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エリシオン学園編
第145話 初めての剣技
午後、僕たちは学園の演習場へと向かっていた。
午前中の魔法演習の授業で体力を使い果たした……とまではいかないけれど、決して軽くはない疲労感が足元に残っている。
それでも、学園生活は甘くないらしい。
午後の授業は、剣技だ。
エリシオン学園の演習場は、まるで騎士団の訓練所のような広さを誇っていた。
石畳の地面にはいくつもの訓練用の木剣が整然と並べられており、あちこちに魔力を込めた訓練用の人形も設置されている。
「うわぁ……ひろいね……」
僕は思わず声に出して感嘆した。
その隣では、ルージュが元気に返す。
「うん、でも、こういう場所ってワクワクするよね!」
確かに。
子どもとしての純粋な気持ちなのか、あるいは元・現代人としてのギャップなのか……異世界の訓練場というものに、どうしても冒険の香りを感じてしまう。
やがて、訓練場の奥からひとりの教官が姿を現した。
年齢は四十代くらい、浅黒い肌に短髪。
軍服のような装備をまとい、剣を腰に帯びた姿は、まさに歴戦の剣士そのものといった風格。
「静まれ!」
低く、けれど通る声で教官が言うと、生徒たちは自然と整列した。
「本日より、お前たちには剣技の基礎を教える。貴族も平民も関係ない。剣を持った以上、礼儀と規律を重んじること。それが、我が教えだ」
ピシッとした空気が張り詰める。
やっぱり、魔法の先生とは雰囲気がまるで違う。
魔術が理論なら、剣技は体で覚える実践の世界なのかもしれない。
「まずは、構えと素振りからだ。木剣を一本ずつ取って、並べ」
号令に従って、僕たちは列になって木剣を受け取った。
ずっしりとした木製の剣は、僕の手には少し大きくて、両手で握ると先がふらつく。
フェルを抱きかかえるのとは違う重さだ。
「けっこう重たい……」
つい呟くと、隣でルージュがクスッと笑った。
「リウス、剣は初めて?」
「えっと……ちゃんとした剣の訓練は、はじめて……」
思わず弱気な声になってしまう。
でも、ルージュはまるで気にする様子もなく笑ってくれた。
「じゃあ、私と一緒に頑張ろう。私、ちょっとだけ得意なの!」
僕は思わず、嬉しそうに頷いた。
「うん、よろしくね、ルージュ」
そうして僕たちは、演習場の中央に並び、教官の指示に従って素振りを始めた。
「一! 二! 三!」
教官の掛け声に合わせて、木剣を振り下ろす。
最初はぎこちなく、肩に力が入りすぎてしまう。
剣の重みを支えきれず、フォームが崩れた。
(うー……難しい)
横目で見ると、ルージュはスッとした動きで剣を振っている。
小柄な体格ながら、重心が安定していて、フォームも綺麗だ。
「リウス、力を入れすぎると疲れちゃうよ。もう少し、こう……体全体で受け止める感じ」
僕はルージュのアドバイスに頷いて、少しずつ修正を加えていった。
たしかに、力を抜くと少しだけ剣が自然に振れるようになる気がする。
「なるほど……!」
思わず口から出た声に、教官がこちらを向いた。
「いい気付きだ。その調子で続けろ」
僕はビクリとしつつも、小さく「はい!」と返した。
そうして、数十分に渡る素振りと構えの訓練が終わったころ、演習場には生徒たちの荒い息遣いが響いていた。
日差しはまだ高いが、額にはしっかりと汗が滲んでいる。
教官が手を打って言った。
「次は、軽い模擬戦を行う。あくまで訓練だから、全力は不要だ。相手に当てる前に止めることを徹底しろ」
皆が頷く中、僕は少し緊張していた。
模擬戦なんて、やったことがない。
「リウス、組もうか?」
声をかけてきたのは、ルージュだった。
もちろん断る理由なんてない。
むしろ、ありがたいな。
「うん、お願い」
ふたりで中央に立ち、教官の合図で木剣を構える。
僕はルージュの目を見た。
彼女はいつもよりも、少しだけ真剣な顔をしていた。
午前中の魔法演習の授業で体力を使い果たした……とまではいかないけれど、決して軽くはない疲労感が足元に残っている。
それでも、学園生活は甘くないらしい。
午後の授業は、剣技だ。
エリシオン学園の演習場は、まるで騎士団の訓練所のような広さを誇っていた。
石畳の地面にはいくつもの訓練用の木剣が整然と並べられており、あちこちに魔力を込めた訓練用の人形も設置されている。
「うわぁ……ひろいね……」
僕は思わず声に出して感嘆した。
その隣では、ルージュが元気に返す。
「うん、でも、こういう場所ってワクワクするよね!」
確かに。
子どもとしての純粋な気持ちなのか、あるいは元・現代人としてのギャップなのか……異世界の訓練場というものに、どうしても冒険の香りを感じてしまう。
やがて、訓練場の奥からひとりの教官が姿を現した。
年齢は四十代くらい、浅黒い肌に短髪。
軍服のような装備をまとい、剣を腰に帯びた姿は、まさに歴戦の剣士そのものといった風格。
「静まれ!」
低く、けれど通る声で教官が言うと、生徒たちは自然と整列した。
「本日より、お前たちには剣技の基礎を教える。貴族も平民も関係ない。剣を持った以上、礼儀と規律を重んじること。それが、我が教えだ」
ピシッとした空気が張り詰める。
やっぱり、魔法の先生とは雰囲気がまるで違う。
魔術が理論なら、剣技は体で覚える実践の世界なのかもしれない。
「まずは、構えと素振りからだ。木剣を一本ずつ取って、並べ」
号令に従って、僕たちは列になって木剣を受け取った。
ずっしりとした木製の剣は、僕の手には少し大きくて、両手で握ると先がふらつく。
フェルを抱きかかえるのとは違う重さだ。
「けっこう重たい……」
つい呟くと、隣でルージュがクスッと笑った。
「リウス、剣は初めて?」
「えっと……ちゃんとした剣の訓練は、はじめて……」
思わず弱気な声になってしまう。
でも、ルージュはまるで気にする様子もなく笑ってくれた。
「じゃあ、私と一緒に頑張ろう。私、ちょっとだけ得意なの!」
僕は思わず、嬉しそうに頷いた。
「うん、よろしくね、ルージュ」
そうして僕たちは、演習場の中央に並び、教官の指示に従って素振りを始めた。
「一! 二! 三!」
教官の掛け声に合わせて、木剣を振り下ろす。
最初はぎこちなく、肩に力が入りすぎてしまう。
剣の重みを支えきれず、フォームが崩れた。
(うー……難しい)
横目で見ると、ルージュはスッとした動きで剣を振っている。
小柄な体格ながら、重心が安定していて、フォームも綺麗だ。
「リウス、力を入れすぎると疲れちゃうよ。もう少し、こう……体全体で受け止める感じ」
僕はルージュのアドバイスに頷いて、少しずつ修正を加えていった。
たしかに、力を抜くと少しだけ剣が自然に振れるようになる気がする。
「なるほど……!」
思わず口から出た声に、教官がこちらを向いた。
「いい気付きだ。その調子で続けろ」
僕はビクリとしつつも、小さく「はい!」と返した。
そうして、数十分に渡る素振りと構えの訓練が終わったころ、演習場には生徒たちの荒い息遣いが響いていた。
日差しはまだ高いが、額にはしっかりと汗が滲んでいる。
教官が手を打って言った。
「次は、軽い模擬戦を行う。あくまで訓練だから、全力は不要だ。相手に当てる前に止めることを徹底しろ」
皆が頷く中、僕は少し緊張していた。
模擬戦なんて、やったことがない。
「リウス、組もうか?」
声をかけてきたのは、ルージュだった。
もちろん断る理由なんてない。
むしろ、ありがたいな。
「うん、お願い」
ふたりで中央に立ち、教官の合図で木剣を構える。
僕はルージュの目を見た。
彼女はいつもよりも、少しだけ真剣な顔をしていた。
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