悪役貴族に転生した僕、破滅回避したいので水魔法を極めます!

空月そらら

文字の大きさ
93 / 99
エリシオン学園編

第145話 初めての剣技

 午後、僕たちは学園の演習場へと向かっていた。
 
 午前中の魔法演習の授業で体力を使い果たした……とまではいかないけれど、決して軽くはない疲労感が足元に残っている。

 それでも、学園生活は甘くないらしい。

 午後の授業は、剣技だ。

 エリシオン学園の演習場は、まるで騎士団の訓練所のような広さを誇っていた。
 
 石畳の地面にはいくつもの訓練用の木剣が整然と並べられており、あちこちに魔力を込めた訓練用の人形も設置されている。

「うわぁ……ひろいね……」

 僕は思わず声に出して感嘆した。
 
 その隣では、ルージュが元気に返す。

「うん、でも、こういう場所ってワクワクするよね!」

 確かに。
 
 子どもとしての純粋な気持ちなのか、あるいは元・現代人としてのギャップなのか……異世界の訓練場というものに、どうしても冒険の香りを感じてしまう。

 やがて、訓練場の奥からひとりの教官が姿を現した。
 
 年齢は四十代くらい、浅黒い肌に短髪。

 軍服のような装備をまとい、剣を腰に帯びた姿は、まさに歴戦の剣士そのものといった風格。

「静まれ!」

 低く、けれど通る声で教官が言うと、生徒たちは自然と整列した。

「本日より、お前たちには剣技の基礎を教える。貴族も平民も関係ない。剣を持った以上、礼儀と規律を重んじること。それが、我が教えだ」

 ピシッとした空気が張り詰める。
 
 やっぱり、魔法の先生とは雰囲気がまるで違う。

 魔術が理論なら、剣技は体で覚える実践の世界なのかもしれない。

「まずは、構えと素振りからだ。木剣を一本ずつ取って、並べ」

 号令に従って、僕たちは列になって木剣を受け取った。
 
 ずっしりとした木製の剣は、僕の手には少し大きくて、両手で握ると先がふらつく。

 フェルを抱きかかえるのとは違う重さだ。

「けっこう重たい……」

 つい呟くと、隣でルージュがクスッと笑った。

「リウス、剣は初めて?」

「えっと……ちゃんとした剣の訓練は、はじめて……」

 思わず弱気な声になってしまう。

 でも、ルージュはまるで気にする様子もなく笑ってくれた。

「じゃあ、私と一緒に頑張ろう。私、ちょっとだけ得意なの!」

 僕は思わず、嬉しそうに頷いた。

「うん、よろしくね、ルージュ」

 そうして僕たちは、演習場の中央に並び、教官の指示に従って素振りを始めた。

「一! 二! 三!」

 教官の掛け声に合わせて、木剣を振り下ろす。
 
 最初はぎこちなく、肩に力が入りすぎてしまう。

 剣の重みを支えきれず、フォームが崩れた。

(うー……難しい)

 横目で見ると、ルージュはスッとした動きで剣を振っている。

 小柄な体格ながら、重心が安定していて、フォームも綺麗だ。

「リウス、力を入れすぎると疲れちゃうよ。もう少し、こう……体全体で受け止める感じ」

 僕はルージュのアドバイスに頷いて、少しずつ修正を加えていった。
 
 たしかに、力を抜くと少しだけ剣が自然に振れるようになる気がする。

「なるほど……!」

 思わず口から出た声に、教官がこちらを向いた。

「いい気付きだ。その調子で続けろ」

 僕はビクリとしつつも、小さく「はい!」と返した。

 そうして、数十分に渡る素振りと構えの訓練が終わったころ、演習場には生徒たちの荒い息遣いが響いていた。
 
 日差しはまだ高いが、額にはしっかりと汗が滲んでいる。

 教官が手を打って言った。

「次は、軽い模擬戦を行う。あくまで訓練だから、全力は不要だ。相手に当てる前に止めることを徹底しろ」

 皆が頷く中、僕は少し緊張していた。
 
 模擬戦なんて、やったことがない。

「リウス、組もうか?」

 声をかけてきたのは、ルージュだった。
 
 もちろん断る理由なんてない。

 むしろ、ありがたいな。

「うん、お願い」

 ふたりで中央に立ち、教官の合図で木剣を構える。

 僕はルージュの目を見た。
 
 彼女はいつもよりも、少しだけ真剣な顔をしていた。
感想 19

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

社畜おっさん、異世界で子育てはじめました~拾った娘が可愛すぎるので、世界一のパパを目指します~

空月そらら
ファンタジー
A級パーティー『輝きの剣』で、支援魔法と裏方の雑用を一人で完璧にこなしていたガルド(38歳)は、ある日突然、理不尽な追放を宣告される。 前世は過労死した孤独な社畜。 異世界に転生しても報われない日々に絶望し、雨の降る裏路地を彷徨っていたガルドは、そこでボロボロの布にくるまって震えるメリアと出会う。 「おねがいでしゅ……たしゅけて……」 小さな手にすがりつかれた瞬間、ガルドは決意した。 ――今日から俺が、この子のパパになる。絶対に守り抜いてみせる、と。 冒険者としての栄光などもういらない。 ガルドは愛娘との温かい生活を手に入れるため、長年隠し続けていた『規格外の支援魔法』と『チート級の生活魔法』を惜しげもなく解放する! すべては、世界一可愛い娘の笑顔のために。 一方その頃、ガルドという「完璧な生命線」を失ったパーティーは、格下のダンジョンで罠にかかり、まともな野営すらできずにあっさりと崩壊の危機を迎えていたが……。 「パパのシチュー、せかいでいっちばんおいちい!」 「そうかそうか、いっぱい食べろよ」 そんなことはつゆ知らず。 不遇だった最強のおっさんは、今日も愛娘を全力で甘やかし、幸せなスローライフを満喫中!

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。

しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。