7 / 434
1章 夢見る村
3
しおりを挟む
翌日、朝食の席で温泉が湧き出ていた場所を見たいとババロフに言うと、
「物好きだなぁ。山の中のなんもないところだぞ」
と笑われたが、案内してくれることになった。
なんの変哲もない低い山、緩やかな傾斜を登っていく。なるほど、これなら小さな子どもも一緒になって山菜や果実・木の実を集めに来られる。幼児には楽しい娯楽だ。
「この山で狩猟や木こりは無理そうだな」
「狩りに行くのは北側の山、向こうにはクマやシカ、イノシシなんかが結構いる。木こりが入るのは東の山から街道を囲む森のあたり。ほら、あんたたちが小舟を流された川、あの川を使って切り出した木を街に運んでた」
「今じゃ木こり仕事をする者はいないんだろう?」
「そうだねぇ……でもその点はちょうどよかったのかもな」
「ちょうどよかった?」
「七年前には東の山の、採れる木はほとんど採っちまっててさ。植林もしてたけど追いついてなかったんだ。で、森の木を採るかって相談してた――あの森は女神の森、森の実りを貰うのはいいが、木を切るのはいけないって言い伝えがある。だから木こりどもも迷ってた」
「温泉を掘り当てた女神?」
「そう、その女神。姿を晦ます前に、そう言ったんだってさ。あの森はこの村を守っている。だから荒らしちゃいけないって」
「村に入るにはあの森を抜ける街道を使うしかないんだっけ?」
「そうさ、村を守ってるって感じがするだろう?――着いた、ここだよ」
ぐるりと周囲が大きな石で囲まれた窪みは池のようだ。だが満たす水がない。底はカラッからに渇いて固まった泥だ。石囲いの一部が切れていて両脇が高く設えられている石畳が続いているのは水道、村に湧水を流し込んでいたと判る。
「掘り起こしたって言ってたけど、どのあたりを掘ったんだ?」
ピエッチェの質問にババロフが答える。
「石囲いの中、特に中心部だね」
「それはいつ頃?」
「急に湯が流れて来なくなってすぐだから、七年近く前だ」
「中心部を深く掘ったってことは、真ん中あたりから湯が沸いてた?」
「全体がぶくぶくしてたけど、真ん中あたりから時々ボワッて感じで気泡みたいなのが出てたんだ」
「なるほどね……ぶくぶくしてたってことは湯温は高かった?」
「ここでは触ると火傷するほど熱かったよ。村に着くころはいい湯加減だった」
「そんなに熱いなら事故が起きそうだけど?」
「昔、子どもが芋を茹でようとして落っこちたとかあったらしい。それで誰もここに来ちゃなんねぇって村で決めた。掘り起こす時に取っちまったけど、間違って近寄らないよう柵もあったんだ」
「柵の管理は村が?」
「半年に一度くらい見回ってたな。たまぁにイノシシなんかにブッ壊されてた」
「柵を壊したのがイノシシだって、なんで判った?」
「イノシシとかシカだろうねって話さ」
空を見上げて、
「ここって草が生えてないんだね。日当たりがいいんだからいっぱい生えてきそうなのに」
と言ったのはクルテだ。近くには木もなく池の上はぽっかりと青空が見えている。
「池の周囲、十五歩分、土が丸出し。こまめに草むしりでもしてる?」
「いんや、それほど俺らも暇じゃねぇ。温泉のせいで生えないんじゃないのか?」
面倒そうにババロフが答えた。難しいことを訊くなと言いたげだ。
「もう七年経つのに? 虫も見当たらない。蟻んこくらい居てもよさそうなのに」
「あと十年もすれば戻ってくるのかもな」
「湧出してたお湯の影響だとしたら水道のとこだって同じはずなのに、やっぱり池から十五歩下流に行ったところから草ぼうぼう……不思議だよね」
「訊かれたってなんも判らんよ。王都から学者にでも来て貰うか?」
「学者が見たって判りそうもないけどね」
クルテがクスリと笑った。
朝はパンと、申し訳程度に野菜が入ったスープだけだった。いつもそんなもんだと聞いたクルテが源泉見物に弓を携えていた。帰り道、急に立ち止まっては藪を狙って弓を構えるクルテ、何やってるんだとババロフは呆れるがピエッチェが静かに、と窘める。もちろんクルテは獲物を逃がさない。秘魔のクルテ、雉が身を隠しているなどお見通しだ。三度矢を射って三羽仕留めた。
大したもんだねぇ、とババロフが感心する。
「だけどあんたたち、この村に腰を落ち着ける気はないんだろう? だったらこんなことはこれっきりにしてくれ。今や雉肉は俺たちにとっちゃあご馳走、あんたたちがいなくなった後、この村での生活のきつさを余計に思い知らされることになる。特に子どもらがな……」
考えなしで済まなかったと謝ったのはピエッチェ、ケロッと言い放ったのはクルテだ。
「大丈夫。ピエッチェが問題を解決するって言ってるから」
「えっ?」
「本当か!?」
ピエッチェとババロフがそれぞれに別の意味で驚く。
「問題を解決って、この村から若いモンが出て行かなくなるってことか?」
とはババロフ、
「そんなこといつ言った!?」
これはピエッチェだ。
「またまた……昨夜、僕に言ったじゃん。村が立ちゆくよう手助けしたい、って」
「いや、それは……」
ピエッチェの頭の中に『話をあわせろ』とクルテの声が響く。クルテのくそったれと思いつつ、期待に輝く目で自分を見るババロフに、とうとうピエッチェが頷いた。
「あぁ、なんとかしてみるよ」
その夜の食堂は昨日以上の大盛り上がり、酒はなくとも焼いた雉肉が振舞われ、それだけでも子どもたちが燥ぎ女たちが笑い転げる。そのうちに、ババロフが、旅の二人が村の立て直しに力を貸してくれると暴露し、さらにお祭り騒ぎになった。
ワイワイと騒がしい中、いつの間にか二人揃って村に住むと誤解され、その上、クルテは例の少女と一緒になる約束ができているとデマが飛び出し、だったら今夜は娘の部屋で休んだらどうかと言われて悲鳴を上げんばかりのクルテが、『疲れたからそろそろ寝る』とピエッチェの手を引いて部屋に逃げていくと、後ろから聞こえるのは『思ったよりも初心そうだね』と誰かの声、続いて笑い声が響いた。
部屋のドアに慎重に鍵をするクルテに、ピエッチェが笑い転げる。
「笑い事じゃない!」
「はっきり『その気はない』って始めから言えばいいのに、気を持たせるからだ」
「誰かに口説かれるとかチヤホヤされるのって初めてなんだ」
「おおや、いい気分だったか?」
「そんなんじゃない! どうしたらいいか判らなかった」
「相手の気持ちは読めているんだろう?」
「そりゃあね。だからあんまり冷たいことを言ったら可哀想だったし――何しろ初めてのことは苦手」
そう言われれば今までも何度か『経験したことがないから判らない』とクルテから聞いた気がする。
「可哀想ねぇ……期待させてガッカリさせる方が傷は深いんだぞ?」
「オバちゃんたちが居なけりゃきっちり言うけど、フラれるところなんか誰にも見られたかないだろう?」
「おまえ、本当に人間臭いって言うか、なんだか気遣いが細やかだよな」
微笑むピエッチェに、フン! とクルテがソッポを向く。
そんな事より、と本題に入ったのはクルテだ。
「源泉なんだけど、あれは魔法によるものだ」
「魔物が枯渇させたってことか?」
「枯渇もそうだけど、湧出も魔法だね」
「って、伝説の女神は魔物?」
「そういうことかな? 未だその魔法が残存してる。だから草木が生えないし、虫さえ寄り付かない」
「でもさ、そうだとすると、何が目的だったんだろう? 村を繁栄させた挙句、滅亡させる?」
「そこまでは判らないよ。でもさ、明日は森に行ってみよう。案外探せば温泉を掘らせたヤツが見つかるかもしれない」
「温泉は大昔からあるって言ってたぞ。女に化けた魔物がまだ生きている?」
「魔物の寿命ってどれくらいか知ってる? ものによっちゃあ千年以上だ」
「……クルテ、おまえは何年生きてる?」
「わたし? さぁ? 発生した時の事なんか覚えちゃいない」
「生まれた時ではなく発生した時か?」
笑おうと思ったが、なんとなく笑えなかったピエッチェだ。
そんなピエッチェの心理を読み取っているだろうにクルテにそれを気にする様子はない。
「それと昨夜、奇怪しなものを見た」
「奇怪しなもの?」
「うん……」
クルテが窓辺に立ち、引いてあったカーテンを少しずらして外の様子を窺う。
「何かが村をうろついてた。あれは魔物だ」
「なんだって!?」
驚いて窓に近寄るピエッチェをクルテが抑える。
「おまえが見れば必ず気配が察知される、だからおまえは見るな。向こうはまだわたしに知られたと気づいていない。このままのほうがいい」
「おまえは見たんだろう?」
「あぁ、わたしなら魔物に察知されないようにもできる。でもそれだって絶対じゃない――アイツの心が読めなかった。ひょっとするとわたしよりずっと格上の魔物かも知れない」
「魔物にも格があるのか……」
「そこに引っ掛かるか?」
クルテが苦笑する。
「なにしろ、正体が判るまでは迂闊なことはできない。夜は出歩かないほうがいいとババロフが言っていたが、その通りだ。夜にのみ活動する魔物だってことだけは判ってる。まぁ、昨夜はたまたまこの村に来たとも考えられるから、騎士病と関係が有るとは言い切れない」
ピエッチェをテーブルのほうに促して、クルテも椅子に掛ける。
「今夜も見張っているから安心しろ。おまえの力が必要になった時は起こすから承知しておけ」
「俺の力が必要って?」
「わたしは精神体だからな。殺傷能力は低いんだ。人間はともかく、魔物相手に戦闘になったら逃げるしかない。ま、小物なら何とかならないでもないけどな」
「魔物相手に戦闘?」
「うん、剣で斬り倒せ」
「簡単に言ってくれる」
「もちろん援護するさ。相手の次の手を読んでおまえに教えてやる。あ、でも、あの魔物は心が読めないから無理か?」
「頼りにならないヤツだ――それにしても、おまえ、魔物だけあって魔物に詳しいんだな」
「そうでもない。だからあいつの正体が判らない」
「夜だけ活動する魔物って言ったぞ?」
「あれは太陽に弱いタイプ。村をうろついてたのは影だった。きっと、陽光に当たると消滅するな、あれ」
「そんなもんなんだ? ほかにはどんなタイプがいるんだ?」
「そんなの話してたら一晩じゃ足りない――さっさと寝ろよ。明日は森の探索だ」
「物好きだなぁ。山の中のなんもないところだぞ」
と笑われたが、案内してくれることになった。
なんの変哲もない低い山、緩やかな傾斜を登っていく。なるほど、これなら小さな子どもも一緒になって山菜や果実・木の実を集めに来られる。幼児には楽しい娯楽だ。
「この山で狩猟や木こりは無理そうだな」
「狩りに行くのは北側の山、向こうにはクマやシカ、イノシシなんかが結構いる。木こりが入るのは東の山から街道を囲む森のあたり。ほら、あんたたちが小舟を流された川、あの川を使って切り出した木を街に運んでた」
「今じゃ木こり仕事をする者はいないんだろう?」
「そうだねぇ……でもその点はちょうどよかったのかもな」
「ちょうどよかった?」
「七年前には東の山の、採れる木はほとんど採っちまっててさ。植林もしてたけど追いついてなかったんだ。で、森の木を採るかって相談してた――あの森は女神の森、森の実りを貰うのはいいが、木を切るのはいけないって言い伝えがある。だから木こりどもも迷ってた」
「温泉を掘り当てた女神?」
「そう、その女神。姿を晦ます前に、そう言ったんだってさ。あの森はこの村を守っている。だから荒らしちゃいけないって」
「村に入るにはあの森を抜ける街道を使うしかないんだっけ?」
「そうさ、村を守ってるって感じがするだろう?――着いた、ここだよ」
ぐるりと周囲が大きな石で囲まれた窪みは池のようだ。だが満たす水がない。底はカラッからに渇いて固まった泥だ。石囲いの一部が切れていて両脇が高く設えられている石畳が続いているのは水道、村に湧水を流し込んでいたと判る。
「掘り起こしたって言ってたけど、どのあたりを掘ったんだ?」
ピエッチェの質問にババロフが答える。
「石囲いの中、特に中心部だね」
「それはいつ頃?」
「急に湯が流れて来なくなってすぐだから、七年近く前だ」
「中心部を深く掘ったってことは、真ん中あたりから湯が沸いてた?」
「全体がぶくぶくしてたけど、真ん中あたりから時々ボワッて感じで気泡みたいなのが出てたんだ」
「なるほどね……ぶくぶくしてたってことは湯温は高かった?」
「ここでは触ると火傷するほど熱かったよ。村に着くころはいい湯加減だった」
「そんなに熱いなら事故が起きそうだけど?」
「昔、子どもが芋を茹でようとして落っこちたとかあったらしい。それで誰もここに来ちゃなんねぇって村で決めた。掘り起こす時に取っちまったけど、間違って近寄らないよう柵もあったんだ」
「柵の管理は村が?」
「半年に一度くらい見回ってたな。たまぁにイノシシなんかにブッ壊されてた」
「柵を壊したのがイノシシだって、なんで判った?」
「イノシシとかシカだろうねって話さ」
空を見上げて、
「ここって草が生えてないんだね。日当たりがいいんだからいっぱい生えてきそうなのに」
と言ったのはクルテだ。近くには木もなく池の上はぽっかりと青空が見えている。
「池の周囲、十五歩分、土が丸出し。こまめに草むしりでもしてる?」
「いんや、それほど俺らも暇じゃねぇ。温泉のせいで生えないんじゃないのか?」
面倒そうにババロフが答えた。難しいことを訊くなと言いたげだ。
「もう七年経つのに? 虫も見当たらない。蟻んこくらい居てもよさそうなのに」
「あと十年もすれば戻ってくるのかもな」
「湧出してたお湯の影響だとしたら水道のとこだって同じはずなのに、やっぱり池から十五歩下流に行ったところから草ぼうぼう……不思議だよね」
「訊かれたってなんも判らんよ。王都から学者にでも来て貰うか?」
「学者が見たって判りそうもないけどね」
クルテがクスリと笑った。
朝はパンと、申し訳程度に野菜が入ったスープだけだった。いつもそんなもんだと聞いたクルテが源泉見物に弓を携えていた。帰り道、急に立ち止まっては藪を狙って弓を構えるクルテ、何やってるんだとババロフは呆れるがピエッチェが静かに、と窘める。もちろんクルテは獲物を逃がさない。秘魔のクルテ、雉が身を隠しているなどお見通しだ。三度矢を射って三羽仕留めた。
大したもんだねぇ、とババロフが感心する。
「だけどあんたたち、この村に腰を落ち着ける気はないんだろう? だったらこんなことはこれっきりにしてくれ。今や雉肉は俺たちにとっちゃあご馳走、あんたたちがいなくなった後、この村での生活のきつさを余計に思い知らされることになる。特に子どもらがな……」
考えなしで済まなかったと謝ったのはピエッチェ、ケロッと言い放ったのはクルテだ。
「大丈夫。ピエッチェが問題を解決するって言ってるから」
「えっ?」
「本当か!?」
ピエッチェとババロフがそれぞれに別の意味で驚く。
「問題を解決って、この村から若いモンが出て行かなくなるってことか?」
とはババロフ、
「そんなこといつ言った!?」
これはピエッチェだ。
「またまた……昨夜、僕に言ったじゃん。村が立ちゆくよう手助けしたい、って」
「いや、それは……」
ピエッチェの頭の中に『話をあわせろ』とクルテの声が響く。クルテのくそったれと思いつつ、期待に輝く目で自分を見るババロフに、とうとうピエッチェが頷いた。
「あぁ、なんとかしてみるよ」
その夜の食堂は昨日以上の大盛り上がり、酒はなくとも焼いた雉肉が振舞われ、それだけでも子どもたちが燥ぎ女たちが笑い転げる。そのうちに、ババロフが、旅の二人が村の立て直しに力を貸してくれると暴露し、さらにお祭り騒ぎになった。
ワイワイと騒がしい中、いつの間にか二人揃って村に住むと誤解され、その上、クルテは例の少女と一緒になる約束ができているとデマが飛び出し、だったら今夜は娘の部屋で休んだらどうかと言われて悲鳴を上げんばかりのクルテが、『疲れたからそろそろ寝る』とピエッチェの手を引いて部屋に逃げていくと、後ろから聞こえるのは『思ったよりも初心そうだね』と誰かの声、続いて笑い声が響いた。
部屋のドアに慎重に鍵をするクルテに、ピエッチェが笑い転げる。
「笑い事じゃない!」
「はっきり『その気はない』って始めから言えばいいのに、気を持たせるからだ」
「誰かに口説かれるとかチヤホヤされるのって初めてなんだ」
「おおや、いい気分だったか?」
「そんなんじゃない! どうしたらいいか判らなかった」
「相手の気持ちは読めているんだろう?」
「そりゃあね。だからあんまり冷たいことを言ったら可哀想だったし――何しろ初めてのことは苦手」
そう言われれば今までも何度か『経験したことがないから判らない』とクルテから聞いた気がする。
「可哀想ねぇ……期待させてガッカリさせる方が傷は深いんだぞ?」
「オバちゃんたちが居なけりゃきっちり言うけど、フラれるところなんか誰にも見られたかないだろう?」
「おまえ、本当に人間臭いって言うか、なんだか気遣いが細やかだよな」
微笑むピエッチェに、フン! とクルテがソッポを向く。
そんな事より、と本題に入ったのはクルテだ。
「源泉なんだけど、あれは魔法によるものだ」
「魔物が枯渇させたってことか?」
「枯渇もそうだけど、湧出も魔法だね」
「って、伝説の女神は魔物?」
「そういうことかな? 未だその魔法が残存してる。だから草木が生えないし、虫さえ寄り付かない」
「でもさ、そうだとすると、何が目的だったんだろう? 村を繁栄させた挙句、滅亡させる?」
「そこまでは判らないよ。でもさ、明日は森に行ってみよう。案外探せば温泉を掘らせたヤツが見つかるかもしれない」
「温泉は大昔からあるって言ってたぞ。女に化けた魔物がまだ生きている?」
「魔物の寿命ってどれくらいか知ってる? ものによっちゃあ千年以上だ」
「……クルテ、おまえは何年生きてる?」
「わたし? さぁ? 発生した時の事なんか覚えちゃいない」
「生まれた時ではなく発生した時か?」
笑おうと思ったが、なんとなく笑えなかったピエッチェだ。
そんなピエッチェの心理を読み取っているだろうにクルテにそれを気にする様子はない。
「それと昨夜、奇怪しなものを見た」
「奇怪しなもの?」
「うん……」
クルテが窓辺に立ち、引いてあったカーテンを少しずらして外の様子を窺う。
「何かが村をうろついてた。あれは魔物だ」
「なんだって!?」
驚いて窓に近寄るピエッチェをクルテが抑える。
「おまえが見れば必ず気配が察知される、だからおまえは見るな。向こうはまだわたしに知られたと気づいていない。このままのほうがいい」
「おまえは見たんだろう?」
「あぁ、わたしなら魔物に察知されないようにもできる。でもそれだって絶対じゃない――アイツの心が読めなかった。ひょっとするとわたしよりずっと格上の魔物かも知れない」
「魔物にも格があるのか……」
「そこに引っ掛かるか?」
クルテが苦笑する。
「なにしろ、正体が判るまでは迂闊なことはできない。夜は出歩かないほうがいいとババロフが言っていたが、その通りだ。夜にのみ活動する魔物だってことだけは判ってる。まぁ、昨夜はたまたまこの村に来たとも考えられるから、騎士病と関係が有るとは言い切れない」
ピエッチェをテーブルのほうに促して、クルテも椅子に掛ける。
「今夜も見張っているから安心しろ。おまえの力が必要になった時は起こすから承知しておけ」
「俺の力が必要って?」
「わたしは精神体だからな。殺傷能力は低いんだ。人間はともかく、魔物相手に戦闘になったら逃げるしかない。ま、小物なら何とかならないでもないけどな」
「魔物相手に戦闘?」
「うん、剣で斬り倒せ」
「簡単に言ってくれる」
「もちろん援護するさ。相手の次の手を読んでおまえに教えてやる。あ、でも、あの魔物は心が読めないから無理か?」
「頼りにならないヤツだ――それにしても、おまえ、魔物だけあって魔物に詳しいんだな」
「そうでもない。だからあいつの正体が判らない」
「夜だけ活動する魔物って言ったぞ?」
「あれは太陽に弱いタイプ。村をうろついてたのは影だった。きっと、陽光に当たると消滅するな、あれ」
「そんなもんなんだ? ほかにはどんなタイプがいるんだ?」
「そんなの話してたら一晩じゃ足りない――さっさと寝ろよ。明日は森の探索だ」
10
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる