秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す= 

寄賀あける

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15章 大地の模様

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 木立の中をクルテを先頭に進んだ。
「歩きやすいところを選ぶのが上手ですね」
ラクティメシッスが感心する。クルテが木々に命じるかお願いして足場をならしているとは気づいていない。

 森の中なら大抵のことはクルテの思い通りになる。森の女神の娘でもあるクルテ、やはり森から離れないほうが幸せか?――そう感じたがすぐに打ち消した。クルテは俺と一緒に居たいとはっきり言った。俺はあいつの思いを叶えると決めた。それが全てだ。

 離れて先を行くクルテが止まるよう合図を寄こした。前方が開けているのが判る。バースン村に続く道のきわまで来たようだ。周囲を見渡して、誰も来ていないことを確認している。今度は来いと合図した。

「なるほど、この道を上っていくのですね」
道に出るとラクティメシッスが苦笑した。幅は人がすれ違える程度、しかも向こう側は木立が続いているがかなりの急斜面、踏み外せば下まで落ちて自力では上れそうにない。道自体も急坂、ゲリャンガに入るのにリュネが飛んで乗り越えた坂といい勝負だ。

「この辺り、雪は?」
「降るさ。積もればバースン村は孤立する。冬の三か月は行商人も行かない」
「でも自給自足できてるから問題ない?」
「そういうことだな」

 マデルとクリンナーテンは道に出ると、坂の上を眺めて溜息を吐いた。
「結構あるわね」
「上るのも大変そうだけど、この砂利じゃり道、靴がダメになるわよ」

 それを聞いてピエッチェがカッチーを見た。
「リュネに背負わせてる荷物、俺とおまえでかつげるほどか?」
訊いてから思う。魔法で軽くして貰えばいいだけだ。

「あぁ、はい、判りました」
察したカッチーがリュネの荷を下ろす。代わりにマデルとクリンナーテンをリュネに乗せる気だ。

 カッチーが荷物を降ろし終えると、マデルとクリンナーテン、リュネから降ろした荷物がふわっと宙に浮いた。小さな悲鳴を上げた二人の女はすぐリュネの背に降ろされる。ラクティメシッスの魔法だ。
「荷物も村の手前まで、わたしが運びますよ」

「ラスティンの仕業!? ちゃんと断ってからにしてよ!」
マデルの苦情にラクティメシッスは愉快そうだ。クリンナーテンは
「魔法使いのお友達は便利だけど油断できないわね」
マデルにしがみついている。マデルはラクティメシッスの代わりに『ごめんね』と言いながらクリンナーテンの背を撫でている。国は違っても二人はそれぞれの王女の友人、随分と打ち解けたようだ。

 リュネがブヒヒと鼻を鳴らし歩き始めた。荷物はふらふらと宙に浮いたまま、坂を上って行った――


 この三日、晴天が続いてよかったとバースン村に着いて思った。毛布を持ってきたのも正解だ。隣村から足掛け三日の距離、野宿しなくては来れないのをうっかり忘れていた。いくら夏でも手ぶらでは怪しいことこの上ない。
「次回はテントを忘れちゃあならんよ」
村長シームカンがムスッと言った。

 村に着くなり村人に『見ない顔だ』と不審がられ、村長の家に連れて行かれたピエッチェたちだ。

 バースン村に来た目的を訊かれて、トロンバ村の宿の受付にした話を繰り返した。ただ少しアレンジして、
「ザジリレンの全ての街や村、集落を巡りたいと思ってね」
と答えた。

 ザジリレンの風土については熟知していると自負している。足を運んだことはないものの、絵図でおおよその風景も見ている。村長にどこを訊かれても答えられる。地図を思い浮かべ、街道沿いに連続する街の周辺を答え、そこから外れている場所はこれから行く予定だと答えた。少しくらい実際と違っていたとしても、どうせ村長だって行ったことなどないだろう。判りはしない。もし村長が詳しく知っていて、間違いを指摘してきたら記憶違いかもしれないと言えばいい。

「なるほど、いろいろ回って来られたんですな」
一通り聞いて、突っ込むところを見つけられなかった村長が話題を変えた。
「で、弟さん、婚約者とその友人、ローシェッタからいらしたご友人とその婚約者、全部で六人でご旅行ですか――随分あちこち行かれてますよね。時間もかかったことでしょう。お仕事はどうされたんですか?」
想定済みの質問だ。返答は用意してある。

「十五で騎士に採用されたんだが怪我で解雇された。無駄遣いせずに貯めていた給料がかなりの額になっていた。親から受けついた財産もある――次の仕事に就く前に見聞を広げておこうと思っての旅行だよ」
「ほう、お怪我を? どんな?」
「訓練中に流れ矢を肩に受けてしまった。思いのほか深く刺さってしまってね、左肩は途中までしか上がらない」

「矢傷ですか。それならまだ跡が残っているのでは?」
「あぁ、一生消えないだろうね――見るかい?」
「えぇ、見せていただきましょう」

 見るかと訊けば、それには及ばないと言われると思っていた。まぁ、見たいなら見せてやる。シャツを脱いで上半身裸になると村長に背を向けた。傷跡は左肩、やや背中寄りだ。

「それは……」
傷跡を見た村長が息を飲む。ピエッチェが脱いだシャツを持っていたクルテが、シャツを広げてピエッチェが袖を通すのを手伝いながら言った。
「手当てするのが遅くなって化膿させてしまったんです。酷いものでしょう?」

「あぁ、なるほど……」
「この人ったら高熱で、十日もうなされてたんですよ」
「でしょうなぁ」

 ボタンを留めながらピエッチェが思う。肩の傷跡はそんなに酷いのか? 自分じゃ見ることができない位置だ。わざわざ鏡を使って見てみようと思ったこともない。

「それで、旅行を終えたらどんなお仕事をなさるつもりで?」
服を着終え、座り直したピエッチェに村長が質問を続けた。そうですねぇ、とピエッチェが少し考えるをする。

「実は怪我が治っても、ふさぎ込んで一日中ボーっとしてたんだ。小さなころから騎士になることしか考えてなかった。だから人生が終わったような気分になっちまったんだ。腑抜けですよ。そんな俺をこいつが……」
ピエッチェがクルテを見る。ピエッチェを見上げて微笑むクルテ、ピエッチェの顔も自然とほころんだ。

「せっかく時間ができたんだから旅行に行きたいって言い出して。最初は気乗りしなかったんだけどね」
ピエッチェが村長に向き直る。
「コイツに引っ張られて、あっちに行ったりこっちに行ったりで……そうなると、どうしたって他人と関わらなくちゃならなくなる。宿や飲食店、道を聞いたりいろいろとね」

「気持ちが晴れましたか?」
「それもあるけど、うーん、気付かされたって言うか……誰もが自分の与えられた環境で懸命に生きている。家族のため、自分のため。それに世の中には様々な職業があって、それは必ず他人の役に立っている。だったら俺も、コイツと自分のために、何かの役に立つ仕事ができるはずだ。そう思えるようになっていったんだ」

 村長が穏やかに微笑んだ。
「騎士への未練は消えた?」

「まぁ、そんなところだね――でも、何をするか、具体的にはまだ決めてない。商人になるには商いや扱う品物の知識が必要だし、肩が上がらないんじゃくわを振るえないから畑仕事もできない。きっとまだ、俺の知らない仕事が世の中にはあるんじゃないか? そう思うと旅をやめたくなくなった。それに、それを見つけるのもこの旅行の目的の一つになったな」
「見つからないかもしれませんよ?」
「その時は、コイツと相談しながら自分で考えるさ」

 ふむ……村長が考え込む。ピエッチェの話を信用していいものか迷っているのだろう。村長に疑われているのは判っていた。盗賊ではないかと危ぶんでいるのだ。

 ピエッチェたちを見た村長が、何か村人に指示を出したのには気付いていた。指示された村人は数人を集めて村の出口に向かった。ピエッチェたちの仲間が村の近くの山中に潜んでいないか調べに行ったのだと思った。

 三日かけて隣村から来たにしては軽装、野宿するのに持っているのは毛布だけ――怪しまれても仕方ない。仲間がいて、荷物はそこにある。ピエッチェたちは村の様子を見にきただけで、いずれ仲間が大勢で村を襲う。村長と村人たちはそう考えた。

 心配なのはキャビンだ。ラクティメシッスの魔法で見つけることはできないが、近寄ることもできない。魔法だと見破る者が村に居れば、ピエッチェたちのものだと思うだろう。そうなると言い訳ができない。あるのはキャビンだけだと説明し魔法を解いたって仲間に同じ魔法を使ったんじゃないかと言われたら、そうじゃないと証明するのは難しい。魔法の知識に精通していなければ、どんな魔法があって、どんなことが魔法でもできないかが判らないからだ。

 捜索に行っていた村人が戻ってきて、村長に何か耳打ちした。報告を聞きながら村長はピエッチェを見詰めている。果たしてキャビンは見つかってしまったのか? 報告に来た村人に、今度は村長が何か耳打ちした。言われたほうは頷いて出て行った。

「さて……」
村長が正面を向く。
「見ず知らずを家に泊めてもいいと言うような奇特な者はこの村にはおりません。今夜は野宿していただきましょう」
まぁ、もっともな話だ。

「食料は、そうですね――二日分は用意しましょう。明日には村から出ていくのでしょう? 隣村まで三日、二日分あれば明後日あさっての朝まで持つ。その夜と次の朝は自分たちでなんとかするのですね」
明々後日しあさっての夜には隣村に着く計算、一日くらい食べなくても死にはしないと言われたらしい。まぁ、山間を行くのだから、なんとかできないものでもない。

「水は皮袋を持っているのでしょう? 渡して貰えれば入れて差し上げます。野宿する場所は村の奥の沼……この村にはいくつも沼があるので、案内します――おい、ちょっと来てくれ」
村長が家の奥に声をかける。出てきたのは女だ。村長の妻だろう。食料を用意するよう言われ、チラッとピエッチェたちを見てからすぐに奥に戻って行った。

「さて、行きますかな」
村長が立ち上がった――

 連れて行かれたのは村の奥の沼、向こう岸には森が迫っていた。小さな沼だが、森に向かって右に小さな掘立小屋が、左にもう少し大きな納屋のような建屋がある。納屋のようなほうは沼の水の湧き口だと村長が言った。

ぬるいが温泉が湧くのでね。風呂として使ってもいい。あっちの掘立小屋は溢れた水の排水口、ま、便所だ」
村長が言うには、初見の行商人はここで野宿する決まりになっているらしい。三度・四度と村を訪れるうち、俺のうちに泊まれと言い出す村人が出る。その後、その行商人は村に来るたび同じ村人の家に世話になるのだそうだ。

うちに泊めてもいいと思ったが村の決まりなんでね」
申し訳なさそうに村長が言った。
「決まりを破れば示しがつかない。済まないな」

 村長の謝罪に、却って恐縮するピエッチェたちだった。
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