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34 癒しの乙女
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もしそうだとしたら、わたしを怖がっているんだとしたら、その理由は何? 剣を魔物の王に向けて構えながらリーシャが考える。
すると魔物の王がケラケラと笑った。さも楽しいといった笑いだ。
「娘、その剣で我を討つ気か? その剣は封印の剣、巧く我を討ったところで、せいぜい魔力を封じるに過ぎぬ。強力な魔法使いでも我を殺せはしない」
剣を弾かれたから封印は不完全なものになったとリーシャも聞いている。ますます魔物の王が恐れているのはリーシャ自身と思えてくる。
「そうなのね、残念だわ」
初めてリーシャが魔物の王に口を開く。
「この剣であなたをやっつけちゃおうと思ったのに」
「我をやっつける? 小娘が、よくそんな戯言を」
「あら、戯言? 試しにやってみようかしら?」
「やめておけ、自分が痛い思いをするだけだ」
「少しくらいならいいわよ、お手柔らかにね」
「待てっ! 待て!」
思い切って魔物の王に剣を向けたまま、足を踏み出すリーシャ、すると黒いモアモアがずずぅーーッと逃げるように移動した。
「ちょっとぉ、わたしに痛い目を見させるんじゃなかったの?」
今度はリーシャが笑う番だ。
「うぬぅ――」
呻く魔物の王、でもこれでリーシャ、もしくはリーシャが持った剣のどちらかを恐れているとはっきりした。
「おぃ! おまえは何者なんだ? 名乗るぐらいしたらどうだ?」
再び魔物の王がリーシャに問う。
「わたしはリーシャ。ライナムルの仮の婚約者よ」
すると魔物の王が豪快な笑い声をあげた。
「愚か者め! とうとう名乗ったな? これでおまえなど恐るるに足りず。たとえ癒しの乙女だろうが、我に手を掛けるに能わず!」
そうだったの? だから何度もおまえは誰だって聞いたのね? しまったと思うリーシャ、だがもう遅い。それにしても、
「癒しの乙女?」
疑問を口にしたリーシャ、己の術中にリーシャが嵌って気をよくしたのか、単にリーシャを甘く見えているのか、魔物の王が親切に答える。
「癒しの乙女こそ我が天敵。名を知らねば我とて何の手出しもできぬ。吹かせた風さえ当てること敵わず。だが、名を知り、その名で呼べば、癒しの乙女も我が手の内の駒となる」
「なんか、凄く愉快そうね――なんで癒しの乙女が天敵なの?」
「ついでだから教えてやろう……おまえが手にしている剣、どんな魔法使いが使おうが我を倒せぬ。だが癒しの乙女が使ったならば、我は一太刀で討ち滅ぼされる」
その情報、もっと早く欲しかったわ。
「ほかに聞きたいことはないか? ないならリーシャ、その剣をあの扉に戻せ」
あの扉――剣が刺さっていた扉。ゆっくり振り返って扉を見るリーシャの目に横たわるオッキュイネが映る。
(オッキュイネ――)
オッキュイネがどうにか頭を持ち上げてリーシャを見た。真っ直ぐな瞳がリーシャに訴える。自分の不甲斐なさを詫びているのだろうか? いいえ、オッキュイネ、あなたはとっても頑張ったわ。勇敢だったわ。
オッキュイネが何を訴えたいのかリーシャには判らない。でも、リーシャにオッキュイネの働きを無にするつもりなんかない。
「どうした、早く扉に剣を刺さぬか」
魔物の王が背後から近寄ってくる。黒いモアモア、実体はどこ? 判らない。判らないならば判らないなりにやりようもある――
名を知り、名を呼び命じれば、我が手の内の駒、それって思い通りに動かせるって意味よね? でもわたし、剣を扉に戻す気になんかなってない。魔物の王はわたしを駒にできていない。
「リーシャ、剣を扉に――」
すぐ後ろに聞こえる魔物の王の声、振り返ったリーシャがやたら滅多ら斬りつけた!
ザクザクとパイを切り分けるような感触、これが手ごたえってやつ? わたし、きっと、魔物の王を切り裂いている!
「ぐわぁあぁあぁーーー!!!」
魔物の王の叫びは轟音となり筒状の部屋をぐらぐら揺らす。黒いモアモアは一点に結集しようとしては弾けそうになり、再び集まってくる。どうやら雲散霧消しそうなのを辛うじて耐えているようだ。
その黒いモアモアの後ろに見えていた扉が開く。
「リーシャ! オッキュイネ!」
入ってきたのはライナムルだ。入ってくるなりリーシャに駆け寄る。続いて入ってきたロンバスが、黒いモアモアに剣を向けて振り下ろす。途端にモアモアが弾け飛び、跡形もなく消えていく。ロンバスが止めを刺した……安心したリーシャの身体から力が抜ける。酷く疲れていた。
「ライナムル!」
抱き締めてくるライナムルにリーシャが思わず縋りつく。そして今の今までこれっぽっちも感じていなかったことをライナムルに訴える。
「怖かった――怖かったの、ライナムル……」
「リーシャ……怖いに決まってる。魔物の王の部屋になんか、なんで来たのさ?」
ロンバスが、
「魔物の王は消滅したようです」
と言い、次にはオッキュイネの様子を見に向かう。
「ライナムル、オッキュイネが怪我をしたの」
「うん、すぐに手当てするよ」
「翼が折れてしまったの。また飛べるようになる?」
「うん、きっと大丈夫だよ。できる限り手を尽くす――もし飛べなくなっても、心配ないよ。オッキュイネの面倒は僕がちゃんと見るからね」
キュキュッとオッキュイネが鳴いて、ロンバスがクスッと笑う。
「脱臼です。もう治しました。しばらく温和しくしていればすぐに――って、おい、オッキュイネ!」
バサッと翼を広げ、オッキュイネが姿を消した。バサバサと羽音が上に遠ざかる。
「よかった、オッキュイネはちゃんと飛べるね――無理するなって、あとで言いに行こう」
ライナムルが上を見て微笑んだ。オッキュイネは見えなくても、羽ばたく姿を思い浮かべているのだろう。
「さてと、リーシャ、ここで何があったのか、部屋に帰ってゆっくり聞かせて」
地下室からの階段はやっぱりきつく、今度はリーシャもライナムルに甘えた。でも担がれるのは嫌なので背負って貰う。ライナムルも疲れているのに――でももうこれ以上動けない。
階段出口の扉の前でホシボクロが待っていた。ライナムルに負ぶわれたリーシャをチラリと見てクスッと笑ったが、何も言ってこなかった。そのまま一緒にライナムルの部屋へと向かう。ロンバスは厨房に寄ってきますと離れていった。そう言えば夕飯がまだだわと、ぼぉっと思うリーシャだった。
ライナムルの部屋に着き、ソファーにそっと降ろされる。ホシボクロがもう一つのソファーをちゃっかり占領してしまった。苦笑いしたライナムルがリーシャの隣に座り、そっとリーシャの肩を抱き寄せる。
「僕に寄り掛かるといいよ。そのほうが少しは楽だと思う――眠るのは食事がすんでから。空腹じゃ、しっかり眠れないからね」
魔物の王の部屋に飛び込んできたとき、ライナムルは五十歳近くに見えた。それなのにソファーに座ったライナムルは二十歳くらいに見える。不思議なライナムル、わたしを負ぶってここまで来たんだから、もっと疲れたんじゃないの? それなのに回復してるのね。
回復したのは負ぶったのがわたしだったから? それとも魔物の王が消滅して呪いが消えたから?
もし呪いが解けていないとしても、もうライナムルが魔物の王に狙われることはない。それだけはよかった。わたしはずっとライナムルの傍にいて、ライナムルを助けて行こう。
ライナムルの胸に頭を預け、瞳を閉じたリーシャだ。ライナムルの心臓の音が聞こえる。確かにライナムルは生きている――
扉の開く音がして、ガラガラとワゴンが運び込まれる。ロンバスが帰ってきた。
「オッキュイネの部屋のドア、新しいものにするよう命じてきました。王城ネズミが開けた壁の穴の修理は明日、明るくなってからのようです」
ロンバスにライナムルが尋ねる。
「ドアは今夜中につけられる? あそこが空いてたら風が抜ける。オッキュイネが寒い思いをする」
「あのドアは開けるのが大変だったので、もともと修理予定が入っていました。すぐに付けられるようですよ。ま、こんな時間に呼び出された職人は気の毒ですが」
「褒美を多めにするよう、父上に言っておくよ」
さぁ、ホシボクロ。牛の乳を貰ってきたよ――ロンバスが皿を床に置く。ニャン! と一声鳴いてホシボクロがタンと床に飛び降りた。
今夜はローストした牛の肉を薄く切って甘辛いソースをかけたもの、蒸した数種類の野菜、じっくり出汁を取って濾したスープ、芯を刳り貫いて、そこにバターとハチミツを入れて焼いたりんご、飲み物は暖めた牛の乳にハチミツを溶かしたものとブドウの果汁だった。
ライナムルが焼きりんごを見て俄然元気になる。早く食べよう、とリーシャを抱えるように立たせテーブルに移動する。イチゴは粒々が苦手、だけどりんごは大好きなのね、リーシャの心が和んでいく。
配膳するロンバスの足にホシボクロが纏わりついた。
「おい、ボクにも肉、寄越せ!」
すでに乳が入っていた皿は空っぽだ。
「僕のから分けてあげていいよ」
「わたしのも」
「では、わたしからも――三枚でいいですね?」
「おう、ありがたくいただくさ!」
三人と一匹のディナーが始まった。
貰った肉を前足で押さえて噛み千切りながらホシボクロが言う。
「ま、リーシャには驚いたよ――まさか自分で剣を取りに行くって言いだすとは思わなかった」
ライナムルがチラリとリーシャを見る。
「ボクはね、ダメだって止めたんだ。このお嬢さんに何かあってみろ、ライナムルがどれほど悲しむか――」
ホシボクロの言葉に、クスリと笑ったライナムルだ。
「順を追って話して欲しいな――リーシャは剣を手に入れるため、魔物の王の部屋に行ったんだね? それは判ったよ。それで、どうしてそんなことになったんだい?」
ライナムルが、リーシャとホシボクロを見比べた。
すると魔物の王がケラケラと笑った。さも楽しいといった笑いだ。
「娘、その剣で我を討つ気か? その剣は封印の剣、巧く我を討ったところで、せいぜい魔力を封じるに過ぎぬ。強力な魔法使いでも我を殺せはしない」
剣を弾かれたから封印は不完全なものになったとリーシャも聞いている。ますます魔物の王が恐れているのはリーシャ自身と思えてくる。
「そうなのね、残念だわ」
初めてリーシャが魔物の王に口を開く。
「この剣であなたをやっつけちゃおうと思ったのに」
「我をやっつける? 小娘が、よくそんな戯言を」
「あら、戯言? 試しにやってみようかしら?」
「やめておけ、自分が痛い思いをするだけだ」
「少しくらいならいいわよ、お手柔らかにね」
「待てっ! 待て!」
思い切って魔物の王に剣を向けたまま、足を踏み出すリーシャ、すると黒いモアモアがずずぅーーッと逃げるように移動した。
「ちょっとぉ、わたしに痛い目を見させるんじゃなかったの?」
今度はリーシャが笑う番だ。
「うぬぅ――」
呻く魔物の王、でもこれでリーシャ、もしくはリーシャが持った剣のどちらかを恐れているとはっきりした。
「おぃ! おまえは何者なんだ? 名乗るぐらいしたらどうだ?」
再び魔物の王がリーシャに問う。
「わたしはリーシャ。ライナムルの仮の婚約者よ」
すると魔物の王が豪快な笑い声をあげた。
「愚か者め! とうとう名乗ったな? これでおまえなど恐るるに足りず。たとえ癒しの乙女だろうが、我に手を掛けるに能わず!」
そうだったの? だから何度もおまえは誰だって聞いたのね? しまったと思うリーシャ、だがもう遅い。それにしても、
「癒しの乙女?」
疑問を口にしたリーシャ、己の術中にリーシャが嵌って気をよくしたのか、単にリーシャを甘く見えているのか、魔物の王が親切に答える。
「癒しの乙女こそ我が天敵。名を知らねば我とて何の手出しもできぬ。吹かせた風さえ当てること敵わず。だが、名を知り、その名で呼べば、癒しの乙女も我が手の内の駒となる」
「なんか、凄く愉快そうね――なんで癒しの乙女が天敵なの?」
「ついでだから教えてやろう……おまえが手にしている剣、どんな魔法使いが使おうが我を倒せぬ。だが癒しの乙女が使ったならば、我は一太刀で討ち滅ぼされる」
その情報、もっと早く欲しかったわ。
「ほかに聞きたいことはないか? ないならリーシャ、その剣をあの扉に戻せ」
あの扉――剣が刺さっていた扉。ゆっくり振り返って扉を見るリーシャの目に横たわるオッキュイネが映る。
(オッキュイネ――)
オッキュイネがどうにか頭を持ち上げてリーシャを見た。真っ直ぐな瞳がリーシャに訴える。自分の不甲斐なさを詫びているのだろうか? いいえ、オッキュイネ、あなたはとっても頑張ったわ。勇敢だったわ。
オッキュイネが何を訴えたいのかリーシャには判らない。でも、リーシャにオッキュイネの働きを無にするつもりなんかない。
「どうした、早く扉に剣を刺さぬか」
魔物の王が背後から近寄ってくる。黒いモアモア、実体はどこ? 判らない。判らないならば判らないなりにやりようもある――
名を知り、名を呼び命じれば、我が手の内の駒、それって思い通りに動かせるって意味よね? でもわたし、剣を扉に戻す気になんかなってない。魔物の王はわたしを駒にできていない。
「リーシャ、剣を扉に――」
すぐ後ろに聞こえる魔物の王の声、振り返ったリーシャがやたら滅多ら斬りつけた!
ザクザクとパイを切り分けるような感触、これが手ごたえってやつ? わたし、きっと、魔物の王を切り裂いている!
「ぐわぁあぁあぁーーー!!!」
魔物の王の叫びは轟音となり筒状の部屋をぐらぐら揺らす。黒いモアモアは一点に結集しようとしては弾けそうになり、再び集まってくる。どうやら雲散霧消しそうなのを辛うじて耐えているようだ。
その黒いモアモアの後ろに見えていた扉が開く。
「リーシャ! オッキュイネ!」
入ってきたのはライナムルだ。入ってくるなりリーシャに駆け寄る。続いて入ってきたロンバスが、黒いモアモアに剣を向けて振り下ろす。途端にモアモアが弾け飛び、跡形もなく消えていく。ロンバスが止めを刺した……安心したリーシャの身体から力が抜ける。酷く疲れていた。
「ライナムル!」
抱き締めてくるライナムルにリーシャが思わず縋りつく。そして今の今までこれっぽっちも感じていなかったことをライナムルに訴える。
「怖かった――怖かったの、ライナムル……」
「リーシャ……怖いに決まってる。魔物の王の部屋になんか、なんで来たのさ?」
ロンバスが、
「魔物の王は消滅したようです」
と言い、次にはオッキュイネの様子を見に向かう。
「ライナムル、オッキュイネが怪我をしたの」
「うん、すぐに手当てするよ」
「翼が折れてしまったの。また飛べるようになる?」
「うん、きっと大丈夫だよ。できる限り手を尽くす――もし飛べなくなっても、心配ないよ。オッキュイネの面倒は僕がちゃんと見るからね」
キュキュッとオッキュイネが鳴いて、ロンバスがクスッと笑う。
「脱臼です。もう治しました。しばらく温和しくしていればすぐに――って、おい、オッキュイネ!」
バサッと翼を広げ、オッキュイネが姿を消した。バサバサと羽音が上に遠ざかる。
「よかった、オッキュイネはちゃんと飛べるね――無理するなって、あとで言いに行こう」
ライナムルが上を見て微笑んだ。オッキュイネは見えなくても、羽ばたく姿を思い浮かべているのだろう。
「さてと、リーシャ、ここで何があったのか、部屋に帰ってゆっくり聞かせて」
地下室からの階段はやっぱりきつく、今度はリーシャもライナムルに甘えた。でも担がれるのは嫌なので背負って貰う。ライナムルも疲れているのに――でももうこれ以上動けない。
階段出口の扉の前でホシボクロが待っていた。ライナムルに負ぶわれたリーシャをチラリと見てクスッと笑ったが、何も言ってこなかった。そのまま一緒にライナムルの部屋へと向かう。ロンバスは厨房に寄ってきますと離れていった。そう言えば夕飯がまだだわと、ぼぉっと思うリーシャだった。
ライナムルの部屋に着き、ソファーにそっと降ろされる。ホシボクロがもう一つのソファーをちゃっかり占領してしまった。苦笑いしたライナムルがリーシャの隣に座り、そっとリーシャの肩を抱き寄せる。
「僕に寄り掛かるといいよ。そのほうが少しは楽だと思う――眠るのは食事がすんでから。空腹じゃ、しっかり眠れないからね」
魔物の王の部屋に飛び込んできたとき、ライナムルは五十歳近くに見えた。それなのにソファーに座ったライナムルは二十歳くらいに見える。不思議なライナムル、わたしを負ぶってここまで来たんだから、もっと疲れたんじゃないの? それなのに回復してるのね。
回復したのは負ぶったのがわたしだったから? それとも魔物の王が消滅して呪いが消えたから?
もし呪いが解けていないとしても、もうライナムルが魔物の王に狙われることはない。それだけはよかった。わたしはずっとライナムルの傍にいて、ライナムルを助けて行こう。
ライナムルの胸に頭を預け、瞳を閉じたリーシャだ。ライナムルの心臓の音が聞こえる。確かにライナムルは生きている――
扉の開く音がして、ガラガラとワゴンが運び込まれる。ロンバスが帰ってきた。
「オッキュイネの部屋のドア、新しいものにするよう命じてきました。王城ネズミが開けた壁の穴の修理は明日、明るくなってからのようです」
ロンバスにライナムルが尋ねる。
「ドアは今夜中につけられる? あそこが空いてたら風が抜ける。オッキュイネが寒い思いをする」
「あのドアは開けるのが大変だったので、もともと修理予定が入っていました。すぐに付けられるようですよ。ま、こんな時間に呼び出された職人は気の毒ですが」
「褒美を多めにするよう、父上に言っておくよ」
さぁ、ホシボクロ。牛の乳を貰ってきたよ――ロンバスが皿を床に置く。ニャン! と一声鳴いてホシボクロがタンと床に飛び降りた。
今夜はローストした牛の肉を薄く切って甘辛いソースをかけたもの、蒸した数種類の野菜、じっくり出汁を取って濾したスープ、芯を刳り貫いて、そこにバターとハチミツを入れて焼いたりんご、飲み物は暖めた牛の乳にハチミツを溶かしたものとブドウの果汁だった。
ライナムルが焼きりんごを見て俄然元気になる。早く食べよう、とリーシャを抱えるように立たせテーブルに移動する。イチゴは粒々が苦手、だけどりんごは大好きなのね、リーシャの心が和んでいく。
配膳するロンバスの足にホシボクロが纏わりついた。
「おい、ボクにも肉、寄越せ!」
すでに乳が入っていた皿は空っぽだ。
「僕のから分けてあげていいよ」
「わたしのも」
「では、わたしからも――三枚でいいですね?」
「おう、ありがたくいただくさ!」
三人と一匹のディナーが始まった。
貰った肉を前足で押さえて噛み千切りながらホシボクロが言う。
「ま、リーシャには驚いたよ――まさか自分で剣を取りに行くって言いだすとは思わなかった」
ライナムルがチラリとリーシャを見る。
「ボクはね、ダメだって止めたんだ。このお嬢さんに何かあってみろ、ライナムルがどれほど悲しむか――」
ホシボクロの言葉に、クスリと笑ったライナムルだ。
「順を追って話して欲しいな――リーシャは剣を手に入れるため、魔物の王の部屋に行ったんだね? それは判ったよ。それで、どうしてそんなことになったんだい?」
ライナムルが、リーシャとホシボクロを見比べた。
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