追放されたJR職員ですが、異世界で救援列車を無双運行して英雄になりました

K2画家・唯

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第20章 要塞中枢への特攻

第20章 要塞中枢への特攻

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魔王軍兵士との激戦の中、勇樹は仲間たちを一つの隠れた通路に集めていた。リリアの魔導蒸気による結界が周囲を覆い、一時的に敵の追跡を遮断している。狭い空間に六人が身を寄せ合い、緊急作戦会議を開いていた。

「状況を整理しよう」勇樹が【緊急運行】で得た情報を共有する。「要塞の司令塔を完全に停止させるには、地下にある中枢電源を破壊する必要がある」

ガンドルフが汗を拭いながら頷く。

「わしの分析でも同じ結論だ。あの巨大なシステムを稼働させているエネルギー源は、必ず要塞の最深部にあるはずだ」

アルテミスが古代の知識を基に補足する。

「古代要塞の設計思想からすると、中枢電源は要塞の重心に配置されています。最も堅固で、かつ全システムにエネルギーを効率的に供給できる場所です」

勇樹は【緊急運行】を最大出力で発動し、要塞全体の三次元構造を詳細に分析した。エネルギーの流れ、構造的弱点、そして最も重要な侵入ルートが頭の中に立体的に浮かび上がる。

「見えた」勇樹が興奮を抑えて報告する。「中枢電源は要塞の地下五階、中央部に位置している。現在地からの最短ルートは……」

彼は指で空中に線を描きながら説明を続ける。

「この通路を東に百メートル進み、らせん階段で三階下降。そこから西に折り返し、さらに二階下降すれば到達できる」

「それだけ?」ミナが意外そうに尋ねる。

「いや」勇樹が表情を引き締める。「問題はルート上に配置された防衛システムだ。少なくとも七つの関門があり、それぞれに自動迎撃装置が設置されている」

エドワードが戦術的な観点から質問する。

「突破にはどの程度の時間が必要ですか?」

「順調にいけば十五分。しかし、戦闘が長引けば三十分以上かかる可能性がある」

「三十分……」リリアが不安そうに呟く。「その間、魔王軍の増援が到着してしまいます」

確かに、要塞内にはまだ多数の敵兵が残っている。時間が経てば経つほど、包囲網は狭まっていくだろう。

「だからこそ、迅速かつ確実な作戦が必要だ」勇樹が決意を込める。「各自の役割分担を明確にしよう」

ガンドルフが技術的な役割を担うことを申し出る。

「中枢電源の破壊は、わしが担当する。古代と現代の技術融合なら、効率的な破壊方法を見つけられる」

「私は進路上の魔法的障壁を無力化します」アルテミスが続ける。「古代の封印技術なら対処可能です」

リリアが魔法杖を握り締める。

「魔導蒸気で皆さんの能力を強化し、同時に敵の攻撃を防御します」

ミナが鋭い嗅覚を活かした提案をする。

「私は敵兵の位置と動きを察知して、奇襲を回避します」

エドワードが最後に付け加える。

「私は全体統括と、万が一の場合の後方支援を行います」

勇樹は仲間たちの顔を見回した。皆、緊張しているが同時に強い決意も感じられる。

「一つだけ約束してくれ」勇樹が真剣な表情で言う。「必ず全員で帰るんだ。誰一人犠牲にしない」

「当然です」ガンドルフが力強く答える。

「私たちは家族ですから」リリアが微笑む。

「絶対に諦めません」ミナが尻尾を立てる。

「共に戦いましょう」アルテミスが決意を示す。

「必ず成功させます」エドワードが締めくくる。

通路の向こうからは、魔王軍兵士たちの足音が次第に近づいてくる。隠蔽も長くは続かない。

「よし、行くぞ」勇樹が立ち上がる。

リリアの結界が解除されると同時に、一行は隠れた通路から飛び出した。【緊急運行】が示すルートに従い、東側の通路を全力で駆け抜ける。

途中、二体の自動迎撃装置が作動したが、アルテミスの古代技術により瞬時に無力化された。魔法的な攻撃パターンを事前に読み取り、適切な対処法を適用したのだ。

「素晴らしい連携だ」勇樹が走りながら称賛する。

「まだ始まったばかりです」アルテミスが謙遜する。

らせん階段に到達した時、上方から魔王軍の増援部隊が降りてくる音が聞こえた。少なくとも十名以上の重武装兵士が接近している。

「挟み撃ちされる前に下に降りよう」勇樹が判断する。

一行は急速に階段を駆け下りた。石造りの階段は滑りやすく、一歩間違えれば転落の危険がある。しかし、ミナの優れたバランス感覚により、全員が安全に下層に到達できた。

「三階下降完了」ミナが報告する。

しかし、下層の通路には新たな困難が待ち受けていた。壁面に埋め込まれた魔法水晶が赤い光を放ち、侵入者の接近を感知している。

「侵入者確認。戦闘モードに移行」

機械的な音声が響き、通路の各所から攻撃装置が出現した。魔法弾を連射する小型砲台が、一行を狙い撃ちにしてくる。

「散開!」勇樹が指示する。

仲間たちは素早く左右に分かれ、攻撃を回避した。リリアの魔導蒸気が防御障壁を形成し、魔法弾の直撃を防いでいる。

「反撃開始」ガンドルフが特製の投擲武器を取り出す。

古代オリハルコンを加工した手榴弾型の装置が、攻撃装置の弱点を正確に狙い撃つ。爆発と共に、三台の砲台が沈黙した。

「さすがの技術力です」エドワードが感嘆する。

しかし、攻撃装置の破壊音が要塞全体に響き、魔王軍に現在位置を知らせてしまった。通路の向こうから、多数の兵士が接近してくる足音が聞こえる。

「急がなければ」勇樹が焦りを示す。

一行は西に向かう通路を駆け抜けた。【緊急運行】の案内により、複雑な迷路のような構造も迷うことなく進んでいく。

しかし、二階目の下降地点で大きな問題が発生した。らせん階段の途中で、巨大な魔法結界が通路を塞いでいる。結界は虹色に輝き、触れた者を跳ね返す強力な反発力を持っているようだった。

「これは……予想以上に強固な結界です」アルテミスが分析する。

「突破にはどのくらい時間がかかる?」

「通常の方法では、最低でも十分は必要です」

十分——それは現在の状況では致命的に長い時間だった。魔王軍の追手は確実に接近しており、包囲される危険が高まっている。

「別の方法はないのか?」勇樹が【緊急運行】で代替ルートを探る。

しかし、分析結果は厳しいものだった。他のルートは全て、より多くの防衛装置が配置されており、突破には更に長時間を要する。

その時、通路の向こうから魔王軍兵士の声が聞こえてきた。

「この方向だ!侵入者を見つけたぞ!」

「包囲しろ!逃がすな!」

状況は絶体絶命に近づいている。結界の突破には時間が必要だが、その時間的余裕がない。

「野中さん」リリアが提案する。「私の魔導蒸気とアルテミスさんの古代技術を組み合わせれば、結界を強制突破できるかもしれません」

「強制突破?」

「はい。魔導蒸気で結界の振動周波数を乱し、そこにアルテミスさんの解除技術を適用するんです」

アルテミスが目を輝かせる。

「理論的には可能です。ただし、失敗すれば強力な反動で全員が吹き飛ばされる危険があります」

勇樹は迫り来る足音を聞きながら判断した。

「やってみよう。他に選択肢はない」

リリアとアルテミスが息を合わせて作業を開始した。魔導蒸気が結界の表面に浸透し、古代の解除術式が複雑なパターンを描いていく。

「もう少しです」リリアが集中を保ちながら報告する。

しかし、その時、通路の角から魔王軍の先遣隊が現れた。黒い甲冑の兵士たちが、一斉に攻撃を開始する。

「敵襲!」ミナが警告する。

ガンドルフとエドワードが即座に反撃に転じ、敵兵との戦闘に突入した。狭い通路での近接戦闘は混乱を極め、魔法と武器が激しく火花を散らす。

「結界の解除を続けてくれ」勇樹がリリアとアルテミスに指示する。「俺たちが時間を稼ぐ」

勇樹も戦闘に加わり、【緊急運行】による予測能力を活かして敵の攻撃を回避していく。しかし、敵の数は増え続けており、形勢は次第に不利になっていく。

「解除完了!」アルテミスが叫ぶ。

結界が崩壊し、通路が開放された。一行は即座に下層への階段に向かって駆け出す。

「追跡してくるぞ」ガンドルフが後方を警戒する。

確かに、魔王軍兵士たちも結界の消失を確認し、追跡を再開している。足音が徐々に近づいてくる。

最後の階段を駆け下り、ついに要塞の最深部に到達した。ここは他の階層とは明らかに異なる雰囲気を持っている。空気は重く、強力なエネルギーの波動が感じられる。

「中枢電源が近い」ガンドルフが技術者の直感で感じ取る。

【緊急運行】の分析でも、強大なエネルギー源が前方百メートル地点にあることが確認できた。長い潜入作戦の目標地点が、ついに射程圏内に入ったのだ。

しかし、最後の難関が待ち受けていることも同時に明らかになった。中枢電源の周囲には、これまで以上に強力な防衛システムが配置されている。

「最後の戦いが始まるな」勇樹が決意を込めて呟く。

仲間たちも同じ思いだった。ここまで来たからには、必ず任務を完遂する。要塞の心臓部を破壊し、魔王軍の脅威を除去するために。

深い地下で、運命をかけた最終戦が始まろうとしていた。

要塞の最深部に到達した勇樹たちは、巨大な円形広間に足を踏み入れた。天井は遥か上方にそびえ立ち、壁面には複雑な魔法陣が無数に刻まれている。そして広間の中央には、彼らが求めていた中枢電源装置が鎮座していた。

装置は高さ十メートルを超える巨大な結晶塔で、内部では赤黒いエネルギーが渦巻いている。その周囲を取り囲むように、三重の魔法障壁が展開されていた。障壁は虹色に輝き、近づく者を拒絶するような威圧感を放っている。

「これが……要塞の心臓部か」ガンドルフが圧倒される様子で呟く。

「想像以上の規模ですね」アルテミスが古代技術への畏敬を込めて答える。

勇樹は【緊急運行】で装置の詳細構造を分析した。エネルギーの流れ、制御回路の配置、そして最も重要な破壊可能な弱点が立体的に浮かび上がる。

「弱点を発見した」勇樹が興奮を抑えて報告する。「結晶塔の基部、北東の角に制御核がある。そこを破壊すれば装置全体が停止する」

「しかし、三重の障壁をどう突破するかが問題です」リリアが困難な状況を指摘する。

アルテミスが障壁の構造を詳しく観察している。

「第一の障壁は物理攻撃を無効化、第二の障壁は魔法攻撃を反射、第三の障壁は侵入者の生命力を吸収する仕組みになっています」

「三つとも異なる性質を持っているのか」ガンドルフが技術者として興味を示す。

「はい。しかし、それは同時に弱点でもあります」アルテミスが希望を見出す。「異なる性質の障壁は、共鳴干渉を起こす可能性があります」

ミナが鋭い聴覚で周囲を警戒している。

「足音が近づいています」ミナが緊張した声で報告する。「大勢の兵士が階段を降りてきます」

確かに、広間の入口方向から多数の足音が聞こえてくる。魔王軍が最後の防衛部隊を送り込んできたようだ。

「時間がない」勇樹が判断する。「障壁の突破を急ごう」

ガンドルフが特製の解析装置を取り出す。

「わしが第一障壁の物理的構造を解析する。同時に、アルテミスが第二障壁の魔法的パターンを調べてくれ」

「分かりました」アルテミスが古代の観測器具を起動する。

リリアは魔導蒸気を精密に制御し、第三障壁の生命力吸収メカニズムを探っている。

「第三障壁は時間的な周期があります」リリアが発見を報告する。「三秒ごとに吸収力が最小になる瞬間があります」

「素晴らしい」勇樹が称賛する。「それなら、そのタイミングを狙って一気に突破しよう」

しかし、その時、広間の入口から魔王軍の重装兵士たちが雪崩れ込んできた。黒い甲冑に身を包み、巨大な武器を持った精鋭部隊が、一行を包囲しようと展開を開始する。

「侵入者を発見!中枢電源の防衛を最優先に!」

部隊長らしき兵士が命令を下す。

「戦闘開始だ」勇樹が決断する。「俺とミナが敵を引きつける。その間に障壁を突破してくれ」

勇樹は【緊急運行】を戦闘モードに切り替え、敵兵の動きを予測しながら回避行動に入る。ミナも俊敏な動きで敵の攻撃をかわしながら、反撃の機会を狙っている。

ガンドルフ、アルテミス、リリアの三人は、戦闘の混乱の中でも集中を保ち、障壁突破の作業を継続した。

「第一障壁の周波数を特定しました」ガンドルフが報告する。

「第二障壁の魔法パターンも解析完了です」アルテミスが続ける。

「第三障壁の周期も確認しました」リリアが最後に加える。「次の吸収力最小時まで、あと十秒です」

三人は息を合わせて最終準備に入った。ガンドルフの技術装置、アルテミスの古代術式、リリアの魔導蒸気が、それぞれ異なる障壁に対する攻略手段として準備される。

「五秒」リリアがカウントダウンを始める。

「四秒」

戦闘は激化し、勇樹とミナは多勢に無勢の苦戦を強いられている。しかし、仲間たちのために時間を稼ぎ続ける。

「三秒」

「二秒」

「一秒」

「今だ!」リリアが叫ぶ。

三人が同時に攻撃を開始した。ガンドルフの装置が超音波振動を発生させ、第一障壁の物理構造を共鳴破壊する。アルテミスの術式が複雑な魔法干渉を起こし、第二障壁を無力化する。そしてリリアの魔導蒸気が、第三障壁の吸収力最小時を狙って浸透していく。

三重の障壁が連鎖的に崩壊し、中枢電源装置への道が開かれた。

「成功しました!」アルテミスが興奮して叫ぶ。

しかし、障壁の消失により、装置からの強烈なエネルギー波動が広間全体に拡散した。戦闘中の魔王軍兵士たちも、その圧倒的な力に圧倒される。

「今のうちに装置を破壊しよう」勇樹が仲間たちに指示する。

五人は中枢電源装置に向かって駆け出した。結晶塔の基部にある制御核が、赤黒い光を放ちながら脈動している。

「ここが弱点だ」勇樹が【緊急運行】の分析結果を共有する。

ガンドルフが最強の爆破装置を取り出す。

「これで一気に破壊する」

しかし、魔王軍の兵士たちも態勢を立て直し、最後の抵抗を試みようとしている。部隊長が巨大な魔法剣を振りかざし、勇樹に向かって突進してくる。

「野中さん、危険です!」リリアが魔導蒸気の防御障壁を展開する。

ミナが素早く動いて敵兵の死角に回り込み、攻撃を無力化する。

「今です、ガンドルフさん!」

ガンドルフが爆破装置を制御核に設置した。古代オリハルコンと現代火薬を融合させた特製爆弾が、制御核の表面に固定される。

「爆発まで十秒だ!皆、離れろ!」

一行は急いで装置から離れた。魔王軍兵士たちも、事態の深刻さを理解し、慌てて退避を始める。

「五、四、三、二、一……」

巨大な爆発が広間全体を震撼させた。中枢電源装置の制御核が粉砕され、結晶塔全体が連鎖的に崩壊していく。赤黒いエネルギーが暴走し、装置の各部から火花が散る。

「やったぞ!」ガンドルフが勝利を叫ぶ。

確かに、要塞の司令塔システムが停止していくのが感じられた。各所の照明が消え、機械音も次第に静かになっていく。

しかし、勝利の喜びもつかの間、新たな問題が発生した。爆発の余波により、広間の構造に深刻な損傷が生じていたのだ。

天井の一部が崩落し始め、壁面にも亀裂が走る。そして最も深刻なことに、彼らが入ってきた通路の入口が瓦礫によって完全に塞がれてしまった。

「脱出路が……」アルテミスが青ざめる。

勇樹は【緊急運行】で広間全体を分析したが、結果は絶望的だった。他の出口は全て、より厚い瓦礫や崩落した構造物によって封鎖されている。

「非常口はないのか?」ミナが必死に探し回る。

「あそこに扉があります」リリアが広間の反対側を指差す。

確かに、小さな扉が見える。しかし、その扉も爆発の衝撃により変形し、開かなくなっているようだった。

「くそ……」ガンドルフが歯ぎしりする。「任務は完了したが、脱出できないとは」

魔王軍の兵士たちも同じ状況に陥っている。敵味方の区別なく、全員が同じ絶望的な状況に直面していた。

「野中さん」リリアが不安そうに言う。「どうしましょうか?」

勇樹は冷静に状況を分析しようとしたが、【緊急運行】でも明確な脱出方法を見つけることはできなかった。広間は完全に密閉され、空気の流れも停滞している。

「必ず方法があるはずだ」勇樹が諦めることを拒否する。「俺たちは約束したじゃないか。全員で帰るって」

仲間たちも勇樹の言葉に勇気づけられる。

「そうですね」ミナが尻尾を立て直す。「絶対に諦めません」

「私たちなら、きっと解決策を見つけられます」アルテミスが希望を抱く。

「魔導蒸気で何かできるかもしれません」リリアが可能性を模索する。

「わしの技術も、まだ全てを使い尽くしてはいない」ガンドルフが決意を新たにする。

中枢電源装置の破壊には成功したものの、新たな危機に直面した一行。しかし、彼らの絆と諦めない心があれば、必ず道は開けるはずだった。

崩壊する広間で、生還をかけた最後の戦いが始まろうとしていた。要塞の心臓部で、真の試練がこれから待ち受けている。

爆発の余韻が残る中、勇樹たちは新たな脱出方法を見つけるため、再び力を合わせて立ち上がった。任務の成功と引き換えに得た絶体絶命の状況を、仲間たちの結束で必ず乗り越えてみせる。

広間に響く崩落音と共に、彼らの新しい挑戦が始まった。
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