最弱王子なのに辺境領地の再建任されました！？無気力領主と貧困村を救ったら、いつの間にか国政の中心になってた件について～

1章

第56話 そして1年が経つ

「とうとう、一年が経ったか……」

　俺は部屋の中、独り言のように呟いた。

　窓から見える景色は、かつて荒れ果てていた領地が、活気と賑わいを取り戻した今の姿だ。

　村の広場では行商人たちが賑やかに声を張り上げ、子どもたちの楽しそうな笑い声が風に乗って聞こえてくる。

　ここに来たばかりの頃、この土地の荒廃ぶりに頭を抱えた日々が思い出される。

　だが、皆が希望を胸にそれぞれの役割を果たし、全力で取り組んだ結果が今の姿だ。

　俺一人の力では到底ここまでにはできなかっただろう。

　窓辺でそんな感慨に浸っていると、静かだった部屋の扉が音を立てて開いた。

「ルドルフか」

　振り返ると、扉の向こうに立っていたのはやはり彼だった。

　彼の顔には、どこか寂しさを含んだ表情が浮かんでいる。

「殿下、もう一年が経ってしまいましたね……」

　彼の声には、ほんのわずかな悲しみが混じっていた。

　俺も思わず窓の外に視線を戻す。

「ああ、時間というのは早いものだ」

　ふと、自分の前世を思い出した。

　学生時代、学年が上がるごとに時間の流れがどんどん速く感じられたことがあった。

　今もその感覚は変わらない。

　特にここでの一年間は、怒涛の日々だったからだろう。

　俺は再びルドルフに目を向ける。

「ルドルフ、もうこの領地の経営は立て直せたな？」

「はい、完全とは言い切れませんが、最初の頃とはまるで違います」

「そうだな……最初来た時は大変だった」

　俺は思わず笑みを浮かべた。

　当時を思い返せば、荒れ果てた農地、崩れかけた建物、そして自信を失った領民たち――まさに絶望的な状況だった。

　それをここまで立て直せたのは、俺だけの力ではない。

　ルドルフをはじめ、皆が諦めずに協力してくれたからだ。

「殿下、本当に帰らなくてはならないのですか？」

　ルドルフがそう尋ねる声には、未練が滲んでいた。

　彼の気持ちは痛いほど分かる。

　俺だって、この地を離れたくないのだから。

「ああ、これは陛下からの試練だしな。王族同士の……」

「そう、ですか……」

　ルドルフはそう言って、ほんの一瞬だけ視線を伏せる。

　その仕草には哀愁が漂い、俺の胸を少しだけ締め付けた。

「動物カフェ、大蜘蛛の糸、スライム畑――これらの案は殿下によるものです。本当に……」

「だが、それを実現できたのは、皆の努力があったからだ。俺一人じゃどうにもならなかった。感謝しているぞ」

　俺がそう言うと、ルドルフは少しだけ俯きながら、静かに涙をこぼした。

　彼が涙を見せるのは珍しいことだ。

「それとなんだが、もうスライム畑は停止しよう。他の畑で作物を回収できるようになったしな」

　スライム畑――スライムの分泌液を肥料として利用する、領地復興の切り札だった。

　しかし、即効性がある反面、長期的に運用するのは難しい。

　その役目も、もう終わりだろう。

「承知しました、殿下」

　ルドルフがしっかりと頷いたのを見届けて、俺は再び窓の外へと目を向けた。

　この領地で過ごした日々は、本当にかけがえのないものだった。

「離れたくない……」

　自然と呟きが漏れる。

　俺はこの土地が、本当に好きだった。

　ルドルフをはじめ、村の人々、ルーカ――ここには、温もりがあった。

　派閥争いの絶えない王城より、よほど心地よく、平和で、幸せだと思える場所だ。

　そんなことを考えていると、扉がコンコンとノックされる音が響いた。

「誰だ？」

「リ、リエルお兄ちゃん」

　扉の向こうから現れたのは、青髪のロングヘアが美しい少女――ルーカだった。

　同じ年齢ながら、彼女の純粋で可憐な姿は、いつも俺に癒しを与えてくれる存在だ。