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20章 試練の理由
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「あなたは? 魔法、使える?」
「マデル、落ち着いて」
キーキー喚くマデルにラクティメシッスの低い声、だが実は内心焦れている。マデルが言うとおり、魔法の発動は感じても効力が発揮されない。
「早くこんなの退かしてっ!」
「……無理です」
「ラスティン? あなたは魔法、使えないの?」
急激に勢いがそがれるマデルの声、頼みの綱のラクティメシッス、なのに魔法が使えない?
「マデルも感じているんでしょう? わたしの魔法だって発動されてる。だけど効力無効……わたしよりもずっと強大な魔力が家具をここに固定しています。動かすには施術者によって解除されるか、施術者を倒すしかありません」
「施術者は? 誰だか判る?」
ラクティメシッスが考え込む。
「お嬢さん……」
「クルテ?」
「でなければワイズリッヒェ……かな?」
「何よ、それ?」
「よく判らないんです。でも、人間の魔法じゃない。いや……人間の魔力だけじゃない、そんな気がします」
「気がします、って……」
茫然とラクティメっすを見るマデル、そしてハッとする。
「ちょっと待って。人間の魔法じゃないって感じてたのに、なんで最初にクルテだって言ったの?」
呆けたように自分を見詰めるマデルをチラリと見て、ラクティメシッスが溜息を吐いた。
「根拠らしい根拠はありませんよ――この屋敷の中で魔法が使えるのは、わたしとあなたを除いたらお嬢さんとワイズリッヒェ。ピエッチェからはこんなに大きな魔力を感じないし、カッチーだとしたら魔力の暴走ってことになります」
「本当に?……まぁ、確かにそうよね。魔物の気配は感じられないし」
「そうですね、魔物の気配は感じられませんね」
内心ほっとしているラクティメシッスだ。
家具を積み上げたのはきっと女神の魔法、そう感じて『お嬢さん』と言ってしまった。真実はともかくピエッチェは『クルテは人間だ』と主張している。そして人間だと信じて疑わないマデル……ここで『お嬢さんは人間じゃありませんよ』とは言えない。まして『森の女神』だと思っているなんて言ったところで笑い飛ばされる。
再び溜息を吐いて、積み上げられた家具をラクティメシッスが見上げた。それを見てマデルも溜息を吐く。
「森の女神の気配は、どうして感知できないのかしら?」
「そうですねぇ……」
積み上げられた中に、力任せで出せそうなソファーを見つけたラクティメシッス、引っ張りながらマデルに答える。
「以前は感知できたらしいです。森に行って探せば女神を見付けられた。そして女神は人間の話を聞いてくれていた――だけど、人間って勝手でしょう? 自分たちの都合のいいようにいろいろなものを作り変えるのが好きだ。そんな人間に呆れた森の女神は人間から隠れてしまった」
マデルがフッと笑う。
「ラスティン、それって伝説でしょう? カッチーから借りた本にでも載ってた?」
「えぇ、載ってましたよ。それに……子どもの頃に守役から聞かされた覚えがあります」
「絵本の読み聞かせね? わたしもそうよ」
ソファーを引っ張り出すのに成功したラクティメシッスが『お掛けくださいな』とマデルに勧める。腰かけるマデル、
「あなたは立ちっぱなし?」
家具の山を見る。手前にはもうソファーはなさそうだ。
「ま、わたしは立ちっぱなしでもどうってことありません――せっかくだからブルーベリーをいただきましょうか?」
「あら、立ったまま食べる気?」
「戦場で行儀なんか気にしていられませんから」
ブルーベリーの袋の口を開けてマデルが笑う。
「戦場でブルーベリーを食べるなんて、変な気分だわ――はい、どうぞ」
差し出された袋に手を突っ込んだラクティメシッス、一掴みのブルーベリーを掌に乗せたまま、積み上げられた家具の向こうを見据える。寝室で何が起きているのか気掛かりだった。
「甘いですねぇ……早くピエッチェにも食べさせてあげたいものです」
寝室にはクルテもいる。ピエッチェは無事だ……ラクティメシッスは、自分にそう言い聞かせていた――
カテルクルストの息子たち、ワイズリッヒェははっきりそう言った。
「たちってどういうことですか? それに、今、俺……スワニーで森の女神に祝福された時と同じように身体の中が熱くなったんです」
ワイズリッヒェの目は今も虚ろ、それを利用して『錯乱しているから変なことを言ったんだろう』と誤魔化そうかと迷ったが、クルテを見るとピエッチェを見上げている――そうか、カッチーに母親のことを話す切っ掛けのために、わざとワイズリッヒェに『息子たち』と言わせたのか?
うん、と頷いてカッチーに向き直り、
「大事な話をする。よく聞いて欲しい」
居住まいを正したピエッチェにカッチーが緊張する。
「まずは本当の名を教えて欲しい」
「本当の名?」
「カッチーが通称なのは判っている。俺の『ピエッチェ』と同じだよな?」
「えぇ、はい。以前にもそれはお話ししました。母から誰にも教えるなって言われてるって言いましたよね?」
俺の名と身分を知っていても教えられないのか? そう言おうと思ったが、
「これからカッチーには魔法を教えようと思っている。そのために必要なんだ。教えて欲しい」
強制はしたくない。
「俺……」
考え込むカッチー、ピエッチェを見詰めている。ピエッチェは穏やかにカッチーを見詰め、待っている。
ちょっとだけ俯いたカッチー、きっぱりとした表情で顔をあげて言った。
「俺の本当の名はカッスゥダヘルです」
そうか、と頷くピエッチェ、ちょっと迷ってから
「カッスゥダヘル……母親の名はスカーシレリで間違いないな?」
と言えば、カッチーが息を飲む。
「なんで母の名を? いや、スカーシャって名乗ってました。でも、本当の名はスカーシレリだって、亡くなる少し前に教えられました。俺、自分の本名もその時、知ったんです」
「お母さんは本当の名を隠す理由も教えてくれたか?」
「いいえ。でも、誰にも知られちゃならないって。だけど忘れちゃダメだって……母さんの名も俺の名も、知られたら何が起こるか判らないって」
「うん。でも、もうその心配はない――スカーシレリは俺の父の妹だ」
「えっ……?」
ピエッチェを見詰めるカッチー、ピエッチェもカッチーから目を離さない。
「って、ピエッチェさん? なんで国王の妹がコゲゼリテで? そりゃあ、父はザジリレンの騎士だって……だけど、なんで王女が?」
「うん……実はスカーシレリって王女はザジリレン王家に存在しない」
「はぁ? 俺を揶揄って……あっ、失われた王女?」
激昂しそうだったが『失われた王女』を思い出したカッチー、ピエッチェを見詰める目が泳ぎだし、次第にピエッチェから離れていく。
「俺の母ちゃんがザジリレンの失われた王女? だったら、父ちゃんはなんで母ちゃんと? だって、父ちゃんには正式な妻がいて……」
頭の中を整理しようとしているカッチー、見守るつもりのピエッチェをクルテがそっと小突いた。
「いつまでもワイズリッヒェを支配していられない」
やっぱりそうか。ワイズリッヒェの様子が奇怪しいのはクルテの魔法か。
「カッチー、急な話だ。戸惑うのも判る。だけど今は時間がない。この話をしたのはすぐに伝えておきたいことがあるからだ。聞いてくれ」
ピエッチェの声に、カッチーが顔をあげる。なんとも情けない顔だ。そして思いもよらないことを訊いてきた。
「ピエッチェさんは母ちゃんのこと、最初から知ってたんですか?」
「え、いや、知ったのは最近だよ。ジョーンキの森の女神が教えてくれた。ほら、魔物がうじゃうじゃいて、でっかいヘビの首をぶった切ったあの森でだ」
「あ……ヘビが炎を吐いた時、俺、変だったんです。身体の外側は熱くないのに、中の方がぼっと熱くって。魔物の炎は体内から焼いてくのかと思いました」
「あぁ、それって二回なかったか? ジョーンキとケインズ、両方の女神が祝福したと思う」
「そう言われるとそうなのかな? よく判りません。ヘビに焼かれちゃうんじゃないかって、そっちに気をとられてて……だけどそう考えるとあの熱さ、スワニーの女神の祝福と同じ気がします」
感慨深げなカッチー、でももう待っていられない。
「俺としては、カッチーをザジリレン王家に迎えたいと思ってる」
「王族に、ですか? 俺を?」
「判るとは思うが今すぐじゃない。カッテンクリュードに戻り、俺の王権が完全に戻ってからになる……それまでよく考えておいてくれないか?」
カッチーの思考は麻痺しているようだ。ワイズリッヒェほどではないが、表情が乏しくなっている……無理もないか。貴族だとは思っていたが王族だなんて、夢にも思っていなかっただろう。
「それで、だ……」
ピエッチェが仕切り直す。
「ザジリレン国王は、魔法を使えることを秘密にしなくてはならない――これはカテルクルストの訓え、だから魔法が使えるのを隠したのは俺だけじゃない。俺の父も、祖父も隠していた。代々の王は全員、魔法が苦手だってことになっている」
「なんでそんな必要が?」
話が変わったからか、カッチーの目に生気が戻っている。いつものカッチーだ。
「魔法が使えるのは恥だとか、考えていませんよね?」
「……ザジリレン王家では、カテルクルストはローシェッタ国から追い出された王子ってことになっている」
「えっ?」
「事実はどうだったか? まぁ、カテルクルストが勝手にそう感じていただけかもしれないし、だからと言ってローシェッタ王家を恨んでいるわけでもない――追い出される原因は自分にあったのだと考えたカテルクルストは、自分の強大な魔力を隠すことを考えた……ローシェッタは魔法の国だ。そのローシェッタの王よりも強い魔力を持つ王が他に居れば、災いの種になると考えたんだ」
少し考えてからカッチーが、
「判りました。ザジリレン王家は、特に王は魔法が苦手だと思うことにします。たとえ事実が違っても」
ピエッチェにニッコリと笑む。
「ピエッチェさんの魔法って凄いですよね。ラスティンさんが、ピエッチェさんが魔法を使えるなんて思ってもなさそうなところを見ても判ります」
それから少し照れて笑った。
「実は、クルテさんが『凄い魔法』だって言ってたけど、さっきの魔法、どこが凄いのかよく判りませんでした。あ、そうだ……宙に浮かせたベッドとかって、ドアを通ってどこかに飛ばしましたよね?」
「ほう、気付いてたか?」
ピエッチェが微笑むと嬉しそうな顔をするカッチー、そこにクルテが口を挟んだ。
「ねぇ、もうダメ……解術するよ?」
ワイズリッヒェを押さえているのは限界らしい。今、カッチーに伝えたいことはすべて伝えた。あとはおいおい話せばいい。
ワイズリッヒェが『ううっ』と呻いて身動いだ。クルテが束縛を解いたらしい――
「マデル、落ち着いて」
キーキー喚くマデルにラクティメシッスの低い声、だが実は内心焦れている。マデルが言うとおり、魔法の発動は感じても効力が発揮されない。
「早くこんなの退かしてっ!」
「……無理です」
「ラスティン? あなたは魔法、使えないの?」
急激に勢いがそがれるマデルの声、頼みの綱のラクティメシッス、なのに魔法が使えない?
「マデルも感じているんでしょう? わたしの魔法だって発動されてる。だけど効力無効……わたしよりもずっと強大な魔力が家具をここに固定しています。動かすには施術者によって解除されるか、施術者を倒すしかありません」
「施術者は? 誰だか判る?」
ラクティメシッスが考え込む。
「お嬢さん……」
「クルテ?」
「でなければワイズリッヒェ……かな?」
「何よ、それ?」
「よく判らないんです。でも、人間の魔法じゃない。いや……人間の魔力だけじゃない、そんな気がします」
「気がします、って……」
茫然とラクティメっすを見るマデル、そしてハッとする。
「ちょっと待って。人間の魔法じゃないって感じてたのに、なんで最初にクルテだって言ったの?」
呆けたように自分を見詰めるマデルをチラリと見て、ラクティメシッスが溜息を吐いた。
「根拠らしい根拠はありませんよ――この屋敷の中で魔法が使えるのは、わたしとあなたを除いたらお嬢さんとワイズリッヒェ。ピエッチェからはこんなに大きな魔力を感じないし、カッチーだとしたら魔力の暴走ってことになります」
「本当に?……まぁ、確かにそうよね。魔物の気配は感じられないし」
「そうですね、魔物の気配は感じられませんね」
内心ほっとしているラクティメシッスだ。
家具を積み上げたのはきっと女神の魔法、そう感じて『お嬢さん』と言ってしまった。真実はともかくピエッチェは『クルテは人間だ』と主張している。そして人間だと信じて疑わないマデル……ここで『お嬢さんは人間じゃありませんよ』とは言えない。まして『森の女神』だと思っているなんて言ったところで笑い飛ばされる。
再び溜息を吐いて、積み上げられた家具をラクティメシッスが見上げた。それを見てマデルも溜息を吐く。
「森の女神の気配は、どうして感知できないのかしら?」
「そうですねぇ……」
積み上げられた中に、力任せで出せそうなソファーを見つけたラクティメシッス、引っ張りながらマデルに答える。
「以前は感知できたらしいです。森に行って探せば女神を見付けられた。そして女神は人間の話を聞いてくれていた――だけど、人間って勝手でしょう? 自分たちの都合のいいようにいろいろなものを作り変えるのが好きだ。そんな人間に呆れた森の女神は人間から隠れてしまった」
マデルがフッと笑う。
「ラスティン、それって伝説でしょう? カッチーから借りた本にでも載ってた?」
「えぇ、載ってましたよ。それに……子どもの頃に守役から聞かされた覚えがあります」
「絵本の読み聞かせね? わたしもそうよ」
ソファーを引っ張り出すのに成功したラクティメシッスが『お掛けくださいな』とマデルに勧める。腰かけるマデル、
「あなたは立ちっぱなし?」
家具の山を見る。手前にはもうソファーはなさそうだ。
「ま、わたしは立ちっぱなしでもどうってことありません――せっかくだからブルーベリーをいただきましょうか?」
「あら、立ったまま食べる気?」
「戦場で行儀なんか気にしていられませんから」
ブルーベリーの袋の口を開けてマデルが笑う。
「戦場でブルーベリーを食べるなんて、変な気分だわ――はい、どうぞ」
差し出された袋に手を突っ込んだラクティメシッス、一掴みのブルーベリーを掌に乗せたまま、積み上げられた家具の向こうを見据える。寝室で何が起きているのか気掛かりだった。
「甘いですねぇ……早くピエッチェにも食べさせてあげたいものです」
寝室にはクルテもいる。ピエッチェは無事だ……ラクティメシッスは、自分にそう言い聞かせていた――
カテルクルストの息子たち、ワイズリッヒェははっきりそう言った。
「たちってどういうことですか? それに、今、俺……スワニーで森の女神に祝福された時と同じように身体の中が熱くなったんです」
ワイズリッヒェの目は今も虚ろ、それを利用して『錯乱しているから変なことを言ったんだろう』と誤魔化そうかと迷ったが、クルテを見るとピエッチェを見上げている――そうか、カッチーに母親のことを話す切っ掛けのために、わざとワイズリッヒェに『息子たち』と言わせたのか?
うん、と頷いてカッチーに向き直り、
「大事な話をする。よく聞いて欲しい」
居住まいを正したピエッチェにカッチーが緊張する。
「まずは本当の名を教えて欲しい」
「本当の名?」
「カッチーが通称なのは判っている。俺の『ピエッチェ』と同じだよな?」
「えぇ、はい。以前にもそれはお話ししました。母から誰にも教えるなって言われてるって言いましたよね?」
俺の名と身分を知っていても教えられないのか? そう言おうと思ったが、
「これからカッチーには魔法を教えようと思っている。そのために必要なんだ。教えて欲しい」
強制はしたくない。
「俺……」
考え込むカッチー、ピエッチェを見詰めている。ピエッチェは穏やかにカッチーを見詰め、待っている。
ちょっとだけ俯いたカッチー、きっぱりとした表情で顔をあげて言った。
「俺の本当の名はカッスゥダヘルです」
そうか、と頷くピエッチェ、ちょっと迷ってから
「カッスゥダヘル……母親の名はスカーシレリで間違いないな?」
と言えば、カッチーが息を飲む。
「なんで母の名を? いや、スカーシャって名乗ってました。でも、本当の名はスカーシレリだって、亡くなる少し前に教えられました。俺、自分の本名もその時、知ったんです」
「お母さんは本当の名を隠す理由も教えてくれたか?」
「いいえ。でも、誰にも知られちゃならないって。だけど忘れちゃダメだって……母さんの名も俺の名も、知られたら何が起こるか判らないって」
「うん。でも、もうその心配はない――スカーシレリは俺の父の妹だ」
「えっ……?」
ピエッチェを見詰めるカッチー、ピエッチェもカッチーから目を離さない。
「って、ピエッチェさん? なんで国王の妹がコゲゼリテで? そりゃあ、父はザジリレンの騎士だって……だけど、なんで王女が?」
「うん……実はスカーシレリって王女はザジリレン王家に存在しない」
「はぁ? 俺を揶揄って……あっ、失われた王女?」
激昂しそうだったが『失われた王女』を思い出したカッチー、ピエッチェを見詰める目が泳ぎだし、次第にピエッチェから離れていく。
「俺の母ちゃんがザジリレンの失われた王女? だったら、父ちゃんはなんで母ちゃんと? だって、父ちゃんには正式な妻がいて……」
頭の中を整理しようとしているカッチー、見守るつもりのピエッチェをクルテがそっと小突いた。
「いつまでもワイズリッヒェを支配していられない」
やっぱりそうか。ワイズリッヒェの様子が奇怪しいのはクルテの魔法か。
「カッチー、急な話だ。戸惑うのも判る。だけど今は時間がない。この話をしたのはすぐに伝えておきたいことがあるからだ。聞いてくれ」
ピエッチェの声に、カッチーが顔をあげる。なんとも情けない顔だ。そして思いもよらないことを訊いてきた。
「ピエッチェさんは母ちゃんのこと、最初から知ってたんですか?」
「え、いや、知ったのは最近だよ。ジョーンキの森の女神が教えてくれた。ほら、魔物がうじゃうじゃいて、でっかいヘビの首をぶった切ったあの森でだ」
「あ……ヘビが炎を吐いた時、俺、変だったんです。身体の外側は熱くないのに、中の方がぼっと熱くって。魔物の炎は体内から焼いてくのかと思いました」
「あぁ、それって二回なかったか? ジョーンキとケインズ、両方の女神が祝福したと思う」
「そう言われるとそうなのかな? よく判りません。ヘビに焼かれちゃうんじゃないかって、そっちに気をとられてて……だけどそう考えるとあの熱さ、スワニーの女神の祝福と同じ気がします」
感慨深げなカッチー、でももう待っていられない。
「俺としては、カッチーをザジリレン王家に迎えたいと思ってる」
「王族に、ですか? 俺を?」
「判るとは思うが今すぐじゃない。カッテンクリュードに戻り、俺の王権が完全に戻ってからになる……それまでよく考えておいてくれないか?」
カッチーの思考は麻痺しているようだ。ワイズリッヒェほどではないが、表情が乏しくなっている……無理もないか。貴族だとは思っていたが王族だなんて、夢にも思っていなかっただろう。
「それで、だ……」
ピエッチェが仕切り直す。
「ザジリレン国王は、魔法を使えることを秘密にしなくてはならない――これはカテルクルストの訓え、だから魔法が使えるのを隠したのは俺だけじゃない。俺の父も、祖父も隠していた。代々の王は全員、魔法が苦手だってことになっている」
「なんでそんな必要が?」
話が変わったからか、カッチーの目に生気が戻っている。いつものカッチーだ。
「魔法が使えるのは恥だとか、考えていませんよね?」
「……ザジリレン王家では、カテルクルストはローシェッタ国から追い出された王子ってことになっている」
「えっ?」
「事実はどうだったか? まぁ、カテルクルストが勝手にそう感じていただけかもしれないし、だからと言ってローシェッタ王家を恨んでいるわけでもない――追い出される原因は自分にあったのだと考えたカテルクルストは、自分の強大な魔力を隠すことを考えた……ローシェッタは魔法の国だ。そのローシェッタの王よりも強い魔力を持つ王が他に居れば、災いの種になると考えたんだ」
少し考えてからカッチーが、
「判りました。ザジリレン王家は、特に王は魔法が苦手だと思うことにします。たとえ事実が違っても」
ピエッチェにニッコリと笑む。
「ピエッチェさんの魔法って凄いですよね。ラスティンさんが、ピエッチェさんが魔法を使えるなんて思ってもなさそうなところを見ても判ります」
それから少し照れて笑った。
「実は、クルテさんが『凄い魔法』だって言ってたけど、さっきの魔法、どこが凄いのかよく判りませんでした。あ、そうだ……宙に浮かせたベッドとかって、ドアを通ってどこかに飛ばしましたよね?」
「ほう、気付いてたか?」
ピエッチェが微笑むと嬉しそうな顔をするカッチー、そこにクルテが口を挟んだ。
「ねぇ、もうダメ……解術するよ?」
ワイズリッヒェを押さえているのは限界らしい。今、カッチーに伝えたいことはすべて伝えた。あとはおいおい話せばいい。
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