345 / 434
18章 ピエッチェ盗賊団
17
しおりを挟む
迫りくる矢に射抜かれる直前、クルテが魔法を発動させた。言うまでもない、見えず聞こえずの結界だ。そしてリュネが屋根を蹴り上げ、上空へと飛翔した。馬とともに忽然と消えた男、取り残された兵たちはさぞかし驚き慌てふためくことだろう。だがそれを、のんびり見物している暇はない。
ラクティメシッスたちはどうしている? コッテチカ街道口に集結していた兵は一部に過ぎない。巧くやり過ごせただろうか?
もしも街中で国軍の部隊と遭遇したら、やはり見えず聞こえずの結界を張って駆け抜けろと言っておいた。兵は結界内部に入り込めず、馬の勢いで弾き飛ばされるだろう。多少の怪我人が出るのは仕方ない。
『わたしの得意は検知術だと知っているでしょう? 少しでも兵の気配を感じたら、裏路地だろうが避けきれる道を選びます』
ラクティメシッスはいつもの穏やかな笑みを見せた。それに笑んで応えはした。だが場は荒れている。いつも通りと行かない時だってあるはずだ。
「ねぇ、あそこ……」
クルテが軍本部の建屋を指す。大通りでふんぞり返って偉そうに立っているのは、さっきジジョネテスキの横にいた男だ。
「ドロギャスじゃない?」
十騎ほどを前に、何か命じているようだ。
「そうみたいだな。兵に何か命じてる――山狩りの指示か?」
数騎がコッテチカ街道口の方向に、残りはキャルティレンぺス山、ラクティメシッスたちが入り込む予定だったあたりに馬を走らせた。
街道口方向に走り去った騎兵は軍兵たちを呼びに行ったのだろう。どうやらラクティメシッスは既にキャルティレンぺス山中に潜り込んだと見える。
ピエッチェの奇襲ですっかり統率を失くしている国軍は立て直すのにも時間がかかりそうだ。山狩りが始まる頃には、獲物はとっくにジャムジャンヤ街道に出ているはずだ。
リュネが動いた。向かっているのはキャルティレンぺス山、上空から仲間の居所を探すつもりだ。クルテがピエッチェを見上げる。ピエッチェがクルテに微笑み、
「しっかり掴まってろ」
と抱き締める腕に力を込めた――
空を見上げるマデルとカッチー、ラクティメシッスが
「見えず聞こえず魔法を使っているはずです。見てたって見えませんよ」
三杯目のお茶をカップに注ぎながら片頬で笑う。さっきまで、少しも心配してなかったクセに今さらですか?……と、二人に感じている。
しかし、確かに少し遅すぎはしないか? いいや、わたしたちが早すぎた?……この茶を飲み干したら単騎で街に戻り、探ったほうがいいかもしれない。でも、そうなると残るのはマデルとカッチーだけだ。
「ラスティンは気にならないの?」
マデルの苦情、カッチーが『あっ!』と呟いてケトルの蓋を取った。湯の残量を確かめている。
「ピエッチェさんとクルテさんの分まで飲んじゃいましたね」
カッチーまで苦情だ。フン! と鼻を鳴らすが少しだけ気拙げな顔になったラクティメシッス、自分の水袋を出すとカッチーに渡した。
「お湯が沸く前に戻ってきたらどうしよう?」
「カッチー、それ、戻ってきて欲しくなさそうに聞こえる……」
「早く戻って欲しいに決まってます!」
マデルとカッチーを横目に茶を啜るラクティメシッス、二人をここに残すのとコッテチカに連れて行くのと、どちらがよりリスクが高いか考えている。
コッテチカに戻るのはどう考えても悪手だ。もしもピエッチェが捕らえられているとしたら、自分も捕らえられてしまう危険を伴う。クルテが一緒にいるのにピエッチェが捕らえられたのだとしたら、いくら魔法を駆使したとしてもラクティメシッスだってどうなるか判らない。そんな場所にマデルとカッチーを連れてなんか行けない。
でも、二人をここに残したら? そしてピエッチェ救出に失敗したら?
一定の時間を決めて先に行けと言ったら、ちゃんと従ってくれるだろうか? ここで待ち続けないか? 行ってくれたとしてもそのあとは? ジャムジャンヤまで辿り着いてくれれば他の魔法使いが二人を守ってくれるだろう。コッテチカの街に戻る前に、部下にその場合の指示を連絡具で出しておけば済む。問題はジャムジャンヤまで無事に行けるか、だ。
しっかりしろ、ラクティメシッス――ラクティメシッスが自分に言い聞かせる。マデルが王室魔法使いだということを忘れるな。それにここはザジリレン。我らを脅かせる魔法使いがそう居るはずもない。街道を行けば魔物の襲撃も回避できる。カッチーだって、守られるだけの存在ではなくなっている。
やはり、もうしばらく待ってピエッチェが戻らなかったら二人を先に行かせよう。乗馬技術に不安はあるが、ゆっくり行くならカッチーだって大丈夫だ。そして自分はコッテチカの街に戻る。
もしピエッチェが捕らえられていたなら、なんとしてでも生きているうちに取り戻さなければならない――
キャルティレンペス山を上空から見下ろしているのはピエッチェとクルテ、
「計画通りローシェッタ方面に誘導しているようだな」
馬が通った痕跡を認め、ピエッチェが呟く。
ピエッチェ盗賊団が山に分け入ったと思しき当たりでは先ほどの騎士たちが下馬し、応援の到着を待っている。馬を傷つけるのを恐れ、徒歩で山に入るのだろう。
「あの辺りから方向転換してジャムジャンヤ街道方面に行くはずなんだけど……」
誘導のために残した痕跡がプツンと途絶えたところから、ピエッチェが視線をジャムジャンヤ街道方面に走らせる。
鳥や獣、弱小魔物の気配は感じるものの、キャルティレンぺス山中には人間や馬の気配はない。
「とっくに街道に出ちゃったとか?」
地上から目を離さずにクルテが言った。なんの合図もなしにリュネが動き出す。ピエッチェにしがみつき、クルテがなぜか『ふふっ』と笑んだ。
ジャムジャンヤ街道が見えてくるが、ラクティメシッスたちの姿は見えない。
「あれがジャムジャンヤ街道?」
問うクルテに『そうだ』と答えるピエッチェ、
「蹄の跡はまだ新しそうだな」
目がジャムジャンヤ街道に沿って動いていく。
「先にジャムジャンヤに向かった?」
「かもしれない。そうしろって俺が言ったからな」
「ねぇ、馬、どうしたんだろう?」
「馬?」
「そう、ピエッチェの馬とわたしの馬」
「あぁ……カッチーが一頭使うだろうけど、もう一頭残るのか」
「カッチー、リュネじゃなくても大丈夫かな?」
「一頭ぐらい、牽いていくだろうさ」
そうクルテに答えたものの、本当にそうだろうかと思うピエッチェ、
「おまえはどうしてると思う?」
クルテの意見を聞いてみる。
「わたしに判るはずない」
はいはい、そりゃあそうだよな。
「でも、リュネになら判るかもしれない」
「えっ?」
と、思う間もなくリュネが下降を始めた――
とうとう三杯目も飲み干した。足りないと言ってカッチーが追加した湯もシューシューと湯気を立てている。フッと溜息を吐くラクティメシッス、つい空を見上げた。
「何よ。見たって見えないんでしょう?」
マデルの言葉の厭味は薄味だ。
「うん、そうですよね……」
苦笑してマデルを見るラクティメシッス、自分に視線を寄こさないマデル、さて、なんと言って説得しようか?
とにかく何か言おうと、
「見えず聞こえず魔法を使ってるんだから、見えるはずありませんよね」
呟いた。そう、見えるはずも――えっ!?
「マデル! わたしはなんて馬鹿なんだ?」
「ラスティン?」
「ラスティンさん!?」
いきなり立ち上がると駆けだしたラクティメシッス、ジャムジャンヤ街道に躍り出る。マデルとカッチーが追おうとしたが
「二人はそこにいなさい!」
ラクティメシッスが首だけ後ろに向けて叫ぶ。そして――
下降したリュネがジャムジャンヤ街道に降り立った。
「どこにも居そうにないぞ?」
首を傾げるピエッチェ、
「うーーん……リュネの魔力でも無理なのかな?」
きょろきょろとあたりを見渡すクルテ、そこに『ドン!』と何かがぶつかった。
魔物か!? すかさず剣を抜くピエッチェ、ひゅるんと金属の擦れる音、
「待って!」
叫ぶとともに自分たちに掛けた見えず聞こえず魔法をクルテが解除する。そして、
「わたしです!」
声とともに姿を現したのはラクティメシッス、尻餅をついている。
「あぁ、よかった! ぶつかる感触に、きっとあなたたちだと思いました」
ホッとしているのか泣きそうなのか、その中間あたりの顔でピエッチェたちを見上げた。が、それも瞬時、すぐに立ち上がり、服を払いながら笑う。
「両方で見えず聞こえずじゃ、いつまで経っても見つかるはずありませんよね」
木立の中の結界では、マデルとカッチーがそっと微笑みあっていた――
二人のためにカッチーがお茶を淹れて待っています……その言葉に、ピエッチェたちも木立の中に入った。すぐさま結界内部に引き入れられる。
「クルテ……」
抱きついてきたマデルを抱き返すクルテ、
「心配させてごめんね」
そっと謝っている。
カッチーはピエッチェに頷いただけだ。すぐにリュネを牽いて、桶に水を注いだ。甘えるように鼻さきでカッチーの頭を小突くリュネに嬉しそうな顔になる。
「できるだけ兵を誘き寄せるつもりが、追い詰められちゃってね」
茶を啜りながらピエッチェが苦笑する。微笑むラクティメシッス、
「我らが山中に駆け込むには、充分でした」
遅すぎると心配したんだ、なんて恨み言は言わない。
「上空から見たが、山狩りに行くな、あれは」
「こちらの狙い通りですね」
「ピエッチェ盗賊団の名は?」
「はい、部下が抜け目なく叫んでくれました――ジジョネテスキにも聞かせたんですよね?」
「大通りを隔てていたけど、聞こえたと思う。聞こえてなくたってアイツは聞こえたって言ってくれる」
「カッテンクリュードにこの話が伝わるのは?」
「明日中にはってところじゃないかな? 普通なら二・三日、だけどコッテチカ街道に伝令兵を置いているはずだから明日、そう見込んでる」
「次はレシグズームですね」
「魔法使いたちは?」
「無事に出立しました」
ラクティメシッスの部下たちとはレシグズームと山を隔てたジャムジャンヤで落ち合う約束だ。
「また山越えになるなぁ」
ピエッチェが苦笑した。
クルテはマデルとカッチーを相手に、コッテチカで使った弓の話をしていた。弓と言うより『矢』か。
「まさか、あんなことになるとは思わなかった」
「あんなことって、何かあったんですか?」
心配そうに訊くカッチー、マデルも
「何か怖い思いをしたの?」
と蒼褪める。
「ううん、面白かったよ」
あっけらかんとクルテが笑う。
「好きに射っていいって言われてたから、ジジョネテスキを狙ったりね」
「まさか、命中させちゃった?」
ますます蒼褪めるマデル、クルテはクスクス笑っている。
「クルテさん、百発百中でしたっけ?」
カッチーも蒼褪めた。
ラクティメシッスたちはどうしている? コッテチカ街道口に集結していた兵は一部に過ぎない。巧くやり過ごせただろうか?
もしも街中で国軍の部隊と遭遇したら、やはり見えず聞こえずの結界を張って駆け抜けろと言っておいた。兵は結界内部に入り込めず、馬の勢いで弾き飛ばされるだろう。多少の怪我人が出るのは仕方ない。
『わたしの得意は検知術だと知っているでしょう? 少しでも兵の気配を感じたら、裏路地だろうが避けきれる道を選びます』
ラクティメシッスはいつもの穏やかな笑みを見せた。それに笑んで応えはした。だが場は荒れている。いつも通りと行かない時だってあるはずだ。
「ねぇ、あそこ……」
クルテが軍本部の建屋を指す。大通りでふんぞり返って偉そうに立っているのは、さっきジジョネテスキの横にいた男だ。
「ドロギャスじゃない?」
十騎ほどを前に、何か命じているようだ。
「そうみたいだな。兵に何か命じてる――山狩りの指示か?」
数騎がコッテチカ街道口の方向に、残りはキャルティレンぺス山、ラクティメシッスたちが入り込む予定だったあたりに馬を走らせた。
街道口方向に走り去った騎兵は軍兵たちを呼びに行ったのだろう。どうやらラクティメシッスは既にキャルティレンぺス山中に潜り込んだと見える。
ピエッチェの奇襲ですっかり統率を失くしている国軍は立て直すのにも時間がかかりそうだ。山狩りが始まる頃には、獲物はとっくにジャムジャンヤ街道に出ているはずだ。
リュネが動いた。向かっているのはキャルティレンぺス山、上空から仲間の居所を探すつもりだ。クルテがピエッチェを見上げる。ピエッチェがクルテに微笑み、
「しっかり掴まってろ」
と抱き締める腕に力を込めた――
空を見上げるマデルとカッチー、ラクティメシッスが
「見えず聞こえず魔法を使っているはずです。見てたって見えませんよ」
三杯目のお茶をカップに注ぎながら片頬で笑う。さっきまで、少しも心配してなかったクセに今さらですか?……と、二人に感じている。
しかし、確かに少し遅すぎはしないか? いいや、わたしたちが早すぎた?……この茶を飲み干したら単騎で街に戻り、探ったほうがいいかもしれない。でも、そうなると残るのはマデルとカッチーだけだ。
「ラスティンは気にならないの?」
マデルの苦情、カッチーが『あっ!』と呟いてケトルの蓋を取った。湯の残量を確かめている。
「ピエッチェさんとクルテさんの分まで飲んじゃいましたね」
カッチーまで苦情だ。フン! と鼻を鳴らすが少しだけ気拙げな顔になったラクティメシッス、自分の水袋を出すとカッチーに渡した。
「お湯が沸く前に戻ってきたらどうしよう?」
「カッチー、それ、戻ってきて欲しくなさそうに聞こえる……」
「早く戻って欲しいに決まってます!」
マデルとカッチーを横目に茶を啜るラクティメシッス、二人をここに残すのとコッテチカに連れて行くのと、どちらがよりリスクが高いか考えている。
コッテチカに戻るのはどう考えても悪手だ。もしもピエッチェが捕らえられているとしたら、自分も捕らえられてしまう危険を伴う。クルテが一緒にいるのにピエッチェが捕らえられたのだとしたら、いくら魔法を駆使したとしてもラクティメシッスだってどうなるか判らない。そんな場所にマデルとカッチーを連れてなんか行けない。
でも、二人をここに残したら? そしてピエッチェ救出に失敗したら?
一定の時間を決めて先に行けと言ったら、ちゃんと従ってくれるだろうか? ここで待ち続けないか? 行ってくれたとしてもそのあとは? ジャムジャンヤまで辿り着いてくれれば他の魔法使いが二人を守ってくれるだろう。コッテチカの街に戻る前に、部下にその場合の指示を連絡具で出しておけば済む。問題はジャムジャンヤまで無事に行けるか、だ。
しっかりしろ、ラクティメシッス――ラクティメシッスが自分に言い聞かせる。マデルが王室魔法使いだということを忘れるな。それにここはザジリレン。我らを脅かせる魔法使いがそう居るはずもない。街道を行けば魔物の襲撃も回避できる。カッチーだって、守られるだけの存在ではなくなっている。
やはり、もうしばらく待ってピエッチェが戻らなかったら二人を先に行かせよう。乗馬技術に不安はあるが、ゆっくり行くならカッチーだって大丈夫だ。そして自分はコッテチカの街に戻る。
もしピエッチェが捕らえられていたなら、なんとしてでも生きているうちに取り戻さなければならない――
キャルティレンペス山を上空から見下ろしているのはピエッチェとクルテ、
「計画通りローシェッタ方面に誘導しているようだな」
馬が通った痕跡を認め、ピエッチェが呟く。
ピエッチェ盗賊団が山に分け入ったと思しき当たりでは先ほどの騎士たちが下馬し、応援の到着を待っている。馬を傷つけるのを恐れ、徒歩で山に入るのだろう。
「あの辺りから方向転換してジャムジャンヤ街道方面に行くはずなんだけど……」
誘導のために残した痕跡がプツンと途絶えたところから、ピエッチェが視線をジャムジャンヤ街道方面に走らせる。
鳥や獣、弱小魔物の気配は感じるものの、キャルティレンぺス山中には人間や馬の気配はない。
「とっくに街道に出ちゃったとか?」
地上から目を離さずにクルテが言った。なんの合図もなしにリュネが動き出す。ピエッチェにしがみつき、クルテがなぜか『ふふっ』と笑んだ。
ジャムジャンヤ街道が見えてくるが、ラクティメシッスたちの姿は見えない。
「あれがジャムジャンヤ街道?」
問うクルテに『そうだ』と答えるピエッチェ、
「蹄の跡はまだ新しそうだな」
目がジャムジャンヤ街道に沿って動いていく。
「先にジャムジャンヤに向かった?」
「かもしれない。そうしろって俺が言ったからな」
「ねぇ、馬、どうしたんだろう?」
「馬?」
「そう、ピエッチェの馬とわたしの馬」
「あぁ……カッチーが一頭使うだろうけど、もう一頭残るのか」
「カッチー、リュネじゃなくても大丈夫かな?」
「一頭ぐらい、牽いていくだろうさ」
そうクルテに答えたものの、本当にそうだろうかと思うピエッチェ、
「おまえはどうしてると思う?」
クルテの意見を聞いてみる。
「わたしに判るはずない」
はいはい、そりゃあそうだよな。
「でも、リュネになら判るかもしれない」
「えっ?」
と、思う間もなくリュネが下降を始めた――
とうとう三杯目も飲み干した。足りないと言ってカッチーが追加した湯もシューシューと湯気を立てている。フッと溜息を吐くラクティメシッス、つい空を見上げた。
「何よ。見たって見えないんでしょう?」
マデルの言葉の厭味は薄味だ。
「うん、そうですよね……」
苦笑してマデルを見るラクティメシッス、自分に視線を寄こさないマデル、さて、なんと言って説得しようか?
とにかく何か言おうと、
「見えず聞こえず魔法を使ってるんだから、見えるはずありませんよね」
呟いた。そう、見えるはずも――えっ!?
「マデル! わたしはなんて馬鹿なんだ?」
「ラスティン?」
「ラスティンさん!?」
いきなり立ち上がると駆けだしたラクティメシッス、ジャムジャンヤ街道に躍り出る。マデルとカッチーが追おうとしたが
「二人はそこにいなさい!」
ラクティメシッスが首だけ後ろに向けて叫ぶ。そして――
下降したリュネがジャムジャンヤ街道に降り立った。
「どこにも居そうにないぞ?」
首を傾げるピエッチェ、
「うーーん……リュネの魔力でも無理なのかな?」
きょろきょろとあたりを見渡すクルテ、そこに『ドン!』と何かがぶつかった。
魔物か!? すかさず剣を抜くピエッチェ、ひゅるんと金属の擦れる音、
「待って!」
叫ぶとともに自分たちに掛けた見えず聞こえず魔法をクルテが解除する。そして、
「わたしです!」
声とともに姿を現したのはラクティメシッス、尻餅をついている。
「あぁ、よかった! ぶつかる感触に、きっとあなたたちだと思いました」
ホッとしているのか泣きそうなのか、その中間あたりの顔でピエッチェたちを見上げた。が、それも瞬時、すぐに立ち上がり、服を払いながら笑う。
「両方で見えず聞こえずじゃ、いつまで経っても見つかるはずありませんよね」
木立の中の結界では、マデルとカッチーがそっと微笑みあっていた――
二人のためにカッチーがお茶を淹れて待っています……その言葉に、ピエッチェたちも木立の中に入った。すぐさま結界内部に引き入れられる。
「クルテ……」
抱きついてきたマデルを抱き返すクルテ、
「心配させてごめんね」
そっと謝っている。
カッチーはピエッチェに頷いただけだ。すぐにリュネを牽いて、桶に水を注いだ。甘えるように鼻さきでカッチーの頭を小突くリュネに嬉しそうな顔になる。
「できるだけ兵を誘き寄せるつもりが、追い詰められちゃってね」
茶を啜りながらピエッチェが苦笑する。微笑むラクティメシッス、
「我らが山中に駆け込むには、充分でした」
遅すぎると心配したんだ、なんて恨み言は言わない。
「上空から見たが、山狩りに行くな、あれは」
「こちらの狙い通りですね」
「ピエッチェ盗賊団の名は?」
「はい、部下が抜け目なく叫んでくれました――ジジョネテスキにも聞かせたんですよね?」
「大通りを隔てていたけど、聞こえたと思う。聞こえてなくたってアイツは聞こえたって言ってくれる」
「カッテンクリュードにこの話が伝わるのは?」
「明日中にはってところじゃないかな? 普通なら二・三日、だけどコッテチカ街道に伝令兵を置いているはずだから明日、そう見込んでる」
「次はレシグズームですね」
「魔法使いたちは?」
「無事に出立しました」
ラクティメシッスの部下たちとはレシグズームと山を隔てたジャムジャンヤで落ち合う約束だ。
「また山越えになるなぁ」
ピエッチェが苦笑した。
クルテはマデルとカッチーを相手に、コッテチカで使った弓の話をしていた。弓と言うより『矢』か。
「まさか、あんなことになるとは思わなかった」
「あんなことって、何かあったんですか?」
心配そうに訊くカッチー、マデルも
「何か怖い思いをしたの?」
と蒼褪める。
「ううん、面白かったよ」
あっけらかんとクルテが笑う。
「好きに射っていいって言われてたから、ジジョネテスキを狙ったりね」
「まさか、命中させちゃった?」
ますます蒼褪めるマデル、クルテはクスクス笑っている。
「クルテさん、百発百中でしたっけ?」
カッチーも蒼褪めた。
10
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる