女遊びに夢中な王子は空飛ぶ鳥を使役 する?

寄賀あける

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12 夜が怖くて

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 寝室に行きたいライナムル、行きたくないリーシャ、とうとうライナムルがリーシャの背中に両手を当てて押し始めた。じりじりと押されるリーシャが悲鳴を上げる。

「待って、ライナムル! せめてドアを開けて!」
見るとリーシャはドアとライナムルに挟まれて、潰されそうだ。青虫じゃなくても潰れそうだ。

「なんで自分で開けないんだよ。ドアを開けるのは前にいる人!」
そうは言いつつ回り込んで、ドアを開けるライナムルだ。
「さぁ、どうぞ、僕の姫ぎみ」

 ライナムルの、ゆったりとした優雅な笑みに、ついリーシャの頬が染まる。あぁ、もうダメ、こうなったら覚悟を決めるしかないわ……静々しずしずうつむいたままリーシャがベッドに向かって歩く。

 ところが、ベッドに近付いてくるライナムルの気配を感じない。どうしたんだろうと見てみれば、何やらクローゼットでごそごそしている。
「あった!」
嬉しそうにライナムルが取り出したのは、真っ白な、多分シーツだ。

「やっぱり僕がオバケ役? リーシャ、ちゃんと怖がれる?」
「はいぃ?」
「まったくリーシャったら水臭いんだからぁ! オバケごっこがしたいならそう言ってよ」
「したくないからっ!」
「えー。僕、その気だったのになぁ……つまんない」
引っ張り出したシーツを名残惜しそうに仕舞い込むライナムル、ちょっとリーシャの心が痛む。忙しくて小さな子どもの遊び相手をしてあげられない時の気分だ。

「そんなにオバケごっこがしたかったの?」
「リーシャがしたがってると思ったからさ。喜んでくれるかな、と思って」
「ライナムル……」

 リーシャの胸が熱くなる。自分が遊びたいんじゃなくって、わたしを楽しませたかったのね……コイツ、とってもヘンで、なんだかとってもけど、時どき、どうしようもないくらいとっても優しい。
「でも、もういい、僕の勘違いだって判ったよ――そうとなったら早く寝よう。リーシャ、ベッドに入って」

 そうだ、日付も変わっている。早く寝ないと朝になる。ガウンを脱いだリーシャが素直にベッドに潜り込む。と――

「ちょっとぉ! なんであんたまで潜り込んでくるのよっ!」
ガバッと上体を起こし叫ぶリーシャ、横ではやっぱりガウンを脱いだライナムルがベッドに入り込み、早くも目を閉じ寝入りそうだ。

「一緒に寝るよ、リーシャ。オッキュイネはお出かけで居ないんだ」
「お、オッキュイネがお出かけ? どこへ?」
「そんなの僕には判らないよ。でも、一声鳴いて出て行ったから、しばらく帰ってこないんじゃないかな?」
「一声鳴いたって……いったいなんて鳴いたの?」
「オッキュイネの鳴き声は『キュルルルゥ』って感じ。たまに『ピー』とか『ピヨリン』とか。あ、『チッ』て舌打ちみたいなのも」

「そうじゃなくって! どんな意味かって訊いたの!」
「だからぁ、僕がオッキュイネの言葉を理解してるとでも? きっと何か気になることができたんだよ――てかさ、リーシャ、僕、もう眠いんだ。さっさと温和おとなしく眠りなよ」
言うなりクークー寝息を立て始めるライナムルに、リーシャはすべがない。

 ベッドに置きあがったまま、どうしたものかと考えるうち、夜の冷え込みに負けたリーシャ、ライナムルを起こさないよう気を付けて、そっと寝具に潜り込む。女慣れしているような言葉を口にするけれど、ライナムルにはそんなつもりはきっとない。貴族の男の人が貴婦人たちに言うのを真似ているだけ、きっとそうだわ。そう思ったほうがいい。

 ベッドはライナムルの体温で優しい暖かさだ。ちょっとドキドキしながら、ライナムル相手に意識するほうが馬鹿だと考え直し、いつもの体勢で眠ろうと横を向く。すると目の前にライナムルの顔――
「……」

 気を取り直して反対を向くがどうにも落ち着かず、眠れそうにない。どうせライナムルはもう寝入っている。だったらと、再び寝返りを打つ。
「……」
今、ライナムル、慌てて目を閉じなかった?

「……」
無言のまま目を閉じたリーシャ、そしてそっと薄眼を開けてライナムルの様子をうかがった。すると……恐る恐るライナムルが目を開けた。すかさずリーシャも目を開ける。するとライナムルが目を閉じる。

「あんた! ライナムル! 寝たふり禁止!」
「ひやぁ……リーシャ、怒らないで、怖いよ」
「ライナムルが寝たふりなんかするからでしょ」
「だって、ちゃんとリーシャが眠るか心配だったんだもん」
「心配されなくったって眠くなりゃ寝るわよ」
「本当に?」
「本当よ」
「じゃあ、早く寝て」

「……ライナムル、あんた、なんか企んでない?」
「リーシャ、企むはずないじゃない。ちょっと手を繋いで欲しいだけ」
「ほら、やっぱり企んでるじゃない! なんで手なんか繋ぎたがるの?」
「夜は静かだからだよ」
「そうね、夜は静かよね。それがなんだって言うのよ?」

「静かになると、いろんな声が聞こえてくる。だからいつもはオッキュイネに包み込んで貰って眠る。オッキュイネの呼吸や鼓動で、声は聞こえなくなるから」
「いろんな声?」
「うん、普段は他愛ない話が多いけど……兄上が起きなくなった前の夜は『これでジェラナムルは永遠に眠り続ける』って聞こえたし」
「はいっ!?」
「それに、『あとはライナムルだな』って」
「ちょっと待って!」
とうとうリーシャが身体を起こす。

「ライナムル! やっぱりあなた、悪霊あくりょうきね!?」
「あれ、リーシャ、問題はそこなのかい?」
ライナムルも苦笑しながら体を起こす。

「僕としては、僕が狙われているほうに注目して欲しかったのになぁ」
「いや、いや、いや、確かにそれも問題だけど! って、千里眼?」
「違うよ、聞こえるだけで見えないモン」
千里耳せんりじ?」
「へぇ、そんな言葉があるんだね――でも、たぶん違う」
「たぶん、なのね」

 なんだか身体から力が抜けてしまったリーシャだ。
「よくそれで、わたしを脅したわね」
「もう脅さないよ」
「あったりまえよ!」
「いや、脅そうと思えば脅せるけど脅さないって意味だよ」
「なに、それ?」
「ほら、これでも僕、王子だから」
「け、権力に物を言わせる気?」

 ニヤリと笑うライナムル、
「どうしようかな?」
リーシャの顔を覗き込んで楽しそうだ。このヤロウ、と思ったリーシャ、
「酷いわ……」
と瞳を潤ませてみた。これでライナムルは困るはず、そう思ったリーシャだ。

 ところがライナムルが反応しない。それじゃあ、これでどうだと、両手で顔を覆ってシクシクと泣いてみた。でも、やっぱりライナムルは黙ったままだ。
「ライナムル?」
呼んでみるが返事もない。恐る恐る指の隙間から覗いてみる。

「ライナムル!? なんで座ったまま眠ってるのよっ!?」
リーシャが肩を揺さぶるとライナムルはコテンと横に転がって、やっぱりクークー眠っている。
「おい! こら!」
いくら揺さぶっても目を覚ます気配がない。
(まさか……王太子さまと同じでこのまま目を覚まさない?)

 誰かを呼んだほうがいいかしら? ロンバスを呼ぶにはどうしたらいいの? それに時刻は真夜中だ――

 迷った挙句、ウンウン言いながらライナムルの頭を枕の上に乗せ、身体を伸ばしてきちんと寝かせる。男の子って重いのね。違う、ライナムルは無駄に背が高い、つまり無駄に身体がでかい。重いはずだよ、と溜息をく。

 どうせ朝にはロンバスが来る……わたしも少し眠らなくちゃ。ライナムルに布団を被せ、リーシャも隣に潜り込む。なんかあったかい。こんなことなら最初から、素直に眠ればよかったかしら? いつの間にかリーシャも眠り込んでいた。

 朝、小鳥の囀りとで目を覚ましたリーシャ、目の前にライナムルの顔があってももう驚かない。慣れって怖い。

 修道院でも小さな子がベッドに潜り込んで眠っているなんてよくあった、それと同じだ。ただちょっと、ライナムルは育ち過ぎ、本当にわたしと同じ年かしら? そう思うリーシャだった。

(それにしても……)
すやすやと眠るライナムルの顔を見てふと思う。
(無防備だからかな? こうして見ると年相応の少年の顔ね)
少しだけ開けられた唇、柔らかな頬、そう言えば、わたしの知っているライナムルの顔って、眉間がいつも緊張していなかったっけ?

「うん?」
うっすら目を開けたライナムルが、すぐにしっかり目を開けてリーシャを見詰めた。
「誰だっけ?」

「おいっ!?」
「あ、リーシャだ。なんで僕のベッドで寝てるの?」
「違うだろうが!」
「リーシャって怒りん坊だね」
クスッと笑うライナムル、抱き着くように捕まえていたリーシャの腕をゆっくりと放し、上体を起こした。

「ここ、リーシャの部屋だね――そうだ、オッキュイネが居なくって、うん、思い出した」
「ライナムル、あんた、大丈夫?」
「大丈夫だよ。久々に眠ったから、少し寝ぼけているだけ」

「えっ? 今、久々に眠った、って言った?」
「ちょっと語弊があるかな。ぐっすり眠ったのは久々って言う意味」

 ベッドから降りてガウンを羽織るライナムルをマジマジとリーシャが見る。
「それって、例の声が聞こえるから?」
「そうなのかな――リーシャの心臓の音のお陰だと思う。規則正しくって落ち着く音だよね。長生きしてね」
「あ、はい、いえ、なんだ?」
なんと答えていいか迷うリーシャをライナムルがクスリと笑う。その顔にリーシャがハッとする。

「着替えて厨房に行ってくるよ。朝ごはんを貰ってくる――リーシャは自分で着替えたいんだったっけ? 服はそこのクローゼット、どれでも好きな物を。髪は後で僕が結ってあげるね」

 部屋を出て行くライナムルを黙ってリーシャは見送った。起きて意識がしっかりした途端、ライナムルの顔つきが五歳、いや、十歳くらい老けたと感じていた。
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