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16章 継承される流れ
18
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いや、待て。ヘビが口呼吸? そう思ったが、拘っている場合じゃない。吸ったら今度は吐いてくる。きっと火炎を吐き出してくる。
カッチーを乗せるため、リュネが身体を縮めた。ラクティメシッスもこちらに向かっているが間にあわない。
「カッチー!」
抱き上げる余裕もない。飛び降りると、カッチーに覆いかぶさって臥せた。ごーーっと爆音が轟く。周囲が急激に明るく染まった。
身体が熱くなるのを感じる。でも、炎に炙られる熱さではないような? あ、まただ。身の内からボッと熱くなった。そうだ、森の女神の祝福に似た熱さだ。二度目のほうが最初より強くはっきりしていた。
遠くでラクティメシッスが呼んでいる。マデルの声は悲鳴だ。そうだ、リュネはどうなったんだ? いや、違う、俺はどうなってる? ヘビが吐き出す炎で包まれているんじゃないのか?
恐る恐る首を曲げて、様子を窺った。すぐ近くに渦巻く炎が見える。そしてもっと近くに誰かが立ってる。
「立っても大丈夫」
クルテの声、見上げると、立っているのはクルテだった。クルテが結界を張って、ヘビが吹き出す火炎から、ピエッチェとカッチーを守っていた。
「おまえが飛び降りるのと同時にリュネは、ラスティンを咥えてキャビンに逃げた。火はキャビンにまでは届いていない。リュネもラスティンも無事だ」
「クルテ、おまえ、キャビンの上にいたんじゃないのか?」
するとクルテがニヤリとした。
「わたしはクルテではない。クルテの髪だ」
「えっ?」
「間に合いそうもなかったし、ラスティンの結界じゃ防ぎきれないと思った。だから矢をここに打ち込んで、わたしに化身させた――すぐにヘビは燃料切れになる。次の火を噴くまでは三日かかる」
「ほかの頭は?」
「尻尾に燃料を蓄え共有している」
火炎への心配はなくなったってことか。
「さて、わたしの魔力も限界だ。カッチーが気を失ってくれてよかった」
ハッとしてカッチーを見ると、ピエッチェの下で伸びている。しっかりしろと揺さぶっているうちに周囲が暗くなった。ヘビの火炎が消えたのだ。クルテもいない。
「お嬢さん!」
ラクティメシッスの叫び声、見るとキャビンから落ちるクルテをラクティメシッスが受け止めたところだった。
火を噴いたヘビはどうなった? 見上げると、何やらじりじりと後退している。自分の意思でと言うよりも、何かに引っ張られているようだ。さては炎を使ったことで体力を失い、他のヘビ頭に引っ張られているらしい。見ているうちに後退はズルズルしたものに変わり、ヘビの頭は木立の中に沈んだ。
暫くあのヘビはここには来ない。だが、別のヘビ、あの蛇を引っ張ったヤツは確実にこちらに近付いたってことだ。早く体制を立て直さなくては……
「カッチー、立てるか?」
意識が戻ったカッチーは顔を顰めているものの
「頑張ります」
と少々いつもより弱気の声、近づく蹄音はリュネ、カッチーに手を貸してリュネの背に乗せていると、リュネがピエッチェの袖を咥えて引っ張った。俺にも乗れってか?
「俺はいいから、カッチーをすぐにキャビンに連れて行け」
だがリュネは言うことを訊いてくれない。ピエッチェをなんとしてでも自分に乗せるつもりだ。ここで時間を浪費したくない。仕方なくリュネの背に乗ると、ピエッチェが手綱を持つ暇も与えず駆け出した。キャビンに向かっている。
キャビンの横ではラクティメシッスが困っていた。
「お嬢さん、自分がヘトヘトだって判ってないんですか?」
「だからって、キャビンで温和しくなんかしてられるもんか――ピエッチェ、ラステインが虐めるんだよ」
リュネから飛び降りたピエッチェに、クルテが駆け寄ってしがみつく。呆れかえったラクティメシッスが、
「お嬢さんったら、キャビンの屋根から転がり落ちたんです。急にフラッとなったらしくって」
とピエッチェに言った。
「それにしてもピエッチェ、あの炎の中で無傷のようですね。どんな手を使ったんですか?」
するとピエッチェにしがみついていたクルテがクルッとラクティメシッスを見て、
「わたしが結界を張った。あんたじゃ間に合わないと思ったから」
嘲笑気味に言った。
「キャビンの上から?」
「そうだよ。悪い?」
「ふぅん……それで力を使い果たしちゃったんですね。納得です」
クルテの髪が張った結界内部はどうもラクティメシッスには見えなかったらしい。まぁ、キャビンの上と結界内に、クルテが同時にいたんじゃ面倒なことになる。
「でも、お嬢さん。力を使い果たしちゃったんだから、キャビンの中で休んでいたほうがいいです」
「足手まといになんかならない。わたしはピエッチェのそばに居る」
今の今までいなかったくせに、そう来るか?
「ね、いいでしょ、ピエッチェ? わたしを守ってくれるよね?」
胸元で見上げてくるクルテ、コイツ、何を企んでる? でもここは、
「あぁ、傍に居ろ。居てくれ」
話を合わせておいたほうがよさそうだ。チッとラクティメシッスが舌打ちした。他人の心配も判らないでイチャついてろ、とでも思ったのだろう。
馬上からゆっくりと降りたカッチーを、リュネが鼻を鳴らして励ましている。
「カッチーはキャビンで待機、失神したばかりだ」
ピエッチェの指示に、ラクティメシッスがキャビンの戸を開けた。マデルがホッとした笑顔を見せ、
「よく頑張ったね、カッチー」
カッチーを手招きする。それでも躊躇うカッチー、
「少し休むだけだ。またあとで活躍して貰う」
ピエッチェが背中を押した。
やっとのことでキャビンに乗り込むカッチーを目の端で見ながら周囲を警戒するピエッチェ、
「集まってきましたね」
とラクティメシッスが呟く。ヘビの気配は三体にまで増えている。引っ張られて行った一体を除いてだ。あと三体もこちらに向かっているのは判っているが、ラクティメシッスの検知術にはまだ引っかかってないようだ。
「小物たちは近くでここの様子を窺っているようです」
言われなくても判っている。ヘビが来るのを察していて隠れているが、もし来なかったらご馳走をいただくつもりで待っている。まぁ、ヘビは来る。
「大物が三体……互いに牽制しあっている?」
「そうかもしれないな」
ピエッチェの苦笑い、そしてラクティメシッスに上空で見た景色を告げた。
「大物は三体じゃない」
「えっ?」
「怪しい木立の揺れが見えた。上空から見なければ判らないものだ。それが全部で七つ。その一つがさっきの火を噴いたヤツ。残り六つの内の三体が気配を察せる場所まで来たってことだ」
「全部ヘビだと?」
「木立の揺れはどれも同じ動きだった。同じものだと思っていいと思う」
うむ……と唸るラクティメシッス、ピエッチェが
「ヘビの魔物は全部で八体だってことだ。で、この八体、どうやら尻尾で繋がってるらしい」
と続けた。
「尻尾で繋がってる?」
「あぁ、だから一体と思っていいのか悪いのか? ヘビの消化器は尻尾より頭部寄りにある。肛門から先が尻尾、つまりヤツ等の食欲は八体別々、一体が食ったからって他のヤツの空腹を満たせるわけじゃない」
「ふぅん。みんなライバルってことですね――ヘビって共食いは?」
「するかもしれないな」
空中を飛んでいった頭部を他のヘビが食ったのを目撃したばかりだ。あれ? そう言えば、ピエッチェが首を落としたヘビの胴体はどうなった?
ぶっ倒れたあたりを見てみたが、なさそうだ。
「あぁ、あれは……」
ラクティメシッスがピエッチェの視線に気づいて言った。
「小物たちが集って食べ尽くしました。凄い数が群がってヘビは見えなくなっちゃったから、食べてるところは見てません。だけど、音は少し聞こえたかな。そっちであぶれたのがこちらを襲って来てたんで、気に掛ける余裕がなくって良かったですよ」
そう言えば、クルテとラクティメシッス・カッチーが何体も倒したはずなのにキャビンの周囲にも魔物の亡骸がない。他の魔物が持って行ったと言うことか。
「なんか、悍ましいな。想像するだけでぞっとする」
ピエッチェが苦笑する。
弱小魔物たちが食べたのはヘビの胴体のどのあたりまでなのだろう? まさか尻尾まで? もしそうなら、ヘビたちは繋がりを断たれる……いいや、他のヘビが黙っちゃいないだろう。小物たちはヘビを恐れている。自分が捕食対象だと知っている。近づき過ぎたりしないはずだ。ピエッチェは、いやな想像を断ち切った。
リュネが再び嘶いた。ボワンと身体が一回り大きくなり、頭に角が生え始める。そうだ、一回り大きくなる前がいつものリュネの大きさだ。
ラクティメシッスを盗み見たが、リュネの変化を気に留めている様子はない。魔物だろうが味方は味方、そう思ってくれているのだろう。今さらか。
ヘビの気配は三体のままだ。すぐそこまで来ている。一っ飛びでこちらを襲える距離だ。だが、殺気はこちらに向いていない。ラクティメシッスが言った通り、牽制しあっている。ピエッチェたちを食うのは自分だと、主張しあっているらしい。
だったら、おまえらだけで遣り合って、残った一体を相手すればいいだけにしてくれないか? そう思うが、それをヘビに伝える術もなければ、あったとしても『判りました』とヘビが言うはずもない。
じりじりと緊張だけが高まっていく。きっと油断を見せれば、すかさず襲ってくるはずだ。ヘビだけじゃなく、姿を隠して俺たちを、じっと見ている弱小魔物たちもそれは同じだ。
なのにクルテがピエッチェを見上げ、
「咽喉が渇いた」
と呟いた。今の状況、判っているよな? だけど、
「身体を休ませるなら今しかない」
と言われれば、それもそうかと思ってしまう。ピエッチェが迷っていると、不意にクルテがピエッチェから離れ、キャビンの貨物台に近寄った。リュネがすぐにクルテの脇につき、睨みを利かせる。
レモン水を出すとキャビンの中、マデルとカッチーに渡し、ラクティメシッスにも渡した。一度に持てるのが三本だったようだ。その間もリュネがぴたりと貼りついている。
貨物台に戻るとバケツを出して、皮袋の水を注いだ。それからレモン水を二本持ってピエッチェを手招きした。ピエッチェがクルテの傍に来るのを待ってリュネが水を飲み始める。
「大活躍したもんね。リュネだって咽喉が渇く」
そうだな、クルテ。俺は敵と自分のことしか考えていなかった。自分が大丈夫だからって、他のメンバーも大丈夫とは限らない。いつでもおまえは俺の足りないところを補ってくれている。
だがレモン水をのんびり味わっている暇はない。飲み終わった瓶を貨物台に戻している余裕はなかった。
「来るよっ!」
クルテの叫び、リュネが嘶いてピエッチェの前で蹄を鳴らす。
「休憩は終わりだ!」
リュネに乗ったピエッチェが、自分に向かって腕を伸ばすクルテを抱き上げた――
カッチーを乗せるため、リュネが身体を縮めた。ラクティメシッスもこちらに向かっているが間にあわない。
「カッチー!」
抱き上げる余裕もない。飛び降りると、カッチーに覆いかぶさって臥せた。ごーーっと爆音が轟く。周囲が急激に明るく染まった。
身体が熱くなるのを感じる。でも、炎に炙られる熱さではないような? あ、まただ。身の内からボッと熱くなった。そうだ、森の女神の祝福に似た熱さだ。二度目のほうが最初より強くはっきりしていた。
遠くでラクティメシッスが呼んでいる。マデルの声は悲鳴だ。そうだ、リュネはどうなったんだ? いや、違う、俺はどうなってる? ヘビが吐き出す炎で包まれているんじゃないのか?
恐る恐る首を曲げて、様子を窺った。すぐ近くに渦巻く炎が見える。そしてもっと近くに誰かが立ってる。
「立っても大丈夫」
クルテの声、見上げると、立っているのはクルテだった。クルテが結界を張って、ヘビが吹き出す火炎から、ピエッチェとカッチーを守っていた。
「おまえが飛び降りるのと同時にリュネは、ラスティンを咥えてキャビンに逃げた。火はキャビンにまでは届いていない。リュネもラスティンも無事だ」
「クルテ、おまえ、キャビンの上にいたんじゃないのか?」
するとクルテがニヤリとした。
「わたしはクルテではない。クルテの髪だ」
「えっ?」
「間に合いそうもなかったし、ラスティンの結界じゃ防ぎきれないと思った。だから矢をここに打ち込んで、わたしに化身させた――すぐにヘビは燃料切れになる。次の火を噴くまでは三日かかる」
「ほかの頭は?」
「尻尾に燃料を蓄え共有している」
火炎への心配はなくなったってことか。
「さて、わたしの魔力も限界だ。カッチーが気を失ってくれてよかった」
ハッとしてカッチーを見ると、ピエッチェの下で伸びている。しっかりしろと揺さぶっているうちに周囲が暗くなった。ヘビの火炎が消えたのだ。クルテもいない。
「お嬢さん!」
ラクティメシッスの叫び声、見るとキャビンから落ちるクルテをラクティメシッスが受け止めたところだった。
火を噴いたヘビはどうなった? 見上げると、何やらじりじりと後退している。自分の意思でと言うよりも、何かに引っ張られているようだ。さては炎を使ったことで体力を失い、他のヘビ頭に引っ張られているらしい。見ているうちに後退はズルズルしたものに変わり、ヘビの頭は木立の中に沈んだ。
暫くあのヘビはここには来ない。だが、別のヘビ、あの蛇を引っ張ったヤツは確実にこちらに近付いたってことだ。早く体制を立て直さなくては……
「カッチー、立てるか?」
意識が戻ったカッチーは顔を顰めているものの
「頑張ります」
と少々いつもより弱気の声、近づく蹄音はリュネ、カッチーに手を貸してリュネの背に乗せていると、リュネがピエッチェの袖を咥えて引っ張った。俺にも乗れってか?
「俺はいいから、カッチーをすぐにキャビンに連れて行け」
だがリュネは言うことを訊いてくれない。ピエッチェをなんとしてでも自分に乗せるつもりだ。ここで時間を浪費したくない。仕方なくリュネの背に乗ると、ピエッチェが手綱を持つ暇も与えず駆け出した。キャビンに向かっている。
キャビンの横ではラクティメシッスが困っていた。
「お嬢さん、自分がヘトヘトだって判ってないんですか?」
「だからって、キャビンで温和しくなんかしてられるもんか――ピエッチェ、ラステインが虐めるんだよ」
リュネから飛び降りたピエッチェに、クルテが駆け寄ってしがみつく。呆れかえったラクティメシッスが、
「お嬢さんったら、キャビンの屋根から転がり落ちたんです。急にフラッとなったらしくって」
とピエッチェに言った。
「それにしてもピエッチェ、あの炎の中で無傷のようですね。どんな手を使ったんですか?」
するとピエッチェにしがみついていたクルテがクルッとラクティメシッスを見て、
「わたしが結界を張った。あんたじゃ間に合わないと思ったから」
嘲笑気味に言った。
「キャビンの上から?」
「そうだよ。悪い?」
「ふぅん……それで力を使い果たしちゃったんですね。納得です」
クルテの髪が張った結界内部はどうもラクティメシッスには見えなかったらしい。まぁ、キャビンの上と結界内に、クルテが同時にいたんじゃ面倒なことになる。
「でも、お嬢さん。力を使い果たしちゃったんだから、キャビンの中で休んでいたほうがいいです」
「足手まといになんかならない。わたしはピエッチェのそばに居る」
今の今までいなかったくせに、そう来るか?
「ね、いいでしょ、ピエッチェ? わたしを守ってくれるよね?」
胸元で見上げてくるクルテ、コイツ、何を企んでる? でもここは、
「あぁ、傍に居ろ。居てくれ」
話を合わせておいたほうがよさそうだ。チッとラクティメシッスが舌打ちした。他人の心配も判らないでイチャついてろ、とでも思ったのだろう。
馬上からゆっくりと降りたカッチーを、リュネが鼻を鳴らして励ましている。
「カッチーはキャビンで待機、失神したばかりだ」
ピエッチェの指示に、ラクティメシッスがキャビンの戸を開けた。マデルがホッとした笑顔を見せ、
「よく頑張ったね、カッチー」
カッチーを手招きする。それでも躊躇うカッチー、
「少し休むだけだ。またあとで活躍して貰う」
ピエッチェが背中を押した。
やっとのことでキャビンに乗り込むカッチーを目の端で見ながら周囲を警戒するピエッチェ、
「集まってきましたね」
とラクティメシッスが呟く。ヘビの気配は三体にまで増えている。引っ張られて行った一体を除いてだ。あと三体もこちらに向かっているのは判っているが、ラクティメシッスの検知術にはまだ引っかかってないようだ。
「小物たちは近くでここの様子を窺っているようです」
言われなくても判っている。ヘビが来るのを察していて隠れているが、もし来なかったらご馳走をいただくつもりで待っている。まぁ、ヘビは来る。
「大物が三体……互いに牽制しあっている?」
「そうかもしれないな」
ピエッチェの苦笑い、そしてラクティメシッスに上空で見た景色を告げた。
「大物は三体じゃない」
「えっ?」
「怪しい木立の揺れが見えた。上空から見なければ判らないものだ。それが全部で七つ。その一つがさっきの火を噴いたヤツ。残り六つの内の三体が気配を察せる場所まで来たってことだ」
「全部ヘビだと?」
「木立の揺れはどれも同じ動きだった。同じものだと思っていいと思う」
うむ……と唸るラクティメシッス、ピエッチェが
「ヘビの魔物は全部で八体だってことだ。で、この八体、どうやら尻尾で繋がってるらしい」
と続けた。
「尻尾で繋がってる?」
「あぁ、だから一体と思っていいのか悪いのか? ヘビの消化器は尻尾より頭部寄りにある。肛門から先が尻尾、つまりヤツ等の食欲は八体別々、一体が食ったからって他のヤツの空腹を満たせるわけじゃない」
「ふぅん。みんなライバルってことですね――ヘビって共食いは?」
「するかもしれないな」
空中を飛んでいった頭部を他のヘビが食ったのを目撃したばかりだ。あれ? そう言えば、ピエッチェが首を落としたヘビの胴体はどうなった?
ぶっ倒れたあたりを見てみたが、なさそうだ。
「あぁ、あれは……」
ラクティメシッスがピエッチェの視線に気づいて言った。
「小物たちが集って食べ尽くしました。凄い数が群がってヘビは見えなくなっちゃったから、食べてるところは見てません。だけど、音は少し聞こえたかな。そっちであぶれたのがこちらを襲って来てたんで、気に掛ける余裕がなくって良かったですよ」
そう言えば、クルテとラクティメシッス・カッチーが何体も倒したはずなのにキャビンの周囲にも魔物の亡骸がない。他の魔物が持って行ったと言うことか。
「なんか、悍ましいな。想像するだけでぞっとする」
ピエッチェが苦笑する。
弱小魔物たちが食べたのはヘビの胴体のどのあたりまでなのだろう? まさか尻尾まで? もしそうなら、ヘビたちは繋がりを断たれる……いいや、他のヘビが黙っちゃいないだろう。小物たちはヘビを恐れている。自分が捕食対象だと知っている。近づき過ぎたりしないはずだ。ピエッチェは、いやな想像を断ち切った。
リュネが再び嘶いた。ボワンと身体が一回り大きくなり、頭に角が生え始める。そうだ、一回り大きくなる前がいつものリュネの大きさだ。
ラクティメシッスを盗み見たが、リュネの変化を気に留めている様子はない。魔物だろうが味方は味方、そう思ってくれているのだろう。今さらか。
ヘビの気配は三体のままだ。すぐそこまで来ている。一っ飛びでこちらを襲える距離だ。だが、殺気はこちらに向いていない。ラクティメシッスが言った通り、牽制しあっている。ピエッチェたちを食うのは自分だと、主張しあっているらしい。
だったら、おまえらだけで遣り合って、残った一体を相手すればいいだけにしてくれないか? そう思うが、それをヘビに伝える術もなければ、あったとしても『判りました』とヘビが言うはずもない。
じりじりと緊張だけが高まっていく。きっと油断を見せれば、すかさず襲ってくるはずだ。ヘビだけじゃなく、姿を隠して俺たちを、じっと見ている弱小魔物たちもそれは同じだ。
なのにクルテがピエッチェを見上げ、
「咽喉が渇いた」
と呟いた。今の状況、判っているよな? だけど、
「身体を休ませるなら今しかない」
と言われれば、それもそうかと思ってしまう。ピエッチェが迷っていると、不意にクルテがピエッチェから離れ、キャビンの貨物台に近寄った。リュネがすぐにクルテの脇につき、睨みを利かせる。
レモン水を出すとキャビンの中、マデルとカッチーに渡し、ラクティメシッスにも渡した。一度に持てるのが三本だったようだ。その間もリュネがぴたりと貼りついている。
貨物台に戻るとバケツを出して、皮袋の水を注いだ。それからレモン水を二本持ってピエッチェを手招きした。ピエッチェがクルテの傍に来るのを待ってリュネが水を飲み始める。
「大活躍したもんね。リュネだって咽喉が渇く」
そうだな、クルテ。俺は敵と自分のことしか考えていなかった。自分が大丈夫だからって、他のメンバーも大丈夫とは限らない。いつでもおまえは俺の足りないところを補ってくれている。
だがレモン水をのんびり味わっている暇はない。飲み終わった瓶を貨物台に戻している余裕はなかった。
「来るよっ!」
クルテの叫び、リュネが嘶いてピエッチェの前で蹄を鳴らす。
「休憩は終わりだ!」
リュネに乗ったピエッチェが、自分に向かって腕を伸ばすクルテを抱き上げた――
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