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第5章 こいねがう命の叫び
噂の みなもと
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「そんな話は聞いていない!」
王館、王の執務室で声を荒げたのは三の大臣ケーネハスルだ。
「婚姻もまだなのにバチルデア王女が王宮に住まう? それに大臣を二人も増やす? なぜ我らに諮らずそんなことを決めたのです?」
横ではマジェルダーナが苦虫を噛み潰したような顔をし、クッシャラデンジがニヤニヤと面白そうに様子を窺っている。
「ルリシアレヤさまについては王の婚約者なのだから、臣下があれこれ言う筋合いはないと愚考しますが?」
涼しい顔で答えるサシーニャ、
「大臣についてはケーネハスルさま、あなたはあと何十年大臣をなさるおつもりなのでしょう?」
と嘲笑する。
「いずれ人は老い、あるいは病を得ることもあります。それに備えるため、大臣を五人とするのです。王廟の許しは既に降りているのですよ?」
諭されても、言い募ろうとするケーネハスルだったが、
「国を憂うるリオネンデ王のお心がお判りにならないか!?」
とサシーニャに一喝され渋々黙った。
バチルデア王妃一行が帰国の途に就いた翌々日、ルリシアレヤが仮住まいに移った翌日、ルリシアレヤのフェニカリデ残留と副大臣二人の件、さらにチュジャンエラの次席魔術師就任が閣議で発表された。次席魔術師承認儀式は前日、王廟にて既に済んでいる。
バチルデア一行が帰国し王宮執務が正常に戻ると同時に革新したわけだが、サシーニャの説明は上っ面なもの、大臣たちと協議していては話が進まないと言うのが本音だ。そうも言えないので、あれこれ屁理屈を並べ立てている。
ケーネハスルが黙るのを待って、沈黙していたマジェルダーナが口を開いた。
「チュジャンエラさまの次席魔術師に反対はしませんが、長年次席は設けていない。サシーニャさまに不足があるとも思えないのに、なぜ次席を置くのです?」
「それは……」
サシーニャが口籠る。が、これは演技だ。
「十八で筆頭魔術師と守り人を兼任し、なんとか責務を果たそうと懸命に勤めて参りました。守り人を解任され、己の責務を改めて考え直したところ、あれこれ抱え込み過ぎていると漸く気が付きました。少し分散したほうが魔術師の塔、ひいてはグランデジア国にとって、良いようです。むろん、わたし個人にも……さらに、私事で申し訳ありませんが、自分に使う時間が欲しくなったと言うのもあります」
「自分に使う時間? ひょっとして何かしたいことでもおありですかな?」
「えぇ、まぁ……そろそろ本腰を入れて配偶者を探さねばと思っております」
「なるほど。それでは時間も必要になりますね」
嬉しそうな顔をしたのはマジェルダーナのほうだ。聞いていたクッシャラデンジとケーネハスルは売り込める娘がどこかにいたかと思いを巡らせ始めていた――
大臣たちが退出し、リオネンデが大笑いする。
「おまえ、また娘の売り込みで悩むことになるぞ?」
「覚悟の上ですよ。それにしてもあの理由で納得して貰えるとは思っていませんでした」
「訊いてきたのがマジェルダーナでよかったな。他の二人だったら退かなかったかもしれないぞ」
「その時は追加で何か理由を付けますよ――それにしてもマジェルダーナは本当にわたしを案じているようでしたね」
「マジェルダーナとは一度、じっくり話すつもりでいるのだろう?」
「えぇ……父が王家の一員に迎えられる予定だったと言う話を確認したいと思っています」
翌早朝には次席魔術師については魔術師の塔、副大臣については国王の名で、広くグランデジアに触れが出されている。伝令は魔術師のカラスによるもの、その日のうちに全土に行き渡っている。この日からチュジャンエラは筆頭魔術師補佐ではなく次席魔術師として、ニャーシスは大臣補佐ではなく副大臣としての権限が与えられ、ダズベルから王宮貴族館に住まいを移していたワズナリテともども閣議に参席することになった。ニャーシスとチュジャンエラは、今までも参席していたものの発言は認められていなかった。
グランデジアはこれより先、王、筆頭・次席魔術師、そして正副と名前は区別されたが、発言の重さは同等の五人の大臣、総勢八人で国の行く先を定めていくことになる――
纏わりつくような小糠雨がいつしかシトシトと雫を垂らすようになっていた。後宮の庭の八仙花も色づいて、浅い日差しに輝いている。大きく広がる緑の葉は受け止めた水滴の重みで時おり傾き、溜めこんだ荷物を降ろしてはまた溜めこんでいく。
「薄紅や紫もいいけれど、薄水色のほうが好きなんです」
切り取ってきた八仙花を瓶に生けながらスイテアが笑う。リオネンデが『水色では寂しくないか?』と言ったからだ。
「この季節には水色が似合う、そう思いませんか?」
後宮・王の居室、片肘を立てて枕にし、敷物に寝転がるリオネンデが『そんなものかねぇ』と興味なさげに答えた。
「魔術師の墓地はこの時期、八仙花がうさうさと花を咲かせているそうだ――雨期に墓参する者は少ない。サシーニャが『見る者がいなくてもちゃんと花を咲かせる。なんと健気なことでしょう』と言っていた」
「サシーニャさまは健気さを感じるから草花がお好きなのですね」
「草花のどこが健気なのか俺には判らん。季節が来れば芽を出し、蕾を着け、花を咲かせ、実らせる。そう決まっているからそうなるんだろう?」
「そりゃあそうですけれど……その決まりをキチンと繰り返すところに、健気さをきっと感じるのですよ」
「おまえには判るのか?」
「健気さを純粋さと考えれば判るような気もします。真っ直ぐに生きようとする純粋さ……すべての命に共通するものですね」
「そうか。サシーニャは草花だけじゃなく、生き物も好きだ。おまえの言う通りなのかもしれないな」
八仙花を生け終わったスイテアが、リオネンデの横に腰を降ろして溜息を吐く。
「それにしても……どうして皆さん、噂話が好きなのでしょう?」
「うん?」
リオネンデがニヤリと笑う。
「エリザマリの件か? 街中にまで広がっているとジャッシフは随分と気にしていたが……どうせ噂などすぐ消える、南裏門の門番を罰しようなどと思うなとサシーニャが言っていたな」
「エリザマリさまがサシーニャさまの街館に出入りしているのは事実とも仰っていましたね。でもそれを門番が言いふらしていいものなのですか?」
「いいとは俺も思わんさ。なんと口の軽い、とおまえが呆れるのも判る。が、館が門から見える位置になければ口を滑らすこともなかったと、門番を庇うサシーニャの気持ちも判らないでもない」
「サシーニャさまにしてもリオネンデさまにしても、罰するのをお嫌いになる――それでも少しは叱ったほうがいいのじゃありませんか?」
「それはジャッシフがきつく言っただろうさ。何をしに行ったか知りもしないのに、軽々しいことを言うなとね」
「ジャッシフさまは疑われるようなことをするほうも悪いって言ってたわ」
「魔法使いは依頼内容を明かさないのが鉄則って、サシーニャに言われて黙ったけどな」
「まぁ最初は、エリザマリさまが頻繁に、しかも深夜にサシーニャさまのお館に通っていると聞いた時は『あら?』っと思ったので、門番が疑うのも判ります」
「なんだ、おまえも疑ったのか?」
笑い出すリオネンデにスイテアが頬を膨らませる。
「だって、女の子が一人で男の人に会いに行ってるんですよ? そういう仲なのかって思うじゃないですか」
「でもあの館には、サシーニャだけじゃなくチュジャンだっているのに、なんでサシーニャなんだろう?」
「そりゃあ、いくらチュジャンが図々しくっても、サシーニャさまがいる館に女の人を呼ばないって思うもの」
「チュジャンなら女の部屋に行くか、どこか宿を使うだろうって? どこどこで見かけた、なんて話も聞いたことあるが、サシーニャに釘を刺されてからは控えてるらしいぞ」
「だったら尚更、あのお館に呼んだりしませんね」
「遊ぶのならどこかでこっそり、か?」
「それにしても、お館に出入りするエリザマリさまを見て、サシーニャさまが手を付けたって噂になるのは理解もできるのですが、なんでそれがサシーニャさまはいずれバチルデアに移るつもりだって話になるのかしら?」
「それはあれだな……」
寝そべっていたリオネンデが身体を起こす。
「俺がバチルデア王女と婚姻し、筆頭がやはりバチルデアの有力貴族の令嬢と婚姻したとなると、グランデジア王宮がバチルデアに傾く。それを避けるため、サシーニャがエリザマリと一緒になるにはグランデジアを出てバチルデアに行くのが良策って考えからだ」
「バチルデアに行けば問題ないの?」
「もちろん、向こうで要職に就くって条件も加わる。するとバチルデア王宮におけるグランデジアの影響力も強くなる――だが、サシーニャがエリザマリと出来てるってのはともかく、バチルデアに移るって話のほうは誰が言い出したのかが気になるな」
「そうですね、街人が考えつく話ではなさそうです……サシーニャさまとエリザマリさまがご一緒になる可能性はあると見ているのですか?」
「そう思っているのはスイテア、おまえだろう?」
「いや、なんとなく『そうなのかな』と思うことはあるのですけれど、この噂のようにエリザマリさまがサシーニャさまの所に通うというのはしっくりきません」
「なんで『そうなのかな』と思うんだ?」
「それはサシーニャさまがエリザマリさまにはすごくお優しく接するし、愛し気な眼差しをお向けになるから……エリザマリさまもそれに羞んでいらっしゃいます」
「ふぅん……」
リオネンデがニヤリと笑う。
「サシーニャは、女に対しては誰にでもそうだぞ?」
「えっ?」
「特に年下の女にはな。レナリムに対するのと同じなんだと。可愛いもんだ、と思うらしい」
「サシーニャさまがそうおっしゃったんですか?」
「あぁ、随分前だけどね。俺の母親が舞踏会を頻繁に開いていたころだ――相手に誤解されるから改めたほうがいいってリヒャンデルに言われていたな」
「本当に?」
「嘘を言っても意味がない。そう言えば揉めたこともあった」
「揉めたって、誤解させてしまったってこと?」
「副大臣になったワズナリテの女房の妹なんだけど、妹のほうじゃなくって姉貴のほうが怒りまくってサシーニャに詰め寄ったことがある」
「それでどうなったのですか?」
「妹は何もなかったって否定したし息巻いてたのは姉だけで、こんな事が噂になれば妹のためにならないって姉のほうが親に叱られて終わったって聞いている――そろそろ表に行こう。みなが執務室に来る時刻だ」
リオネンデが立ちあがり、王の務めを果たすべく後宮を出て行った。
王館、王の執務室で声を荒げたのは三の大臣ケーネハスルだ。
「婚姻もまだなのにバチルデア王女が王宮に住まう? それに大臣を二人も増やす? なぜ我らに諮らずそんなことを決めたのです?」
横ではマジェルダーナが苦虫を噛み潰したような顔をし、クッシャラデンジがニヤニヤと面白そうに様子を窺っている。
「ルリシアレヤさまについては王の婚約者なのだから、臣下があれこれ言う筋合いはないと愚考しますが?」
涼しい顔で答えるサシーニャ、
「大臣についてはケーネハスルさま、あなたはあと何十年大臣をなさるおつもりなのでしょう?」
と嘲笑する。
「いずれ人は老い、あるいは病を得ることもあります。それに備えるため、大臣を五人とするのです。王廟の許しは既に降りているのですよ?」
諭されても、言い募ろうとするケーネハスルだったが、
「国を憂うるリオネンデ王のお心がお判りにならないか!?」
とサシーニャに一喝され渋々黙った。
バチルデア王妃一行が帰国の途に就いた翌々日、ルリシアレヤが仮住まいに移った翌日、ルリシアレヤのフェニカリデ残留と副大臣二人の件、さらにチュジャンエラの次席魔術師就任が閣議で発表された。次席魔術師承認儀式は前日、王廟にて既に済んでいる。
バチルデア一行が帰国し王宮執務が正常に戻ると同時に革新したわけだが、サシーニャの説明は上っ面なもの、大臣たちと協議していては話が進まないと言うのが本音だ。そうも言えないので、あれこれ屁理屈を並べ立てている。
ケーネハスルが黙るのを待って、沈黙していたマジェルダーナが口を開いた。
「チュジャンエラさまの次席魔術師に反対はしませんが、長年次席は設けていない。サシーニャさまに不足があるとも思えないのに、なぜ次席を置くのです?」
「それは……」
サシーニャが口籠る。が、これは演技だ。
「十八で筆頭魔術師と守り人を兼任し、なんとか責務を果たそうと懸命に勤めて参りました。守り人を解任され、己の責務を改めて考え直したところ、あれこれ抱え込み過ぎていると漸く気が付きました。少し分散したほうが魔術師の塔、ひいてはグランデジア国にとって、良いようです。むろん、わたし個人にも……さらに、私事で申し訳ありませんが、自分に使う時間が欲しくなったと言うのもあります」
「自分に使う時間? ひょっとして何かしたいことでもおありですかな?」
「えぇ、まぁ……そろそろ本腰を入れて配偶者を探さねばと思っております」
「なるほど。それでは時間も必要になりますね」
嬉しそうな顔をしたのはマジェルダーナのほうだ。聞いていたクッシャラデンジとケーネハスルは売り込める娘がどこかにいたかと思いを巡らせ始めていた――
大臣たちが退出し、リオネンデが大笑いする。
「おまえ、また娘の売り込みで悩むことになるぞ?」
「覚悟の上ですよ。それにしてもあの理由で納得して貰えるとは思っていませんでした」
「訊いてきたのがマジェルダーナでよかったな。他の二人だったら退かなかったかもしれないぞ」
「その時は追加で何か理由を付けますよ――それにしてもマジェルダーナは本当にわたしを案じているようでしたね」
「マジェルダーナとは一度、じっくり話すつもりでいるのだろう?」
「えぇ……父が王家の一員に迎えられる予定だったと言う話を確認したいと思っています」
翌早朝には次席魔術師については魔術師の塔、副大臣については国王の名で、広くグランデジアに触れが出されている。伝令は魔術師のカラスによるもの、その日のうちに全土に行き渡っている。この日からチュジャンエラは筆頭魔術師補佐ではなく次席魔術師として、ニャーシスは大臣補佐ではなく副大臣としての権限が与えられ、ダズベルから王宮貴族館に住まいを移していたワズナリテともども閣議に参席することになった。ニャーシスとチュジャンエラは、今までも参席していたものの発言は認められていなかった。
グランデジアはこれより先、王、筆頭・次席魔術師、そして正副と名前は区別されたが、発言の重さは同等の五人の大臣、総勢八人で国の行く先を定めていくことになる――
纏わりつくような小糠雨がいつしかシトシトと雫を垂らすようになっていた。後宮の庭の八仙花も色づいて、浅い日差しに輝いている。大きく広がる緑の葉は受け止めた水滴の重みで時おり傾き、溜めこんだ荷物を降ろしてはまた溜めこんでいく。
「薄紅や紫もいいけれど、薄水色のほうが好きなんです」
切り取ってきた八仙花を瓶に生けながらスイテアが笑う。リオネンデが『水色では寂しくないか?』と言ったからだ。
「この季節には水色が似合う、そう思いませんか?」
後宮・王の居室、片肘を立てて枕にし、敷物に寝転がるリオネンデが『そんなものかねぇ』と興味なさげに答えた。
「魔術師の墓地はこの時期、八仙花がうさうさと花を咲かせているそうだ――雨期に墓参する者は少ない。サシーニャが『見る者がいなくてもちゃんと花を咲かせる。なんと健気なことでしょう』と言っていた」
「サシーニャさまは健気さを感じるから草花がお好きなのですね」
「草花のどこが健気なのか俺には判らん。季節が来れば芽を出し、蕾を着け、花を咲かせ、実らせる。そう決まっているからそうなるんだろう?」
「そりゃあそうですけれど……その決まりをキチンと繰り返すところに、健気さをきっと感じるのですよ」
「おまえには判るのか?」
「健気さを純粋さと考えれば判るような気もします。真っ直ぐに生きようとする純粋さ……すべての命に共通するものですね」
「そうか。サシーニャは草花だけじゃなく、生き物も好きだ。おまえの言う通りなのかもしれないな」
八仙花を生け終わったスイテアが、リオネンデの横に腰を降ろして溜息を吐く。
「それにしても……どうして皆さん、噂話が好きなのでしょう?」
「うん?」
リオネンデがニヤリと笑う。
「エリザマリの件か? 街中にまで広がっているとジャッシフは随分と気にしていたが……どうせ噂などすぐ消える、南裏門の門番を罰しようなどと思うなとサシーニャが言っていたな」
「エリザマリさまがサシーニャさまの街館に出入りしているのは事実とも仰っていましたね。でもそれを門番が言いふらしていいものなのですか?」
「いいとは俺も思わんさ。なんと口の軽い、とおまえが呆れるのも判る。が、館が門から見える位置になければ口を滑らすこともなかったと、門番を庇うサシーニャの気持ちも判らないでもない」
「サシーニャさまにしてもリオネンデさまにしても、罰するのをお嫌いになる――それでも少しは叱ったほうがいいのじゃありませんか?」
「それはジャッシフがきつく言っただろうさ。何をしに行ったか知りもしないのに、軽々しいことを言うなとね」
「ジャッシフさまは疑われるようなことをするほうも悪いって言ってたわ」
「魔法使いは依頼内容を明かさないのが鉄則って、サシーニャに言われて黙ったけどな」
「まぁ最初は、エリザマリさまが頻繁に、しかも深夜にサシーニャさまのお館に通っていると聞いた時は『あら?』っと思ったので、門番が疑うのも判ります」
「なんだ、おまえも疑ったのか?」
笑い出すリオネンデにスイテアが頬を膨らませる。
「だって、女の子が一人で男の人に会いに行ってるんですよ? そういう仲なのかって思うじゃないですか」
「でもあの館には、サシーニャだけじゃなくチュジャンだっているのに、なんでサシーニャなんだろう?」
「そりゃあ、いくらチュジャンが図々しくっても、サシーニャさまがいる館に女の人を呼ばないって思うもの」
「チュジャンなら女の部屋に行くか、どこか宿を使うだろうって? どこどこで見かけた、なんて話も聞いたことあるが、サシーニャに釘を刺されてからは控えてるらしいぞ」
「だったら尚更、あのお館に呼んだりしませんね」
「遊ぶのならどこかでこっそり、か?」
「それにしても、お館に出入りするエリザマリさまを見て、サシーニャさまが手を付けたって噂になるのは理解もできるのですが、なんでそれがサシーニャさまはいずれバチルデアに移るつもりだって話になるのかしら?」
「それはあれだな……」
寝そべっていたリオネンデが身体を起こす。
「俺がバチルデア王女と婚姻し、筆頭がやはりバチルデアの有力貴族の令嬢と婚姻したとなると、グランデジア王宮がバチルデアに傾く。それを避けるため、サシーニャがエリザマリと一緒になるにはグランデジアを出てバチルデアに行くのが良策って考えからだ」
「バチルデアに行けば問題ないの?」
「もちろん、向こうで要職に就くって条件も加わる。するとバチルデア王宮におけるグランデジアの影響力も強くなる――だが、サシーニャがエリザマリと出来てるってのはともかく、バチルデアに移るって話のほうは誰が言い出したのかが気になるな」
「そうですね、街人が考えつく話ではなさそうです……サシーニャさまとエリザマリさまがご一緒になる可能性はあると見ているのですか?」
「そう思っているのはスイテア、おまえだろう?」
「いや、なんとなく『そうなのかな』と思うことはあるのですけれど、この噂のようにエリザマリさまがサシーニャさまの所に通うというのはしっくりきません」
「なんで『そうなのかな』と思うんだ?」
「それはサシーニャさまがエリザマリさまにはすごくお優しく接するし、愛し気な眼差しをお向けになるから……エリザマリさまもそれに羞んでいらっしゃいます」
「ふぅん……」
リオネンデがニヤリと笑う。
「サシーニャは、女に対しては誰にでもそうだぞ?」
「えっ?」
「特に年下の女にはな。レナリムに対するのと同じなんだと。可愛いもんだ、と思うらしい」
「サシーニャさまがそうおっしゃったんですか?」
「あぁ、随分前だけどね。俺の母親が舞踏会を頻繁に開いていたころだ――相手に誤解されるから改めたほうがいいってリヒャンデルに言われていたな」
「本当に?」
「嘘を言っても意味がない。そう言えば揉めたこともあった」
「揉めたって、誤解させてしまったってこと?」
「副大臣になったワズナリテの女房の妹なんだけど、妹のほうじゃなくって姉貴のほうが怒りまくってサシーニャに詰め寄ったことがある」
「それでどうなったのですか?」
「妹は何もなかったって否定したし息巻いてたのは姉だけで、こんな事が噂になれば妹のためにならないって姉のほうが親に叱られて終わったって聞いている――そろそろ表に行こう。みなが執務室に来る時刻だ」
リオネンデが立ちあがり、王の務めを果たすべく後宮を出て行った。
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