追放天才の神器革命!聖女に崇拝されざまぁ無双

K2画家・唯

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第1章 神器を創った少年、神に見放され追放される

第1章 神器を創った少年、神に見放され追放される

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白亜の法廷に、少年の静かな呼吸音だけが響いていた。
空中都市ルミナ=アークの最高審議会場は、雲海を見下ろす巨大な円形ホールだった。天井は透明な水晶で覆われ、午後の陽光が差し込んで、まるで神殿のような荘厳さを醸し出している。その中央に立つ十五歳の少年──ユウは、銀髪を風になびかせながら、静かに裁きの言葉を待っていた。
「ユウ・アストラル」
技術院長ヴィスネールの声が法廷に響く。彼は五十代半ばの男性で、威厳のある白髭を蓄え、深紅のローブに身を包んでいた。その鋭い眼光は、まるで獲物を狙う鷹のようにユウを見据えている。
「貴様が開発した神器が暴走し、第七区画の住民三十七名が負傷した。この重大な罪について、何か申し開きはあるか」
ユウは答えなかった。ただ、わずかに唇を結んだだけだった。
法廷の観客席からは、貴族たちのささやき声が聞こえてくる。
「やはり平民の子など、神器開発に関わらせるべきではなかった」
「技術への冒涜だ。神聖な魔素を軽んじた報いよ」
「あの少年の妹も、同じ血を引いているのだろう?危険ではないか」
最後の言葉に、ユウの肩がわずかに震えた。
ヴィスネールは満足げに微笑む。「沈黙は肯定と見なす。ユウ・アストラル、貴様を都市追放の刑に処す。ただし──」
彼は一拍置いて、残酷な笑みを浮かべた。
「妹のルナ・アストラルについては、我々が保護する。彼女は病弱であり、地上では生きていけまい。都市に残し、適切な治療を受けさせよう」
ユウの青い瞳に、初めて激しい感情が宿った。しかし、それも一瞬のことだった。彼は再び表情を殺し、小さく頷いた。
「承知いたします」
その声は、年齢に似合わぬほど落ち着いていた。
---
三か月前──
「兄さん、また研究?」
ユウの私設工房に、銀髪の少女が顔を覗かせた。ルナは双子の妹で、兄と同じ青い瞳をしているが、生まれつき体が弱く、いつも青白い顔をしていた。
「ああ、少し手が離せない」
ユウは手元の装置から目を離さずに答えた。机の上には、見慣れない金属の箱が置かれている。表面には複雑な回路が刻まれ、内部では小さな光が明滅していた。
「それ、普通の神器と違うね」
ルナは鋭い観察眼を持っていた。一般的な神器は魔素によって駆動され、青白い光を放つものだが、ユウの装置は温かみのある金色の光を発していた。
「魔素を使わない神器を作っているんだ」
「どうして?」
ユウは作業の手を止めて、妹を振り返った。ルナの頬は相変わらず青白く、時折咳き込む様子が痛々しい。
「ルナの病気は、魔素に対するアレルギー反応が原因だと思う。この都市は魔素で満ちているから、普通の治療神器も使えない。だから──」
彼は装置を指差した。
「科学的な原理だけで動く治療装置を作っている。魔素を一切使わずに、ルナの体を治せるものを」
ルナの目が大きく見開かれた。
「兄さん…そんなこと、可能なの?」
「まだ実験段階だが、理論上は可能だ。ただ──」
ユウの表情が曇る。
「技術院の連中は気に入らないだろうな。魔素を使わない神器など、彼らにとっては異端だから」
「危険じゃない?」
「大丈夫だ」
ユウは妹の頭を優しく撫でた。
「ルナのためなら、どんなリスクでも負う。それが兄の役目だろう?」
ルナは兄の手に自分の手を重ねた。その手は、氷のように冷たかった。
「ありがとう、兄さん。でも無理はしないで」
「約束する」
しかし、その約束は守られることはなかった。
---
法廷での判決から二時間後、ユウは追放の儀式が行われる天空橋に立っていた。
橋は都市の最南端に位置し、雲海に向かって突き出した石造りの構造物だった。その先端には古い祭壇があり、そこから追放者は地上へと落とされる。都市の住民たちにとって、それは神聖な浄化の儀式であり、罪人への慈悲でもあった──少なくとも、建前上は。
「神器を破壊せよ」
ヴィスネールの命令に従い、ユウは自分の発明品を祭壇に置いた。金色の光を放つ小さな箱──妹を救うために、彼が全身全霊を込めて作り上げた希望の結晶だった。
「自らの手で」
ユウは重いハンマーを受け取った。その重量が、彼の心の重さと重なって感じられた。
ハンマーを振り上げる。一瞬の躊躇。そして──
カーン、という金属音が空に響いた。
神器は無残に砕け散り、金色の光は消えた。ユウの三か月間の努力と、妹への愛情が、文字通り粉々になった瞬間だった。
「ユウ!」
遠くから聞こえる声に、ユウは振り返った。都市の端で、ルナが手を振っている。彼女は病弱な体を押して、兄を見送りに来たのだった。
「兄さん!」
ルナの声は風に運ばれて、かすかにユウの耳に届いた。
「元気で!必ず生きて!」
ユウは小さく手を振り返した。涙は流さない。それが、彼なりの強がりだった。
「準備はよいか」
ヴィスネールの冷酷な声。
ユウは祭壇の端に立った。眼下には雲海が広がり、その向こうには未知の大地が横たわっている。彼はこれまで、空中都市の外の世界を見たことがなかった。
「最後に何か言い残すことは?」
ユウは振り返ることなく答えた。
「ありません」
「では──神の意志により、汝を地上に送る」
ヴィスネールが腕を振り下ろした瞬間、ユウの足元の石床が崩れ落ちた。
彼の体が宙に舞う。風が髪を激しくなびかせ、雲が頬を打った。落下していく視界の中で、ルミナ=アークの美しい姿が徐々に小さくなっていく。
妹の顔は、もう見えなかった。
---
その様子を、遥か上空から見つめる人影があった。
セレスティア──空中都市の聖女と呼ばれる少女だった。純白のローブに身を包み、プラチナブロンドの髪を風になびかせながら、彼女は天空神殿の最上階から、ユウの落下を静かに見届けていた。
彼女の瞳は深い紫色で、どこか人間離れした神秘性を湛えている。その瞳が、落下していくユウの姿を一瞬も逃すまいと追い続けていた。
「あの少年…」
セレスティアの唇から、かすかな呟きが漏れた。
「神器を魔素なしで作り上げた。それも、妹への愛のために」
彼女は転生者だった。前世の記憶を持ち、この世界の理を深く理解している。だからこそ、ユウの成し遂げたことの真の価値がわかった。
魔素を使わずに神器を作る──それは、この世界の常識を覆す革新的な技術だった。しかも、私利私欲ではなく、家族への愛情から生まれた発明だった。
「技術院の愚か者たちは、恐れたのだろう」
セレスティアの声には、軽蔑の色が混じっていた。
「新しい技術が既存の権力構造を脅かすことを。だから、無実の罪を着せて追放した」
ユウの姿は雲海の向こうに消えていった。しかし、セレスティアの瞳は、彼が最後に見せた表情を忘れることができなかった。
恨みも怒りもなく、ただ静かに運命を受け入れた少年の顔。そこには、人間を超えた何かがあった。
「神の器…」
セレスティアは小さく呟いた。
「あの少年こそ、真の神の化身かもしれない」
それは、彼女の直感だった。そして転生者である彼女の直感は、常に的中していた。
風が強くなり、セレスティアの髪が舞い踊る。彼女は神殿の窓から身を乗り出し、ユウが消えた方角を見つめ続けた。
「いつか、必ず再び会える」
その確信は、どこから来るのかわからなかった。しかし、セレスティアには確信があった。ユウ・アストラルという少年は、この世界を変える存在になる、と。
「その時まで…私は待とう」
聖女の呟きは風に運ばれ、雲海の彼方へと消えていった。
---
雲海の向こうで、ユウは風に身を任せながら落下していた。
意識はあった。恐怖もあった。しかし、不思議と後悔はなかった。
妹のルナは都市に残った。病気は治らないかもしれないが、少なくとも適切な治療は受けられるだろう。それだけで十分だった。
「俺の人生も、そう悪くはなかった」
そんなことを考えながら、ユウは目を閉じた。
これから何が待っているのかはわからない。地上で死ぬかもしれないし、もしかしたら生き延びるかもしれない。
しかし、一つだけ確かなことがあった。
彼は、自分の信念を貫いた。妹への愛を、最後まで守り抜いた。それだけで、彼の人生には意味があった。
風の音が激しくなる。雲が晴れ、眼下に緑の大地が見えてきた。
新しい世界の始まりだった。
そして遥か上空では、一人の聖女が、少年の帰還を信じて待ち続けることを、密かに心に誓っていた。
「神の器よ…どうか、無事でいて」
セレスティアの祈りは、風に乗って地上へと向かった。それが、ユウに届くかどうかは、神のみぞ知ることだった。
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