元野球の幼馴染が僕の掛け布団になりました

水主

文字の大きさ
13 / 16

クリスマスデート(7)

玄関を出た瞬間、きゅっと冷たい空気が肺に入り込んだ。

昨夜の雪はまだ誰にも踏まれておらず、道はきれいな白のまま眠っている。

「……うわ、銀世界」

吐く息は白く、声まで少し弾んだ。

見渡す限り、白。
夏にはカエルの大合唱が響く田んぼも、今はすっかり雪に覆われ、畦道の輪郭さえ曖昧になっている。

田畑の間を横切る、駅までの一本道。
道路もまた、白く塗り潰されていた。
電柱と標識だけが、冬景色の中にわずかな彩りを添えている。
水量の少ない用水路が、さらさらと控えめな音を立てていた。

二人並んで、その静かな道を歩く。

やがて我を忘れて雪玉を投げ合い、本気の雪合戦をしながら、二人で学校へ向かった。

冷え切った体のまま電車に乗り、足元の暖房に脚を寄せる。手袋を外し、両手もかざして、じんわりと熱を取り戻した。

結局、学校に着いたのは三限の途中だった。大介と別れ、それぞれの教室へ向かう。

昨日までの嫌な気分は、どこかへ消えていた。

昨日は胸の奥まで冬に染まっていたのに、今日は外が冬で、胸の中は春だ。

教室に入るときに向けられる、教師や生徒の“腫れ物に触るみたいな”視線も、今の僕には何とも感じない。

もともと人の目を気にする性格じゃない。昨日は、少しだけ繊細になりすぎていたのだろう。

「……綾ノ瀬、遅刻だぞ」

数学の男性教師が、静かに入室してきた僕に声をかけた。

「すみません。雪合戦が白熱しました」

かなりの間を置いてから、教師は言った。

「……そうか。ほどほどにな」

予想外すぎる答えだったのだろう。
教室のあちこちで、生徒たちが目を丸くしている。

その表情が可笑しくて、思わず頬が緩んだ。

♾️

昼休みになっても、大介はやってきた。
これまでの昼は、購買のパンをさっと胃に流し込み、残りの時間は図書館で勉強して過ごすのが常だった。大介はといえば、野球部の連中と弁当を囲んでいるはずだったのに。

「一緒に食べるぞ」

有無を言わせない声で、大介は僕の机に弁当を広げる。

空いていた椅子を勝手に引き寄せ、当然のように腰を下ろして、食事の準備を始めていた。

「お前の分、翔子さんから預かってるぞ」

「……は?」

完全に寝耳に水だ。
なぜ息子ではなく、大介に渡す。

「雪で荷物が増えると、春翔が転ぶかもしれないだろ。だから俺が預かってたんだ」

まるで主人の代わりに新聞を取ってきた犬みたいに、目をきらきらさせて、褒めろと言わんばかりにこちらを見る。

「……あ、ありがとう」

そう言うと、大介は満面の笑みを浮かべた。

「よし。じゃ、食うぞ」

ハムと、くたびれたレタスが挟まった、料理が苦手な母らしい見栄えのサンドイッチを頬張る。

ハムとレタスとマヨネーズの味しかしない。なのに、なぜか美味しい。

「そんなんじゃ足りないだろ。ほら、卵焼き食え」

大介が、僕の方へ卵焼きをつまんだ箸を差し出してくる。
……あーん、しろってことか。

嬉しい。けど、周りの目が気になる。
こんなことをしていたら、大介まで陰口を叩かれてしまうかもしれない。

「だ、大介……ここじゃダメだって……」

「食え」

有無を言わせない声。
唇に、卵焼きがそっと触れる。

ああ、そうだった。
大介は、こういうやつだ。人の話なんて聞かない。

結局、折れるのはいつも僕。

意を決して口を開き、差し出された卵焼きを噛みしめる。

ふわっと、甘みと出汁の香りが広がった。

「どうだ」

「……美味しい。大介のお母さん、料理上手だね」

「ふふん。母さんじゃねーぞ。俺作」

胸の奥で、心臓がドクンと跳ねた。

「最近、料理の練習しててさ。母さん、毎朝五人分の弁当作ってるから。俺が卵焼き担当」

大介が作ったものだと思っただけで、さっきよりずっと美味しく感じる。
……たぶん、これが恋の魔法だ。

「次は揚げ物に挑戦するつもりなんだ。今度、唐揚げ作ってくるな」

嬉しくて、恥ずかしくて、感情が勝手に暴れ出す。もう、自分でも制御できない。

「あ、今日はお前を送ってくし、一緒に勉強するぞ」

ダメだ。心臓が、もたない。

嬉しくて、愛しくて、心臓が暴走している。鼓動は、まるで心肺停止までのカウントダウン。

「で、ご褒美は、月曜と火曜日分を一気にな」

蜂蜜より甘い大介の笑顔に見つめられて、
僕は、何も言えないまま真っ赤に染まった。心臓は、たぶん一度止まった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。自称博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「絶対に僕の方が美形なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ!」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談?本気?二人の結末は? 美形病みホス×平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。 ※現在、続編連載再開に向けて、超大幅加筆修正中です。読んでくださっていた皆様にはご迷惑をおかけします。追加シーンがたくさんあるので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

入社1ヶ月のワンコ系男子が、知らずのうちに射止めたのはイケメン社長!?

monteri
BL
CM制作会社の新入社員、藤白純太は入社1ヶ月で教育係の先輩が過労で倒れたため、特別なクライアントの担当を引き継ぐことになる。 そのクライアントは、女子禁制ミーハー厳禁の芸能事務所だった。 主人公の無知で純なところに、翻弄されたり、骨抜きにされるイケメン社長と、何も知らない純太がドキドキするお話です。 ※今回の表紙はAI生成です ※小説家になろうにも公開してます

泣き虫だったはずの幼なじみが再会したら僕を守るために完璧超人になっていた話。

ネギマ
BL
気弱で泣き虫な高校生、日比野千明は、昔からいじめられっ子体質だった。 高校生になればマシになるかと期待したが状況は変わらず、クラスメイトから雑用を押し付けられる毎日を送っていた。 そんなある日、いつものように雑用を押し付けられそうになっている千明を助けたのは、学校中が恐れる“完璧超人”の男子生徒、山吹史郎だった。 文武両道、眉目秀麗、近寄りがたい雰囲気を纏う一匹狼の生徒だったが、実は二人は、幼い頃に離れ離れになった幼なじみだった――。

ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸
BL
 逃げ出してしまった乎雪(こゆき)にはもう後が無かった。これで人生三回目の家出であり、ここにきて人生の分岐点とも思われる、苦境に立たされていた。    手持ちのお金はまったく無く、しかし、ひとところに留まっていると、いつの間にか追いかけてきた彼に出くわしてしまう。そのたびに、罵詈雑言を浴びせられるのが、心底いやで気力で足を動かす。  けれども、ついに限界がきてそばにあった電柱に寄りかかり、そのまま崩れ落ちて蹲った。乎雪は、すぐそこがゴミ捨て場であることにも気が付かずに膝を抱いて眠りについた。  目を覚まして、また歩き出そうと考えた時、一人の男性が乎雪を見て足を止める。  そんな彼が提案したのは、ペットにならないかという事。どう考えてもおかしな誘いだが、乎雪は、空腹に耐えかねて、ついていく決心をする。そして求められた行為とペットの生活。逃げようと考えるのにその時には既に手遅れで━━━?  受け 間中 乎雪(まなか こゆき)24歳 強気受け、一度信用した人間は、骨の髄まで、信頼するタイプ。  攻め 東 清司(あずま せいじ)27歳 溺愛攻め、一見優し気に見えるが、実は腹黒いタイプ。