追放されたJR職員ですが、異世界で救援列車を無双運行して英雄になりました

K2画家・唯

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第5章 機械下等論とギルド設立の陰謀

第5章 機械下等論とギルド設立の陰謀

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その日の朝、勇樹は見慣れない光景に戸惑っていた。

機関車を停車させた町の中央広場に、大勢の人々が集まっているのだ。昨夜は静かだった広場が、朝になると老若男女で埋め尽くされている。皆、救援列車の方を見つめ、興奮した表情を浮かべていた。

「あの機械が——」

「本当に魔法なしで動くのね」

「昨日、うちの息子が乗せてもらったのよ」

人々の声は称賛に満ちていた。救援列車による一連の救助活動は、瞬く間に町中の話題となっていた。特に、崖崩れでの迅速な対応と、負傷者の安全な搬送は、多くの住民に深い印象を残していた。

「野中さん!」

群衆の中から一人の男性が手を振った。昨日救助した避難民の一人で、足を怪我していた老人だった。

「おかげさまで、孫と再会できました! 本当に、ありがとうございます!」

老人の言葉をきっかけに、他の人々も次々と感謝の声を上げ始めた。

「私の母も助けてくださって——」

「危険な道を通らずに済んだわ」

「子供たちが喜んでいました。あの汽笛の音を聞くと安心するって」

勇樹は運転席から身を乗り出し、深々と頭を下げた。

「いえ、当然のことをしただけです。皆さんがお元気で何よりです」

「そんなことありませんよ!」若い母親が反論した。「魔法使いの先生方でも、あんなに迅速に対応できませんでした」

「そうそう」商人らしい男性が頷いた。「魔法だと、術者の体調や魔力に左右されるけど、あの機械は安定してる」

群衆の中から、さらに声が上がった。

「鉄道万歳!」

「救援列車に乾杯!」

「機械技術ばんざーい!」

人々の熱狂ぶりに、勇樹は複雑な気持ちになった。確かに多くの人を救うことができたが、手放しで喜べる状況ではない。燃料不足の問題は解決していないし、反魔法派による妨害工作の脅威も残っている。

「勇樹さん、すごい人気ですね」リリアが微笑みながら言った。

「こんなに感謝してもらえるなんて」ミナも嬉しそうだった。「やりがいがあるわね」

しかし、町の反対側では全く異なる光景が繰り広げられていた。

王国議会の議事堂では、緊急会議が召集されていた。議題は「機械技術の規制について」。救援列車の活動が社会的注目を集める中、保守的な貴族たちが危機感を募らせていたのだ。

「諸君」議長を務める公爵が重々しく口を開いた。「我々は今、重大な転換点に立たされている」

円形に配置された議席には、王国の主要な貴族たちが居並んでいた。皆、豪華な礼服に身を包み、厳粛な表情を浮かべている。

「機械技術」公爵は言葉に込めて発音した。「それは、我が国の伝統的価値観を根底から覆す危険な思想である」

議席から、同調の声が上がった。

「その通りです」伯爵の一人が立ち上がった。「魔法こそが、我々文明人の証。機械に頼るなど、野蛮人の発想です」

「機械下等論を改めて確認すべきでしょう」別の貴族が発言した。「機械とは所詮、魔法の劣化版に過ぎない。知性ある者が使うべき技術ではありません」

機械下等論——それは、この異世界の支配階級に根強く浸透している思想だった。魔法を最高の技術とし、機械を劣等で野蛮なものと見なす価値観。勇樹の救援列車は、この既存の価値体系に対する挑戦と受け取られていた。

「しかも」年配の侯爵が苦々しく言った。「あの機械使いは、魔法も使えない落ちこぼれだと聞いています。そのような者が英雄扱いされるなど、言語道断」

「民衆が惑わされているのです」若い男爵が興奮気味に叫んだ。「機械の便利さに目を奪われ、真の価値を見失っている」

議長の公爵が手を上げ、議場を静めた。

「問題は、機械技術そのものだけではない」彼の声は低く、威圧的だった。「民衆の価値観が変化し始めていることだ」

実際、救援列車の活動は、一般市民の機械技術に対する見方を変え始めていた。魔法が使えない人々にとって、鉄道は希望の象徴となりつつあった。

「このまま放置すれば」公爵は続けた。「我々貴族の権威が失墜しかねない」

貴族の権力は、魔法の独占的使用に基づいていた。生まれながらに魔法の才能を持つ者が支配階級となり、才能のない者は従属階級となる——それが、この社会の根本的な構造だった。

しかし、機械技術が普及すれば、魔法に頼らない技術体系が確立される可能性がある。それは、既存の社会秩序に対する根本的な脅威だった。

「対策を講じる必要があります」ある貴族が提案した。「機械技術の使用を法的に規制するのです」

「賛成です」別の議員が手を上げた。「公共の安全を理由に、機械の運行を禁止すべきでしょう」

議場は賛成の声で満ちた。しかし、一人の男性が異を唱えた。

「ちょっと待ってください」

声の主は、中年の男性だった。灰色がかった髪を丁寧に撫でつけ、品のある顔立ちをしている。他の貴族とは違い、華美な装飾を避けた質素な服装が印象的だった。

「エドワード卿」議長が眉をひそめた。「何か意見が?」

「はい」エドワード・ノーブルステーションと名乗ったその男性は、毅然とした態度で答えた。「機械技術の全面禁止は、時期尚早ではないでしょうか」

議場にざわめきが走った。エドワードは没落貴族の出身だが、鉄道事業への投資で成功を収めた実業家として知られていた。

「機械技術にも」エドワードは続けた。「一定の価値があることは認めるべきです。特に、大量輸送や緊急時の対応においては——」

「エドワード卿」公爵が遮った。「あなたは機械に投資しているから、そう言われるのでしょう。利害関係者の発言として聞いておきます」

エドワードの表情が険しくなった。確かに彼は鉄道技術に注目し、私財を投じて研究を支援していた。しかし、それは純粋に技術的価値を認めてのことだった。

「利害関係は否定しません」エドワードは正直に答えた。「しかし、客観的に見ても、機械技術は社会の発展に寄与する可能性があります」

「詭弁です」若い貴族が立ち上がった。「機械など、所詮は人間の劣等感の産物。魔法の才能がない者が、自分を慰めるために作り出した偽技術に過ぎません」

議場は再び賛成の声で満ちた。エドワードは孤立していた。

「採決に移りましょう」議長が宣言した。「機械技術の規制法案について——」

しかし、採決の前にエドワードがもう一度発言を求めた。

「最後に一点だけ」彼は立ち上がった。「あの救援列車の運行者と、直接お話ししてから判断されてはいかがでしょうか」

「話し合い?」公爵が冷笑した。「落ちこぼれと何を話すことが?」

「彼らの動機を知るべきです」エドワードは真剣に言った。「人を救いたいという純粋な願いから生まれた技術を、利害関係だけで判断するのは適切ではありません」

議場は静まり返った。エドワードの言葉には、一定の説得力があった。

「一週間の猶予を与えてください」エドワードは提案した。「その間に、機械技術の実態を調査し、適切な判断材料を揃えましょう」

議長は少し考えてから頷いた。

「分かりました。一週間後に再審議いたします。それまでに、十分な調査を行ってください」

エドワードは深々と一礼した。これで、少なくとも即座の規制は回避できた。しかし、一週間という時間は短い。その間に、機械技術の価値を証明し、議会を説得する必要がある。

議会が散会した後、エドワードは急いで王都を出発した。目的地は、救援列車が停車している町。勇樹たちと直接会い、ギルド設立の提案を行うためだった。

一方、町の広場では相変わらず勇樹たちが市民に囲まれていた。

「今度は、うちの村にも来てくださいよ」農夫の男性が懇願した。

「橋が壊れて困ってるんです」別の住民が続けた。「あの機械なら、きっと何とかしてくれますよね」

勇樹は困惑していた。確かに多くの人を助けたいが、燃料不足の問題や、反対勢力の存在を考えると、軽々しく約束はできない。

「皆さんのお気持ちは嬉しいのですが」勇樹は慎重に言葉を選んだ。「まだ解決しなければならない課題が——」

「何か問題があるんですか?」市民の一人が心配そうに尋ねた。

「燃料の確保や、安全な運行体制の整備など——」

その時、群衆の向こうから一台の馬車が近づいてきた。品の良い黒塗りの馬車で、扉には紋章が描かれている。明らかに貴族の馬車だった。

人々はざわめきながら道を空けた。馬車から降りてきたのは、エドワード・ノーブルステーションだった。

「失礼いたします」エドワードは丁寧に一礼した。「救援列車の運行者の方々にお会いしたく参りました」

勇樹は警戒した。貴族の来訪は、通常良い知らせをもたらさない。昨日の刺客の件もあり、身構えてしまう。

「私です」勇樹は運転席から降りた。「野中勇樹と申します」

「エドワード・ノーブルステーションです」エドワードは名刺を差し出した。「鉄道事業に投資している者として、ぜひお話しをお聞かせください」

名刺には「鉄道投資家」という肩書きが記されていた。勇樹は意外に思った。この世界に、機械技術に理解を示す貴族がいたとは。

「こちらは、リリア・スチームハートさんと、ミナ・ワイルドテールさん」勇樹は仲間を紹介した。

「お話は、もう少し静かな場所で」エドワードは周囲の群衆を見回した。「私の馬車でいかがでしょうか」

勇樹は少し迷ったが、リリアとミナの頷きを見て同意した。群衆の中では、確かに落ち着いて話ができない。

エドワードの馬車は内装も豪華で、革張りの座席とクッションが快適だった。四人が向かい合って座ると、エドワードが口を開いた。

「まず、お礼を言わせてください」エドワードは深く頭を下げた。「あなた方の救援活動は、素晴らしいものでした」

「ありがとうございます」勇樹は答えた。

「実は」エドワードは表情を改めた。「王国議会で、機械技術の規制法案が審議されています」

三人の表情が一変した。

「規制?」リリアが声を上げた。

「機械下等論に基づき、機械技術の使用を法的に禁止しようという動きです」エドワードは重々しく説明した。「保守的な貴族たちが、あなた方の活動を脅威と見なしているのです」

勇樹は愕然とした。人を救う活動が、なぜ規制の対象になるのか。

「しかし」エドワードは希望を込めて言った。「一週間の猶予を得ました。その間に、機械技術の価値を証明し、議会を説得する必要があります」

「どうすれば——」ミナが不安そうに尋ねた。

「鉄道ギルドを設立するのです」エドワードの瞳が輝いた。「正式な組織として認定され、法的地位を確立すれば、簡単に規制はできません」

鉄道ギルド——その言葉に、勇樹は希望を感じた。JR九州も、一つの組織として社会的責任を果たしていた。この異世界でも、同様の組織があれば——

「ギルドを設立するには、どうすれば?」勇樹が尋ねた。

「まず、正式な申請書類を作成する必要があります」エドワードは説明した。「ギルドの目的、活動内容、組織体制、資金計画——これらを詳細に記載し、王国に提出します」

「複雑そうですね」リリアが心配した。

「私がサポートします」エドワードは力強く宣言した。「必要な書類の準備、議会での説明、資金面での支援——全て引き受けます」

勇樹は感動した。見ず知らずの自分たちのために、ここまでしてくれる人がいる。

「どうして、そこまで——」

「私は信じています」エドワードは真剣に答えた。「機械技術が、この世界をより良くする力を持っていることを。そして、あなた方の活動が、多くの人に希望を与えていることを」

エドワードの言葉に、三人は深く頷いた。

「ぜひ、お願いします」勇樹は決意を込めて言った。「鉄道ギルドを設立しましょう」

こうして、新たな戦いが始まった。鉄道技術を守り、発展させるための、組織的な取り組みが。

しかし、彼らが知らないうちに、陰謀の影が忍び寄っていた。

翌日の朝、勇樹たちはエドワードの案内で駅舎の事務所に向かった。

ギルド設立に向けた本格的な準備を開始するためだった。エドワードが用意した事務所は、町の中心部にある二階建ての建物で、一階が待合室、二階が事務室として使われている。

「こちらが、今後の活動拠点になります」エドワードは二階の事務室を案内した。

部屋は十分な広さがあり、大きな机が三つ置かれている。壁一面には書棚が設置され、既にいくつかの書類や技術資料が整理されていた。

「すごく立派ですね」リリアが感心して言った。

「鉄道に関する資料も、可能な限り集めました」エドワードは書棚を指差した。「古代の鉄道遺跡の調査報告書、機械工学の基礎文献、ギルド設立の法的手続きに関する資料——全て揃っています」

勇樹は書棚に近づき、背表紙を眺めた。確かに、鉄道技術に関する貴重な資料が並んでいる。この世界の古代文明が、かなり高度な鉄道技術を持っていたことが窺える内容だった。

「これだけあれば、ギルド設立の申請書類は十分に作成できそうですね」ミナが頷いた。

「ええ」エドワードは机の上に書類を広げた。「申請に必要な項目を整理してみました。組織の目的、活動内容、予算計画、人員構成——これらを詳細に記載する必要があります」

勇樹は書類を見ながら考えた。JR九州で働いていた頃の組織運営の経験が、ここでも活かせるかもしれない。安全第一の運行体制、定期的な車両点検、乗務員の教育制度——

「まず、ギルドの基本方針を決めましょう」勇樹は提案した。「『安全で確実な救援輸送の提供』を最優先に据えて——」

「賛成です」リリアが手を上げた。「技術的な研究開発も重要ですが、人命救助が第一ですね」

「獣人や他の種族にも門戸を開いた、平等な組織にしたいわ」ミナが付け加えた。「魔法が使えなくても、鉄道の仕事ができることを示したい」

エドワードは感心したように頷いた。

「素晴らしい理念です。これなら、議会でも十分に説明できるでしょう」

四人は机を囲んで、申請書類の作成に取りかかった。勇樹が組織運営の経験を語り、リリアが技術的な詳細を補足し、ミナが実務面での提案を行う。エドワードは法的手続きの専門知識で全体を調整した。

作業は順調に進んだ。昼食を挟んで夕方まで続け、申請書類の大部分が完成した。

「明日もう一日作業すれば、提出できる状態になりそうですね」エドワードが満足そうに言った。

「ありがとうございます」勇樹は深く頭を下げた。「エドワードさんがいなければ、こんなに早くは——」

「いえいえ」エドワードは手を振った。「私にとっても、意義のある仕事です」

一日の作業を終えた四人は、事務所を後にした。重要な書類は金庫に保管し、明日朝から再開する予定だった。

しかし、翌朝事務所に到着した勇樹たちを待っていたのは、衝撃的な光景だった。

事務室のドアが破られ、室内が完全に荒らされていたのだ。

「なんて——」リリアが息を呑んだ。

机は引っくり返され、書類は床一面に散乱している。書棚の本は大部分が抜き取られ、残った物も乱雑に投げ散らかされていた。金庫も破られ、中身は空っぽになっている。

「昨日作成した申請書類も——」ミナが震え声で言った。

勇樹は急いで金庫の周辺を調べたが、重要な書類は全て消失していた。一日がかりで作成したギルド設立の申請書、技術仕様書、予算計画書——全てが盗まれている。

「これは——」エドワードの顔が青ざめた。「組織的な妨害工作です」

壁に書かれた落書きが、侵入者の正体を物語っていた。

「機械は滅ぶべし」

「魔法こそ至高」

「落ちこぼれに未来なし」

明らかに、機械下等論を信奉する者たちの仕業だった。

「資料だけじゃない」リリアが書棚を調べながら言った。「古代鉄道の技術文献も、重要な部分だけ抜き取られてる」

「狙いが明確ですね」ミナが分析した。「ギルド設立を阻止するだけでなく、鉄道技術の研究自体を妨害しようとしている」

勇樹は拳を握りしめた。一日がかりの努力が、一夜にして無に帰した。しかも、これは単なる嫌がらせではない。組織的で、明確な目的を持った妨害工作だった。

「すぐに衛兵に届け出ましょう」エドワードが提案した。

しかし、勇樹は首を振った。

「無駄です。相手が貴族なら、衛兵も味方してくれないでしょう」

実際、反魔法派の貴族たちが背後にいるなら、官憲への告発は効果的ではない。むしろ、こちらの動きを封じられる可能性もある。

「それじゃあ、どうすれば——」リリアが不安そうに尋ねた。

「最初から作り直します」勇樹は決意を込めて言った。「相手が妨害するなら、それを上回る努力で対抗するしかない」

エドワードが感心したように頷いた。

「その通りです。挫けていては、相手の思う壺です」

「でも、時間がありません」ミナが指摘した。「議会での再審議まで、あと五日しか——」

「やれるだけやってみましょう」勇樹は仲間たちを見回した。「諦めるのは、まだ早い」

四人は散乱した事務室の片付けから始めた。使える書類を拾い集め、破損した机を修理し、残った資料を整理する。幸い、基本的な法律書や一般的な技術資料は盗まれずに残っていた。

「申請書類は記憶を頼りに再作成できます」勇樹が言った。

「私も技術仕様の部分を覚えています」リリアが続けた。

「予算計画も、大体の数字は頭に入ってる」ミナが付け加えた。

エドワードは希望を込めて微笑んだ。

「やはり、人の記憶は盗めませんからね」

作業を再開した四人だったが、夕方になって新たな問題が発生した。

「あの——」

事務所の入り口に、見慣れない男性が立っていた。年の頃は三十代半ば、商人風の服装をしているが、どこか不自然な雰囲気がある。

「何かご用ですか?」エドワードが応対した。

「近所の者です」男性は愛想良く笑った。「昨夜、この建物で騒音がしたという苦情がありまして——」

勇樹は違和感を覚えた。男性の話し方に、妙に作為的なものを感じる。

「騒音?」リリアが首をかしげた。

「ええ、深夜に大きな音が——」男性は室内を覗き込んだ。「あら、随分と散らかってますね」

男性の視線が、机の上の書類に向けられた。再作成中の申請書類が、一部見える位置に置かれている。

「失礼しました」男性は慌てたように頭を下げた。「苦情の件、誤解だったようです」

男性は足早に立ち去った。だが、その後ろ姿に勇樹は不審なものを感じた。

「今の人——」ミナが鋭い嗅覚で何かを察知した。「なんか変な匂いがした」

「変な匂い?」

「昨夜、この事務所を荒らした連中と同じ匂い」ミナの表情が険しくなった。「間違いない」

勇樹の血の気が引いた。あの男性は、昨夜の侵入者の仲間だったのだ。そして、彼らの再作成作業を監視していた。

「急いで書類をまとめましょう」エドワードが指示した。「ここは、もう安全ではありません」

四人は慌てて重要書類を回収した。しかし、事務所を出た直後、街の向こうで不審な人影が動くのを目撃した。

「あそこ——」リリアが指差した。

三人組の黒装束が、路地の影に消えていく。手には何かの書類らしきものを抱えている。

「待て!」勇樹は反射的に追跡を開始した。

仲間たちも後に続く。しかし、相手は街の地理に詳しく、狭い路地を巧妙に利用して逃走していく。

追跡は十分ほど続いたが、やがて黒装束の影は夜の闇に紛れて見失った。

「くそ——」勇樹は歯噛みした。

街の灯火が点々と灯る中、四人は立ち尽くしていた。

「完全に狙われてますね」エドワードが重々しく言った。

「ギルド設立を阻止するだけでなく、私たちの動きを常に監視している」リリアが分析した。

「相手は本気よ」ミナが警戒を込めて言った。「鉄道技術を完全に潰そうとしてる」

勇樹は夜空を見上げた。星々が瞬く中、彼の心に新たな決意が湧き上がってきた。

「分かりました」勇樹は振り返った。「相手が政治の場で勝負を挑んでくるなら、こちらも正面から受けて立ちましょう」

「正面から?」

「鉄道の価値を、実際の成果で証明するんです」勇樹の瞳に強い意志が宿った。「書類や申請手続きだけでなく、人を救う実績で議会を説得する」

エドワードの表情が明るくなった。

「それは——確かに、最も説得力のある方法かもしれません」

「明日から、より大規模な救援活動を展開しましょう」勇樹は仲間たちを見回した。「相手が妨害工作で来るなら、こちらは実績で対抗する」

リリアとミナも頷いた。

「賛成です」

「やってやりましょう」

夜風が四人の頬を撫でた。遠くで夜警の鐘が鳴り、街は静寂に包まれていく。

だが、勇樹たちの戦いは始まったばかりだった。機械下等論と戦い、鉄道技術の価値を証明し、多くの人々を救う——その使命を胸に、彼らは新たな挑戦に向かおうとしていた。

街の向こうで、再び黒い影がちらりと動いた。敵もまた、次の手を考えているのだろう。

しかし、勇樹にはもう迷いはなかった。人を救う技術を、絶対に諦めるわけにはいかない。たとえどんな妨害があろうとも、救援列車は走り続ける。

それが、野中勇樹という男の、譲れない信念だった。
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