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第7章 報復の目的
明かされる思いと閉ざされる心
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今さら『違う』という気もないが、どこから話したものかリューデントが迷う。
「騙していたのね?」
スイテアが侮蔑を込めてリューデントを見詰める。
「違う! いや、違わない。仕方なかったんだ」
「仕方なかった? わたしがどれほど苦しんだか判ってる? それを仕方ないで済ます気?」
「言いたかったさ。俺だぞ、リューデントだぞって。おまえがリオネンデに惹かれていくのも判ってた。自分で自分に嫉妬した。それがどれほど辛かったか」
「自分に嫉妬?」
「あぁ……ベルグから帰ってきたとき、庭で花を選んでいるおまえを見て『リオネンデのためか!?』って怒鳴りそうになった。思わず剣に手を掛けてしまった。あの夜は眠れなくて――」
「訳の分からないこと言わないで! リオネンデのためって、要は自分じゃないの! だいたい何よ、自分も苦しんだんだから大目に見ろとでも言うの?」
「そんなつもりは毛頭ない。おまえを苦しめたくなんかなかった。だけど、あの火事で、リオネンデは俺と間違われて殺された……あの夜、俺とアイツは入れ替わってたんだ」
「なんでそんな悪戯するのよ? って、あの夜わたし、あなたと庭で会ったわ。あれはリオネンデだった?」
「リオはジョジシアスを怖がってた。子どもの頃、バイガスラに行った事があるって話しただろう? その時アイツ、ジョジシアスに酷いことされてたんだ。だから、ジョジシアスがいる間は入れ替わろうってなった」
「ってことは……わたしの 部屋に来てリッチエンジェに逃げろって言ったのはリューデント?」
「あぁ、俺だ――ジョジシアスは悪事を目撃したリオネンデを殺した。それをリューデントだと思い込んでいる。リューデントが生きていればジョジシアスはなんらかの手を打つはずだ……自身を守るため、グランデジアを守るため、俺はリオネンデとして即位する必要があったんだ。王廟はジョジシアスへの報復と、それが終わるまで誰にも自分がリューデントだと明かさないことを条件に、俺がリオネンデ王として即位することを許した。知っているのは王家の守り人だったサシーニャだけだ」
「あは、あはは……」
スイテアが泣き笑いする
「わたし、馬鹿みたい。ずーっとあなたをリオネンデだと信じてた。ずーっとリューズに済まないって思ってた。なのに、何? リオネンデじゃなくってリューデントだった?」
「許してくれ、スイテア。リオネンデである間はおまえを保護するだけにしておけばよかった。そうしておけば、おまえを余計に苦しめずに済んだ……だけどおまえを目の前にして、どうしても我慢できなかったんだ。リオネンデを名乗っていても、おまえだけが俺の女だった」
「リューズ……」
手で顔を覆い、スイテアが泣き始める。
「スイテア……」
拒絶されるか? こわごわとリューデントがスイテアの肩に手を伸ばす。
「頼む、判ってくれ……俺はおまえがいない人生なんか考えられない。おまえしかいないんだ」
イヤイヤをするように身を捩るスイテアをリューデントが甘く包み込むように抱きとめ、そのままスイテアの答えを待った。
「嫌よ、許さないわ」
スイテアの声は掠れている。
「これから先もずーーッと恨んでやる。よくも騙してくれたわねって」
「そんな……俺はどうしたらいい?」
「喧嘩したら持ち出して、ネチネチ責めてやる」
「それでもいい、傍に居てくれ」
「ぜったい許さない。死ぬまで離れず甚振ってやる!」
「えっ? おまえ、それって……」
「嫌だって言うの? そんなこと言える立場だと思ってるの!?」
「いや、言わない」
リューデントが腕に力を込めて抱き締める。
「それでもいい。俺と一緒に生きてくれ」
「リューデント……」
スイテアの腕がリューデントの首に絡みつく。
「名前なんかどうでもいい。わたしが愛した男はあなた一人だった……信じていいのね?」
どちらからともなく唇が重ねられ、夜が更けていく――
チュジャンエラの強烈なビンタで体勢を崩したサシーニャが、赤くなった頬に手を当てて座り直す。そして、フッと失笑した。
「そうですね、チュジャンの言う通りです。知識や魔法はいろいろ教えてくれたけれど、わたしに暮らしを教えてくれる人はいませんでした。魔術師の塔に来て、日々食べている料理は食材を調理したものだと初めて知ったくらいです。それまでは柑橘が二重の皮に包まれている事すら知らなかった。わたしに出されるときはいつも、すぐ食べられる房になっていましたからね。食器は洗って使い回すものだということを知ったのも塔に来てからです」
頬を抑えていた手を外し、サシーニャがチュジャンエラを見る。頬は赤いまま、治癒術を使う気はなさそうだ。
「おまえの母上のようにプディングの作り方を教えてくれる人がわたしには居なかった。母親を早くに亡くしたことを言ってるんじゃないんです――自分から誰かに近寄ることもせず、人々に暮らしがあることにも気づかずにいました。王宮で双子の王子とそれを取り巻く人々だけを信用し、それ以外はわたしにとっては景色と変わりません。そして王宮は多分、非日常だったのだと思います。わたしにとっての日常は養い親に与えられた部屋で、なにかに怯えながら一人で過ごすことでした。そして、窓に遊びに来る小鳥たちと、養家に隠れてこっそり飼っていた迷い猫がそんなわたしを慰めてくれる。それがわたしの日常だったんです」
オロオロするジャルスジャズナ、チュジャンエラはサシーニャを睨み続けている。
「わたしはどこか常識から外れているのでしょう。あの――ある人が言葉遣いをもっと考えろと言いました。考え方がどこかずれているとも言いました。わたしは変わり者、そのわたしの近くに居てくれるチュジャンには感謝しています」
そしてジャルスジャズナに微笑みを向ける。
「ジャジャにも感謝しています――隠れてばかりのわたしを少しずつ表に引っ張り出してくれたのはジャジャです。チュジャンは家族以外、レナリムや王子以外の誰かを守りたいと思う気持ちがわたしにもあるということを気付かせてくれました。孤独に悩むのは何もわたしだけではないと教えてくれたのはバーストラテです……今までいろんな人がわたしに欠けている何かを修復してくれてきました。それでもまだまだわたしは欠落だらけです。足りないすべてを埋めてくれると言った人もいましたがその人さえ、わたしに呆れて去っていきました」
そして僅かに顔を顰めて立ち上がる。
「なぜチュジャンが怒ったのか、判らないんです。言っていることはもっともなことばかりで、反論する気なんかない。でも、そんなに苛立つのなら、わたしの傍に居なければいいと思いました。傍に居て欲しくないわけじゃない、むしろ居て欲しい。でも仕方ないって思ったんです」
「サシーニャ……」
名を呼んだのはジャルスジャズナだ。だがそのあと、なんと言えばいいのかが判らない。そんなジャルスジャズナにサシーニャがニッコリ笑う。
「チュジャンが指摘したのは、わたしの最大の欠落なんだと思います。その欠落はどうしたら埋められるのか?――今のわたしには判りません」
テーブルを回り込んでチュジャンエラが倒した椅子を屈みこんで元に戻す。いつもなら使う魔法を使っていない。そして扉に向かった。
「レナリムを迎えに行く馬車の籠に魔法を掛けに行ってきます。馬車の揺れを抑える魔法です。お腹の子に障りがあってはいけませんから」
扉の引手に手を掛けて立ち止まる。
「魔術師になんかなりたくなかった……でも、わたしの取柄は魔法が使える事だけですね」
そして部屋から出ていき扉が閉まる。
部屋に残されたジャルスジャズナとチュジャンエラ、ジャルスジャズナが溜息を吐き、鬱憤が治まらないチュジャンエラがそれでも自分の席に着く。
「聞いた、ジャジャ? 僕がなんで怒っているかが判らないだって。どこまでふざけてるんだよ?」
愚痴りながらスープを口に運ぶチュジャンエラ、
「サシーニャにしたら本当にそうなんだろうさ」
項垂れたジャルスジャズナが呟く。
「チェッ! すっかり冷めてら……なんか食欲なくなった。片付けようかな」
「あぁ、わたしももういいや」
ジャルスジャズナも蒸餅を千切るのをやめる。そしてハッとする。
「チュジャン、わたしら閉じ込められた」
「えっ?」
「サシーニャが室内に居ないと扉は開いてくれないよ?」
「あ……」
二人の魔術師が情けない顔をして笑った――
心を満たし、身体を満たし、次には空腹を満たすことにした。リューデントとスイテアの二人だ。用意された料理を堪能している。
『スイテアさまが食べたくないと仰ったら、無理強いしてはいけませんよ』
サシーニャにそう言われたが、スイテアは好物の蒸海老の殻を次々と剥いていく。挙句、『蟹はないのね』と少し不満そうだ。他にも瓜、中でも赤茄子を多めに食べて、アナナスやサルナシなどの果実もバクバクと食べている。ただ、焼き雉肉は見るのも嫌だと言い、茹でた鶏卵に至ってはリューデントが隣で殻を剥いただけで『気持ち悪い』と蒼褪めた。
「大丈夫か?」
心配するリューデントに、レモン水を飲んでから、
「うん、大丈夫。少し食べ過ぎちゃったかな」
と力なく笑う。
リオネンデ王はリューデントと納得しないうちは、本人に妊娠を気付かせてはいけないとサシーニャから言われている。が、入れ替わりを明かしたのだから言ってしまおうか?
『もし納得しても、できればスイテアさまにはまだ、知られないほうがいいと思います。入れ替わりに気付かなかったらリオネンデの子として産ませるつもりだったかと疑心を持たれるかもしれません』
言うか言うまいか迷っているとスイテアが話を振ってきた。
「なんだかすごく瓜が美味しいの――ねぇ、リオネンデ王が瓜好きなのは当り前だけど、本当のリオネンデさまも瓜がお好きだったの?」
「うん? どうだろう。嫌いだとは聞いたことはないな」
「そうなのね。双子って好き嫌いも一緒なのかしらって思ってたわ……リオネンデさまはどんな女性がお好みだった?」
「うん? なんでリオに拘る?」
「あのね、さっきリューズはリオネンデ王に嫉妬したって言ったでしょう? わたしだって焼きもちを妬いたことがあるのよ」
「なんでおまえが焼きもち? 後宮には女が大勢いたけれど、俺は誰にも手を付けていないぞ?」
「わたしね、庭でこっそり会っているあなたとレナリムを見ちゃったの――レナリムはあなたのことが好きだったのよね?」
スイテアが不安げな目でリューデントを覗き込む。
「騙していたのね?」
スイテアが侮蔑を込めてリューデントを見詰める。
「違う! いや、違わない。仕方なかったんだ」
「仕方なかった? わたしがどれほど苦しんだか判ってる? それを仕方ないで済ます気?」
「言いたかったさ。俺だぞ、リューデントだぞって。おまえがリオネンデに惹かれていくのも判ってた。自分で自分に嫉妬した。それがどれほど辛かったか」
「自分に嫉妬?」
「あぁ……ベルグから帰ってきたとき、庭で花を選んでいるおまえを見て『リオネンデのためか!?』って怒鳴りそうになった。思わず剣に手を掛けてしまった。あの夜は眠れなくて――」
「訳の分からないこと言わないで! リオネンデのためって、要は自分じゃないの! だいたい何よ、自分も苦しんだんだから大目に見ろとでも言うの?」
「そんなつもりは毛頭ない。おまえを苦しめたくなんかなかった。だけど、あの火事で、リオネンデは俺と間違われて殺された……あの夜、俺とアイツは入れ替わってたんだ」
「なんでそんな悪戯するのよ? って、あの夜わたし、あなたと庭で会ったわ。あれはリオネンデだった?」
「リオはジョジシアスを怖がってた。子どもの頃、バイガスラに行った事があるって話しただろう? その時アイツ、ジョジシアスに酷いことされてたんだ。だから、ジョジシアスがいる間は入れ替わろうってなった」
「ってことは……わたしの 部屋に来てリッチエンジェに逃げろって言ったのはリューデント?」
「あぁ、俺だ――ジョジシアスは悪事を目撃したリオネンデを殺した。それをリューデントだと思い込んでいる。リューデントが生きていればジョジシアスはなんらかの手を打つはずだ……自身を守るため、グランデジアを守るため、俺はリオネンデとして即位する必要があったんだ。王廟はジョジシアスへの報復と、それが終わるまで誰にも自分がリューデントだと明かさないことを条件に、俺がリオネンデ王として即位することを許した。知っているのは王家の守り人だったサシーニャだけだ」
「あは、あはは……」
スイテアが泣き笑いする
「わたし、馬鹿みたい。ずーっとあなたをリオネンデだと信じてた。ずーっとリューズに済まないって思ってた。なのに、何? リオネンデじゃなくってリューデントだった?」
「許してくれ、スイテア。リオネンデである間はおまえを保護するだけにしておけばよかった。そうしておけば、おまえを余計に苦しめずに済んだ……だけどおまえを目の前にして、どうしても我慢できなかったんだ。リオネンデを名乗っていても、おまえだけが俺の女だった」
「リューズ……」
手で顔を覆い、スイテアが泣き始める。
「スイテア……」
拒絶されるか? こわごわとリューデントがスイテアの肩に手を伸ばす。
「頼む、判ってくれ……俺はおまえがいない人生なんか考えられない。おまえしかいないんだ」
イヤイヤをするように身を捩るスイテアをリューデントが甘く包み込むように抱きとめ、そのままスイテアの答えを待った。
「嫌よ、許さないわ」
スイテアの声は掠れている。
「これから先もずーーッと恨んでやる。よくも騙してくれたわねって」
「そんな……俺はどうしたらいい?」
「喧嘩したら持ち出して、ネチネチ責めてやる」
「それでもいい、傍に居てくれ」
「ぜったい許さない。死ぬまで離れず甚振ってやる!」
「えっ? おまえ、それって……」
「嫌だって言うの? そんなこと言える立場だと思ってるの!?」
「いや、言わない」
リューデントが腕に力を込めて抱き締める。
「それでもいい。俺と一緒に生きてくれ」
「リューデント……」
スイテアの腕がリューデントの首に絡みつく。
「名前なんかどうでもいい。わたしが愛した男はあなた一人だった……信じていいのね?」
どちらからともなく唇が重ねられ、夜が更けていく――
チュジャンエラの強烈なビンタで体勢を崩したサシーニャが、赤くなった頬に手を当てて座り直す。そして、フッと失笑した。
「そうですね、チュジャンの言う通りです。知識や魔法はいろいろ教えてくれたけれど、わたしに暮らしを教えてくれる人はいませんでした。魔術師の塔に来て、日々食べている料理は食材を調理したものだと初めて知ったくらいです。それまでは柑橘が二重の皮に包まれている事すら知らなかった。わたしに出されるときはいつも、すぐ食べられる房になっていましたからね。食器は洗って使い回すものだということを知ったのも塔に来てからです」
頬を抑えていた手を外し、サシーニャがチュジャンエラを見る。頬は赤いまま、治癒術を使う気はなさそうだ。
「おまえの母上のようにプディングの作り方を教えてくれる人がわたしには居なかった。母親を早くに亡くしたことを言ってるんじゃないんです――自分から誰かに近寄ることもせず、人々に暮らしがあることにも気づかずにいました。王宮で双子の王子とそれを取り巻く人々だけを信用し、それ以外はわたしにとっては景色と変わりません。そして王宮は多分、非日常だったのだと思います。わたしにとっての日常は養い親に与えられた部屋で、なにかに怯えながら一人で過ごすことでした。そして、窓に遊びに来る小鳥たちと、養家に隠れてこっそり飼っていた迷い猫がそんなわたしを慰めてくれる。それがわたしの日常だったんです」
オロオロするジャルスジャズナ、チュジャンエラはサシーニャを睨み続けている。
「わたしはどこか常識から外れているのでしょう。あの――ある人が言葉遣いをもっと考えろと言いました。考え方がどこかずれているとも言いました。わたしは変わり者、そのわたしの近くに居てくれるチュジャンには感謝しています」
そしてジャルスジャズナに微笑みを向ける。
「ジャジャにも感謝しています――隠れてばかりのわたしを少しずつ表に引っ張り出してくれたのはジャジャです。チュジャンは家族以外、レナリムや王子以外の誰かを守りたいと思う気持ちがわたしにもあるということを気付かせてくれました。孤独に悩むのは何もわたしだけではないと教えてくれたのはバーストラテです……今までいろんな人がわたしに欠けている何かを修復してくれてきました。それでもまだまだわたしは欠落だらけです。足りないすべてを埋めてくれると言った人もいましたがその人さえ、わたしに呆れて去っていきました」
そして僅かに顔を顰めて立ち上がる。
「なぜチュジャンが怒ったのか、判らないんです。言っていることはもっともなことばかりで、反論する気なんかない。でも、そんなに苛立つのなら、わたしの傍に居なければいいと思いました。傍に居て欲しくないわけじゃない、むしろ居て欲しい。でも仕方ないって思ったんです」
「サシーニャ……」
名を呼んだのはジャルスジャズナだ。だがそのあと、なんと言えばいいのかが判らない。そんなジャルスジャズナにサシーニャがニッコリ笑う。
「チュジャンが指摘したのは、わたしの最大の欠落なんだと思います。その欠落はどうしたら埋められるのか?――今のわたしには判りません」
テーブルを回り込んでチュジャンエラが倒した椅子を屈みこんで元に戻す。いつもなら使う魔法を使っていない。そして扉に向かった。
「レナリムを迎えに行く馬車の籠に魔法を掛けに行ってきます。馬車の揺れを抑える魔法です。お腹の子に障りがあってはいけませんから」
扉の引手に手を掛けて立ち止まる。
「魔術師になんかなりたくなかった……でも、わたしの取柄は魔法が使える事だけですね」
そして部屋から出ていき扉が閉まる。
部屋に残されたジャルスジャズナとチュジャンエラ、ジャルスジャズナが溜息を吐き、鬱憤が治まらないチュジャンエラがそれでも自分の席に着く。
「聞いた、ジャジャ? 僕がなんで怒っているかが判らないだって。どこまでふざけてるんだよ?」
愚痴りながらスープを口に運ぶチュジャンエラ、
「サシーニャにしたら本当にそうなんだろうさ」
項垂れたジャルスジャズナが呟く。
「チェッ! すっかり冷めてら……なんか食欲なくなった。片付けようかな」
「あぁ、わたしももういいや」
ジャルスジャズナも蒸餅を千切るのをやめる。そしてハッとする。
「チュジャン、わたしら閉じ込められた」
「えっ?」
「サシーニャが室内に居ないと扉は開いてくれないよ?」
「あ……」
二人の魔術師が情けない顔をして笑った――
心を満たし、身体を満たし、次には空腹を満たすことにした。リューデントとスイテアの二人だ。用意された料理を堪能している。
『スイテアさまが食べたくないと仰ったら、無理強いしてはいけませんよ』
サシーニャにそう言われたが、スイテアは好物の蒸海老の殻を次々と剥いていく。挙句、『蟹はないのね』と少し不満そうだ。他にも瓜、中でも赤茄子を多めに食べて、アナナスやサルナシなどの果実もバクバクと食べている。ただ、焼き雉肉は見るのも嫌だと言い、茹でた鶏卵に至ってはリューデントが隣で殻を剥いただけで『気持ち悪い』と蒼褪めた。
「大丈夫か?」
心配するリューデントに、レモン水を飲んでから、
「うん、大丈夫。少し食べ過ぎちゃったかな」
と力なく笑う。
リオネンデ王はリューデントと納得しないうちは、本人に妊娠を気付かせてはいけないとサシーニャから言われている。が、入れ替わりを明かしたのだから言ってしまおうか?
『もし納得しても、できればスイテアさまにはまだ、知られないほうがいいと思います。入れ替わりに気付かなかったらリオネンデの子として産ませるつもりだったかと疑心を持たれるかもしれません』
言うか言うまいか迷っているとスイテアが話を振ってきた。
「なんだかすごく瓜が美味しいの――ねぇ、リオネンデ王が瓜好きなのは当り前だけど、本当のリオネンデさまも瓜がお好きだったの?」
「うん? どうだろう。嫌いだとは聞いたことはないな」
「そうなのね。双子って好き嫌いも一緒なのかしらって思ってたわ……リオネンデさまはどんな女性がお好みだった?」
「うん? なんでリオに拘る?」
「あのね、さっきリューズはリオネンデ王に嫉妬したって言ったでしょう? わたしだって焼きもちを妬いたことがあるのよ」
「なんでおまえが焼きもち? 後宮には女が大勢いたけれど、俺は誰にも手を付けていないぞ?」
「わたしね、庭でこっそり会っているあなたとレナリムを見ちゃったの――レナリムはあなたのことが好きだったのよね?」
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