最弱王子なのに辺境領地の再建任されました！？無気力領主と貧困村を救ったら、いつの間にか国政の中心になってた件について～

1章

第63話 何であんな奴が デリク視点

王の間での一連の評価発表が終わり、僕――デリクは憤りを隠せないまま部屋を後にした。

　廊下に出た瞬間、拳が硬く握られる。

「リエル……あいつが僕よりも高評価だと？」

　心の中で繰り返されるのは、ロードの冷静な声。

　リエルの「S評価」という言葉が頭の中で何度も反響していた。

――納得できるわけがない。

　僕は僕なりに領地を治めてきたつもりだった。

　多少の税率の引き上げは必要悪だと思っていたし、多少強引な手段でも、結果さえ伴えばそれでいいはずだった。

　だが、それが「E評価」という最低評価につながるなんて、誰が予想した？

「くそっ！」

　廊下を歩きながら、僕は壁を拳で殴りつけた。

　硬い石壁に衝撃が返ってきて、拳がズキズキと痛む。

　だが、その痛みすらも僕の苛立ちを和らげるには足りなかった。

　リエル……あの男がいつの間にかこんな評価を得るほど成長していたなんて思いもしなかった。

　しかも「スライム畑」だと？　スライムの分泌液を使った新たな農業の方法だというが、そんな奇妙な発想を実現させたことが評価されるとは。

「くだらない……くだらないことに評価を与えやがって……！」

　僕は吐き捨てるように呟いた。

　だが、心のどこかでは分かっている。

　この結果がすべてなのだと。

　部屋に戻り、扉を勢いよく閉めると、そのままベッドに倒れ込んだ。

　柔らかな羽毛の感触が背中を包み込むが、全然心地よくない。

「……僕だって努力してきたんだ……」

　自分に言い聞かせるように呟いた。

　けれど、その言葉は虚しく空間に溶けていく。

　ふと窓の外を見ると、遠くに王都の街並みが見えた。

　夕陽に照らされたその景色は、まるで自分を嘲笑うかのように美しく輝いている。

「こんなはずじゃなかった……僕が、僕が一番になるはずだったのに」

　拳を握り締めながら、僕は再び悔しさを噛みしめる。

　僕は第二王子だ。

　リエルとは違い、常に先頭を走らなければならない立場だ。

　幼いころから前世で、父母に厳しく言われ続けてきた。

「絶対に一位になりなさい」「デリク、失敗は許されんぞ」――そういった言葉が頭に染みついている。

　それなのに、異世界に転生してもこのざまだ。

　リエル……あいつはなんなんだ。

　いつもどこか呑気で、遊んでいるようにしか見えなかった。

　それが今では、僕を追い抜いて王から直接評価される存在になっているなんて。

　悔しい。忌々しい。

「だが……僕は負けない」

　自分に言い聞かせるように呟いた。

　数ヵ月後、魔法学園が始まる。

　僕はそこに全てを賭けるつもりだ。

　ここでリエルに負けっぱなしになるつもりはない。

　学園では成績、実技、何もかもであいつを見返してやる。

　僕にはプライドがある。

　たとえ今がどん底だとしても、僕は這い上がる。

　学園での生活は、僕にとって新たなスタートだ。

「見ていろよ、リエル……必ずお前を越えてやる」

　窓の外に広がる王都を見つめながら、僕は静かにそう誓った。

　夕陽に照らされる街並みが、まるで僕の決意を試すように赤く輝いている。