秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す= 

寄賀あける

文字の大きさ
111 / 434
7章  絡みつく視線

しおりを挟む
 そんなピエッチェをクルテも見て
「二人がいい」
と微笑む。ピエッチェにしてみると誤魔化された気分だ。マデルの前で『魔法の鏡』の話はできないってことか。唐突なクルテはいつものこと、マデルとカッチーはさして気にしない。

「街に出て、したいことをすればいい。花屋に行ったり本屋に行ったり……そこの店員さんとの立ち話の中にヒントがあるかもしれない」
「俺、本屋に行きたいです! マデルさん、一緒に行ってください」
カッチーはクルテを真に受けて、気を利かせた。

 ピエッチェとクルテ、マデルとカッチーの二手に分かれ、ギュリューの街に繰り出すことにした。
「花屋には帰りに寄る。売れ残った花を全部買う」
坂道を上りながらクルテが言った。マデルたちを先に行かせ、時間をおいてから宿を出た。例の宿屋に通じる坂道とは別の坂だ。

「なんでいつも全部買うって言うんだ? 持ちきれないほどあると思うぞ」
「じゃあ、持てるだけでいい――残ったら捨てられる。可哀想」
慈善事業ですか?

「で、どこに行きたい?」
「清風の丘」
「あん? ギュームに会いに行く気か?」
「場所を確認するだけ。ラクティメシッスと遭遇するかも」
「王太子がそこらを歩いてるなんてないだろうよ。って、会いたいのか?」

「見たいだけ」
「なんのために? グリュンパで見たばかりだ」
するとチラリとピエッチェを見たクルテがクスリと笑う。

「妬くな。ラクティメシッスが美男子かどうか確認したいわけじゃない」
「……そんなこと言ってないぞ?」
言っていないが図星だ。まったく、心を読める相手は面倒だ。

「あぁ、そうか……」
心を読める、つまりクルテはラクティメシッスの心を読みたいってことか。
「うん、ピエッチェが今、考えた通り」
クルテは嬉しそうだ。

「でも、狙い通りのことを考えてくれるかな?」
読めると言っても相手が考えなきゃどうにもならない。クルテはラクティメシッスに何を考えて欲しいんだろう?

「わたしたちを見れば誰かさんを思い出す」
「なるほど。今日は一緒じゃないんだなって?」
「そう。で、どうしたんだろうって思う」
「で、いろいろ連想する、と?」
「少しは察しが良くなった」

「しかし、こうなると宿の主人あるじが言った通り〝運が良ければ〟ってなるな」
「ピエッチェは幸運の持ち主。大丈夫。多分ね」
「へぇ、俺は幸運の持ち主か?」
「だって、わたしがそばに居る」

 クルテが幸運を呼び寄せるってことか? それとも、クルテがそばに居るってこと自体が幸運なのか? そのどちらも結局は同じように思えた。クルテがそばに居る幸運がさらに幸運を呼んでくれる、そんな気がした。

 よく晴れて、降り注ぐ日差しは夏そのもの、坂の半分も上りきらないうちにクルテが音を上げた。
「暑すぎる。なんとかしろ」
「無茶を言うな――あの店で少し休むか?」
「冷たい飲み物ある?」
「多分あるんじゃないか?」
「多分って言うな」
なんでって言っちゃダメなんだ?

 入ったのは小さな店、客が十人入るだろうか? 飲み物と軽食を提供している店だが、夜はレストランになるらしい。氷は別料金と言われたが、クルテは迷わず入れて欲しいと頼んだ。

「氷とハチミツ入りのレモネードと温かいジャスミンティー、お茶請けはお付けしますか?」
「何か果物、有る?」
「果物だけってのはないんです。プディングやらとの盛り合わせなら」
「じゃあそれも」
「お二つ?」
「一つでいいです」
ピエッチェに訊きもせず決めてしまったクルテだが、どうせ心を読んでいる。お茶請けと聞いて、要らないと思っていたピエッチェだ。

「暑いのは服のせいもあるかもしれないな」
クルテが着ているのは馬具屋で貰ったレモン色の服で、春先に着るような厚めの生地だ。髪はマデルに頼んで編んで貰った。

 髪については夜中に一悶着あった。ピエッチェを揺り起こしたクルテ、髪が引っ張られて痛いと訴える。
『編んだままだからだ。ほどいちまえ』
『自分じゃ解けない』
仕方ないから眠いのをこらえて解いてやった。

『朝、また編んでくれる?』
馬具屋の女房の編み方は、以前、クルテが自分で編んだ単純な三つ編みじゃなかった。網込みってヤツだ。

『俺にできると思ってるのか?』
『解いたんだから、責任取って元通りにしろ』
自分から解けと頼んだくせに、どんな理屈だ?

 マデルは快く引き受けてくれた。
『フレヴァンスさまの髪も、よく編んであげたのよ』
と懐かしみ、嬉しそうな顔をしていた。

 ついでだから服屋に寄ろうとピエッチェは言ったが、クルテは明日から男物の服にするからいいと答えた。ピエッチェの心を読んだのかもしれない。着飾ったクルテを連れて歩くのは誇らしくもあり、同時に心配でもある。男物と女物、どちらがいいか問われれば返答に困る。だから『どっちでも好きなほうにしろ』としか答えられない。クルテの心は自分のものだと自信を持てるようになったなら、どちらがいいのか言えるようになるだろうか? その時はきっと、いつでも綺麗でいろと言いそうな気がする。

 注文品が配膳され、早速レモネードを一口ひとくち飲んだクルテが皿に盛りつけられた果物をジッと見つめた。
「切りきざま――」
「これからどこに行く?」
どうせ果物が切り刻まれていると苦情を言うつもりだ。周囲の耳を気にしたピエッチェがクルテの言葉を遮った。

「清風の丘」
「だったな……店を出る時、どう行けばいいか訊いてみよう」
清風の丘がどこにあるか確認しないで坂を上ったのは失敗だったと今さら思う。また下って別の坂を上ることになるかもしれない。

「また坂道?」
「ギュリューはそんな街だ」
「なんで?」
「難し過ぎる質問だな」

 隣の席の客がクスッと笑った。
「昔、ここは王都だったのよ」
笑顔で答えをくれたのは五十歳くらいの上品な婦人だ。同じテーブルでニコニコしている紳士はきっと夫だろう。

「昔って言ってもずーーっと大昔。王さまたちが国盗り合戦をしていたころ。起伏の激しい地勢は敵国の攻撃を防ぎやすかったのね。だけど、国土が広くなり、領地の奪い合いも落ち着けば、もっと住みやすい場所に移りたくなる。ローシェッタは大国となり、敵国の襲撃を受けることも少なくなっていったわ。だから、こんな要塞のような街を捨てて、王さまは王都をお移しになったの。古くから住んでいる街人たちのご先祖はローシェッタ国の兵士たちよ」

「王様と一緒に王都に行かなかったの?」
「そりゃあね、身分のある人たちは行ったわよね。だけど下級兵たちは戦が無くなれば出世の道を絶たれてしまうでしょ? 住み慣れた場所でのんびり暮らすことを選んだって事よ」

 婦人の話はピエッチェも既知のことだった。ザジリレンの歴史を学んだ折、周辺諸国の基礎知識として教えられた。が、クルテに訊かれた時、知っている事すら忘れていた。『歴史なんか学んでどうする? 今が大事だ』と、熱心さに欠けていたのも一因かもしれない。

 ザジリレン王家とローシェッタ王家は元をただせば同じ血筋、だから今でも親密な関係が続いている。ローシェッタ建国は千年ほど前、ザジリレンは七百年ほど前だが、ローシェッタの第二王子が新たに建国したのがザジリレンだ。

 と、言っても何も内乱を起こしたわけではない。武功著しい第二王子をこのまま終わらせるのは惜しいと考えた当時の王が、第二王子が獲得した新領土を与えたのが始まりだ。ローシェッタにとって脅威となる隣国への備えでもあった。ザジリレンを盾にしたとも言える。だがそれも今は昔の話、ピエッチェの知る限り、どの国も自国を豊かにするので忙しく、小競り合いはあるものの大きな戦が起きたことはない。もちろん軍備を怠ることはないが、それはもっぱら治安維持、あるいは万が一の内乱や魔物への対処のためだ。

「ところで……清風の丘に行きたいの?」
婦人が気の毒そうな顔で訊ねた――

 清風の丘は上ってきた坂道を上りきり、丘の向こう側を降り、さらに一つ丘を越え、その向こうの丘だと聞いて
「行くの、やめる」
店を出た途端、クルテが言った。先に店を出た婦人には嬉しそうに礼を言っていたクルテだが不機嫌を隠そうともしない。ピエッチェはクルテの単純さにニヤニヤ笑いが止められない。

「明日、リュネに連れてってもらう」
「リュネに二人乗りか……くらを買わなきゃな」
「二人も乗ったら可哀想。重くて歩かないかも」
「いつも荷馬車を牽かせてて、よくぞ言った」
「あっ……四人は乗れる?」
「それは背中の大きさ的に無理だ。多分」
「だから! 多分って言うな。ニヤニヤも禁止!」

 ますますねるクルテだが、ピエッチェはそれも楽しい。立場や身分を気にしないクルテに、自分もそんな事を忘れて話ができる。こんなにポンポン会話できる相手はクルテだけだと感じる。マデルやカッチーもピエッチェの身分なんか気にしないが、それは知らないからだ。まぁ、もっとも、クルテは魔物だ。身分を気にするはずもない。でもきっと、クルテは人間に成っても同じ態度でいてくれる。変わるなんて思えなかった。

 とりあえず馬具屋に行くことにして、すれ違った人に道を尋ねると一番近い馬具屋は坂の下だと言う。が、宿とは反対側の坂の下、つまり、上り切って降りなくては行けない場所、帰りはまた上って降りることになる。
「ピエッチェ、一人で行け」
「おまえ、俺を一人にしていいのか?」
悔しそうなクルテの顔、
「ダメ、一緒に行く」
ピエッチェが笑う。

「まずは、いったん宿に戻るぞ」
「なんで?」
「宿に戻ってリュネを連れて行く。くらあぶみをリュネに合わせて貰った方がいい。手綱やそのほかも調整しないといけないし、適当に買っていってリュネが嫌がったら使えない」
「それがリュネのため」
クルテは不服そうだが異存はないらしい。軽く溜息をついて、宿に向かった。

 その頃、ピエッチェたちとは別の坂を上っていったマデルとカッチーは、すぐに見つけた本屋で時間を潰していた。正しく言うと、店の片隅でコソコソ話している数人の話に聞き耳を立てていた。

 最初に耳に飛び込んできた声は
『ギュームを訪ねて例の旅人たちが来たらしいぞ』
気になるに決まっている。自分たちのことだ。マデルがカッチーに目配せする。カッチーも頷いて、立ち読みしているふりを続けた。マデルは店内をフラフラし、本を物色しているかのように装った。

「グレーテが怖がって、落ち着きをなくしたって話だな」
「そもそも死んだと思っていたのがピンピンして戻ってきたんだ。それだけでも腰を抜かしたって聞いたぞ」
「しかも連れてきたのが王太子さまじゃ、今さら闇に葬れもしない」
「しかし、なんの用事でギュームに会いたいんだろう?」
「謝礼をにでも来たのかな?」
「そしたら王太子さまに訴えればいいんじゃないか?」
「街の護衛兵で充分だろ?」
「ギュームってヤツはどうしてこうも面倒を起こすんだろうな?」
言った男が深い溜息をついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...