にいる令嬢が、ステファンの肩に乗るトカゲを指さして泣き喚くが、ステファンが自分の肩を見たときにはトカゲは背中に隠れる。そしてまた令嬢だけに見えるように顔を出し、ゆらゆらと体を左右に揺らし存在をアピールしている。
そしてついに何か叫び声をあげると、その令嬢はドアを飛び出していった。
「なんだ、あれは。エヴェリーナの事を問い質したかったのに。」
「はは、竜のお使い様の怒りを買ったんじゃないか。お前の背中に・・・ってあれ?」
先ほどまでいたはずのトカゲがもうどこにもいなかった。
逃げていった令嬢の名前はドリス・ムーラン。子爵家の娘で王宮の下級メイドをしている。
そんな彼女はある事件の目撃者として、王宮で匿われていた。世話役兼事情聴取はステファンが担うことになった。
仕事ができずに先輩のメイドにいつも厳しく指導されていたドリスは、入室さえ認められていなかった煌びやかな部屋で過ごし、容姿端麗で優しい侯爵に慰められるという想像もしなかった生活にすぐに溺れた。
毎日世間話をして恐怖心を和らげようとしてくれるステファンに恋をするのに時間はかからなかった。どころか、自宅にも帰らず毎日毎晩会いに来てくれるということは妻よりも自分に気があるのではないかと思うようになった。
そんな妄想と王家から大事にされている優越感から、ドリスは色々としでかし、竜のお使い様の逆鱗に触れることになる。
調子づいたドリスがしでかしたこととは・・・
あるお茶会で初対面の令嬢が挨拶もそこそこに、エヴェリーナに王宮でステファンとは特別な関係であると告げてきた。
「・・・それで?貴女は何をおっしゃりたいのでしょうか?」
子爵家の令嬢が侯爵夫人に許可も得ずに話かけた上に、失礼にもほどがある内容。しかも相手は顔見知りでもなんでもない。
「いえ、奥様にご挨拶をと思いまして。」
「仕事上の付き合いでわざわざ私に挨拶される必要はございませんわ。それとも何か別の意図がおありでしょうか?まともな教育を受けていらしたらそんな恥ずかしい真似をされるはずはございませんし、そんなことはもちろんないでしょう?」
エヴェリーナは笑って首を傾げた。
「もちろんです!わたくしはただ懇意にさせていただいているステファン様の奥様にご挨拶をしたかっただけですわ!今はお仕事がお忙しくてこちらに帰れないようですので、わたくしが色々とお世話をさせていただいておりますの。」
「あら、王宮メイドのお方でしたか?お仕事でしたらわざわざ挨拶は不要ですよ。」
「違いますわ!わたくしは特別にステファン様に目をかけていただいているのです!お世話も・・・個人的なものですわ。」
意味ありげに子爵令嬢は笑う。
「そうですか。個人的なものに対して、別途給金を請求してらっしゃるのかしら?それなら主人に言っていただかないと私では何とも致しかねますが・・・・お困りなのでしたら融通して差し上げますが?」
まわりで聞いていた婦人方も口元を隠し、笑っている。
「し、失礼な!・・・ただ挨拶をしただけではありませんか!」
「まあ、失礼はどちらかしら?」
まわりの婦人方がひそひそと囁きながら、その令嬢を見下すように笑う。
子爵令嬢は最初の意気揚々とした顔とは違って、負け惜しみのような悔しそうな顔をして戻っていった。
エヴェリーナは強気で何事もなかったようなすました顔で乗り切り、周りの夫人からもその対応を称賛された。
しかし、帰りの馬車に乗るころにはほろりと涙がこぼれ出た。
人の悪意というものはなぜこれほど人の心を傷つけるのだろうか。ステファンの事は信じている、それでももしかしたら・・・そういう思いを芽生えさせる悪意。
子爵令嬢が堂々と侯爵夫人に宣戦布告をする以上、もしかしたら本当に何かが起こっているのかもしれない。そう思うと自然に涙がこぼれた。
10話くらいになる予定です。よろしくお願いします。
==================================================
ステファンの背を器用に駆け回るトカゲの姿を後ろから見て、ロイドは目を瞠っている。
ステファンの前にいる令嬢が、ステファンの肩に乗るトカゲを指さして泣き喚くが、ステファンが自分の肩を見たときにはトカゲは背中に隠れる。そしてまた令嬢だけに見えるように顔を出し、ゆらゆらと体を左右に揺らし存在をアピールしている。
そしてついに何か叫び声をあげると、その令嬢はドアを飛び出していった。
「なんだ、あれは。エヴェリーナの事を問い質したかったのに。」
「はは、竜のお使い様の怒りを買ったんじゃないか。お前の背中に・・・ってあれ?」
先ほどまでいたはずのトカゲがもうどこにもいなかった。
逃げていった令嬢の名前はドリス・ムーラン。子爵家の娘で王宮の下級メイドをしている。
そんな彼女はある事件の目撃者として、王宮で匿われていた。世話役兼事情聴取はステファンが担うことになった。
仕事ができずに先輩のメイドにいつも厳しく指導されていたドリスは、入室さえ認められていなかった煌びやかな部屋で過ごし、容姿端麗で優しい侯爵に慰められるという想像もしなかった生活にすぐに溺れた。
毎日世間話をして恐怖心を和らげようとしてくれるステファンに恋をするのに時間はかからなかった。どころか、自宅にも帰らず毎日毎晩会いに来てくれるということは妻よりも自分に気があるのではないかと思うようになった。
そんな妄想と王家から大事にされている優越感から、ドリスは色々としでかし、竜のお使い様の逆鱗に触れることになる。
調子づいたドリスがしでかしたこととは・・・
あるお茶会で初対面の令嬢が挨拶もそこそこに、エヴェリーナに王宮でステファンとは特別な関係であると告げてきた。
「・・・それで?貴女は何をおっしゃりたいのでしょうか?」
子爵家の令嬢が侯爵夫人に許可も得ずに話かけた上に、失礼にもほどがある内容。しかも相手は顔見知りでもなんでもない。
「いえ、奥様にご挨拶をと思いまして。」
「仕事上の付き合いでわざわざ私に挨拶される必要はございませんわ。それとも何か別の意図がおありでしょうか?まともな教育を受けていらしたらそんな恥ずかしい真似をされるはずはございませんし、そんなことはもちろんないでしょう?」
エヴェリーナは笑って首を傾げた。
「もちろんです!わたくしはただ懇意にさせていただいているステファン様の奥様にご挨拶をしたかっただけですわ!今はお仕事がお忙しくてこちらに帰れないようですので、わたくしが色々とお世話をさせていただいておりますの。」
「あら、王宮メイドのお方でしたか?お仕事でしたらわざわざ挨拶は不要ですよ。」
「違いますわ!わたくしは特別にステファン様に目をかけていただいているのです!お世話も・・・個人的なものですわ。」
意味ありげに子爵令嬢は笑う。
「そうですか。個人的なものに対して、別途給金を請求してらっしゃるのかしら?それなら主人に言っていただかないと私では何とも致しかねますが・・・・お困りなのでしたら融通して差し上げますが?」
まわりで聞いていた婦人方も口元を隠し、笑っている。
「し、失礼な!・・・ただ挨拶をしただけではありませんか!」
「まあ、失礼はどちらかしら?」
まわりの婦人方がひそひそと囁きながら、その令嬢を見下すように笑う。
子爵令嬢は最初の意気揚々とした顔とは違って、負け惜しみのような悔しそうな顔をして戻っていった。
エヴェリーナは強気で何事もなかったようなすました顔で乗り切り、周りの夫人からもその対応を称賛された。
しかし、帰りの馬車に乗るころにはほろりと涙がこぼれ出た。
人の悪意というものはなぜこれほど人の心を傷つけるのだろうか。ステファンの事は信じている、それでももしかしたら・・・そういう思いを芽生えさせる悪意。
子爵令嬢が堂々と侯爵夫人に宣戦布告をする以上、もしかしたら本当に何かが起こっているのかもしれない。そう思うと自然に涙がこぼれた。
221
あなたにおすすめの小説
皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]
風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが
王命により皇太子の元に嫁ぎ
無能と言われた夫を支えていた
ある日突然
皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を
第2夫人迎えたのだった
マルティナは初恋の人である
第2皇子であった彼を新皇帝にするべく
動き出したのだった
マルティナは時間をかけながら
じっくりと王家を牛耳り
自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け
理想の人生を作り上げていく
完結 やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね
ポチ
恋愛
卒業式も終わり
卒業のお祝い。。
パーティーの時にソレは起こった
やっぱり。。そうだったのですね、、
また、愛する人は
離れて行く
また?婚約者は、1人目だけど。。。
愛しの第一王子殿下
みつまめ つぼみ
恋愛
公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。
そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。
クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。
そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。
とある伯爵の憂鬱
如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。
愛する人は、貴方だけ
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
下町で暮らすケイトは母と二人暮らし。ところが母は病に倒れ、ついに亡くなってしまう。亡くなる直前に母はケイトの父親がアークライト公爵だと告白した。
天涯孤独になったケイトの元にアークライト公爵家から使者がやって来て、ケイトは公爵家に引き取られた。
公爵家には三歳年上のブライアンがいた。跡継ぎがいないため遠縁から引き取られたというブライアン。彼はケイトに冷たい態度を取る。
平民上がりゆえに令嬢たちからは無視されているがケイトは気にしない。最初は冷たかったブライアン、第二王子アーサー、公爵令嬢ミレーヌ、幼馴染カイルとの交友を深めていく。
やがて戦争の足音が聞こえ、若者の青春を奪っていく。ケイトも無関係ではいられなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる