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22章 王都カッテンクリュードへ
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「さぁ早く! ドアを開けて助けを求めなさい!」
真剣な眼差しのダーロミダレム、確かにそれならネネシリスの誤解を回避できるかもしれない。それに、真偽はともかく罪人とされるダーロミダレムがこの部屋にいる言い訳にもなる。けれど?
「無礼だぞ、ダーロミダレム」
蒼褪めてはいるが、きっぱりとクリオテナが言い放つ。
「わたしに……王女にして王姉であるわたしに夫を騙せというのか? 臣下を売れと、おまえは言うか?」
「クリオテナさま……」
身動ぐダーロミダレム、クリオテナをマジマジと見て『なんとカテロヘブに似ている事か』と心の中で驚いている。二人とも母親である王妃さま似で、幼いころからよく似ていた。それでいて性格は正反対、物おじすることなくズバズバとモノを言うクリオテナは、決して相手に譲ったりしない。いっぽう何事にも控え目なカテロヘブは他者に譲ることが多かった――が、カテロヘブだって譲れないこともある。きっぱりと主張し、その根拠を明示する。その時のカテロヘブの物言いに、今のクリオテナはとてもよく似ている。
「心得違いは許しません――ダーロミダレム、わたしはザジリレン現国王の姉です。そのわたしが国王の忠実なる臣下に謂れのない罪を着せられるとお思いか? 脱獄はともかく、この部屋に押し入り、わたしを脅した事実などありません」
「畏れ入ります」
思わず跪き、首を垂れるダーロミダレム、誇り高き王姉になんと浅はかな進言をしたものか、恥じ入るばかりだ。だが、ではどうやってこの状況から活路を見出す?
「えっ?」
ダーロミダレムが跪くと同時にクリオテナが狼狽える。これくらいでなぜ動揺する? 不思議を感じたダーロミダレムが、垂れていた頭をあげてクリオテナを見上げれば、クリオテナが見ているのはダーロミダレムの後方の……窓か?
ハッと振り返って窓を見たダーロミダレムも表情を凍らせる。
「ネネス……」
窓から部屋を覗いていたのはグリアジード卿ネネシリスだ。
何も言えず、動けもしないダーロミダレムとクリオテナ、ネネシリスがフッと溜息をついて姿を消した。が、廊下の出入り口から屋内に回ったらしい。ドアをノックする音が聞こえた。
「クリオテナ、いいからまずは開けなさい――大切な話がある、客人にも聞いて貰いたい」
「客人?」
不安を隠しもしないクリオテナがダーロミダレムの顔を見る。
「あぁ、わたしのことだろうね……どちらにしろ、二人きりで居たことはバレてる。ここで部屋に入れなければ余計に拗れるだけだ」
クリオテナが大きな溜息を吐く。ネネシリスが何を言い出すのか不安なのだろう。だがとりあえず、すぐに責められることはないとダーロミダレムは考えていた。ネネシリスにとって今は『大切な話』こそが最優先事項、それはどんな事なのか? 自分にとっても重大なことに違いない。
クリオテナがドアを開ける。ゆっくりとネネシリスが部屋に入ってくる。じっとクリオテナの顔を見て、
「ちゃんと返事くらいしてください……何かあったんじゃないかって、随分と心配しました」
怒るのと涙ぐむのの中間あたりの顔で言う。
「それにしても……」
チラリとダーロミダレムを見て
「珍しい客を招いたものですね」
これは皮肉交じりだ。
「違うの、ダーロンとは食事をしてただけよ」
「なにがどう違うのか……わたしが二人の仲を疑うとでも思っていたかな?」
今度は少し怒りを見せる。
「ダーロンが牢から消えた時刻、クリオテナが厨房に食事を取りに行った時刻、そしてわたしがここに来た時刻を考えれば不貞を働く暇などなかった。それじゃあ気持ちの問題? それもないな、ダーロンは友人を裏切るような男じゃない――そもそもわたしがあなたを疑うと、本気で思っているのですか?」
ダーロミダレムが『そうか、そうだったのか』と思うのは、今日この部屋に来て何度目だろう? 遠い昔、クリオテナがネネシリスに冷たく当たり、意地悪な態度をとっていたのも、ネネシリスがクリオテナに逆らったのを見たことがなかったのも、こう言うことだったんだ。
いつだったか王妃さまがもっとネネシリスに優しくしろとクリオテナを叱ったことがある。クリオテナは拗ねただけだったが、ネネシリスは『クリオテナが我儘を言えるのは自分だけだからいいのです』と王妃さまに言った。それをダーロミダレムはネネシリスが王妃とクリオテナに諂ったのだと受け止めていた。でも違った。あれはネネシリスの本心だった。あのころ既に、ネネシリスの心はクリオテナのものだったのだ。
そしてクリオテナ、ネネシリスの気持ちが判っていながら、ダーロミダレムと同じように王族への阿りなのではないかと感じていた。違うか……王女であるがゆえ、手放しでは信じられなかった。あるいは自分に自信が持てなかった。今、ネネシリスが言ったじゃないか――疑うと、本気で思っているのですか?
ネネシリスはクリオテナを愛している。愛されていることも知っている。それを懸命にクリオテナに伝えようとしている。クリオテナもネネシリスを愛している。そして愛されていることも知っている。けれどいつでも不安なのだ。
だからネネシリスはクリオテナを必要以上に甘やかす。クリオテナは愛されていると実感し、安心するがすぐにまた不安になる。そして……二人はきっと生涯こうして相手を愛し、愛を求め続けていくのだろう。それは幸せなのか不幸なのか、そんなことは他人にとやかく言えることでも、助言できることでもない。この夫婦はこうなのだと、見守っているしかない。
まぁ、それが判ったところで何かが変わるということでもない……ダーロミダレムが苦笑する。そして皮肉った。
「夫婦仲がいいのはよく判った――で、だ。罪状が取り消されたら妻を世話して欲しいとネネスとクリオテナに頼みに来た。ネネス、いい女性はいないか?」
ネネシリスを見詰めるのに忙しく、ダーロミダレムを忘れていたクリオテナがハッとし、気になってはいたものの大切な妻が落ち着くまでは目を離せなかったネネシリスがダーロミダレムを見る。
「ふぅん。身を固める気になったか……牢に繋がれて、自分の生涯を考えたってところかな?」
こちらもやや皮肉交じりだ。
「まぁ、その件はクリオテナに任せておけばどうにでもなる。それより今はカテロヘブのことだ。大変なことになっている――クリオテナの力を借りようと思ってここに来た、なのに……まぁいいか」
なかなか応答して貰えなかったと苦情を途中でやめる。妻の機嫌を損ねるのを避けたのか、それどころではないと思い直したのか?
「カテロヘブ王がどうかした?」
ダーロミダレムが俄かに緊張する。
トロンペセスに預かった日記帳……ダーロミダレムに牢から出ろと言ったカテロヘブは『その時が来たら合図する』と書き込んできた。その合図はまだ来ない……まさか、不測の事態が起こった?
「それが……王宮にカテロヘブが、うん。居たんだ」
「へっ?」
「大門前広場にはジジョネテスキがコッテチカから引き連れた五千の軍勢がいる」
その件もカテロヘブから聞いているとダーロミダレムが思う。ローシェッタ国王太子を護衛して、デネパリエルから大門をくぐり、王宮正門に向かっているはずだ。でも、知っているとはこの時点では言えない。
深刻な顔でネネシリスが続ける。
「ジジョネテスキはデネパリエルからスナムデント街道ザーザングに行く予定だった。逆族討伐の命が王宮から下されていたのにデネパリエルで引き返し、王宮に向かっている」
「ってことはジジョネテスキは軍規違反ってことか?」
「うーーん。わたしは違うと思っている。大門前広場で行軍を止め、ジジョネテスキはデネパリエルに下見に行った。そこでローシェッタ国王太子と遭遇したらしい」
「ローシェッタの王太子? なんでデネパリエルに?」
これもカテロヘブから聞いて知っているのに惚けるダーロミダレム、
「昨夜、ローシェッタ国から公式書簡が届いている。王太子がその……カテロヘブ王をカッテンクリュードまでお送りする。到着は今日だ、とね」
答えるネネシリスはいまいち歯切れが悪い。
「王宮では早速ローシェッタの書簡の検討に入った。まぁ、信じるか信じないかってことだ――で、その話の最中にダーロン、おまえの脱獄の一報が入った。お陰で王宮内は収拾つかない状態になった」
溜息をつくネネシリス、が、少しニヤッとする。
「サンザメスク卿の館は大変なことになったぞ。ダーロミダレム捜索を命じられたラチャンデルがボヤいてた。見つかるまで探せって無茶なことを言われたってね。今も家探ししてるんじゃないかな?」
サンザメスク卿はダーロミダレムの父親だ。
「そうか、親父、カンカンか?」
「庭も滅茶苦茶にされたからな。でも、気にする様子はなかった。それどころじゃなくなったってのもある」
「おう、それでローシェッタ国王太子はどうすることになったんだ?」
「王宮の命令をラチャンデルに伝えに行ったのはわたしだ。どうせ答えなんか出ないと思ったからね。で、ラチャンデルに引っ張られてサンザメスク卿の館にも行った」
「うん、それで?」
「王宮から伝令が来て、わたしとサンザメスク卿は王宮、会議の間に戻ったんだが」
どう言えばいいのか迷うネネシリス、呆れた様子でダーロミダレムに告げる。
「うーーん……居たんだよ、カテロヘブが」
なんと答えるか、迷うのはダーロミダレムも同じだ。まだ合図が来ていない。王宮に姿を現すはずがない。だからそいつはカテロヘブ王じゃない――だが、言ってしまっていいものか? それに合図はなんらかの支障で送れなかっただけかもしれない。
ネネシリスが迷いながらも続けた。
「ソイツ、カテロヘブにそっくりなんだ。どこが違うか、よく判らない。背格好も歩く癖も、もちろん声だって」
だけどキッと顔を上げ、ダーロミダレムに訴える。
「でも、でも、アイツはカテロヘブじゃない。何かが違う……でもそれがなんなのかがよく判らない」
「絶対にカテロヘブ王じゃないのか?」
たぶんカテロヘブじゃない。そう思いつつも尋ねるダーロミダレムにネネシリスが縋るような目を向ける。
「判らない――ソイツ、騎士を連れて王宮正門に向かった。ローシェッタ王太子ともども、カテロヘブを名乗る男を殺すって」
思わず腰を浮かしかけたダーロミダレム、間違いない、騎士を引き連れて行ったのは偽者だ。本物のカテロヘブを討つ気でいる。加勢に行きたい。でも……自分は脱獄犯、却ってカテロヘブの足手まといになりはしないか?
黙って聞いていたクリオテナがポツンと言った。
「ネネシリスが違和感を覚えるのももっともね。あの子が……カテロヘブが誰かを殺すなんて、言うはずがないもの」
真剣な眼差しのダーロミダレム、確かにそれならネネシリスの誤解を回避できるかもしれない。それに、真偽はともかく罪人とされるダーロミダレムがこの部屋にいる言い訳にもなる。けれど?
「無礼だぞ、ダーロミダレム」
蒼褪めてはいるが、きっぱりとクリオテナが言い放つ。
「わたしに……王女にして王姉であるわたしに夫を騙せというのか? 臣下を売れと、おまえは言うか?」
「クリオテナさま……」
身動ぐダーロミダレム、クリオテナをマジマジと見て『なんとカテロヘブに似ている事か』と心の中で驚いている。二人とも母親である王妃さま似で、幼いころからよく似ていた。それでいて性格は正反対、物おじすることなくズバズバとモノを言うクリオテナは、決して相手に譲ったりしない。いっぽう何事にも控え目なカテロヘブは他者に譲ることが多かった――が、カテロヘブだって譲れないこともある。きっぱりと主張し、その根拠を明示する。その時のカテロヘブの物言いに、今のクリオテナはとてもよく似ている。
「心得違いは許しません――ダーロミダレム、わたしはザジリレン現国王の姉です。そのわたしが国王の忠実なる臣下に謂れのない罪を着せられるとお思いか? 脱獄はともかく、この部屋に押し入り、わたしを脅した事実などありません」
「畏れ入ります」
思わず跪き、首を垂れるダーロミダレム、誇り高き王姉になんと浅はかな進言をしたものか、恥じ入るばかりだ。だが、ではどうやってこの状況から活路を見出す?
「えっ?」
ダーロミダレムが跪くと同時にクリオテナが狼狽える。これくらいでなぜ動揺する? 不思議を感じたダーロミダレムが、垂れていた頭をあげてクリオテナを見上げれば、クリオテナが見ているのはダーロミダレムの後方の……窓か?
ハッと振り返って窓を見たダーロミダレムも表情を凍らせる。
「ネネス……」
窓から部屋を覗いていたのはグリアジード卿ネネシリスだ。
何も言えず、動けもしないダーロミダレムとクリオテナ、ネネシリスがフッと溜息をついて姿を消した。が、廊下の出入り口から屋内に回ったらしい。ドアをノックする音が聞こえた。
「クリオテナ、いいからまずは開けなさい――大切な話がある、客人にも聞いて貰いたい」
「客人?」
不安を隠しもしないクリオテナがダーロミダレムの顔を見る。
「あぁ、わたしのことだろうね……どちらにしろ、二人きりで居たことはバレてる。ここで部屋に入れなければ余計に拗れるだけだ」
クリオテナが大きな溜息を吐く。ネネシリスが何を言い出すのか不安なのだろう。だがとりあえず、すぐに責められることはないとダーロミダレムは考えていた。ネネシリスにとって今は『大切な話』こそが最優先事項、それはどんな事なのか? 自分にとっても重大なことに違いない。
クリオテナがドアを開ける。ゆっくりとネネシリスが部屋に入ってくる。じっとクリオテナの顔を見て、
「ちゃんと返事くらいしてください……何かあったんじゃないかって、随分と心配しました」
怒るのと涙ぐむのの中間あたりの顔で言う。
「それにしても……」
チラリとダーロミダレムを見て
「珍しい客を招いたものですね」
これは皮肉交じりだ。
「違うの、ダーロンとは食事をしてただけよ」
「なにがどう違うのか……わたしが二人の仲を疑うとでも思っていたかな?」
今度は少し怒りを見せる。
「ダーロンが牢から消えた時刻、クリオテナが厨房に食事を取りに行った時刻、そしてわたしがここに来た時刻を考えれば不貞を働く暇などなかった。それじゃあ気持ちの問題? それもないな、ダーロンは友人を裏切るような男じゃない――そもそもわたしがあなたを疑うと、本気で思っているのですか?」
ダーロミダレムが『そうか、そうだったのか』と思うのは、今日この部屋に来て何度目だろう? 遠い昔、クリオテナがネネシリスに冷たく当たり、意地悪な態度をとっていたのも、ネネシリスがクリオテナに逆らったのを見たことがなかったのも、こう言うことだったんだ。
いつだったか王妃さまがもっとネネシリスに優しくしろとクリオテナを叱ったことがある。クリオテナは拗ねただけだったが、ネネシリスは『クリオテナが我儘を言えるのは自分だけだからいいのです』と王妃さまに言った。それをダーロミダレムはネネシリスが王妃とクリオテナに諂ったのだと受け止めていた。でも違った。あれはネネシリスの本心だった。あのころ既に、ネネシリスの心はクリオテナのものだったのだ。
そしてクリオテナ、ネネシリスの気持ちが判っていながら、ダーロミダレムと同じように王族への阿りなのではないかと感じていた。違うか……王女であるがゆえ、手放しでは信じられなかった。あるいは自分に自信が持てなかった。今、ネネシリスが言ったじゃないか――疑うと、本気で思っているのですか?
ネネシリスはクリオテナを愛している。愛されていることも知っている。それを懸命にクリオテナに伝えようとしている。クリオテナもネネシリスを愛している。そして愛されていることも知っている。けれどいつでも不安なのだ。
だからネネシリスはクリオテナを必要以上に甘やかす。クリオテナは愛されていると実感し、安心するがすぐにまた不安になる。そして……二人はきっと生涯こうして相手を愛し、愛を求め続けていくのだろう。それは幸せなのか不幸なのか、そんなことは他人にとやかく言えることでも、助言できることでもない。この夫婦はこうなのだと、見守っているしかない。
まぁ、それが判ったところで何かが変わるということでもない……ダーロミダレムが苦笑する。そして皮肉った。
「夫婦仲がいいのはよく判った――で、だ。罪状が取り消されたら妻を世話して欲しいとネネスとクリオテナに頼みに来た。ネネス、いい女性はいないか?」
ネネシリスを見詰めるのに忙しく、ダーロミダレムを忘れていたクリオテナがハッとし、気になってはいたものの大切な妻が落ち着くまでは目を離せなかったネネシリスがダーロミダレムを見る。
「ふぅん。身を固める気になったか……牢に繋がれて、自分の生涯を考えたってところかな?」
こちらもやや皮肉交じりだ。
「まぁ、その件はクリオテナに任せておけばどうにでもなる。それより今はカテロヘブのことだ。大変なことになっている――クリオテナの力を借りようと思ってここに来た、なのに……まぁいいか」
なかなか応答して貰えなかったと苦情を途中でやめる。妻の機嫌を損ねるのを避けたのか、それどころではないと思い直したのか?
「カテロヘブ王がどうかした?」
ダーロミダレムが俄かに緊張する。
トロンペセスに預かった日記帳……ダーロミダレムに牢から出ろと言ったカテロヘブは『その時が来たら合図する』と書き込んできた。その合図はまだ来ない……まさか、不測の事態が起こった?
「それが……王宮にカテロヘブが、うん。居たんだ」
「へっ?」
「大門前広場にはジジョネテスキがコッテチカから引き連れた五千の軍勢がいる」
その件もカテロヘブから聞いているとダーロミダレムが思う。ローシェッタ国王太子を護衛して、デネパリエルから大門をくぐり、王宮正門に向かっているはずだ。でも、知っているとはこの時点では言えない。
深刻な顔でネネシリスが続ける。
「ジジョネテスキはデネパリエルからスナムデント街道ザーザングに行く予定だった。逆族討伐の命が王宮から下されていたのにデネパリエルで引き返し、王宮に向かっている」
「ってことはジジョネテスキは軍規違反ってことか?」
「うーーん。わたしは違うと思っている。大門前広場で行軍を止め、ジジョネテスキはデネパリエルに下見に行った。そこでローシェッタ国王太子と遭遇したらしい」
「ローシェッタの王太子? なんでデネパリエルに?」
これもカテロヘブから聞いて知っているのに惚けるダーロミダレム、
「昨夜、ローシェッタ国から公式書簡が届いている。王太子がその……カテロヘブ王をカッテンクリュードまでお送りする。到着は今日だ、とね」
答えるネネシリスはいまいち歯切れが悪い。
「王宮では早速ローシェッタの書簡の検討に入った。まぁ、信じるか信じないかってことだ――で、その話の最中にダーロン、おまえの脱獄の一報が入った。お陰で王宮内は収拾つかない状態になった」
溜息をつくネネシリス、が、少しニヤッとする。
「サンザメスク卿の館は大変なことになったぞ。ダーロミダレム捜索を命じられたラチャンデルがボヤいてた。見つかるまで探せって無茶なことを言われたってね。今も家探ししてるんじゃないかな?」
サンザメスク卿はダーロミダレムの父親だ。
「そうか、親父、カンカンか?」
「庭も滅茶苦茶にされたからな。でも、気にする様子はなかった。それどころじゃなくなったってのもある」
「おう、それでローシェッタ国王太子はどうすることになったんだ?」
「王宮の命令をラチャンデルに伝えに行ったのはわたしだ。どうせ答えなんか出ないと思ったからね。で、ラチャンデルに引っ張られてサンザメスク卿の館にも行った」
「うん、それで?」
「王宮から伝令が来て、わたしとサンザメスク卿は王宮、会議の間に戻ったんだが」
どう言えばいいのか迷うネネシリス、呆れた様子でダーロミダレムに告げる。
「うーーん……居たんだよ、カテロヘブが」
なんと答えるか、迷うのはダーロミダレムも同じだ。まだ合図が来ていない。王宮に姿を現すはずがない。だからそいつはカテロヘブ王じゃない――だが、言ってしまっていいものか? それに合図はなんらかの支障で送れなかっただけかもしれない。
ネネシリスが迷いながらも続けた。
「ソイツ、カテロヘブにそっくりなんだ。どこが違うか、よく判らない。背格好も歩く癖も、もちろん声だって」
だけどキッと顔を上げ、ダーロミダレムに訴える。
「でも、でも、アイツはカテロヘブじゃない。何かが違う……でもそれがなんなのかがよく判らない」
「絶対にカテロヘブ王じゃないのか?」
たぶんカテロヘブじゃない。そう思いつつも尋ねるダーロミダレムにネネシリスが縋るような目を向ける。
「判らない――ソイツ、騎士を連れて王宮正門に向かった。ローシェッタ王太子ともども、カテロヘブを名乗る男を殺すって」
思わず腰を浮かしかけたダーロミダレム、間違いない、騎士を引き連れて行ったのは偽者だ。本物のカテロヘブを討つ気でいる。加勢に行きたい。でも……自分は脱獄犯、却ってカテロヘブの足手まといになりはしないか?
黙って聞いていたクリオテナがポツンと言った。
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