めぐり愛

小雨深子

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めぐり愛

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 『めぐり愛』
 忘れたくなかったのに、忘れてしまった。顔を合わせれば喧嘩ばかりして、君との距離はどんどん広がっていった。忘れてしまった君との愛はどこに行ってしまったのだろうか。
 『もう終わりかもね。』
 そうだね。終わりだね。長年温めた君との愛も、あっさりと冷めてしまう。冷めた愛は美味しくない。人間は始める事も終わる事もとてもエネルギーを消費する。『もう違うな。』と思ってからが長いのだ。なんて燃費の悪い生き物だろうか。いざ終わろうかと思うと、走馬灯のように思い出が蘇る。
 楽しかった事も沢山あった。私がプラネタリウムに行った事がない。と言うと、今から行こっかと電車に揺られてみに行ってくれた。夜勤明けで疲れていた事もあって、彼は暗闇になると寝てしまったけれど、疲れてる中連れてってくれた気持ちが嬉しかった。『ごめん、私も疲れて寝ちゃったよ。また2人でこよう。』そんな事を言って2人で笑った記憶がある。君がはりきって旅行の計画を立ててくれた事もあった。日帰りの旅行だったが、行きたいお店が全部定休日だったり、突然雨が降り出したり、散々な旅行だった。帰りに最寄りの駅の美味しい蕎麦を食べて帰った。それだけでなんだか楽しい旅行だった。思い出は美化していくものなのはわかっている。早めに踏ん切りをつけなければ、情がますます深くなる前に。
 『荷物まとめて私が出てくね。』
 そう言って、ここに気持ちも置いて行こうと、私は終止符を打った。
数日が経ち、少しずつ荷物がまとまってきた頃。本棚を整理してると、『チャリン』隙間から何かが落ちた。鍵だ。
『こんな所に鍵なんて置いてあったかな?そもそもどこの鍵だろう。』
 そんなことを一人呟いて考えている時に、ピーンと思い当たる節が浮かんだ。付き合った当初から、絶対に何が入っているか教えてくれない鍵付きのタンスがあったのだ。もしかしたらあそこの鍵かもしれない。そう思い、『どうせ最後だし』と出来心でタンスに鍵を挿してみると『カチャッ』鍵が開いた。エロ本でも隠してあるのかと思っていたが、その中には妙な物が入っていた。それは、一冊のアルバムだった。私と彼は付き合って、五年になる。私が二十四歳の時に付き合い始めた。しかしそのアルバムは、何故か私が二十一歳の時の写真から始まっている。あれ、こんなアルバムなんてあったかな?と思い見ていると、隣に若い男の人が毎回写っていた。今とは髪型も違い八年も若い頃の写真なので、顔が幼いがそれは確かに彼であった。面影も残っているし、何より同じ位置に泣きぼくろがあった。そのアルバムでは何故か二十一歳~二十四歳までの三年間、私と彼は付き合っていることになっている。その頃は仕事も忙しく、彼氏なんていた事は一度も無いはずなのに。ましてや彼と知り合うのは二十四の時。気味が悪い。
 『ああ、そこのタンス開けないでって言ったのに開けちゃったんだ。まあ、いいや。どうせまた忘れてしまうから教えてあげるね?前回別れた時の記憶をかきかえたんだ。だからね、君と僕は八年前にも一度付き合っているんだ。』
 突然現れた彼が何を言ってるのか、私には理解できなかった。
 『何言ってるの?記憶が書き換えれるわけないでしょ?バカな冗談は辞めて。何かの悪ふざけなんでしょ?』
 そう私が言うと、彼はこう応えた。
 『ふざけてないよ?君の友人の記憶を消したり、会社の辻褄を合わせたり、色々大変だったよ。君友達が亡くなったよね?中学の頃一番仲よかった。あの時は本当に君が落ち込んで立ち直るまで時間が掛かったよ。』
 それは彼と出会う前の話だ。私はその事を極力思い出したくないので、彼にも言っていなかった。
 『なんで、って顔してるね。今回こそはって思ってたんだけどダメだった。まあ良いや。また一からやり直そう!僕は君の事ずーっと愛しているからね。』
 そう彼が言うと、身体が痺れ私の意識は無くなった。
 『こんな所で寝ちゃダメだよ!風邪ひくよ。でも付き合ったばっかりなのに一緒に暮らし始められるなんて夢みたいだなー、荷ほどき手伝うよ!』
 疲れて寝てしまっていたのか。同棲なんて初めてだから楽しみだ。
 『おはよう。』
 私はそう小さく呟いた。

 
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