222 / 434
12章 王の恋人
14
しおりを挟む
マデルの期待通り、夕食は降るような星空の下でとなった。
昼間は汗ばむほど暑かったが陽が沈むと気温も下がり、優しい風も吹いた。風は庭の篝火を揺らし、篝火の震えはテーブルを優雅に演出した。
「ワインの追加を」
ラクティメシッスがテーブルを整えていた給仕係に頼み、少し遅れてワインが運ばれてくる。グラスは六脚、だが使われたのは四脚だ。カッチーとクルテのグラスはピエッチェが臥せてしまった。
「お嬢さんはお酒は?」
「ジュースと間違えて飲んじゃってフラフラになったことがあるの」
ラクティメシッスにマデルが答えた。クルテはいつも通り料理のチェックで忙しい。
「カッチーはそろそろ酒に慣れてもいい頃合いでは?」
するとカッチーがピエッチェの顔色を窺う。飲みたそうな顔をしている。
「うん? 飲みたいって言われなかったから臥せたけど、飲みたかったか?」
ピエッチェが慌ててカッチーのグラスを立てた。
飲酒に関して定める法は取り立ててなかった。親が決めているのがほとんどだ。酔いどれの親を持てば子どもだろうが酒豪もいる。けれどアルコールの中毒性は知れ渡っているから、良識のある大人は子どもに飲ませたがらない。
「飲み方も覚えておかなければ、苦労するのはカッチーですよ」
ラクティメシッスが微笑んでカッチーのグラスにワインを注いだ。
スープ以外は大皿で供されていた。サラダも大きなボールに盛られ、取り分けるようトングが添えられている。
「前に泊まった時と随分違うのね」
マデルがワインを舐めながら言った。ララティスチャングに向かう際、利用したのと同じ宿だ。
「テラス用に気を利かせてくれたんだと思うよ」
取り分けたサラダをクルテの前に置きながらピエッチェが言った。トマトとキュウリが幾分多めだ。
料理は他に牛肉の薄切りとキノコの炒め物、鶏肉と花芽のクリーム煮、デザートの果物のゼリー寄せは取り分けやすいように角切りにされている。パンも数種類がバスケットに盛られ、好きなものを取って食べるようだ。と、クルテがピエッチェを見上げた。今日は随分と早い。
「肉は欲しくない。入れないってできる? それと……」
恨めしそうにスープを見た。豆とベーコンのスープだ。あぁ、とピエッチェが頷いてクルテのスープを自分の前に置き直した。
「おや、お嬢さんはスープが嫌い?」
ラクティメシッスが不思議そうに訊くとマデルが咳払いした。
「なにも嫌いだったらどうのと言うつもりはありませんよ……何を話題にしたら許して貰えるんですか?」
困り顔のラクティメシッスにピエッチェが微笑んで答えた。
「コイツ、マメが苦手なんだよ。豆全般。あれはイヤこれはイヤって言うから手を焼いてて――あぁ、果物があればおとなしいから、その点はいいかな」
クリーム煮から花芽を選んで椀に装いながらピエッチェが答える。
「豆は種なんだってさ。種は食べないよねって言う。粉にしたものや、潰してあれば食べるけど……でも、グリーンピースは味がダメなんだったっけ?」
ピエッチェが訊いているのに、クルテはピエッチェが持つレードルの中に何が入るかにしか興味がないようだ。
「花芽、もう一つ入れて……あ、鶏肉も入っちゃったよ? ねぇ、パンは食べなくてもいい? その代りゼリーはいっぱい食べるから。全部で十八個あった。一人三個、わたしは五個食べるからピエッチェは一個」
山盛りのゼリーを、どうやって数えたんだろう? で、俺の分を横取り? まぁ、いいけどね。
ラクティメシッスが
「わたしも花芽が好きですよ」
とクルテに微笑む。ところがクルテは、
「キノコは少しでいい。よく炒めてあるところにして」
ピエッチェを見上げたまま、反応を示さない。
「全体が同じになるよう炒めてあるよ」
笑うピエッチェに、
「そう……料理人って凄いね」
クルテが真面目に答える。
懲りないラクティメシッス、
「むしろ一部分だけ火を通さないようにするのは難しそうですね」
やはりクルテは無視、見かねたマデルが
「フライパンを傾けるとかで出来ないわけじゃないけど、慣れてないと巧く行かないかもね」
代わりに答え、ついでにラクティメシッスの耳元で何か言った。食べ終わるまでクルテに話しかけても無駄とでも言ったのだろう。チラリとクルテを見て『それじゃあ、食べ終わるまで待ちますか』ラクティメシッスの呟きが聞こえた。
ピエッチェとクルテのことに拘りさえしなければ、ラクティメシッスは人当たりが柔らかく話し上手でもあった。口数の少ないピエッチェとは対照的だ。話し好きでもあるのだろう。次から次へと話題を提供してはマデルだけでなく、カッチーやオッチンネルテに話を振る。もちろんピエッチェにも話しかけてくる。
最初は緊張で強張っていたオッチンネルテもさすがに言葉遣いは崩さないものの、笑い声をあげるようになっていった。嫌っていたはずのカッチーでさえ、大口を開けて笑っている。
ピエッチェはクルテに気を取られているふりをしてなるべくラクティメシッスに関わらないようにしていたが無視することもできず、それなりの受け答えをしないわけにはいかなかった。せっかくの和やかな雰囲気を壊すこともない。それでも乗りの悪さは隠せず、話の中心はラクティメシッス、それをマデル・カッチー・オッチンネルテが取り巻く形になっていった。
ピエッチェとクルテを置き去りに、話しはどんどん進んでいく。そのうちフレヴァンスの話になった。
「妹を甘やかしすぎたのはマデルもでしょう?」
ラクティメシッスが苦笑する。マデルが『フレヴァンスのあの性格は周囲が甘やかしてチヤホヤし過ぎたからだ』と言った事への反論だ。キョトンとするオッチンネルテにカッチーが『マデルはフレヴァンスさまのお守役なんだよ』と説明している。
「あら、わたしは甘やかしてなんかないわ。しっかりレディーの嗜みを教えたもの」
「そりゃあ、マナーやらはどこに出しても恥ずかしくないとは思います。マデルのお陰だね。でもね、他人の目があるところだけなんですよねぇ。それに黙ってれば兄のわたしが見ても貴婦人だけど、あの性格は貴婦人とは言い難いなぁ」
まぁ、貴婦人はレモン水をラッパ飲みしないだろうね。
「チューベンデリに捨てられなきゃいいけど」
「それがね、兄ったらフレヴァンスさまに振り回されるのが嬉しいみたいなのよ」
「うん? どういうこと?」
「ほら、うちの兄、小さいころから型に嵌められてたようなものでしょ。将来は王室魔法使いの総裁を継げって育てられたから。フレヴァンスさまの型破りなところに憧れるって言うか、大好きみたいなのよね」
「割れ鍋に綴じ蓋って感じですね」
ラクティメシッスは愉快そうだ。
聞いていたピエッチェはチューベンデリの気持ちがなんとなく判るような気がすると思った。自分も王位を継ぐものとして育てられた。やはり型に嵌った人間なのだと思う。チューベンデリがフレヴァンスに惹かれるのも、自分がクルテに惹かれるのも同じなんだろうと感じた。もっとも俺は間違ってもフレヴァンスには惚れないなとも思った。
「カッチーは一人っ子だったよね?」
マデルがカッチーに話を振る。口いっぱいにパンを入れていたカッチーが慌てて飲み下し、
「そうですよ。えっと……兄弟がいるのって、羨ましいです」
考えながら答えた。きっと『フレヴァンスみたいのでも』と言うのを躊躇ったのだろう。
「オッチンネルテさんは?」
微笑むマデルに顔を赤くしてオッチンネルテが答える。
「はい、弟が一人……わたしなんかよりずっとできた弟だったんですが身体を壊してしまって、今は料理人をしています」
「そうなのね。弟さんが心配?」
「いえ、心配はしていません。曲がりなりにも職を持ち、楽ではないだろうけどちゃんと生活できてますから」
「でも、早く会いたいでしょ?」
「そりゃあもう」
オッチンネルテが照れて笑う。
「ピエッチェもお姉さんに早く会いたいでしょ?」
「え……まぁ、そりゃあね」
何気なく訊くマデル、ピエッチェも何気なく答えたが目の端に見えていたラクティメシッスの目が一瞬、鋭くなったのを見逃してはいない。
「俺もピエッチェさんのお姉さんに会ってみたいなぁ。美人なんですよね?」
「そんなの判らないって。そう言ってくれる人もいるってだけだ」
自分の姉を美人だとは言えない。
「ザジリレンに戻るんなら、お姉さんの旦那さんとも対決するってことですか?」
「え、あぁ、まぁ、チャンスがあれば、かな?」
今度はオッチンネルテまで緊張してピエッチェを見た。
「チャンスは作らなきゃ――ラクティメシッスさまに事情を話して助力して貰ったらどうですか?」
「いや。さすがにそれは図々しいだろうが」
戸惑うピエッチェ、この場をどう誤魔化すか考えを巡らせる。なのにマデルが、
「そうよ、ラクティ、ピエッチェの話を聞いてあげて。お姉さんの旦那さんに家を乗っ取られちゃったんですって」
と話を膨らませる。でもこれは好都合か?
「あぁ、大まかな話は聞いていますよ」
食事を終えてお茶を飲んでいたラクティメシッスが、マデルにゆったりと微笑む。
「ザジリレンでの状況を確認してから、どうするか考えようと思っています」
「ラクティメシッスさまの後ろ盾があるなら安心ですね。きっと巧く行きますよ」
喜ぶカッチーとは真逆の反応はオッチンネルテだ。蒼白になってピエッチェとラクティメシッスを見比べている。
ピエッチェがオッチンネルテをチラリと見てからカッチーに言った。
「権力を利用して一方的な言い分を通すのは好きじゃない。どこかに誤解がないか、良く調べてからだな」
ラクティメシッスがソッポを向いて少しだけ微笑む。優しい笑みだった――
食事が終わってからの約束だった路銀の件は、待っていたらいつになるか判らないからとクルテが食べ終わる前に始めた。
「今回のザジリレン行きはわたしの提案です。あくまでピエッチェには協力して貰っているわけで……全面的にこちらで用意したいと考えています」
ラクティメシッスの提案にピエッチェが考え込む。
確かにラクティメシッスの言い分にも一理ある。でも飲めない。ピエッチェには協力者の立場でいる気はなかった。共同で事に当たりたい。ここで話しをしたのは失敗だった……相手はローシェッタの王太子、共同、つまり対等な立場に立ちたいと、ピエッチェがザジリレン王だとは知らないマデルたちの前では言えない。
「ね、それってわたしたちを雇いたいって言ってる?」
いきなりクルテが口を挟んだ。
「ピエッチェもわたしも、あんたの下僕になるなんてまっぴらごめん」
おまえ、そんな言いかたはないだろう!?
言わんこっちゃない。ラクティメシッスが見る見る蒼褪めていく――
昼間は汗ばむほど暑かったが陽が沈むと気温も下がり、優しい風も吹いた。風は庭の篝火を揺らし、篝火の震えはテーブルを優雅に演出した。
「ワインの追加を」
ラクティメシッスがテーブルを整えていた給仕係に頼み、少し遅れてワインが運ばれてくる。グラスは六脚、だが使われたのは四脚だ。カッチーとクルテのグラスはピエッチェが臥せてしまった。
「お嬢さんはお酒は?」
「ジュースと間違えて飲んじゃってフラフラになったことがあるの」
ラクティメシッスにマデルが答えた。クルテはいつも通り料理のチェックで忙しい。
「カッチーはそろそろ酒に慣れてもいい頃合いでは?」
するとカッチーがピエッチェの顔色を窺う。飲みたそうな顔をしている。
「うん? 飲みたいって言われなかったから臥せたけど、飲みたかったか?」
ピエッチェが慌ててカッチーのグラスを立てた。
飲酒に関して定める法は取り立ててなかった。親が決めているのがほとんどだ。酔いどれの親を持てば子どもだろうが酒豪もいる。けれどアルコールの中毒性は知れ渡っているから、良識のある大人は子どもに飲ませたがらない。
「飲み方も覚えておかなければ、苦労するのはカッチーですよ」
ラクティメシッスが微笑んでカッチーのグラスにワインを注いだ。
スープ以外は大皿で供されていた。サラダも大きなボールに盛られ、取り分けるようトングが添えられている。
「前に泊まった時と随分違うのね」
マデルがワインを舐めながら言った。ララティスチャングに向かう際、利用したのと同じ宿だ。
「テラス用に気を利かせてくれたんだと思うよ」
取り分けたサラダをクルテの前に置きながらピエッチェが言った。トマトとキュウリが幾分多めだ。
料理は他に牛肉の薄切りとキノコの炒め物、鶏肉と花芽のクリーム煮、デザートの果物のゼリー寄せは取り分けやすいように角切りにされている。パンも数種類がバスケットに盛られ、好きなものを取って食べるようだ。と、クルテがピエッチェを見上げた。今日は随分と早い。
「肉は欲しくない。入れないってできる? それと……」
恨めしそうにスープを見た。豆とベーコンのスープだ。あぁ、とピエッチェが頷いてクルテのスープを自分の前に置き直した。
「おや、お嬢さんはスープが嫌い?」
ラクティメシッスが不思議そうに訊くとマデルが咳払いした。
「なにも嫌いだったらどうのと言うつもりはありませんよ……何を話題にしたら許して貰えるんですか?」
困り顔のラクティメシッスにピエッチェが微笑んで答えた。
「コイツ、マメが苦手なんだよ。豆全般。あれはイヤこれはイヤって言うから手を焼いてて――あぁ、果物があればおとなしいから、その点はいいかな」
クリーム煮から花芽を選んで椀に装いながらピエッチェが答える。
「豆は種なんだってさ。種は食べないよねって言う。粉にしたものや、潰してあれば食べるけど……でも、グリーンピースは味がダメなんだったっけ?」
ピエッチェが訊いているのに、クルテはピエッチェが持つレードルの中に何が入るかにしか興味がないようだ。
「花芽、もう一つ入れて……あ、鶏肉も入っちゃったよ? ねぇ、パンは食べなくてもいい? その代りゼリーはいっぱい食べるから。全部で十八個あった。一人三個、わたしは五個食べるからピエッチェは一個」
山盛りのゼリーを、どうやって数えたんだろう? で、俺の分を横取り? まぁ、いいけどね。
ラクティメシッスが
「わたしも花芽が好きですよ」
とクルテに微笑む。ところがクルテは、
「キノコは少しでいい。よく炒めてあるところにして」
ピエッチェを見上げたまま、反応を示さない。
「全体が同じになるよう炒めてあるよ」
笑うピエッチェに、
「そう……料理人って凄いね」
クルテが真面目に答える。
懲りないラクティメシッス、
「むしろ一部分だけ火を通さないようにするのは難しそうですね」
やはりクルテは無視、見かねたマデルが
「フライパンを傾けるとかで出来ないわけじゃないけど、慣れてないと巧く行かないかもね」
代わりに答え、ついでにラクティメシッスの耳元で何か言った。食べ終わるまでクルテに話しかけても無駄とでも言ったのだろう。チラリとクルテを見て『それじゃあ、食べ終わるまで待ちますか』ラクティメシッスの呟きが聞こえた。
ピエッチェとクルテのことに拘りさえしなければ、ラクティメシッスは人当たりが柔らかく話し上手でもあった。口数の少ないピエッチェとは対照的だ。話し好きでもあるのだろう。次から次へと話題を提供してはマデルだけでなく、カッチーやオッチンネルテに話を振る。もちろんピエッチェにも話しかけてくる。
最初は緊張で強張っていたオッチンネルテもさすがに言葉遣いは崩さないものの、笑い声をあげるようになっていった。嫌っていたはずのカッチーでさえ、大口を開けて笑っている。
ピエッチェはクルテに気を取られているふりをしてなるべくラクティメシッスに関わらないようにしていたが無視することもできず、それなりの受け答えをしないわけにはいかなかった。せっかくの和やかな雰囲気を壊すこともない。それでも乗りの悪さは隠せず、話の中心はラクティメシッス、それをマデル・カッチー・オッチンネルテが取り巻く形になっていった。
ピエッチェとクルテを置き去りに、話しはどんどん進んでいく。そのうちフレヴァンスの話になった。
「妹を甘やかしすぎたのはマデルもでしょう?」
ラクティメシッスが苦笑する。マデルが『フレヴァンスのあの性格は周囲が甘やかしてチヤホヤし過ぎたからだ』と言った事への反論だ。キョトンとするオッチンネルテにカッチーが『マデルはフレヴァンスさまのお守役なんだよ』と説明している。
「あら、わたしは甘やかしてなんかないわ。しっかりレディーの嗜みを教えたもの」
「そりゃあ、マナーやらはどこに出しても恥ずかしくないとは思います。マデルのお陰だね。でもね、他人の目があるところだけなんですよねぇ。それに黙ってれば兄のわたしが見ても貴婦人だけど、あの性格は貴婦人とは言い難いなぁ」
まぁ、貴婦人はレモン水をラッパ飲みしないだろうね。
「チューベンデリに捨てられなきゃいいけど」
「それがね、兄ったらフレヴァンスさまに振り回されるのが嬉しいみたいなのよ」
「うん? どういうこと?」
「ほら、うちの兄、小さいころから型に嵌められてたようなものでしょ。将来は王室魔法使いの総裁を継げって育てられたから。フレヴァンスさまの型破りなところに憧れるって言うか、大好きみたいなのよね」
「割れ鍋に綴じ蓋って感じですね」
ラクティメシッスは愉快そうだ。
聞いていたピエッチェはチューベンデリの気持ちがなんとなく判るような気がすると思った。自分も王位を継ぐものとして育てられた。やはり型に嵌った人間なのだと思う。チューベンデリがフレヴァンスに惹かれるのも、自分がクルテに惹かれるのも同じなんだろうと感じた。もっとも俺は間違ってもフレヴァンスには惚れないなとも思った。
「カッチーは一人っ子だったよね?」
マデルがカッチーに話を振る。口いっぱいにパンを入れていたカッチーが慌てて飲み下し、
「そうですよ。えっと……兄弟がいるのって、羨ましいです」
考えながら答えた。きっと『フレヴァンスみたいのでも』と言うのを躊躇ったのだろう。
「オッチンネルテさんは?」
微笑むマデルに顔を赤くしてオッチンネルテが答える。
「はい、弟が一人……わたしなんかよりずっとできた弟だったんですが身体を壊してしまって、今は料理人をしています」
「そうなのね。弟さんが心配?」
「いえ、心配はしていません。曲がりなりにも職を持ち、楽ではないだろうけどちゃんと生活できてますから」
「でも、早く会いたいでしょ?」
「そりゃあもう」
オッチンネルテが照れて笑う。
「ピエッチェもお姉さんに早く会いたいでしょ?」
「え……まぁ、そりゃあね」
何気なく訊くマデル、ピエッチェも何気なく答えたが目の端に見えていたラクティメシッスの目が一瞬、鋭くなったのを見逃してはいない。
「俺もピエッチェさんのお姉さんに会ってみたいなぁ。美人なんですよね?」
「そんなの判らないって。そう言ってくれる人もいるってだけだ」
自分の姉を美人だとは言えない。
「ザジリレンに戻るんなら、お姉さんの旦那さんとも対決するってことですか?」
「え、あぁ、まぁ、チャンスがあれば、かな?」
今度はオッチンネルテまで緊張してピエッチェを見た。
「チャンスは作らなきゃ――ラクティメシッスさまに事情を話して助力して貰ったらどうですか?」
「いや。さすがにそれは図々しいだろうが」
戸惑うピエッチェ、この場をどう誤魔化すか考えを巡らせる。なのにマデルが、
「そうよ、ラクティ、ピエッチェの話を聞いてあげて。お姉さんの旦那さんに家を乗っ取られちゃったんですって」
と話を膨らませる。でもこれは好都合か?
「あぁ、大まかな話は聞いていますよ」
食事を終えてお茶を飲んでいたラクティメシッスが、マデルにゆったりと微笑む。
「ザジリレンでの状況を確認してから、どうするか考えようと思っています」
「ラクティメシッスさまの後ろ盾があるなら安心ですね。きっと巧く行きますよ」
喜ぶカッチーとは真逆の反応はオッチンネルテだ。蒼白になってピエッチェとラクティメシッスを見比べている。
ピエッチェがオッチンネルテをチラリと見てからカッチーに言った。
「権力を利用して一方的な言い分を通すのは好きじゃない。どこかに誤解がないか、良く調べてからだな」
ラクティメシッスがソッポを向いて少しだけ微笑む。優しい笑みだった――
食事が終わってからの約束だった路銀の件は、待っていたらいつになるか判らないからとクルテが食べ終わる前に始めた。
「今回のザジリレン行きはわたしの提案です。あくまでピエッチェには協力して貰っているわけで……全面的にこちらで用意したいと考えています」
ラクティメシッスの提案にピエッチェが考え込む。
確かにラクティメシッスの言い分にも一理ある。でも飲めない。ピエッチェには協力者の立場でいる気はなかった。共同で事に当たりたい。ここで話しをしたのは失敗だった……相手はローシェッタの王太子、共同、つまり対等な立場に立ちたいと、ピエッチェがザジリレン王だとは知らないマデルたちの前では言えない。
「ね、それってわたしたちを雇いたいって言ってる?」
いきなりクルテが口を挟んだ。
「ピエッチェもわたしも、あんたの下僕になるなんてまっぴらごめん」
おまえ、そんな言いかたはないだろう!?
言わんこっちゃない。ラクティメシッスが見る見る蒼褪めていく――
10
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる