秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す= 

寄賀あける

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13章 永遠の刹那

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 はっと我に返ったラクティメシッス、マデルがゆるゆると穴の中で浮き上がる。しっかり地上に出た頃には、ラクティメシッスもピエッチェたちのところに来ていた。マデルがラクティメシッスに縋りつく。そして涙目で訴える。

「もう! なんですぐに魔法を使ってくれなかったの?」
「ごめん……おまえが落ちるんじゃないかと思ったら焦ってしまって、どうしていいか判らなかった」
いつもの、気取ったラクティメシッスは消えていた。

 その傍らでガタガタ震えながらオッチンネルテがつくばっている。頭を地に付け、泣きながら謝っている。
「とんでもないことを……とんでもないことを……」

 カッチーがその肩に手を置いて慰めている。マデルが、無事だったんだから気にしなくていいと言っている。ラクティメシッスは何も言わずマデルの横に立って見下ろしている。ピエッチェとクルテは……

(アイツ、わざとマデルを落とした)
(おまえ、見たのか?)
(見てるだけじゃわざとかなんて判らない。心を読んだ)
(ふむ……目的は?)
(思い浮かべてなかった)
(それなら、ここは気付いてないふりで。泳がせて目的を探る。尻尾を出すまで放っておけ)
脳内会話を続けていた。

「マデル、落ち着いたか?」
ピエッチェがマデルに声を掛ける。
「オッチンネルテももう頭を上げろ。いいよな、ラスティン?――とにかく先を急ごう。うかうかしてると陽が暮れる」

「そうね、そうしよう――地下道を通っていくのよね?」
マデルがラクティメシッスに『いいわよね?』と念を押す。マデルの顔をマジマジと見てから溜息を吐いたラクティメシッス、
「あなたこそ大丈夫なんですか? 今、落ちそうになったばかりなのに」
いつも通りに戻ってマデルに訊ねた。

「大丈夫よ、あそこから飛び降りるわけじゃなし。ちゃんと階段を使えば心配ない。ピエッチェたちが下まで確認したって言ったじゃないの」
「ふぅん……わたしはてっきりマデルの気の短さが出て、あそこから飛び降りる練習でもしてたのかと思いました」
いつも通りの態度だが、ラクティメシッスの機嫌は直っていないらしい。マデルにさえ嫌味を言った。入り口に向かうラクティメシッス、背を向けられたマデルが『ベーッ』とこっそり舌を出し、クルテが『今日はお子さま仕様の日』と呟いた。

「どうだ、キャビンを魔法で運べそうか?」
ピエッチェの問い掛けに、
「まぁ、大丈夫でしょう。見たところ充分な広さがあるし――途中で狭まったりとかは?」
ラクティメシッスが地下道の中を見渡しながら答えている。地下道の中はラクティメシッスが魔法で照らして明るかった。

「リュネは階段を自分で降りられるんじゃないかな?」
ピエッチェを見上げてクルテが言った。
「段差や曲がり角があるんだから、キャビンだけのほうがコントロールしやすいんじゃない?」

「そりゃそうですけど」
答えるのはピエッチェではなくラクティメシッスだ。
「あのおんまさん、階段で転びませんか?」

「きっと大丈夫」
クルテがニンマリ笑う。
「もし転びそうになっても、翼が生えて回避するんじゃない?」

 冷汗を掻くのはピエッチェ、いくらラクティメシッスがリュネを黙認しているからって、それって挑発だぞ? ヤツの気が変わったらどうするんだ?

 だがラクティメシッスもニヤッとしただけだった。
「マデルから、お嬢さんは冗談の練習をしてるって聞いたけど」
隣でマデルが慌てるが、気にせず続けるラクティメシッスだ。
「上達したんじゃないですか? でも、まだ笑えないかな」

「そう? あとどれくらいで笑えるようになる?」
「それはお嬢さんの鍛錬次第でしょうね」
「判った、頑張る!」

 事情を知らないカッチーは、『翼が生える』では蒼褪めたが、『頑張る』ではクスッとした。クルテの表情は真剣、本気で頑張りそうだった。ラクティメシッスも微笑んで、ピエッチェがホッとする。

(心配ないよ。階段がリュネを転ばせるはずがないから)
(ふぅん、それは階段の意思?)
(わたしたちの邪魔をするな、怪我はさせるなって女神が階段に命じたから。詳しく言えば石に付着した微生物に)
なるほどね。森の生き物は女神に忠実、それは微生物にまで及ぶってことか。

 万が一の転落を考えて、先頭を行くのはリュネにした。リュネが落ちてくれば、下に居る者は巻き添えを避けられない。明るい地下道を尻尾ふりふりリュネが行く。その後ろはクルテとピエッチェが続き、さらにカッチーとオッチンネルテ、最後尾にラクティメシッスとマデルだ。階段の幅は、二人並んで降りて行ってもかなり余裕がある。そして頭上をユラユラと進んでいくのはキャビン、カッチーが時どき、落ちてこないか不安げに見上げていた。ラクティメシッスが、
「そんなに心配ですか?」
と微笑めば、
「へへへ」
と気まずげに笑って誤魔化した――

 どうにか何事もなく、無事に最下部に辿り着いた。
「キャビンはどこで降ろしましょう?」
ラクティメシッスの問いに、
「ちょっと待ってて」
クルテが答える。と、止める間もなくひらりとリュネに跨った。
「おい!」
ピエッチェの制止も届かない。

 駆け出したリュネ、出口でいったん止まるが外に出てしまった。
「戻ってきますかね? あぁ、戻ってきましたね」
クルテが俺を置いていくはずがない。ラクティメシッスに言ってやりたかったが、結局ピエッチェは何も言わない。言う前にクルテが地下道に入ってきたのもある。

「ここで降ろしてリュネに繋いでもいい。だけど、地下道を出たらまた外さなきゃその先は行けない。どうする?」
リュネから降りたクルテがピエッチェを見上げる。

「地下道の外はどうなってるんだ?」
「山肌に開いた洞窟みたいになってる。で、上方から草が垂れ下がって隠してる。外に出るにはその草を潜る」
「で、道までどれくらいで、どうなってる?」
「道との間は木立とブッシュ。ブッシュはリュネが越えられる高さ――地下道の向こうにキャビンを置くスペースはあるにはあるけど、道を通る人から見える。だから、キャビンは見てる人がいないのを見計らって、地下道からダイレクトに道へ出すのがいいと思う」

「馬はどうしますか?」
訊いたのはラクティメシッス、
「わたしたちと一緒でいいと思うよ」
クルテがニッコリ答える。
「それじゃあ、こうしましょう」
ラクティメシッスがプランの説明を始めた――

 ブッシュからキョロキョロと道の此方こちら彼方あちらを見渡しているのはカッチーだ。
「大丈夫、誰もいません」
そう言うと、ブッシュを掻き分け道に出た。

 続くのはマデル、クルテ、オッチンネルテ、さらに黒髪の若者が続く。もちろんウイッグを装着したピエッチェだ。

「よく似合ってるわ。よっ、色男!」
地下道を出る前にマデルに揶揄からかわれ、未だに機嫌を直さない。機嫌が悪いというよりも、し慣れないことをして居心地が悪いのだ。ラクティメシッスはいない。カッチーが道を覗き込む前に、すぐそこの木に登っていた。見上げれば、こずえで煌めいているのはラクティメシッスの金色の髪だ。

「近くに人の気配なし。暫く誰も来ないわ」
マデルがカッチーに頷くと、梢を見上げたカッチーが
「あれ? ラスティン、こっち見てませんよ?」
と呟いた。
「ホントだ。何やってんだか?」
マデルも見上げて呆れかえる。

「声を掛けてみますか?」
「やめろ、カッチー。大声出すな」
「でもピエッチェさん、こっちを見てくれなきゃあ、合図を出せませんよ?」
するとクルテがクスッと笑った。
「ラスティンはあの位置まで行って気が付いたんだよ。合図なんかして貰わなくっても見渡せるし、自分で検知術を使えば早いってね」
マデルが『なんでアイツ、呆れるくらい間抜けになる時があるんだろう?』つくづくイヤそうに呟いた。

 いくらラクティメシッスでも、対象が見えていないと移動術が使えないらしい。地下道の出口から御者ぎょしゃ台だけをはみ出させてあったキャビンの全体がスルスルと出てくると、ふわっと浮き上がる。さらに木立の上を通過させるには高さが判らないと無理だ。下から見ただけでは、見えない部分に引っ掛かるかもしれない。だからラクティメシッスは木に登る必要があった。今頃下を覗き込み、キャビンが枝に掛からないよう気を付けているのだろう。

 スイッと木立の上にキャビンが見えた。それからゆるゆると降りてくる。キャビンって下から見るとこうなってるんですね、カッチーが感心したように言った――

「木登りなんて何年ぶり? いや、十年はしていません」
乱れた髪を気にしながらラクティメシッスが言った。
「でもまぁ……とうとうザジリレンですね」
ピエッチェに、同意を求めるように言った。

「あぁ、ここまで来られたのもラスティンのお陰だ」
「わたしだけじゃありません。ピエッチェやクルテ、それにマデルにカッチー……オッチンネルテの協力もありがたいものです」
そしてニヤッと笑う。
「黒い髪も似合いますね」
途端に顔を強張らせるピエッチェだ。

「それにしてもまるで別人ですね」
ようやく事故のショックから立ち直ったのか、オッチンネルテも微笑んでピエッチェを見る。

「見た目は別人でも、ピエッチェはピエッチェ」
クルテが腕に絡みつき、オッチンネルテを睨みつけた。
「わたしから取ろうと思わないで」

「えっ? そんなこと、思っていませんって」
「うん、お嬢さん、今の冗談はさっきよりかなりいい。笑えます」
にこりともせずラクティメシッスが混ぜ返し、
「トロンバ村は……あっちですね。宿はあるんでしたっけ?」
話を変える。

 馬車の準備をしていたカッチーが
「いつでも出立できますよ」
と言って、荷物台からタラップを降ろしてセットした――

 クルテが言っていた通り、トロンバ村はなかなか賑やかだった。じきに日没だが店仕舞いを始める様子もない。
「宿? この先の角を右に曲がるとあるよ。その先にももう一軒」
花屋で訊くとそう教えてくれた。約束通りクルテの花籠だ。ソノンセカの村長に貰った花はいつの間にかなくなっていた。

「その宿って、馬車を預かってくれるかな?」
「自分の馬車で来てるんだ?」
花屋が店先に停められた馬車を見る。それから作りかけの花籠に視線を戻し、花籠作りを再開した。

 花を籠に挿しながら花屋がクルテに答える。
「だったら、少し戻って、えっとこっちからだと左だな。左に曲がると宿屋がある。金持ちはみんなそこに泊まってる。馬車も預かってくれるさ。トロンバの宿はこの三軒だけだね」

「夕食を食べるにはどこがお勧め?」
「そうだなぁ……金持ちの口にあう料理が出せる店なんて、その宿屋くらいだろう」
どこか花屋の言葉には棘がある。貴族や金持ちが嫌いなのかもしれない。花を挿す手がどことなく乱暴になった気がした。
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