娼館堕ち令息、兄に喰われる

水主

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イーライ
黒髪・焦茶の瞳/アドニスの兄分/現在は男娼館の主人
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アドニス・ヴァルドール
金髪・翠眼/娼腹の元伯爵家嫡男/冤罪で娼館送りにされた


ガチャリ。馬車の扉が、外から勢いよく開けられる。その瞬間、腹の底に響くような低い男の声が落ちてきた。

「ようこそ。おかえり、アドニス。」

……この声。そういえば娼館にいた頃、姉さんたちが「エロボイス」だと騒いでたっけ。妙に人気だった。

視線を向けると、そこに立っていたのは、強欲ババアこと俺を育てた娼館の女主人の息子イーライ。

「ねぇ、なんであんたがここにいんの?戦場で死んだんじゃなかったのかよ。」

胡乱な目で睨む俺に、イーライは胸を張って笑った。

「お前のために戻ってきた。」

そのまま白い歯を見せる。

「お偉いさんと仲良くしとくもんだな。『罪人引き取ってくれない?』って言われて、二つ返事したらお前だった。」

満面の笑みで、彼は言う。

「やっぱりお前と俺は、二人で一つだ。」

バッと両腕を広げ、顎をしゃくる。

「いやぁ、俺が徴兵されてる間に、お前は伯爵家に攫われちまってさ。戻ってきたときゃ、どうやって取り返そうかと悩んでたけど」

そこでイーライは俺の肩をガシッと掴み、悪役みたいな笑みを浮かべた。

「まさか金の卵を産む鶏が、自分から帰ってくるとはな!しかも、金髪翠眼の美少年のまま。これは高く売れるぞ、ガハハハ!」

……笑い方が下品だ。

昔、娼館の花だったババアの息子は、ババアに似て美形だ。

日焼けした胸板をシャツの襟から惜しげもなく見せ、艶のある黒髪を手ぐしで撫でつける。通った鼻筋に厚い唇。

姉様たちはよく言っていた。

「アドニスは文句なしの美少年、イーライは野生味のあるいい男」

まさに、そのまんま。
イーライの口は止まらない。

「お前が早く帰ってこないから、ババアは死んじまったぞ。だからよ、これからは俺たち兄弟で──王都中の男から金をむしり取ってやろうぜ。」

血が繋がらなくても、娼館の人たちは家族だった。だからイーライは兄。けれど俺にとって“血の繋がった家族”は、死んだお母様ただ一人だった。

イーライは垂れ目の瞳でバチーンとウィンクを飛ばす。

姉様たちなら「きゃー!」と黄色い悲鳴を上げてたところだろう。

イーライが俺の腰に手を添え、エスコートするように馬車から降ろした。

「後で開通式やろうな。初めての客の前に、慣らしとかないと。」

耳元で囁く声が、妙に低くていやらしい。

「はぁ!?あんたの中ではもう俺が散らされるの確定なの!?」

思わず苦笑いすると、イーライは肩をすくめる。

「当たり前だろ。初物は高く売れる。だが、お前は貴族令息たちの逸物を咥えてたって噂の罪人だ。後ろ、柔らかくしとかにゃならん。」

ニヤリと下品な笑み。

「あー楽しみだ!お前を掘るだけ掘ったら、貴族どもがいくら出すか……競りにしてもいいな。話題は充分だ。」

「軽いなー。」

皮肉気に笑いながら、ぼそりと呟く。

「血の繋がった父親に襲われかけて必死で逃げた昔の俺、哀れだね。結局、近親相姦フラグ回収とか笑える。」

イーライの目が驚きで見開かれた。

「なんだ、お前、親父さんに喰われてなかったのか?貴族学園でも爛れてたかと思ったのに……意外と純情じゃねぇか。」

「なんでお前にまでそんな話が広まってんだよ。ついさっき裁判終わったばかりだぞ。」

「お前の刑は、ずっと前から決まってたんだよ。」

その言葉に、胃の奥が冷たく沈む。どれだけの人間が、この茶番を仕組んでいたのか。途方もない想像に、軽く眩暈がした。

「学園でも爛れてない。一途だった。経験は、たった一人、それも一度きり。」

自嘲気味に笑う。

「一生、その人に捧げるつもりだったのにな。」

「マジか。そんなんで裁判になったのかよ?」

「ああ。罪状は『複数の貴族を誑かし、学園で淫行を働いた罪』と、『父親との近親相姦』。極めつけは『王太子への不敬』だってさ。」

「で、その“一人”ってのが王太子?」

「いや、教師だよ。王太子なんて挨拶した程度。」

肩をすくめると、イーライは苦笑する。

「ってことは、未来の王妃様に目をつけられたってとこか……そりゃ終わりだな。」

「まぁね。いい人生勉強になった。」

「伯爵家の嫡男から娼館に逆戻りか。ちょっと寄り道して帰ってきただけだな。」

「だろ?」
ニッと笑ってみせる。

「俺の人生、ここで始まってここで終わるんだ。」

言いながら、ふっと先生を思い出した。あれは本気だった。一世一代の恋。……それなのに、捨てられた。

裁判のあと、恋人だと信じていた先生に助けを求めた。けれど返ってきたのは、冷たい声と、氷みたいな眼差しだった。

「……触れるな、淫売。」

その一言が、最後だった。

無理に笑おうとした瞬間、左の目からぽとりと涙がこぼれる。

この痛みが、冤罪のせいなのか。それとも、愛した人に見捨てられたせいなのか。

もう、自分でも分からなかった。

ただ胸の真ん中に、ぽっかりと風穴が空いたようで。息をするたび、そこから大切なものがこぼれていく気がした。

イーライが、腰に回していた手を解き、そっと肩を抱いた。大きな手のひらが、俺の肩をしっかり掴む。

「昔の男なんて忘れろ。前向けよ。それに、そんなパッと出の男より、俺がいるだろ?」

軽く目元にキスを落とし、にやりと笑う。

「……あーあ。いきなり暗雲立ちこめてきた。気分が重い。」
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