秘魔 =追放されし王は 荒天に煌めく星を目指す= 

寄賀あける

文字の大きさ
363 / 434
19章 失われた王女

15

しおりを挟む
 場所が決まれば、次に考えるのは食べ物のことだ。ラクティメシッスが結界を張った中に馬とキャビンを置いて、周辺を探索した。

「今日は罠を仕掛けないのですか?」
「このあたりにはイノシシが居そう……イノシシが掛かっても困る」
「クルテさん、俺、イノシシ肉、好きですよ?」
「五人では食べきれない。塩漬けにするには塩が足りない」

「鳥はいなさそうですか?」
「ラスティン、鳥が好き? カティは鳥を飼うのが好き」
「おや、食べずらくなりました」
「そんなカティも鳥の肉、食べるけどね」
「よかった、これで食べやすくなりました」
苦笑するのはピエッチェだ。

「リュネたちの飼葉はどうします?」
心配そうにクルテに訊いたのはカッチーだ。結界を離れる時、水を容れたバケツは置いてきたものの、飼葉の持ち合わせはない。カッチーをチラッと見てクルテがニンマリする。

「場所をあそこにしたのは開けていたからだけじゃない。あそこに生えていた木の葉っぱは馬が食べても大丈夫なものばかり――葉のなくなった枝を切って椅子替わりにしよう」
「一挙両得ですね」

「枝で思い出したけど、薪も必要だわ」
マデルの呟きに、
「薪はわたしとピエッチェで集めますよ」
ラクティメシッスが答えた。

「しっ!」
と小声でクルテが言って弓を構える。いつの間に弓を用意したのかと思うが、誰も聞いたりしない。クルテが見つめる先のやぶがゴソッと動き、同時にクルテが矢を放つ。すぐに二本目の矢が飛んでいく。ギャーと聞こえたのは一度だけだ。ジタバタと動く気配はすぐに消えた。

 行ってみると転がっていたのはウズラが二羽、つがいで営巣していたようだ。巣には卵が五つ転がっていた。
「水を持ってくる」
卵を拾うとクルテは行ってしまう。戻ってきたのはウズラの下処理が終わった頃だ。

 ウズラ肉を洗いながら
「ほかにも何か見付かったか?」
とピエッチェが問えば、
プエラリアクズの花と蔓の先端。マデルがいっぱい摘んでくれた」
クルテがニンマリ笑んだ。

「そうか、矢にしたり食ったり、随分役に立ってくれるな」
「花はともかく、蔓は先端の柔らかいところしか食べられないし、一度茹でて皮を剥かなきゃだから、ちょっと面倒――あと栗も見つけた」
「へぇ、栗か、いいねぇ」

「栗好き?――でも、栗は明日の朝まで水にけとかなきゃならないし、茹でるのに時間がかかる。きっと昼までかかる」
「そんなにゆっくりできないな」
「じゃあ、栗は拾っとくだけで茹でるのはまたにする」

「ウズラは焼くのか?」
「ううん、プエラリアクズと一緒に煮る」
「じゃ、ぶつ切りでいいな」

 結界内に戻るとすでに火は熾され、茹で上がったプエラリアクズを水にさらしているところだった。熱いままじゃ皮が剥けないよな、とピエッチェが呟くと『あく抜きよ』とマデルが笑った。クルテがチラッとマデルを見てほんのり笑んだが何も言わない。ひょっとしたら〝あく抜き〟は不要だったのかもしれない。

 ウズラの卵もプエラリアクズと一緒に茹でたらしく、カッチーが殻を剥いていた。鍋に水とウズラ肉を入れて火にかけ、煮えたところでウズラ卵とプエラリアクズを加えて塩と胡椒で味を調えた――

 プエラリアクズって、マメの味がしますね……そう呟いてからラクティメシッスがシミジミとクルテを見た。
「お嬢さんが森で一人で暮らして居たって聞いて、そんなことが可能なのかってちょっと怪しんでたんです……お嬢さんと一緒なら、山の中でも食いっぱぐれはなさそうですね」
クルテは鍋を少しばかり食べただけで、サルナシに嚙り付いている。その前に食べた山ブドウで口の周りが赤紫に染まっていた。

「何よ? ラスティンったら、未だにクルテを疑ってたの?」
ムッとするのはマデルだ。そういうわけじゃありませんよ、ラクティメシッスが慌てて言い繕う。

 サルナシを食べ終えたクルテが口を拭って
「真冬はもっと厳しい」
詰まらなさそうに言う。カッチーが『まだあります』とサルナシを差し出すが『おなかいっぱい』と断った。

「ウサギなんかは見付けられるけど、ほとんどの草木は枯れてしまう。それに寒い。雪が降って積もれば焚火したって身体は冷えるいっぽう……だからって、洞穴に迂闊に入り込めばクマ先客が居たり、入り口が雪で埋もれて出られなくなったりね」
「お嬢さん、そんな経験が?」
ラクティメシッスの質問にクルテは答えなかった。

 もともと大して食べないクルテだが、今夜はいつにも増して少食だ。何も言わずに立ち上がると、ピエッチェはまだ食べているのにキャビンのほうに行ってしまった。どうしたのだろうと見ていると、キャビンから毛布を出してリュネに近付いていく。

「眠くなったのかしら?」
マデルがポツンと言う。まだ、寝るには早い時刻だ。カッチーも
「クルテさん、食べると眠くなるから」
言った。

 クルテを見て横たわるリュネ、添い寝するように毛布を頭から被ったクルテも横になった。
「歩き疲れたのかもしれませんね」
自分の言葉に納得できなさそうに言ったラクティメシッスだがすぐに、
「ひょっとして、わたしのせいですか?」
とピエッチェを見た。怪しんでいたって言ったことか、そんな経験があるのか訊いたことでクルテの気分を害したんじゃないかと思ったのだろう。

 チラリとクルテを見たピエッチェが、
「さぁなぁ……」
と答えた。なんだか無責任な気もするが、ピエッチェだってどうしたのか判らない。眠くなれば眠いと言うクルテが何も言わずに寝てしまった。いつもは煩いくらいに離れないクルテがなんの断りもなく離れていった。

「まぁ、気紛れはいつものことだ。気にすることはない。寝かせとけばいい」
そう言ったものの、誰より気にしているのはピエッチェだ。それでも平然と構え、いつも通り食事を終える。

「食事の用意、なんにもしてないんですよ」
ラクティメシッスが苦笑いする。
「草を見分けられなくって『それは違う』ってマデルに怒られてばかりで……邪魔だから戻ってろって言われちゃいました」
だから片付けはわたしがしますと言うと、カッチーが『俺、手伝います』と手を挙げたので甘えたピエッチェだ。これでクルテのところに心置きなく行けると思った。マデルは少しノンビリするわ、とキャビンに乗り込んだ。

 近づくとリュネが頭を持ち上げてピエッチェを見たが、関心なさそうにすぐに降ろした。だが、最初に首を伸ばしていたところより、僅かにクルテから離れたように見える。ここに座れと、ピエッチェのために場所を開けたのかもしれない。感じたままピエッチェが腰を下ろすとモゾっと動いたクルテが少しだけ顔を出し、ピエッチェを見てニマッと笑った。

 クルテの機嫌はいつも通りだ。嬉しそうな顔に安心させられたピエッチェの顔にも笑顔が戻る。なんで何も言わずに離れたのか訊くつもりだったがやめた。だが、クルテは訊いて欲しかったようだ。

「冬の寒さを思い出した」
ポツンとクルテが言った。それで毛布にくるまりたくなった?
「冬になるとね、誰も来なくなる」
それってどこに?

「だけど雪は好き……カティも好きでしょ?」
「子どもの頃は好きだった。カッテンクリュードはたまに降るくらいだから、物珍しくてね。雪合戦したり雪だるまを作れるくらい降ると、みんなで大騒ぎだ。風邪を引いたらどうするんだって、大人たちに叱られてた」

 雪が積もると王家警備隊のジジョネテスキが『今日は剣の稽古は中止だな』とニヤリと笑う。子どもたちは大喜びで庭へと駆けだしたものだ。定刻に剣術の指南役トロンペセスが来るが、庭でいる子どもたちを見るとやはりニヤッと笑うだけで何も言わずに帰っていった。

 王宮に王子・王女の遊び相手として集められていた子どもたちは、雪合戦ではカテロヘブ側とクリオテナ側に別れた。負けるのはいつもカテロヘブ側だ。ネネシリスはクリオテナに引っ張られていつも向こう側、雪合戦が終わるとカテロヘブ側だった子どもたちから『裏切り者』と罵られていた。それ見てダーロミレダムがネネシリスを庇う。ダーロミレダムはカテロヘブ側だった。

 ダーロミレダムは『そんなことを言えばカテロヘブが悲しむのが判らないか』と怒り、ネネシリスを罵った子に雪玉を投げつけた。こうなるとほぼ喧嘩だ。流れ弾が当たった子が次々に参戦していけば、もう誰が誰の味方なのか判らない。ただ雪玉が乱れ飛ぶ。けれど最後には、なぜかみんな笑っていた――

「今は好きじゃない?」
「雪を喜ぶほど子どもじゃなくなったってだけだよ」
「……それで、なにか思い出した?」

 唐突な質問にピエッチェがクルテを見た。クルテは横たわったまま、毛布から顔を出してピエッチェを見上げている。
「そうだな――雪合戦したのは王宮の庭のサワーフルド山側だった。だけど、サワーフルドが見えた覚えはない」

 きっとクルテが聞きたい答えとは違う。だけどそう答えるしかないと思った。四つの森の最後の一つがどこなのかを考えていた。クルテが言った通り、王宮の庭には森がある。それが四つめ……ラクティメシッスたちに聞かれるのを恐れて言えなかった。四つの森ってなんだと問われたら、どうしてそんな話になったのかを言わなければならない。森の女神に言われたからとは言えない。

 クルテはじっとピエッチェを見ていたが、やがてフッと笑った。
「日の出に起きだしたからか、もう眠いや」
そしてニマッと笑んで目を閉じた――

 翌朝、ピエッチェが目覚めるとクルテはまだ眠っていた。リュネは少し離れたところに立っていた。身体を起こしたピエッチェに気が付いたクルテが目を開けてニマッと笑う。
「なんか、よく寝た」
自分も身体を起こし、欠伸あくびしながら伸びをする。
「さてっと、朝食の食材探しからかな」

 周囲を見ると、クルテの声が聞こえたのか、カッチーもモゾモゾと動いている。ラクティメシッスとマデルが居ない、二人はキャビンで寝ているのか?

「クルテさん、今日はどこを探します?」
「まずはお湯を沸かしてお茶を淹れる」
すぐにカッチーが動き、ケトルに水を容れているところで、キャビンのドアが開いてラクティメシッスが降りてきた。

 ケトルを火にかけるとカッチーは、馬のためのバケツに水を注いだ。馬たちは思い思いにそのへんの草をんでいる。
「水も補給しないと拙いですね」
するとクルテが空を見上げて言った。
「食材探しが先か、水汲みが先か迷うところだ」
とっくに明るくなっている時刻なのにどんよりと暗い。空には雲が広がっている。

「雨が降れば湧き水も濁りますね。先に汲んでおきますか?」
ラクティメシッスも空を見上げる。

 クルテが空を見たまま
「土砂降りになる……雨が降ったら乾いた薪が手に入らない。つまり火がおこせない」
ボソッと言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...