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20章 試練の理由
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ラクティメシッスには頼れない。ザジリレン王家の特殊魔法を気取られる恐れがある。だからラクティメシッスがカッチーに魔法を教えると言い出す前に手を打たなくちゃならない。
「だったら、『魔法は俺が教える』って言えばいいだけなんじゃない?」
ピエッチェの説明を聞いてクルテが言った。
「ザジリレン王家に伝わる魔法は秘密だから、カティが魔法を使えるってことは誰にも漏らすなって口止めすればいい」
少し考えてからピエッチェが答えた。
「なぜカッチーには秘密を打ち明けたのか。その理由はどうする?」
今、知っているのはピエッチェ以外には姉クリオテナとクルテだけ、そんな秘密をカッチーに教える不自然さをどう説明する?
「カッチーにだけ特別って言えばいい」
「どうして自分が特別なのか、カッチーは戸惑うだろうな」
「父親が誰かはまだ分かっていないのに、母親の身分を明かしていいとは思えない」
クルテの言葉にピエッチェが唸る。が、
「俺だって父親が誰なのかも判ってからのほうがいいとは思う。でもクルテ、父親が誰であっても、母親が別人になるわけじゃない」
譲る気はない。
「ザジリレン王家の魔法の秘密を明かして、王家の血を引いている自覚をカッチーに持ってもらいたい――必要な事なんだ。俺はカッチーをこの先に連れて行きたい」
国王カテロヘブとしてザジリレン王都カッテンクリュードに入る。その時、カッチーを王族として待遇する……それがピエッチェの考えだ。
「王宮で調べてみたところで、必ず父親の素性が判るとは限らない。判明して、もしも王女を誘拐した罪に問われたとしても、カッチーがその責を負うような事態にはしない。カッチーの身分が確定していれば、むしろ回避しやすい。これこそ一石二鳥だと、俺は思うぞ」
「一石二鳥と言うよりは二石四鳥って感じだな」
ムッとクルテが言った。
「二石四鳥?」
「カッチーに母親の身分とザジリレン王家に特殊魔法が伝えられるって二つを教えることが二石。その結果、カッチーの魔法と王族としての身分保障の四鳥」
「それだと二石二鳥じゃ?」
「身分保障に王族教育と対外的な対抗処置を含んでる――まぁ、いい。カティの思うとおりに。わたしはそれを助けるだけだ」
ブルーベリーの袋の口を閉じ、玄関の間から右の通路に向かうクルテ、寝室に帰る気だ。
「待てよ。ラスティンとマデルをどうする気だ?」
「昼のメッチェンゼに行って貰う――ブルーベリーを摘んできてって頼めばいい。見付けたけど、袋を持って行かなかったから摘んでこれなかった。空袋を渡して、袋いっぱいって言う」
まだたっぷり入っている袋をサックに仕舞うクルテ、背負うのかと思っていたらサックは消えてしまった。寝室に、サックを置いてきたことにする気だ。
コイツ、やっぱり嘘つきだ。でも、その嘘に何度も助けられている……
寝室に戻るとなぜかカッチーが歌声を披露していた。ローシェッタの民謡だ。立って歌うカッチー、ラクティメシッスとマデルはソファーで寛いで聞き入っている。ひょっとしたら眠ってしまったんじゃないか? そんな心配は不要だった。
こっそりラクティメシッスに訊くと、ピエッチェたちが寝室を出てからも機嫌が直らないマデルに手を焼いていたが、カッチーが突然『俺、歌います!』と立ち上がったのだと言う。呆気にとられたものの『上手いじゃない』と呟いて、マデルも機嫌を直した。
「引っ込みがつかなくなっていたみたいです。カッチーに救われました」
ラクティメシッスがひそひそとピエッチェに耳打ちすれば、マデルがまなじりをあげた。
「わたしの悪口言ってるよねっ!?」
「言ってませんって! ねぇ、ピエッチェ?」
おーい、俺を巻き込むなよっ!
「だよね、ピエッチェ?」
横から聞こえたクルテの声、コイツ、いつも通りのマイペース、場の空気を読む気なんかない。ま、助かった。でも、なにが『だよね?』なんだ?
「クルテはちょっと引っ込んでて。ラスティンとピエッチェに話があるの――今、二人でコソコソ、わたしの悪口言ったよね? 白状しなさい!」
マデルは一気に不機嫌モード、あぁあ、カッチーの歌も消えちゃった。どうしたんだって顔でオドオド様子を窺ってる。
「そんなこと、ラスティンはともかく、カティが言うわけないじゃん」
ケロッと言い放つクルテ、
「マデル、自意識過剰」
おい、それ、火に油を注いでるぞ!
「まっ! クルテ、あんた、あんた……」
サッと蒼褪めたマデル、だがクルテがその隙をついた。
「ねぇ、カティ。ブルーベリーがたくさんあったんだよね?」
「え? あぁ……うん、でもこいつ、サックを忘れてて、摘んでも入れる袋がなくって。な?」
これでいいんだろ? こういうことだよな?
「だから、マデルと一緒に摘んできて貰えないかラスティンに頼んでってカティに言っといた――その話をしてたんでしょ?」
「うん、お嬢さんの言う通りですよ、マデル」
ラクティメシッスがすんなりと話を合わせた。
どうやって二人を寝室から出すか、クルテから聞いていたから俺はすぐに察せたけれど、そうじゃなければ戸惑っていた。ラクティメシッスの察しの良さは大したもんだ。
「昼のメッチェンゼの、ずっと奥の方ですね?――行くよ、マデル。ピエッチェの好物だそうです。でもお嬢さんは、もう疲れてしまったんだとか」
ラクティメシッスがリボンを解き始め、クルテがサックから新しい紙袋を出して
「お願い、マデル」
マデルに渡せば、
「えっ? あ、まぁ、うん。そういうことなら仕方ないわね」
なんだか疑わしいと顔で言いながら、マデルもしぶしぶ自分のリボンを解き始める。
「あ、じゃあ、俺も」
「カッチーはわたしとカティの護衛」
「へっ?」
手をリボンに伸ばしていたカッチーがびっくり眼でクルテを見る。
「わたしもカティも、昼のメッチェンゼの奥ぅ~のほうまで行ったから、歩き疲れちゃった。カッチーまでいなくなったら不安」
「でも、俺なんかが二人の護衛?」
「クリンナーテンに怒られるよ? 俺なんか、なんて言うな」
リボンを外し終わったマデルがクスリと笑う。
「そうね、カッチー。俺なんかなんて言っちゃダメよ――クリンナーテン、元気にしているかしらねぇ?」
ラクティメシッスがそっと微笑む。
「チュジャバリテがついているんだから、心配いりませんよ。きっとチュジャバリテの奥方や妹さんと、男どもの悪口を楽しんでいます」
あらら、ラスティン、ここで『悪口』って……逆なでするなよ!
ところがピエッチェの予測に反して、マデルもニマっと笑った。
「そうね……悪口って愛情の裏返しってこともあるものね。いちいち気にしたわたしが大人げなかったわ」
ラクティメシッスが
「行きましょう……二人っきりは久々ですね。ちょっとデート気分です」
マデルに手を差し出す。恥ずかしげに笑んだマデルが、ラクティメシッスの手に自分の手を重ねた――
護衛役は嬉しいんだけど……ラクティメシッスたちが寝室を出てからカッチーがボヤいた。二人を見送ってから、カッチーも含め三人でソファーに座っていた。
「俺だけ一人なのを、こうなんて言うか、なんかしみじみ感じました」
フフンと鼻を鳴らし、クルテが立ち上がる。
「寂しがってる暇はないよ、カッチー」
既にリボンはカッチーも外している。大丈夫なんですか? と不安そうだったが、『ワイズリッヒェは何もできないと判ったから心配ない』とクルテに言われ、苦労して結び目を解いていた。料理は上手に作るが、細かい作業は苦手らしい。裁縫したことがあるかとピエッチェに訊かれ、針に糸が通せないんですよと顔を赤くしていた。
「暇はないって? 疲れたからノンビリするんじゃなかったんですか?」
訝るカッチー、ピエッチェも立ち上がったのを見て戸惑いながらも立ち上がった。
「カティがね、自分も魔法が使えるところをカッチーに見せたいって」
「ピエッチェさんが俺に? えっ? 魔法?」
「凄い魔法だよ。でもね、ラスティンにもマデルにも知られたくない。ザジリレン王家の秘密の魔法だから」
「え、だって、秘密?」
「ピエッチェは実は魔法が得意。でも知っているのは姉さんのクリオテナとわたしだけ。カッチーも秘密にしてくれるよね?」
「あ……それはもちろんです。言うなって言われれば、死んでも誰にも言ったりしません。でも、その秘密って、あれ?」
急に首を傾げたカッチー、何か考え込んでいる。クルテが
「どうかした?」
と問えば、
「いや、その……ピエッチェさんの秘密って聞いて、クルテさんがピエッチェさんに魔力を委譲したのかなって考えたんですけど――クリオテナさまもご存知ってなると辻褄が合わないなって」
おずおずとカッチーがクルテを見る。うーーん、カッチー、おまえ、舞い上がり過ぎ。クルテはちゃんと『秘密の魔法』って言ったぞ?
クルテが穏やかに微笑んだ。いつものニマニマ笑いじゃない。
「カティはね、もともと魔力が強いんだ。それを隠して少ししか魔力がないように誤魔化してる。ラスティンは時どき怪しんでるけど、尻尾を掴めない。カティの防御術のほうが強いんだよ」
「すいません、なんか理解が追い付かなくて……でも、なにしろピエッチェさんは魔法が使えて、それを隠してるし、他人に知られたくないってのは判りました。はい、誰にも言いません。いっさい言いません。さっきも言ったけど、墓穴まで持ってきます」
何度もクルテに頷くカッチー、クルテが
「あとはカティに訊いて」
ピエッチェに話を振った。さて、どこから始めようか?
「話したいことはまだあるけれど、ラスティンたちが戻る前にやらなきゃならないことがある。ワイズリッヒェを片付けたい。そのあと詳しく話す……えっと、ラスティンたちが戻ってきたら、また機会を作るからそのつもりでいて欲しい」
「はい! ピエッチェさんから声がかかるまで、そんな素振りは絶対見せません」
真剣な顔のカッチーにホッとするピエッチェだ。
秘密の話をしなくちゃならないってだけで秘密を持ったことになる。そして秘密ってヤツは後ろめたい、顔に出やすい。カッチーはちゃんとそれが判っている。秘密を持ったことをラクティメシッスにも気づかれないよう気を付けると言ってくれた。
ピエッチェが気を張り巡らせて屋敷の中を探る。
「ラスティンとマデルが昼のメッチェンゼに入った」
クルテも同じことをしていたらしい。
「あれ? この屋敷の中じゃ魔法が使えないんじゃ?」
カッチーの疑問は無視した。
ワイズリッヒェの気配はやはり感じ取れない。昼のメッチェンゼから出て以来、気を付けているが一度も感じない――ヤツは地下の結界の中に居る。
クルテが寝室のドアを開き、こっちに来いとカッチーを呼んだ。
「だったら、『魔法は俺が教える』って言えばいいだけなんじゃない?」
ピエッチェの説明を聞いてクルテが言った。
「ザジリレン王家に伝わる魔法は秘密だから、カティが魔法を使えるってことは誰にも漏らすなって口止めすればいい」
少し考えてからピエッチェが答えた。
「なぜカッチーには秘密を打ち明けたのか。その理由はどうする?」
今、知っているのはピエッチェ以外には姉クリオテナとクルテだけ、そんな秘密をカッチーに教える不自然さをどう説明する?
「カッチーにだけ特別って言えばいい」
「どうして自分が特別なのか、カッチーは戸惑うだろうな」
「父親が誰かはまだ分かっていないのに、母親の身分を明かしていいとは思えない」
クルテの言葉にピエッチェが唸る。が、
「俺だって父親が誰なのかも判ってからのほうがいいとは思う。でもクルテ、父親が誰であっても、母親が別人になるわけじゃない」
譲る気はない。
「ザジリレン王家の魔法の秘密を明かして、王家の血を引いている自覚をカッチーに持ってもらいたい――必要な事なんだ。俺はカッチーをこの先に連れて行きたい」
国王カテロヘブとしてザジリレン王都カッテンクリュードに入る。その時、カッチーを王族として待遇する……それがピエッチェの考えだ。
「王宮で調べてみたところで、必ず父親の素性が判るとは限らない。判明して、もしも王女を誘拐した罪に問われたとしても、カッチーがその責を負うような事態にはしない。カッチーの身分が確定していれば、むしろ回避しやすい。これこそ一石二鳥だと、俺は思うぞ」
「一石二鳥と言うよりは二石四鳥って感じだな」
ムッとクルテが言った。
「二石四鳥?」
「カッチーに母親の身分とザジリレン王家に特殊魔法が伝えられるって二つを教えることが二石。その結果、カッチーの魔法と王族としての身分保障の四鳥」
「それだと二石二鳥じゃ?」
「身分保障に王族教育と対外的な対抗処置を含んでる――まぁ、いい。カティの思うとおりに。わたしはそれを助けるだけだ」
ブルーベリーの袋の口を閉じ、玄関の間から右の通路に向かうクルテ、寝室に帰る気だ。
「待てよ。ラスティンとマデルをどうする気だ?」
「昼のメッチェンゼに行って貰う――ブルーベリーを摘んできてって頼めばいい。見付けたけど、袋を持って行かなかったから摘んでこれなかった。空袋を渡して、袋いっぱいって言う」
まだたっぷり入っている袋をサックに仕舞うクルテ、背負うのかと思っていたらサックは消えてしまった。寝室に、サックを置いてきたことにする気だ。
コイツ、やっぱり嘘つきだ。でも、その嘘に何度も助けられている……
寝室に戻るとなぜかカッチーが歌声を披露していた。ローシェッタの民謡だ。立って歌うカッチー、ラクティメシッスとマデルはソファーで寛いで聞き入っている。ひょっとしたら眠ってしまったんじゃないか? そんな心配は不要だった。
こっそりラクティメシッスに訊くと、ピエッチェたちが寝室を出てからも機嫌が直らないマデルに手を焼いていたが、カッチーが突然『俺、歌います!』と立ち上がったのだと言う。呆気にとられたものの『上手いじゃない』と呟いて、マデルも機嫌を直した。
「引っ込みがつかなくなっていたみたいです。カッチーに救われました」
ラクティメシッスがひそひそとピエッチェに耳打ちすれば、マデルがまなじりをあげた。
「わたしの悪口言ってるよねっ!?」
「言ってませんって! ねぇ、ピエッチェ?」
おーい、俺を巻き込むなよっ!
「だよね、ピエッチェ?」
横から聞こえたクルテの声、コイツ、いつも通りのマイペース、場の空気を読む気なんかない。ま、助かった。でも、なにが『だよね?』なんだ?
「クルテはちょっと引っ込んでて。ラスティンとピエッチェに話があるの――今、二人でコソコソ、わたしの悪口言ったよね? 白状しなさい!」
マデルは一気に不機嫌モード、あぁあ、カッチーの歌も消えちゃった。どうしたんだって顔でオドオド様子を窺ってる。
「そんなこと、ラスティンはともかく、カティが言うわけないじゃん」
ケロッと言い放つクルテ、
「マデル、自意識過剰」
おい、それ、火に油を注いでるぞ!
「まっ! クルテ、あんた、あんた……」
サッと蒼褪めたマデル、だがクルテがその隙をついた。
「ねぇ、カティ。ブルーベリーがたくさんあったんだよね?」
「え? あぁ……うん、でもこいつ、サックを忘れてて、摘んでも入れる袋がなくって。な?」
これでいいんだろ? こういうことだよな?
「だから、マデルと一緒に摘んできて貰えないかラスティンに頼んでってカティに言っといた――その話をしてたんでしょ?」
「うん、お嬢さんの言う通りですよ、マデル」
ラクティメシッスがすんなりと話を合わせた。
どうやって二人を寝室から出すか、クルテから聞いていたから俺はすぐに察せたけれど、そうじゃなければ戸惑っていた。ラクティメシッスの察しの良さは大したもんだ。
「昼のメッチェンゼの、ずっと奥の方ですね?――行くよ、マデル。ピエッチェの好物だそうです。でもお嬢さんは、もう疲れてしまったんだとか」
ラクティメシッスがリボンを解き始め、クルテがサックから新しい紙袋を出して
「お願い、マデル」
マデルに渡せば、
「えっ? あ、まぁ、うん。そういうことなら仕方ないわね」
なんだか疑わしいと顔で言いながら、マデルもしぶしぶ自分のリボンを解き始める。
「あ、じゃあ、俺も」
「カッチーはわたしとカティの護衛」
「へっ?」
手をリボンに伸ばしていたカッチーがびっくり眼でクルテを見る。
「わたしもカティも、昼のメッチェンゼの奥ぅ~のほうまで行ったから、歩き疲れちゃった。カッチーまでいなくなったら不安」
「でも、俺なんかが二人の護衛?」
「クリンナーテンに怒られるよ? 俺なんか、なんて言うな」
リボンを外し終わったマデルがクスリと笑う。
「そうね、カッチー。俺なんかなんて言っちゃダメよ――クリンナーテン、元気にしているかしらねぇ?」
ラクティメシッスがそっと微笑む。
「チュジャバリテがついているんだから、心配いりませんよ。きっとチュジャバリテの奥方や妹さんと、男どもの悪口を楽しんでいます」
あらら、ラスティン、ここで『悪口』って……逆なでするなよ!
ところがピエッチェの予測に反して、マデルもニマっと笑った。
「そうね……悪口って愛情の裏返しってこともあるものね。いちいち気にしたわたしが大人げなかったわ」
ラクティメシッスが
「行きましょう……二人っきりは久々ですね。ちょっとデート気分です」
マデルに手を差し出す。恥ずかしげに笑んだマデルが、ラクティメシッスの手に自分の手を重ねた――
護衛役は嬉しいんだけど……ラクティメシッスたちが寝室を出てからカッチーがボヤいた。二人を見送ってから、カッチーも含め三人でソファーに座っていた。
「俺だけ一人なのを、こうなんて言うか、なんかしみじみ感じました」
フフンと鼻を鳴らし、クルテが立ち上がる。
「寂しがってる暇はないよ、カッチー」
既にリボンはカッチーも外している。大丈夫なんですか? と不安そうだったが、『ワイズリッヒェは何もできないと判ったから心配ない』とクルテに言われ、苦労して結び目を解いていた。料理は上手に作るが、細かい作業は苦手らしい。裁縫したことがあるかとピエッチェに訊かれ、針に糸が通せないんですよと顔を赤くしていた。
「暇はないって? 疲れたからノンビリするんじゃなかったんですか?」
訝るカッチー、ピエッチェも立ち上がったのを見て戸惑いながらも立ち上がった。
「カティがね、自分も魔法が使えるところをカッチーに見せたいって」
「ピエッチェさんが俺に? えっ? 魔法?」
「凄い魔法だよ。でもね、ラスティンにもマデルにも知られたくない。ザジリレン王家の秘密の魔法だから」
「え、だって、秘密?」
「ピエッチェは実は魔法が得意。でも知っているのは姉さんのクリオテナとわたしだけ。カッチーも秘密にしてくれるよね?」
「あ……それはもちろんです。言うなって言われれば、死んでも誰にも言ったりしません。でも、その秘密って、あれ?」
急に首を傾げたカッチー、何か考え込んでいる。クルテが
「どうかした?」
と問えば、
「いや、その……ピエッチェさんの秘密って聞いて、クルテさんがピエッチェさんに魔力を委譲したのかなって考えたんですけど――クリオテナさまもご存知ってなると辻褄が合わないなって」
おずおずとカッチーがクルテを見る。うーーん、カッチー、おまえ、舞い上がり過ぎ。クルテはちゃんと『秘密の魔法』って言ったぞ?
クルテが穏やかに微笑んだ。いつものニマニマ笑いじゃない。
「カティはね、もともと魔力が強いんだ。それを隠して少ししか魔力がないように誤魔化してる。ラスティンは時どき怪しんでるけど、尻尾を掴めない。カティの防御術のほうが強いんだよ」
「すいません、なんか理解が追い付かなくて……でも、なにしろピエッチェさんは魔法が使えて、それを隠してるし、他人に知られたくないってのは判りました。はい、誰にも言いません。いっさい言いません。さっきも言ったけど、墓穴まで持ってきます」
何度もクルテに頷くカッチー、クルテが
「あとはカティに訊いて」
ピエッチェに話を振った。さて、どこから始めようか?
「話したいことはまだあるけれど、ラスティンたちが戻る前にやらなきゃならないことがある。ワイズリッヒェを片付けたい。そのあと詳しく話す……えっと、ラスティンたちが戻ってきたら、また機会を作るからそのつもりでいて欲しい」
「はい! ピエッチェさんから声がかかるまで、そんな素振りは絶対見せません」
真剣な顔のカッチーにホッとするピエッチェだ。
秘密の話をしなくちゃならないってだけで秘密を持ったことになる。そして秘密ってヤツは後ろめたい、顔に出やすい。カッチーはちゃんとそれが判っている。秘密を持ったことをラクティメシッスにも気づかれないよう気を付けると言ってくれた。
ピエッチェが気を張り巡らせて屋敷の中を探る。
「ラスティンとマデルが昼のメッチェンゼに入った」
クルテも同じことをしていたらしい。
「あれ? この屋敷の中じゃ魔法が使えないんじゃ?」
カッチーの疑問は無視した。
ワイズリッヒェの気配はやはり感じ取れない。昼のメッチェンゼから出て以来、気を付けているが一度も感じない――ヤツは地下の結界の中に居る。
クルテが寝室のドアを開き、こっちに来いとカッチーを呼んだ。
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