残虐王は 死神さえも 凌辱す

寄賀あける

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第6章 春、遠からず

軍兵は大地を揺らす

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 ゲッコーから聞き出したクロウからの情報は、喫緊に対処しなければならないものだ。だが、マジェルダーナの用件が些細な事であるはずもない。

「判りました。すぐに行くと伝え、一階の接待室で待って貰ってください」
「火急の用件とおしゃってますが?」
「守り人さまの部屋に寄って仕事を頼むだけだから、さほど時間は掛かりません」

 困っている立ち番を無視してジャルスジャズナの執務室に向かう。考えている暇はないのだ。早くしなければ手遅れになる。

 ジャルスジャズナの執務室に入るなりチュジャンエラが叫ぶ。
「ジャジャ! クロウの情報だ。バチルデアが参戦する!」
顔色を変えたジャルスジャズナだが、チュジャンエラより冷静だ。
「どっちに付いた?」
と確かめる。

「バイガスラに。本軍はテスレムに向けて行軍を始めたって。問題なのが――」
「フェルシナスの各隊が苔むす森のとりでに集結?」
「うん、その通り。それで、サシーニャさまの指示通り、バチルデアのお嬢さんがたを塔に匿いたい。ジャジャ、貸与館に迎えに行ってよ。それとダズベルとサーベルゴカに伝令鳥カラスを飛ばして欲しい」

「二人を匿う準備は整ってる。伝令鳥カラスはオジナツワレに言ってすぐやらせる。でも、迎えに行くのはチュジャンの仕事じゃなかったか?」
「それが迎えに行こうと思ったらマジェルダーナが急ぎの用で会いたいって、塔に来たんだ。一階の応接で待たせてる。すぐに行かなきゃ」
「マジェルダーナが? なんだろう、気になるね――判った、わたしがルリシアレヤたちのところへ行くよ」

 もしもバチルデア国がグランデジアに敵対し武力行使に出るようなら、ルリシアレヤとエリザマリを魔術師の塔に隠しなさい――敵国の王女だ、戦時下となれば物騒なことを考える者も出るだろう。特に軍部には用心しなければならない。バチルデアの動きを軍部に知られる前に動きなさい。それがサシーニャの指示だった。

 フェニカリデを守る軍の本部は王宮内にある。魔術師の塔は状況が判り次第、大臣たちに告知する義務がある。つまりバチルデアがバイガスラ側についたと事実は、ダズベルもしくは緩衝地帯からの伝令が魔術師の塔に届き、それを受け取った塔が大臣たちや軍本部他に通知することになる。

 バチルデア離反の伝令より早くルリシアレヤたちを塔に匿えば、離反が判っていて隠したと軍部は言えない。クロウの情報網を知っているのは王と限られた魔術師だけだ。だから一刻も早くルリシアレヤとエリザマリを塔につれてきたい。すでにバチルデア軍は動いている。いつ伝令が来ても奇怪おかしくない。

 ゲッコーがクロウから聞き出したのは、バチルデアが早朝から軍を動かし始めたというものだった。本体はバイガスラ・テスレムに向かっている。一方、フェルシナス周辺に展開していた隊は苔むす森前面の砦に集結しつつある……ダズベルに警告を発し、サーベルゴカ軍をダズベルに向かわせなくてはならない。

 後になって、なぜバチルデアの動きが判ったのだと追及される恐れはないとサシーニャは言っていた。それぞれが遠隔地、多少の誤差は気付かれないし、もし気付かれたとしても記憶違いで片付けられる――

 チュジャンエラがマジェルダーナの待つ部屋に行くと挨拶もなしに、
「バチルデアがバイガスラに付いたようです」
と言われ、チュジャンエラがギョッとする。

「なぜ、そんな事がお判りになったのですか?」
「ルリシアレヤさまからお聞きしました。ララミリュースさまからのお手紙が暗号だったと、先ほどわたしを訪ねてらしたんです。わたしも手紙を拝見しました……チュジャンエラさま、至急お手配をお願いいたします」

「判りました……それで、ルリシアレヤさまは?」
「バーストラテと一緒だったので、そのままお帰りいただきましたが?」
「なるほど――急いで対処しますので、これで失礼します」

 マジェルダーナを置き去りに部屋を飛び出したチュジャンエラ、慌ててルリシアレヤの貸与館に向かう。この情報、マジェルダーナ、あるいはルリシアレヤ本人が、他に漏らしていはしないだろうか? ジャルスジャズナだけに任せておけない――

 そろそろバイガスラ国ジョジシアス王により開戦宣言が成されるだろう。グランデジア本陣、リヒャンデルの天幕では雑兵用の甲冑かっちゅうに替えたリオネンデたちが居住いずまいを正していた。

 既に、甲冑の下に着ていた衣装も含め、体格の似たような魔術師に着こませて、騎乗にてフェニカリデまで走り抜けるよう指示して送り出した。

 面皰めんぽうも着けさせた。 容貌を隠すためだ。黄金の髪で作った被り物をサシーニャ役の魔術師に被らせたのは言うまでもない。魔術師の塔に着いて甲冑を外すまで、誰もリオネンデとスイテア、そしてサシーニャと気付かないだろう。しかも気付くのは魔術師だけだ。魔術師の塔は昨日から、魔術師以外は一階にしか入れない。

「見慣れないと別人のようだな」
髪を短く切ったサシーニャを見てリオネンデが感心する。天幕には、外に話し声が聞こえないよう外聞防止術が掛けてある。

「すごく頭が軽くなったんです。もっと早く切ればよかったと思うくらい――でもまあ、今まで伸ばしていたのが役に立ちました」
「その短さなら兜の中にすっぽり収まる。誰も黄金の髪だとは思わないだろう」

 そこへ、部下に指示を出しに天幕から出ていたリヒャンデルが戻る。
「えっ? なぜスイテアさまが? 先ほど魔術師たちとフェニカリデに帰られたのでは?」
「うん、リヒャンデル、話がある。少しの間、何も言わずに聞いてくれないか?」
リオネンデがリヒャンデルに向き直った――

 グリッジ門の上部ではジョジシアス王がテスレムからの伝令にニコリとする。
「バチルデアがとうとう意を決したか」
「しかも苔むす森からも攻め込むらしい……さぞやグランデジア軍は慌てるでしょうな」
モフマルドも顔がほころぶのを隠せない。これで我らの勝利は確実になった、そう思っている。

「しかし、グランデジアが王女を返さなかったのは意外だった。ここはバチルデアの機嫌を損ねないよう、なんとしてでも返しそうだが?」
ジョジシアスの疑問に、
「フェニカリデに留め置けばバチルデアが遠慮して中立の立場をとると計算したのだと思われます。リオネンデもサシーニャも、まだまだという事ですよ」
上機嫌で答えるモフマルドだ。

「さあ、ジョジシアス王、開戦宣言を!」
うむ、とジョジシアスが立ち上がった――

 リオネンデの話にリヒャンデルが愕然とする。話を聞きながら身支度を終えたリヒャンデル、やはり甲冑を雑兵のものに替えていた。

「そうか、このいくさの本当の大義はそこにあったのか……」
グランデジア後宮での火事の真相をリオネンデから聞いたリヒャンデルだ。もちろんマレアチナ凌辱の件は伏せてある。単に『ジョジシアスに殺された』とした。

「王と王妃、そしてリューズを手に掛けたのはジョジシアス王……王妃は自分の妹じゃないか」
「それを目撃したのはリューデントだけ、話を聞いたリオネンデは重体で意識が戻らない。わたしがリオネンデから話を聞いた時にはすべて片付けられていて、証拠を見つけ出すことは叶わなかった――ジョジシアスの仕業と判っていても何もできずにいたのは、証拠を突きつけることができなかったからだ」
サシーニャが済まなさそうに言う。

「なぜもっと早く俺に言わなかった!?」
憤るリヒャンデルにリオネンデが
「おまえに言えば先走って、とんでもないことをしそうだからな」
と溜息をつく。身に覚えのあること、リヒャンデルも黙るしかない。

「だがこれでいろいろ合点が行った。なぜ軍から離れバイガスラに潜入するのか、今一つに落ちなったんだ。狙いはジョジシアスとその魔術師なんだな? その二人を捕らえればバイガスラ軍は総崩れ、それを狙っての奇襲だろが、なにか違うと思っていた――で、スイテアさまを連れて行くのはなぜだ?」

 身動みじろいだスイテアを抑えリオネンデが答える。
「スイテアは騒乱を起こしたピカンテアの領主の姪に当たる。そのスイテアを匿って育ててくれたのは我が母マレアチナ。その恩に報いたいとスイテアは言っている」

 それも嘘じゃない――リオネンデの説明を黙って聞きながらスイテアが思う。でも一番はリューデントの仇を打つことだ。が、リオネンデの愛妾となった今、リューデントの名を出すことをリオネンデは良しとしなかった。そして……

 ピカンテア騒乱の折、匿われたのはわたし一人ではない。ピカンテア領主の幼い子どもたちは後宮、王妃のもとで養育された。スイテアとともに育てられたのだ。今は離散しているが彼らもまた、この計画を知ったなら参じたいと思っただろう。マレアチナはみなを慈しんでくれた。自分だけでなく、彼らをも代表しているのだとスイテアは思っていた。

「ピカンテア騒乱か……あれは色んな意味でキツかったな」
リヒャンデルがポツリと言う。いわば内戦、同胞と戦わなくてはならないことに後ろめたさを感じた。だが今度は違う。相手は国王たちを殺めた相手、可愛い弟分の一人を手に掛けた相手だ。軍人としても、一人の人間としても戦う意義がある。

「開戦宣言が始まったようです」
サシーニャの声に四人が一斉に立ち上がった――

 動き始めたバイガスラ軍、グリッジ門前の兵七千のうち四千が、グランデジア本陣に向かって突進する。

「始まったな」
防壁上でジョジシアスが呟く。眼下にはときの声を上げて敵に向かう自国軍が見えている。

「サシーニャたちはチャキナム街道からドジッチ橋へは向かわずドドハルを目指すようです」
これはゴリューナガ、
「と言うことはフェニカリデに帰るのだろう……ジョジシアス王、我々もビピリエンツに戻りましょう」
モフマルドがジョジシアスを促す。自国の兵に心を残しながら、ジョジシアスは防壁から降りていった――

 グランデジア本陣を任されていたのはリヒャンデルの副官の一人コップポラヌ、南部遊軍の指揮官だった男だ。攻めてくるバイガスラ兵は近づくにつれその本隊から離れ、兵数が明らかになってくる。

「フン、四千ってとこだな」
コップポラヌがニヤリと笑う。六千の兵を預かっている。もう少し引き付けてから、こちらは全兵力で迎え撃つつもりだ。バイガスラ軍は、グランデジア軍も同程度の兵数しか出してこないと見込んでいる。それが定石だからだ。そして互いに手応えを確認しながら決戦の時を待つ。だが今回はそうはいかない。

 リヒャンデルから思い切りやれと言われている――向こうの兵数に関わらず、兵を全部引き連れて掛かれ。おまえたちのときの声で、他の門前に配置した隊もすぐ駆けつける。その勢いで門を破れ!

 グリッジ門前から出撃したバイガスラ軍はそろそろ緩衝地帯の中央を超える。グランデジア軍はなぜ動かないと不審がられる頃合いだ。
「行くぞ! 全軍、突撃!」

 コップポラスの声が響き、 巻き起こる鬨の声、 兵たちが踏みしめる足が地を揺らし、グランデジア軍の進撃が始まった。
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