残虐王は 死神さえも 凌辱す

寄賀あける

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第7章 報復の目的

まよい子たち

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 話があると言ってわざわざ来たくせに、ジャルスジャズナはなかなか用件を切り出さない。リューデントの診療記録を書き込んでいるサシーニャ、の記録と融合させるにはどうしようかと考えながらチラリとジャルスジャズナを見る。

 長椅子で膝に乗せたヌバタムの背を撫でているが、目はどこかを彷徨さまよっている。夢を見ているような眼差しに、ワダの話だと察したサシーニャの顔にうっすら笑みが浮かぶ。いつもは威勢のいい姐さんジャルスジャズナも恋人を思う風情ふぜいはまるで乙女のようだ……

「守り人を辞める相談ですか?」
露骨に『ワダの事ですか』とは言わず、遠回しに尋ねてみる。
「いや……」
オドオドするジャルスジャズナ、思い切ったようにサシーニャに向かう。

「薬物庫のピコシューに聞いたんだけどさ、ワダって薬草屋じゃなくなったって?」
「扱うのが薬草だけではなくなっただけですよ」
「薬草だけではなくなった?」
「はい――日用品や衣料品、食品……わたしが把握していない商品もあるんじゃないかな? けっこう手広く、今ではグランデジア一の豪商と呼ばれています」
「そうなんだ……アイツ、頑張ったんだなぁ――そうだよね、わたしが守り人になって五年近くだ。あの頃のままのはずもないよね」
「もう暫くすると来ます。こちらの用事が終わったら、ジャジャの執務室に行かせますから」
「いや……いいよ。今さら話すことなんかナンもない」

 予想外の返答にサシーニャがジャルスジャズナを見る。
「ワダが来たら話があると伝えてって、言っていたのはジャジャですよ?」
「この四年、アイツは一度も顔を見せなかった。わたしのことなんか忘れたさ」
「忘れてなんかいませんよ。会うたびワダは『ジャジャは元気か』って必ず訊いてきます。あなたを気にかけてます」
「それじゃあ、なんで会いに来なかった?」
「それは……わたしの口からは言えません」

 サシーニャも、実のところワダから理由を聞いていない。だけどワダは『今の俺ではアイツに会えない』と言い、『アイツは上流貴族のお嬢さんだ』と呟いた。察してはいるもものの勝手なことは言えない。

 ジャルスジャズナが探るような目をサシーニャに向ける。そしてフッと笑い、
「サシーニャは優しいね。アイツが来ないのには訳がある、なぁんて芝居しなくていいよ。なんだか惨めな気分になる」
寂しげに言った。

「アイツはね、あれで結構モテるんだ。何人も女がいてね。いやさ、そんなのどうでもいいんだ。わたしだって同じようなもんさ」
「ジャジャ……芝居なんかじゃないって、本当にワダは――」
「いいんだってば!」

 サシーニャの言葉を遮ってジャルスジャズナが虚ろに笑う。
「あのワダがそんなに立派になっちまうなんてねぇ。アイツの正体を知ったときには大した男だって感心したけどさ、わたしが思った以上の男だったんだね」
そして顔から笑みを消す。

「サシーニャ、わたしのとしじゃあもう、子どもを産めないかもしれない」
「いや、きっちり管理すれば……」
「無事に産めるか怪しいってことだ――ワダはね、子ども好きなんだ。何人いてもいいっていつか言ってた。たくさん産んでくれる人を見つけるよ。わたしなんかより若くて健康な可愛い人を」
「ジャジャ、ワダと話さなきゃ」
「わたしじゃダメなんだよ、サシーニャ。わたしじゃワダは幸せになれない」

 サシーニャの息が一瞬止まる。ルリシアレヤの手を離してしまった自分に、同じ理由でワダと決別しようとしているジャルスジャズナに言える言葉がどこにある?

 気まずい静寂――ジャルスジャズナの瞳は遠い思い出を見ているのか? 何も言えなくなったサシーニャ、どこかでジャルスジャズナの間違いを感じている。だが、ジャルスジャズナを間違っていると言えば、自分も間違っていることになる。だから認められない。間違ってなどだ。

 ヌバタムがニャオンと鳴いて、恋に惑う二人がハッとする。
「んじゃ、わたしは行くよ」
ジャルスジャズナが立ち上がった。

「これから王家の墓地に行く。リューデント即位のお礼の祈りを捧げてくるよ」
そんな祈りなど必要ない。知っていながらサシーニャは黙っている。王家の墓に行ったことにすれば、ワダに会わずに済む。わざわざ墓地に行ったりしないだろう。

「それからさ、例の件が終わったら守り人を辞めるって話なんだけどね。もう暫く勤めさせて貰いたいんだ――ガンデルゼフトには新しい花形がいる。わたしの出番も居場所もなくなった」
「ジャジャ……」
「今度フェニカリデに来たら、一緒に見に行ってくれるかい? あの子たちの頑張りを称賛したいんだ」
ジャルスジャズナの誘いに、少し迷ってからサシーニャが答える。
「……そうですね、その時は、みんなでこぞって見に行きましょう」

 ニッコリ笑って部屋を出ていくジャルスジャズナ、一人になったサシーニャが項垂うなだれる――ジャジャからワダとガンデルゼフトを奪ったのはわたしかもしれない……

 グランデジア国モリジナル、以前バチルデア国王妃と王女の接待に使われた高級宿屋の一室で、スイテアが溜息を吐く。けれどこの溜息は自分のための溜息ではない。ルリシアレヤがバチルデアに返されたと知ってのものだ。

 昨日、二輌の馬車が街道をベルグ方面に疾走して行った、あれはバチルデア国の王太子と王女が乗っていたらしい……そんな噂話を耳にしてモスリムに確かめると、すぐにモスリムはモリジナルに派遣されている魔術師に訊きに行ってくれた。

 リオネンデ王の片割れさまがお尋ねと聞いて、魔術師は訊いた以上のことを教えてくれたらしい。
『なんでもバチルデア国との講和にグランデジア王宮が求めたのは、エネシクル王の退位と王太子アイケンクスの即位なんだそうです。で、急ぎアイケンクスをバチルデアに返したようですね。で、どうせならと、リオネンデさまが亡くなって婚約無効となったルリシアレヤさまも一緒にご帰国ということだそうです』
『ルリシアレヤさまはそれを承知なさったの?』
『いや、そこまでは……それと、無事に王廟おうびょうの承認が降りて、リューデントさまは正式に即位なさったそうです』
『そうですか……』

『それからグランデジア・バイガスラ両国の不可侵条約が成立し、ジョジシアス王もバイガスラに戻るようです。ドドハルで今日は一泊、明日、チャキナム街道を通ってダンガシクからバイガスラ、グリッジでさらに一泊、明後日に王都ビピリエンツ到着予定だそうです』
『結局、そうなさったのね……』

 ジョジシアスの命を奪うかどうか迷い始めたリオネンデに『殺すだけが復讐ではありません』と言ったのはサシーニャだった。多分リューデントはサシーニャに従ったのだろう。

 自分を死に追いやったジョジシアスとの不可侵条約、リューデントはどんな思いで署名したのか……きっと複雑な心境に苦しんでいる。すぐにでも傍に行って慰めてあげたい。だけど拒まれそうで怖い。リオネンデにも申し訳ない。一番怖いのはリューデントをリオネンデと呼んでしまいそうなことだ。
(それにしても……)
フェニカリデを離れることを、ルリシアレヤが承知するはずがないと思った。

 金貨を受け取る名目でサシーニャがフェニカリデを離れている時、魔術師の塔の蔵書庫でルリシアレヤと二人きりになった。エリザマリは加減が悪いからと貸与館に残り、バーストラテはチュジャンエラに報告に行っていて、他には誰もいなかった。

 何度も溜息を吐くルリシアレヤに、なんの気なしにスイテアが訊いた。
『サシーニャさまがいないと寂しい?』
ハッと息を飲んだルリシアレヤの瞳に、見る見る涙が溢れてくる。

 誰かに見られたら拙い……慌ててスイテアは蔵書庫の小部屋にルリシアレヤを招き入れた。この小部屋の中なら、たとえ相手が魔術師でも覗けないと聞いている。そしてスイテアが許さない限り、誰も入って来られないはずだ。

『サシーニャさまが好きなのね?』
大きな息をしてスイテアを見詰めるだけのルリシアレヤを、スイテアはそっと抱き締めた。

『大丈夫、心配しないで。わたしはルリシアレヤさまの味方よ――可哀想に、誰にも言えずに一人で悩んでいたのね?』
『スイテアさま……』
とうとう声を上げ、ルリシアレヤが泣き出した。そして途切れ途切れに打ち明けてくれたサシーニャとの甘い遣り取り……

『するべきことを終えたら、わたしの幸せだけを考えるって言ってくれたの。わたしのためだけに生きるって』
羞恥はにかむルリシアレヤ、〝するべきこと〟とはきっと復讐のことだとスイテアが思う。

『だけど、準備が整うまでは誰にも知られちゃいけないって。リオネンデの婚約者として振る舞いなさいって――判ってるの、少なくとも婚約が解消されるまでは秘密にしておかなきゃならないって。だけど不安なの。本当に婚約は破棄できるの? サシーニャに訊いても、考えているからとしか言ってくれない』

『サシーニャさまが信じられない?』
『ううん、信じてる。わたししかいないってサシーニャは言ってくれたし、わたしだってサシーニャしかいない。そのサシーニャを信じなくて、いったい誰を信じるの? それでも不安になるのよ。どんなに頑張っても実現できないことだってあるわ。もしだめだったら、わたしとサシーニャはどうすればいいの?』
『泣かないで、ルリシアレヤ……きっとなんとかなるわ』
いっそリオネンデも味方だと言ってしまおうかと思ったが、混乱させるだけだと思い言わずにいた。

 サシーニャしかいないと言ったルリシアレヤが、婚約が無効となったのに自ら望んでフェニカリデを去るとは考えにくい。一番の障害、もしかしたらたった一つの障害がなくなったのだ。すぐには無理でも、この先は誰にはばかることなくサシーニャとの恋を育んでいけるというのに――それにサシーニャ……

 あのサシーニャがいい加減な気持ちで愛を口にするとは考えられない。サシーニャはルリシアレヤを思っている。それなのにサシーニャはどうしてルリシアレヤをバチルデアに返してしまったのだろう?

(リューデントが邪魔をした?)
まさか、と思うが可能性がないわけじゃない。
「モスリム! モスリムはいませんか!?」
廊下に出て大声でモスリムを呼ぶ。

 フェニカリデに帰ろう。帰ってサシーニャに話を聞こう。もしリューデントが邪魔をしたのなら、その時はわたしがリューデントと話をつける。誰かの恋の邪魔なんかさせたりしない――
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