勇者は善良な魔王を殺したい

尾寺山ぱんだ

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15.蘇生

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コッペからララへの手紙①

今回の件は、お前の娘達が行なった事とは言え、ヴァシスヘリゴの蘇生を間接的に依頼したとして、それ相応の処分を下さなければならない。

べルム様は、酷くご立腹のようじゃ、お前にもわしにもな。

タイミングを見て、お前と王妃様の事はわしからべルム様にお伝えしておく。

まずは落ち着くまで山小屋に戻り、大人しく過ごすように。

これ以上、虹色の髪の種族の件に関しては誰にも一切口にするんじゃないぞ。

次、問題が起こればいくらわしでも庇いきれない。
例えべルム様と血の繋がりがあろうとも、もう城には二度と足を踏み入れられないと思いなさい。





べルムは、リゴの遺体が安置されている礼拝堂へ急いだ。

シャムの話では、リゴの妻が1人で遺体のそばで、ロウソクの火の番をしているとの事だった。
もしかしたら、ヴァシスもそこに居るかもしれない。

心臓がうるさく鳴って、目眩がする。
吐きそうだった。
べルムは中を確認しつつ、ゆっくりドアを開けた。

そこにヴァシスは居なかった。

サンダルウッドの香りが充満する通路をまっすぐ歩いて、リゴの棺前に立ち尽くす女性に声をかける。

イライラしていたので、声をなるべく抑えて問いかけた。

「ヴァシスは…?どこに行ったか知らないか?」

薄紫の髪が揺れ、女性は振り返る。
手が、血にまみれていた。
近くには、少し大き目の瓶が置いてあり、その中は血で染まっている。

棺の中の、リゴの顔も、血塗ちまみれだった。

「…ヴァシスはどこだ!?」

あまりに異様な目の前の光景に、べルムは悲鳴にも近い叫び声を上げて女に掴みかかる。
彼女は虚ろな目をして首を振った。

「私は…お会いしておりません。ヴァシス様が…リゴの為に…娘達に託してくださったのです」

「……あんたがヴァシスを連れてった訳じゃないのか?」

「はい。娘達はヴァシス様から直接頂いたと言っておりました…」

この女が…幼い娘を使ってヴァシスを言いくるめたのかもしれない。
女や子ども達が泣いて縋ったら、ヴァシスは頷いてしまうかもしれないと思った。

べルムは、瓶の中に入っている血を見つめる。
かなりの出血量だ…どこを切った…?

「ヴァシスが…どこに行ったか知らないか?」
「いいえ…分かりません」

とにかく、この女は、1度シャムにヴァシスの血肉を分けてくれと言った女だ。
最愛の人の死を受け入れられないのは分かるが、そんな事を平気で他人に頼もうとする神経はべルムには理解できなかった。
放っておくと何をしでかすか分からない。

「一緒に来てくれ、娘達もだ。しばらくは、部屋から出ないように」

女の腕を引っ張ると、女は慌てて抵抗し始める。

「いやっ!!待ってください!!リゴが…リゴの心臓が…微弱ですが…動き始めたんです…まだ何回か…血肉を口に入れて…食べさせてあげないと…」

「は…?」

この女は、狂っている。
部屋ではダメかもしれない。
牢に入れるべきか。

その時、僅かだが、棺の中から呻き声が聞こえた。
べルムは自分の背筋が冷たくなるのを感じる。

「ああ!リゴ!!息を、息をして頂戴!」

女が棺の中のリゴに話しかけている。
死後硬直は解けたようで、女はリゴの頭を支えて持ち上げていた。

遺体の口が、僅かに開き、喉が、動いたように見えた。

「…嘘だ…まさか…」

べルムはその場に立ち尽くした。
さらに口が開いたように見える。
喉の奥から、また小さな呻き声が、絞り出すように発せられた。

彼女は、泣きながら喜び、手に掬った血を、リゴの口に運んでいる。

「リゴ!!良かった、飲んで…」

死者蘇生は、本物だ。
ヴァシスを早く探さないと。

気配を辿って来たのだが、礼拝堂までしか辿れなかった。
この後、どこに行った?
あの足で、そこまで動けないはずだ。
誰か、協力者が別に居るはず。

「べルム様、至急お部屋にお戻りください!ヴァシス様が見つかりましたにゃ~!べルム様のお部屋でお待ちですにゃ~」

シャムが追いかけて来たようで、猫の姿でバタバタと走ってきた。

「シャム、ここは任せる。ここへは誰も入れるな。リゴの埋葬は中止だ」

「ええっ!?」

慌てるシャムを置き去りにし、べルムは部屋へ急いだ。





顔の右半分に日の光が当たっていて眩しくて暑い。
ヴァシスはまだ眠りたかったが、仕方なく目を開けた。
べルムが隣で眠っている。
右手が動かないと思ったら、両手で掴まれた状態で寝ていたようだった。

寝惚けているのか、記憶が曖昧だ。
順番に記憶を辿っていく。

リゴが死んでしまって
悪魔の封印を解いて
右足を子ども達に渡して
その後…

「え…!?」

この状況に驚いて飛び起きた。
だが、飛び起きる事が出来なかった。
右足が、膝から下が無くなっているからだ。

ヴァシスは、いつの間にか部屋着に着替えていて、右足の部分だけ裾が折り曲げられて切断部分が少し見える状態になっていた。

べルムに握られている右手には、悪魔を封印した魔法陣が消えている。
という事は悪魔は呼び出したのだ。
周りを見渡したが悪魔の姿は無かった。

なんだ…?
足を切断して、子ども達に渡した後の記憶が無い。
そのまま気絶したのだろうか?
それで、見つかって、べルムの部屋に居るのか?

悪魔を使って逃げて死のうと思ったのに…
いや、悪魔を召喚したのなら死ぬはずだ…
なのに何故生きている?
悪魔が、べルムに負けたのか…有り得るかもしれない。
あの悪魔はヴァシスに封印される位弱かったし、べルムは魔王を瞬殺できる程強い。
ただ、悪魔の回復力は異様に高く、どんなに肉体が引きちぎられようと元に戻ると聞いた事がある。
悪魔を殺せるのは悪魔だけ。

「ヴァシス?目ぇ覚めた?」

べルムが、こちらを見ていた。
雰囲気で、不機嫌なのは分かる。

勝手に足を切断して、さらに逃げて死のうとしたからだ。

動けずにいると、べルムが握っていたヴァシスの右手を離す。
そのまま腕を広げてヴァシスを抱きしめた。

「…ねぇ…もうホントに…ビックリさせないで欲しいんだけど…」

「すまない…」

服越しに伝わるべルムの体温が心地よい。
あまりに幸せを感じすぎて不思議な感じだ。

もしかして、これは夢か…?
ヴァシスは少し笑う。

そうか。夢だ。
死んで、最期に夢を見ているのかもしれない。

「べルム…お前…まだ俺の事好きか?」
「え、うん!勿論」

「俺も愛してる」

べルムの腕の力が強くなる。
肩が少し震えていた。

「もう絶対どこにも行かないで…」
「…ああ」

見つめ合ってキスをした。

どうやら、夢ではないようだ。
でも夢でも現実でもどっちでも構わなかった。
べルムが目の前にいるだけで良い。

聞きたい事が沢山ある。

「リゴは…蘇生できたか…?俺の悪魔は…?お前が殺したのか?」

上機嫌で何度かキスをしていたべルムは、また顔をしかめた。
表情がコロコロ変わる忙しいヤツだな…。

「リゴは、なんか…心臓動いたし、息少ししてたみたいだから蘇生できるんじゃない?もう知らないよ、あんな奴!あ~思い出しただけで腹立ってきた…!悪魔は、この部屋…結界張ったからたから入って来れないけど…まだその辺に居ると思うよ?」

「え?」

予想外の展開だった。
悪魔はまだ生きているのか…?
そしてリゴが蘇生出来たのに何故こんなに不機嫌なのだろう。
そして…結界?

「俺もう魔王辞める。リゴもシャムもめちゃくちゃ俺に隠し事してた!もう全部、嫌。一生ヴァシスと引き篭るか、旅に出る!」

「何を言ってるんだ…お前」

「ねえ、旅に出るならどこに行きたい?暖かい地域が良いよね、蝶の羽を持った妖精見た事ある?そこの村が家も森もすごくカラフルで綺麗なんだ。一度見て欲しいなぁ」

「べルム…落ち着け」

べルムは、落ち着いてるよ、と呟いた。
今度は悲しい表情だった。
色々あったから、きっと疲れてしまったのだろう。

ヴァシスは話題を変えようと思って口を開く。

「すまないが、義足を作って貰えないか?そしたら色々出掛けられるだろう。そうだ、オーク達と釣りに行く約束をしているんだ。一緒に行こう」

「何それ楽しそう行く」

即答したべルムは、起き上がり、パチン!と指を鳴らした。
すると部屋の白い壁に何やら映し出される。

ジジジッとノイズが入った後、シャムの顔が映し出された。

「にゃっ!?あ!べルム様!どうなってますにゃ?部屋に入れなくて困ってますにゃ!開けてくださいにゃー!」

「誰が開けるか!ばぁーーーか!俺は当分引き篭る。次の魔王はリゴで決定!あとは知らん!ヴァシスの義足を作るから技師を連れて来い。そしたら部屋を開けてやる!以上!!!」

ブチッとシャムの顔が消えて、元の壁に戻った。

本当に怒ってるんだな…とべルムを見ると、暗い顔をしてヴァシスの右足を凝視していた。

「せっかく治療して貰ったのにすまないな…」

ヴァシスの謝罪に、べルムは首を振った。

「いや…俺もここまで来たなら治療を続けたいって半分意地になってたから…ごめん…」

眠っている間に、べルムが治癒魔法をかけてくれたようで、傷口は完全に塞がって切断面は肉が盛り上がり丸みを帯びていた。

「痛むようならすぐ治癒魔法かけるから言って」
「ああ」

もう起きる?とか聞かれたので、頷く。

べルムに抱き抱えられて、トイレに行き、顔を洗って着替えて、背中に枕を敷き詰めた状態でベッドに座った。

その時、扉がノックされて、シャムの声がした。

「べルム様~!義肢装具士を連れてきましたにゃ~開けてくださいにゃ~!」

「入れ」

扉を開けて、シャムと大きなバッグを抱えたカルルテが部屋に入ってきた。

「は?なんでカルルテ?」

べルムが不機嫌な声で聞いたのだが、それに反してカルルテの声は明るく響いた。

「聞いて驚きなさい!私なんと義肢装具士のスキルを身につけているの!」

「嘘つくな!お前は元々、精神科医でしょ!?」

「私一度見た医療行為は全て覚えられるのよ!」

「つまり義肢装具士も見よう見まねだろうが!怖すぎる…!」

「それで出来ちゃうのが私の凄い所なの☆」


ぎゃあぎゃあ2人が騒いでいると、シャムがヴァシスに近づいてきて小声で話す。
耳がぺったんこになっており、しっぽも垂れ下がっていた。

「ヴァシス様、この度は僕のミスで…本当に申し訳ないですにゃ…」

「…まだべルムから全部聞いてないから分からないが…足の事なら気にしなくていい。自分の意思だから」

「はわわわ…お優しいですにゃ…」

口元を手で覆って涙ぐむシャムの背後から、うっすら視線を感じで顔を上げる。

そこには壁にもたれて無表情でこちらを見ている黒づくめの悪魔が居た。

ヴァシスは、驚いて、騒いでいるべルムの服を掴んだ。

「べルム、悪魔が…!」

「あ、ホントだ居た」

???
ヴァシスは、べルムやシャム達も全く気にしていない様子に驚いた。
見えていないかと思ったが、そうでもないらしい。

「悪魔さんが、倒れてたヴァシスを俺の部屋まで連れてきてくれたんだよ」

悪魔
コッペ爺様ですら呼び捨てのべルムが?

ヴァシスが気を失った後、何が起こったのだろう。
悪魔を呼び出したら契約を果たした対価を求められる筈だ。
殺すタイミングを見計らっているのかもしれない。

警戒心を剥き出しにしているヴァシスに、悪魔がゆっくりと近づいてきた。

【傷はまだ痛むか…?体調はどうだ?】

「……」

そうだ…コイツは何故か、ヴァシスの事を気遣う素振りを見せる。

何故殺さない?
何故この場所に居る?
何故みんな、全く警戒していない?

【まぁ、元気そうだな。ほら…忘れ物だ…】

悪魔は揺らめくマントから、白いクマのぬいぐるみを取り出してヴァシスに手渡してきた。

アイリスのぬいぐるみだ。
イアスの方のぬいぐるみは、多分ヴァシスの部屋にあるだろう。


ぬいぐるみを受け取る。
その瞬間…
何が自分は大事な事を忘れているような気がした。
気を失っている時に、何か起こったか?
何だっただろうか。
何か、抜けている記憶がある気がするのに、全く思い出せない。

「………」
誰かに、そういう魔法を使われたのかもしれない。
精神を操作するような魔法は、悪魔が得意とする分野だった。

コイツ…俺に何かしたのか?

悪魔に、問いかけようとしたその時。
大きな音がして座っているベッドの背後にあるガラスが、粉々に砕け散った。





一瞬、ヴァシスは何が起こったのか分からなかった。

気づいた時には、背後に勇者リューナがいて、ヴァシスの首筋に剣を当てており、目の前には白い羽を広げたリューナの悪魔が浮遊していた。

『すまないヴァシス。傷付けるつもりは無いから安心しろ。ここから脱出するぞ』

脳内に焦っているようなリューナの声が響く。
リューナの荒い呼吸が背後から聞こえる。
緊張しているようで、少し震えていた。

「リューナ様…悪魔を…封印を解いたのですか…?」

ヴァシスは、小さな声でリューナに尋ねた。
目の前に居るのは、間違いなく悪魔だった。
ヴァシスの悪魔と全く違う、真っ白な悪魔だ。

腰まで伸びる白髪を三つ編みにしている。
金糸の刺繍が入った白いマントで身を包んでおり、羽は白だが飛膜ひまくの部分には血管が浮き出て薄く赤く色付いていた。
ヴァシスの悪魔は、結膜が黒だったが、この悪魔は赤い。
瞳は白く、瞳孔は黒く縦に伸びている。

ヴァシスの悪魔は、始終無表情であるが、この悪魔はずっと興奮した状態でニヤニヤしていた。

「にゃ…リューナ様…!危ないですから剣を収めてくださいにゃ!」

シャムがリューナに近づこうとしたが、白い悪魔が立ち塞がる。
特に攻撃をしないので、傷つける気は無いというのは本当のようだ。

『ヴァシス…俺はこうならないように動いていたんだが…はぁ…失敗した。お前足を自分で切ったと聞いたが本当か?誰かに切られた訳じゃないんだな?』

「…はい」

『そうか…リゴの埋葬が突然中止になった事で少し騒ぎになっている。魔族にも人間にもお前の事が伝わってしまうだろう。死者蘇生の材料として…命を狙われる事になる。今1番厄介なのは魔族側にかなりこの情報が漏れている事だ。こいつらは呑気にしているが…もう他の奴らは…お前を手に入れる為に動き始めている』

「そこまでこの体に価値があるでしょうか?死後3日以内と制限がありますし…数も…数人分しか使えません」

『…イカれた権力者はお前をどうにかして生きたまま拘束するだろうさ。それで自分が死んだ時に使わせるとかな。あとは…何とか蘇生の力を有効的に使おうと、お前の体を使ってあらゆる実験や研究が行われるだろう』

べルムを見ると、身構えてはいるものの、リューナに対してどう動くべきか迷っているようだった。
リューナはヴァシスにのみテレパシーを送っている為、会話の内容が聞こえないからだろう。

隣のカルルテは、白い悪魔の迫力に驚いて床にへたり込んでいる。

シャムは今にも泣きそうな顔をして立ち尽くしていた。

そういえば、もう1匹の悪魔は…?


フワッとヴァシスの頬に風が当たる。
ガンッ!と床に何かが打ち付けられる音と、床の大理石が割れる音がした。

【イアス…どうする…殺すか?】

ヴァシスの悪魔が、白い悪魔の首を掴んで床に打ち付けたようだった。
相変わらず表情を一切変えない。

白い悪魔は、驚きのあまり抵抗できずに固まっている。

イアスと呼ばれたので反応ができなかったが、すぐに自分に聞かれたのだと気付いたヴァシスは慌てて答えた。

「待て!悪魔を殺したらリューナ様はどうなる?契約は解除か?それとも契約者の命に関わるのか?」

【この悪魔が死ねば解除だ…契約者は自由になる】

悪魔の声が脳内に響いた。
なら白い悪魔を殺せばリューナ様は助かる。

リューナに視線を移すと、目を大きく見開いて呆然としていた。

『ヴァシス…あれは何だ…お前の悪魔か?まさかお前も…封印を解いたのか?』

「はい」

『何が…どうなってる?俺はお前が…自分で足を切断してリゴに渡したとしか聞いていない…』

リューナは、ヴァシスの首元で構えていた剣を離した。
シーツの上に、剣が滑り落ちる。
一瞬、呆然となったリューナだったが、すぐに顔を上げた。

『おい、白い悪魔!お前その悪魔を殺せ!悪魔が死ねばヴァシスは助かるだろう!?』

ヴァシスに触れずにリューナはテレパシーを自分の悪魔に飛ばす。

すると白い悪魔は、床に押さえつけられたまま、視線をリューナへ向け、ヘラヘラと笑いだして口を開いた。

【おいおいおい、無茶言うなよォ…このお方はな…悪魔の王…スバルト様だぞ…俺なんぞが、勝てるわけねぇだろがァ】









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