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7章 絡みつく視線
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その様子にピエッチェが、
「俺たちが追い返される理由が何か判ったのか?」
と問うと、マデルとカッチーがまたも顔を見交わした。
「それは判らないです。判ったのはギュームさんやレムシャンさんたちが苦しい立場だってことだけです」
答えたのはカッチーだ。
マデルたちは服屋と小間物屋に行ってから、靴屋に行ったらしい。
「カッチーったら、グンと背が伸びたよね。服も靴も窮屈になっちゃうのも当たり前ね」
マデルが慈しむような目でカッチーを見た。姉そのものの顔つきだ。
「優しいお姉さんで羨ましいって店で言われました。三軒ともです」
カッチーが少し照れる。
「姉と一緒に買い物するような齢じゃないですよね」
カッチーの年頃なら、姉や母親と一緒に行動するのは躊躇しそうだ。ピエッチェ自身、身に覚えがある。母親についてはともかく、姉との仲は良好だったが十二・三のころからは他人の目があると素っ気ない態度をわざととっていた。照れもあるし、なんとなく、姉には近付いてはいけないような気もしていた。
「わたしは末っ子だからね。弟ができて嬉しいんだよ」
マデルが笑う。
「カッチーは優しいし察しもいい。そのうえ気も利くなんて、わたしには勿体ない弟だよ」
どうせ俺は鈍感で気が利かないよ。って、そう言ったのはマデルじゃなくってクルテだったとピエッチェが密かに思う。
「俺みたいに貧相なのがマデルさんの弟でいいんですか? 光栄です!」
貧相なのはクルテの……って、これは考えないほうがいい。あとでとやかく絡まれるのがオチだ。とは思うものの、チラッとクルテを見てしまう。本当のところ、どれくらい貧相なんだろう? 確かにそれほど豊かではなさそうだけど……
嬉しそうな顔で菓子箱を開けていたクルテが視線に気づいてピエッチェを見る。慌てて顔を背け
「それで、判ったことって?」
と本題に戻った。ちょっと首を傾げてニヤッとしたが、クルテは何も言わず菓子皿にケーキを乗せている。
「それが、ギュームさんって言うか、レムシャンさんって言うか……」
クルテがカッチーに皿を差し出す。会釈して受け取るカッチー、
「なかなか家が決まらなかったらしいんです」
皿から目を放さず言った。まるで皿に話しかけているかのようだ。どうも言い辛いことらしい。
少し考えていたが意を決したのか、チラリとマデルを見てから言った。
「なんだか、ギュームさんを連れてきたのが王太子さまだったのが徒になったようなんです」
マデルは気まずげに目を伏せただけで何も言わない。
カッチーが続けた。
「ギュリューの庶民のほとんどが、外壁を塗る提案はギュームさんだと今も信じています。ギュームさんは庶民の味方だと思っていたんです。しかも死んだはずなのに、事もあろうか王太子さまに連れられて街に戻ってきた……裏切られたと感じてしまいました」
「どのあたりが裏切りなんだろう?」
「王太子と一緒だったことで、ギュームさんを富裕層の一人と見たってことです――以前から街人と、気が向いた時だけ来る金持ち連中は敵対していたそうです。ここに住んでいるわけでもないのに街の運営に口出しするなと言うのが街人の主張、別荘とは言え屋敷があるのだから勝手なことをして貰っては困るというのが別荘族の主張です。特に外壁塗装は別荘族の反感が強かったとか」
「奇抜すぎるって?……それにしても、例の脱税に金持ち連中は気付いていない?」
「もともと庶民の家になんか興味ありません。何階建ての家だったかなんて覚えているはずないです」
なるほどね。
「それで、ギュームは街に受け入れて貰えなかったってことか?」
「平たく言えばそうです――ご貴族さまの仲間入りしたんだったら清風の丘にでも住めって街中の家は紹介すらしなかったって」
「それは誰が言ってた?」
「靴屋です。靴屋はパン屋に、パン屋は本屋に聞いたって言ってました」
ピエッチェが軽く笑う。
「その本屋って、寄り合ってたって本屋か?」
カッチーもニヤリとして
「どうもそのようです」
と答えた。
「レムシャンに清風の丘に住めって言った張本人が誰かは話に出なかった?」
「そこですよね。俺も聞いたんだけど、旅人のあんたに名を言ったって判らないだろうって教えて貰えませんでした。」
「まぁ、知り合いのはずもないな――しかし、やっかむヤツが居れば媚びるヤツもいるもんだけど、王太子と近しくなれば摺り寄ってくるヤツもいたんじゃないのか?」
「そのあたりは服屋が言ってました――ギュームが戻って数日は、注文して欲しいねって服屋仲間で話題になったそうです。でも、誰かが『アイツには関わるな』って言い出したとかで、誰もギュームのことは噂話すらしなくなったって」
「関わるなって言ったのが誰なのかは、どうせ判らないんだよな」
ピエッチェが苦笑する。
「でも、まぁ、王太子を敵視してるってことではなさそうだ。王太子が送ってきたことが原因なら、ひょっとしたら王太子に対する反発でもあるのかと心配したがそうじゃないならその点は安心だ」
「ラクティメシッスさまを敵視するローシェッタ国民なんていません。あのお優しいかたを、どうしたら敵視できるんですか!?」
「だから! そうじゃないなら安心だってことだよ」
怒りで興奮気味のカッチーを、慌ててピエッチェが宥めた。
「わたしのせいだわ」
ポツリと言ったのはマデルだ。
「ラクティメシッスさまが自ら森の聖堂に行くって仰ったとき、なんとしてでもお止めするんだった」
「マデルさんに悪いところなんてないです」
「それって、マデルが止めたのにラクティメシッスは聞かなかったって事だろ? だったらラクティメシッスが悪いってことだ」
カッチーとピエッチェが口々に言うが、マデルは俯いたままだ。
二切れのチーズケーキを食べ終えたクルテが、フルーツケーキをしげしげと睨み付けて
「チーズケーキはどこにチーズが入っているか判らなかったけど、こっちはフルーツの在り処がよく判る」
場の空気を無視して言った。
「なんでなのか、マデルには判る?」
「えっ?」
いきなりな質問に戸惑うマデル、ピエッチェが『おい?』と呆れるが、
「えっと、それはね。チーズは生地に溶けちゃってるって言うか、見えないくらい混ざってるからよ。フルーツは生地の粉より大きいから混ざり切ってないの」
と答えるマデル、微笑んでいるが陰りが見える。
「ふぅん……つまりフルーツは同化しないけど、チーズは同化しちゃってるってことだね」
クルテがぱくりとフルーツケーキを齧り、咀嚼する。
「まぁ、富裕層を庶民に同化させるのは難しそう。庶民を富裕層に同化させる方が簡単かもしれないね」
「えっ?」
と言ったのはピエッチェ、今度はマデルじゃない。
「おまえ、話を聞いていないかと思ったら、そんなこと考えてたのか?」
「ヘンなこと言ってる……いつも、なんにも考えずにいるのは難しいって言ってるくせに」
ニヤリと笑ったクルテ、
「庶民が面白くないのは僻みもあるんじゃないかな? 貴族や金持ちは裕福さを隠そうとしないヤツが多い。自分たちは苦労して働いてやっと生活してるのにって、庶民は思う。しかもギュリューは古い街、移住者にはたとえ金持ちじゃなくても風当たりが強い。まして相手が金持ちならなおさら、ってことだね」
と口の中の物をお茶と飲み下す。
「だけど、金持ちだって苦労がないわけじゃない。庶民とは違うところで辛い思いもする。そのあたりを街の人たちが理解したら、少しは分断も解消されるかもしれないね」
「それが、庶民を富裕層に同化させることになるのか?」
ピエッチェがニヤニヤしながらクルテに問う。コイツ、ケーキを食べながらそんな事を考えていたのか?
「今日会った時、ギュームが言ってたじゃん。以前は街の名士、裕福な家と言われたけれど、すっかり落ちぶれてしまったって」
「え、あ? あぁ、そんなこと、言ってたね」
って、ギュームはそんなこと言っちゃいない。でもここはクルテに合わせるピエッチェだ。
「でも、まぁ、これで俺たちが歓待されない理由もはっきりしたな」
クルテの脳内指示でピエッチェが言った。
「ギュームとは家の前で立ち話を少ししただけなんだ。中に入ってお茶でもって言ってるところにグレーテが来て追い返された」
このあたりは事実と同じで後ろめたさを感じずに話せた。
「で、グレーテに言われたんだよ、あんたたちのせいだって」
これは言われていない後ろめたさと、この後に続く言葉がマデルを傷つけそうで少し口籠る。
「俺たちがギュームを送るよう王太子に頼んだせいで、この街に居ずらくなったって事らしい」
マデルを見ないようにして言ったが、マデルが息を飲む気配をひしひしと感じる。
「あ……」
「マデルのせいじゃないよ」
何か言おうとするマデルをクルテが先回りした。
「俺たちが頼んだって、ピエッチェは言った。だいたい、ギュームをレムシャンのところに連れて行って欲しいって言ったのはわたしだし、マデルを責めるなら、まずはわたしを責めなきゃね」
ピエッチェも
「森の聖堂にギュームを置き去りにしてたら、今度はなんて言われたかな? 人でなしって言われるんだろうな」
と苦笑する。カッチーが、
「そうですよね。グレーテさんの言い分はあんまりです。レムシャンさんのお父さんを見殺しにしたほうがいいとでも言うんでしょうかね?」
と怒りを見せる。
「問題は、ギュームたちを締め出そうとする街人だ」
クルテが言った。
「カッチーの話だと、レムシャンに清風の丘に行けって言ったヤツ、服屋にギュームに関わるなって言ったヤツ、この二人の思惑が気になる。きっとこの二人、同一人物なんじゃないかな?」
「やっかみなんじゃないのか?」
ピエッチェの疑問に、
「そう、根底にあるのは富裕層へのやっかみ……それは街人同士にもある。別荘族に対するものだけじゃない。たまたまギュームは街人で元は裕福、力を失ったから攻撃しやすくなったってだけ」
クルテがニヤリと笑う。
「そして多分、ギュームを攻撃することで何らかの利益を手にする――例のレストランの追い出しにも関係してきそうだね」
「うーーん、そこまで繋がるか? あっちはあくまで商売上の揉め事、無関係だと思うぞ」
「そこはまだ判らない。でも視野に入れていいと思う――まぁ、そっちに打つ手は考えてあるから、その反応を見てから考えてもいいかな」
「そう言えば、そんなこと言ってたな。マデルに活躍して貰うんだったっけ?」
「へっ?」
指名されたマデルが驚いてクルテを見る。
「あんた、わたしに何をさせる気?」
「簡単なことだよ」
クルテがマデルにニッコリ微笑んだ。
「マデルには、あのレストランで食事をして貰う――ラクティメシッスさまと一緒にね」
「俺たちが追い返される理由が何か判ったのか?」
と問うと、マデルとカッチーがまたも顔を見交わした。
「それは判らないです。判ったのはギュームさんやレムシャンさんたちが苦しい立場だってことだけです」
答えたのはカッチーだ。
マデルたちは服屋と小間物屋に行ってから、靴屋に行ったらしい。
「カッチーったら、グンと背が伸びたよね。服も靴も窮屈になっちゃうのも当たり前ね」
マデルが慈しむような目でカッチーを見た。姉そのものの顔つきだ。
「優しいお姉さんで羨ましいって店で言われました。三軒ともです」
カッチーが少し照れる。
「姉と一緒に買い物するような齢じゃないですよね」
カッチーの年頃なら、姉や母親と一緒に行動するのは躊躇しそうだ。ピエッチェ自身、身に覚えがある。母親についてはともかく、姉との仲は良好だったが十二・三のころからは他人の目があると素っ気ない態度をわざととっていた。照れもあるし、なんとなく、姉には近付いてはいけないような気もしていた。
「わたしは末っ子だからね。弟ができて嬉しいんだよ」
マデルが笑う。
「カッチーは優しいし察しもいい。そのうえ気も利くなんて、わたしには勿体ない弟だよ」
どうせ俺は鈍感で気が利かないよ。って、そう言ったのはマデルじゃなくってクルテだったとピエッチェが密かに思う。
「俺みたいに貧相なのがマデルさんの弟でいいんですか? 光栄です!」
貧相なのはクルテの……って、これは考えないほうがいい。あとでとやかく絡まれるのがオチだ。とは思うものの、チラッとクルテを見てしまう。本当のところ、どれくらい貧相なんだろう? 確かにそれほど豊かではなさそうだけど……
嬉しそうな顔で菓子箱を開けていたクルテが視線に気づいてピエッチェを見る。慌てて顔を背け
「それで、判ったことって?」
と本題に戻った。ちょっと首を傾げてニヤッとしたが、クルテは何も言わず菓子皿にケーキを乗せている。
「それが、ギュームさんって言うか、レムシャンさんって言うか……」
クルテがカッチーに皿を差し出す。会釈して受け取るカッチー、
「なかなか家が決まらなかったらしいんです」
皿から目を放さず言った。まるで皿に話しかけているかのようだ。どうも言い辛いことらしい。
少し考えていたが意を決したのか、チラリとマデルを見てから言った。
「なんだか、ギュームさんを連れてきたのが王太子さまだったのが徒になったようなんです」
マデルは気まずげに目を伏せただけで何も言わない。
カッチーが続けた。
「ギュリューの庶民のほとんどが、外壁を塗る提案はギュームさんだと今も信じています。ギュームさんは庶民の味方だと思っていたんです。しかも死んだはずなのに、事もあろうか王太子さまに連れられて街に戻ってきた……裏切られたと感じてしまいました」
「どのあたりが裏切りなんだろう?」
「王太子と一緒だったことで、ギュームさんを富裕層の一人と見たってことです――以前から街人と、気が向いた時だけ来る金持ち連中は敵対していたそうです。ここに住んでいるわけでもないのに街の運営に口出しするなと言うのが街人の主張、別荘とは言え屋敷があるのだから勝手なことをして貰っては困るというのが別荘族の主張です。特に外壁塗装は別荘族の反感が強かったとか」
「奇抜すぎるって?……それにしても、例の脱税に金持ち連中は気付いていない?」
「もともと庶民の家になんか興味ありません。何階建ての家だったかなんて覚えているはずないです」
なるほどね。
「それで、ギュームは街に受け入れて貰えなかったってことか?」
「平たく言えばそうです――ご貴族さまの仲間入りしたんだったら清風の丘にでも住めって街中の家は紹介すらしなかったって」
「それは誰が言ってた?」
「靴屋です。靴屋はパン屋に、パン屋は本屋に聞いたって言ってました」
ピエッチェが軽く笑う。
「その本屋って、寄り合ってたって本屋か?」
カッチーもニヤリとして
「どうもそのようです」
と答えた。
「レムシャンに清風の丘に住めって言った張本人が誰かは話に出なかった?」
「そこですよね。俺も聞いたんだけど、旅人のあんたに名を言ったって判らないだろうって教えて貰えませんでした。」
「まぁ、知り合いのはずもないな――しかし、やっかむヤツが居れば媚びるヤツもいるもんだけど、王太子と近しくなれば摺り寄ってくるヤツもいたんじゃないのか?」
「そのあたりは服屋が言ってました――ギュームが戻って数日は、注文して欲しいねって服屋仲間で話題になったそうです。でも、誰かが『アイツには関わるな』って言い出したとかで、誰もギュームのことは噂話すらしなくなったって」
「関わるなって言ったのが誰なのかは、どうせ判らないんだよな」
ピエッチェが苦笑する。
「でも、まぁ、王太子を敵視してるってことではなさそうだ。王太子が送ってきたことが原因なら、ひょっとしたら王太子に対する反発でもあるのかと心配したがそうじゃないならその点は安心だ」
「ラクティメシッスさまを敵視するローシェッタ国民なんていません。あのお優しいかたを、どうしたら敵視できるんですか!?」
「だから! そうじゃないなら安心だってことだよ」
怒りで興奮気味のカッチーを、慌ててピエッチェが宥めた。
「わたしのせいだわ」
ポツリと言ったのはマデルだ。
「ラクティメシッスさまが自ら森の聖堂に行くって仰ったとき、なんとしてでもお止めするんだった」
「マデルさんに悪いところなんてないです」
「それって、マデルが止めたのにラクティメシッスは聞かなかったって事だろ? だったらラクティメシッスが悪いってことだ」
カッチーとピエッチェが口々に言うが、マデルは俯いたままだ。
二切れのチーズケーキを食べ終えたクルテが、フルーツケーキをしげしげと睨み付けて
「チーズケーキはどこにチーズが入っているか判らなかったけど、こっちはフルーツの在り処がよく判る」
場の空気を無視して言った。
「なんでなのか、マデルには判る?」
「えっ?」
いきなりな質問に戸惑うマデル、ピエッチェが『おい?』と呆れるが、
「えっと、それはね。チーズは生地に溶けちゃってるって言うか、見えないくらい混ざってるからよ。フルーツは生地の粉より大きいから混ざり切ってないの」
と答えるマデル、微笑んでいるが陰りが見える。
「ふぅん……つまりフルーツは同化しないけど、チーズは同化しちゃってるってことだね」
クルテがぱくりとフルーツケーキを齧り、咀嚼する。
「まぁ、富裕層を庶民に同化させるのは難しそう。庶民を富裕層に同化させる方が簡単かもしれないね」
「えっ?」
と言ったのはピエッチェ、今度はマデルじゃない。
「おまえ、話を聞いていないかと思ったら、そんなこと考えてたのか?」
「ヘンなこと言ってる……いつも、なんにも考えずにいるのは難しいって言ってるくせに」
ニヤリと笑ったクルテ、
「庶民が面白くないのは僻みもあるんじゃないかな? 貴族や金持ちは裕福さを隠そうとしないヤツが多い。自分たちは苦労して働いてやっと生活してるのにって、庶民は思う。しかもギュリューは古い街、移住者にはたとえ金持ちじゃなくても風当たりが強い。まして相手が金持ちならなおさら、ってことだね」
と口の中の物をお茶と飲み下す。
「だけど、金持ちだって苦労がないわけじゃない。庶民とは違うところで辛い思いもする。そのあたりを街の人たちが理解したら、少しは分断も解消されるかもしれないね」
「それが、庶民を富裕層に同化させることになるのか?」
ピエッチェがニヤニヤしながらクルテに問う。コイツ、ケーキを食べながらそんな事を考えていたのか?
「今日会った時、ギュームが言ってたじゃん。以前は街の名士、裕福な家と言われたけれど、すっかり落ちぶれてしまったって」
「え、あ? あぁ、そんなこと、言ってたね」
って、ギュームはそんなこと言っちゃいない。でもここはクルテに合わせるピエッチェだ。
「でも、まぁ、これで俺たちが歓待されない理由もはっきりしたな」
クルテの脳内指示でピエッチェが言った。
「ギュームとは家の前で立ち話を少ししただけなんだ。中に入ってお茶でもって言ってるところにグレーテが来て追い返された」
このあたりは事実と同じで後ろめたさを感じずに話せた。
「で、グレーテに言われたんだよ、あんたたちのせいだって」
これは言われていない後ろめたさと、この後に続く言葉がマデルを傷つけそうで少し口籠る。
「俺たちがギュームを送るよう王太子に頼んだせいで、この街に居ずらくなったって事らしい」
マデルを見ないようにして言ったが、マデルが息を飲む気配をひしひしと感じる。
「あ……」
「マデルのせいじゃないよ」
何か言おうとするマデルをクルテが先回りした。
「俺たちが頼んだって、ピエッチェは言った。だいたい、ギュームをレムシャンのところに連れて行って欲しいって言ったのはわたしだし、マデルを責めるなら、まずはわたしを責めなきゃね」
ピエッチェも
「森の聖堂にギュームを置き去りにしてたら、今度はなんて言われたかな? 人でなしって言われるんだろうな」
と苦笑する。カッチーが、
「そうですよね。グレーテさんの言い分はあんまりです。レムシャンさんのお父さんを見殺しにしたほうがいいとでも言うんでしょうかね?」
と怒りを見せる。
「問題は、ギュームたちを締め出そうとする街人だ」
クルテが言った。
「カッチーの話だと、レムシャンに清風の丘に行けって言ったヤツ、服屋にギュームに関わるなって言ったヤツ、この二人の思惑が気になる。きっとこの二人、同一人物なんじゃないかな?」
「やっかみなんじゃないのか?」
ピエッチェの疑問に、
「そう、根底にあるのは富裕層へのやっかみ……それは街人同士にもある。別荘族に対するものだけじゃない。たまたまギュームは街人で元は裕福、力を失ったから攻撃しやすくなったってだけ」
クルテがニヤリと笑う。
「そして多分、ギュームを攻撃することで何らかの利益を手にする――例のレストランの追い出しにも関係してきそうだね」
「うーーん、そこまで繋がるか? あっちはあくまで商売上の揉め事、無関係だと思うぞ」
「そこはまだ判らない。でも視野に入れていいと思う――まぁ、そっちに打つ手は考えてあるから、その反応を見てから考えてもいいかな」
「そう言えば、そんなこと言ってたな。マデルに活躍して貰うんだったっけ?」
「へっ?」
指名されたマデルが驚いてクルテを見る。
「あんた、わたしに何をさせる気?」
「簡単なことだよ」
クルテがマデルにニッコリ微笑んだ。
「マデルには、あのレストランで食事をして貰う――ラクティメシッスさまと一緒にね」
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