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8.もう、脳筋には困りものです
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[困ります。手順を踏んでください]
[ええい、邪魔をするな。緊急なんだ]
──バタン。
すさまじい勢いで、私の部屋の扉が開く。入って来たのは、衛士長だ。以前、私の胸が窪んでいるとか言った奴だ。
「マチルダ、話がある」
「これはマーク衛士長。予約もなく突然の来訪、いかなる御用で?」
「申し訳ありません。お止めしたのですが、押し切られてしまいました」
そう謝罪したのは、新しく専属侍女になったチハだ。
「チハ、気にしなくていい。下がっていなさい」
「はい。失礼します」
チハは一礼すると、部屋の外に出ようとしていた。だが、扉が閉まらない。チハは焦り、どうしていいか分からずオロオロしていた。
「チハ、侍女頭に相談しなさい」
「はい」
チハは慌てて部屋から出て行った。
「衛士長殿、扉が壊れてしまったではないか。そこまでした、ご用件とは何です?」
「先日、部下3人を再起不能にしたと聞いた。どういう事か説明を願いたい」
「その件に関しては、すべて丸く収まった。今更、問題にするのはやめて頂きたい。それともどこからか、訴えがありましたか?」
「訴えなどは出てはおらんが、貴殿の団長としての資質を問うておる」
はて?この方は、何を心配してここまで来たのやら。相変わらず分からない人だ。
「と言いますと?」
「自分の不満を弱い部下に、ぶつけておるのではないかと疑っている」
ああ、そういう事でしたか。随分、低く見られたものだ。
「そのような事は、断じてありません。これは、騎士団内部の問題ですので衛士隊は口を挟まないでもらいたい」
「それをわしに信じろと言うのか?」
あーもう、面倒くさい。どうしたいのよ。まぁ、この手の脳筋野郎のやりたい事って大体想像がつくけど。
「ならば、お試しになりますか。私が弱い者でなければ、圧倒できないかどうか」
「よかろう。望むところだ」
やっぱり、望みはこれかぁ。呆れたが、致し方ない。付き合ってやりますか。
衛士長は部屋を出る時、壊した扉が気になったようで、「こんな物、こうすれば直る」と言って強引に扉を閉め、とどめを刺した。外れた扉を壁に立てかけ、バツが悪そうに頭を掻きながら、訓練場に向かった。
突然の衛士長と団長の登場に、訓練場の騎士達はざわめいた。2人が木刀を持ち、訓練場に入ると騎士達は、訓練を中断して端に寄り観客になる。その場にいた隊長が審判を受け持つことになり2人は構えた。
「始め」
下段の構え。攻撃には向かない、防御に特化した構えだ。近づくと、すさまじい速さと力で、振り上げてくる。受けようものなら、その力で上空に持ち上げられ終わりだ。まさにお館様を守るため、近づく者すべてを薙ぎ払う防御の剣。
私は、間合いを詰め斬りかかるふりをした。やはり、私の剣より下から振り上げる剣の方が早い。私と衛士長では手の長さが違い過ぎる。それを避けて、間合いを詰めるふりをした。すぐに剣が振り下ろされてくる。それを下がって避けて衛士長の籠手に向かって渾身の一撃を入れた。
──もらったぁぁ。
地面を叩きつけないよう一瞬、剣が止まる。この瞬間を逃さない。
「ボキッ」
──えぇぇぇぇ?
私の渾身の一撃が衛士長の右手に入る。なのに、なぜ木刀が折れるの?どうして衛士長は平気な顔をしているの?痛くないの?
「かかったな、マチルダ。これがわし流の武器破壊だ」
──そんな武器破壊、聞いた事ない。
武器を失った私は、それから一方的に攻撃を受けた。私はひたすら避け続け、隙を伺う。
「どうした、マチルダ。避けてばかりでは勝てぬぞ」
「う、うるさい。当たらなければ、負ける事もないわ」
でも正直、武器を失っては打つ手がない。その後もひたすら避け続け、何とかできないか思案した。
「はぁ、はぁ、はぁ。本当によく避けるな。これ程、当たらないと自信を失う」
下段の構えの弱点だ。防御に特化している分、攻撃に転じた場合、動きが読みやすい。私の速さがあれば楽に避けられる。そして、これだけ大振りを繰り返したのだ。疲れてきただろう。そろそろ、仕掛けてみるか。
私は間合いを詰めた。下から振り上げるカウンター攻撃。それを避けると、すぐに上から下へ振り下ろされる。私はそれを避けながら、折れた木刀を衛士長の顔に向かって投げた。その攻撃で勝敗が決まるわけではないが、衛士長をひるますには十分だ。ひるんだ隙をついて一気に駆け寄り、腹部に向かって渾身の拳を突き出した。
「ポコッ」
はぁぁぁ?わたし、ちから、よわぁぁぁぁ!当たるには当たったが、ダメージには、ほど遠かった。その辺の男より力があると自負していたのに、どういう事?
「ガハハハハハ。まだまだ、だな。だが、楽しかったぞ。貴殿の剣が、弱い者を傷つける剣ではないのもよく分かった。今日はこれまでにしよう」
「そんな事、言って。本当はもうヘトヘトなのでしょう?」
「見透かされたか。ガハハハ。セントー殿に貴殿の事くれぐれも頼むと言われ気にかけておったが、教えることなどないではないか。ていのいい娘自慢をしおって。さらばだ、クロムウェル団長」
──父が衛士長に。
「そう、父が迷惑をかけました。これからもよろしく衛士長」
衛士長は、振り返ることなく手だけを振って去って行った。
その後、部屋に戻って扉が壊れているのを思い出した。これを直す、稟議書を私が作成して提出するのかなぁ。
──もう、憂鬱です。
[ええい、邪魔をするな。緊急なんだ]
──バタン。
すさまじい勢いで、私の部屋の扉が開く。入って来たのは、衛士長だ。以前、私の胸が窪んでいるとか言った奴だ。
「マチルダ、話がある」
「これはマーク衛士長。予約もなく突然の来訪、いかなる御用で?」
「申し訳ありません。お止めしたのですが、押し切られてしまいました」
そう謝罪したのは、新しく専属侍女になったチハだ。
「チハ、気にしなくていい。下がっていなさい」
「はい。失礼します」
チハは一礼すると、部屋の外に出ようとしていた。だが、扉が閉まらない。チハは焦り、どうしていいか分からずオロオロしていた。
「チハ、侍女頭に相談しなさい」
「はい」
チハは慌てて部屋から出て行った。
「衛士長殿、扉が壊れてしまったではないか。そこまでした、ご用件とは何です?」
「先日、部下3人を再起不能にしたと聞いた。どういう事か説明を願いたい」
「その件に関しては、すべて丸く収まった。今更、問題にするのはやめて頂きたい。それともどこからか、訴えがありましたか?」
「訴えなどは出てはおらんが、貴殿の団長としての資質を問うておる」
はて?この方は、何を心配してここまで来たのやら。相変わらず分からない人だ。
「と言いますと?」
「自分の不満を弱い部下に、ぶつけておるのではないかと疑っている」
ああ、そういう事でしたか。随分、低く見られたものだ。
「そのような事は、断じてありません。これは、騎士団内部の問題ですので衛士隊は口を挟まないでもらいたい」
「それをわしに信じろと言うのか?」
あーもう、面倒くさい。どうしたいのよ。まぁ、この手の脳筋野郎のやりたい事って大体想像がつくけど。
「ならば、お試しになりますか。私が弱い者でなければ、圧倒できないかどうか」
「よかろう。望むところだ」
やっぱり、望みはこれかぁ。呆れたが、致し方ない。付き合ってやりますか。
衛士長は部屋を出る時、壊した扉が気になったようで、「こんな物、こうすれば直る」と言って強引に扉を閉め、とどめを刺した。外れた扉を壁に立てかけ、バツが悪そうに頭を掻きながら、訓練場に向かった。
突然の衛士長と団長の登場に、訓練場の騎士達はざわめいた。2人が木刀を持ち、訓練場に入ると騎士達は、訓練を中断して端に寄り観客になる。その場にいた隊長が審判を受け持つことになり2人は構えた。
「始め」
下段の構え。攻撃には向かない、防御に特化した構えだ。近づくと、すさまじい速さと力で、振り上げてくる。受けようものなら、その力で上空に持ち上げられ終わりだ。まさにお館様を守るため、近づく者すべてを薙ぎ払う防御の剣。
私は、間合いを詰め斬りかかるふりをした。やはり、私の剣より下から振り上げる剣の方が早い。私と衛士長では手の長さが違い過ぎる。それを避けて、間合いを詰めるふりをした。すぐに剣が振り下ろされてくる。それを下がって避けて衛士長の籠手に向かって渾身の一撃を入れた。
──もらったぁぁ。
地面を叩きつけないよう一瞬、剣が止まる。この瞬間を逃さない。
「ボキッ」
──えぇぇぇぇ?
私の渾身の一撃が衛士長の右手に入る。なのに、なぜ木刀が折れるの?どうして衛士長は平気な顔をしているの?痛くないの?
「かかったな、マチルダ。これがわし流の武器破壊だ」
──そんな武器破壊、聞いた事ない。
武器を失った私は、それから一方的に攻撃を受けた。私はひたすら避け続け、隙を伺う。
「どうした、マチルダ。避けてばかりでは勝てぬぞ」
「う、うるさい。当たらなければ、負ける事もないわ」
でも正直、武器を失っては打つ手がない。その後もひたすら避け続け、何とかできないか思案した。
「はぁ、はぁ、はぁ。本当によく避けるな。これ程、当たらないと自信を失う」
下段の構えの弱点だ。防御に特化している分、攻撃に転じた場合、動きが読みやすい。私の速さがあれば楽に避けられる。そして、これだけ大振りを繰り返したのだ。疲れてきただろう。そろそろ、仕掛けてみるか。
私は間合いを詰めた。下から振り上げるカウンター攻撃。それを避けると、すぐに上から下へ振り下ろされる。私はそれを避けながら、折れた木刀を衛士長の顔に向かって投げた。その攻撃で勝敗が決まるわけではないが、衛士長をひるますには十分だ。ひるんだ隙をついて一気に駆け寄り、腹部に向かって渾身の拳を突き出した。
「ポコッ」
はぁぁぁ?わたし、ちから、よわぁぁぁぁ!当たるには当たったが、ダメージには、ほど遠かった。その辺の男より力があると自負していたのに、どういう事?
「ガハハハハハ。まだまだ、だな。だが、楽しかったぞ。貴殿の剣が、弱い者を傷つける剣ではないのもよく分かった。今日はこれまでにしよう」
「そんな事、言って。本当はもうヘトヘトなのでしょう?」
「見透かされたか。ガハハハ。セントー殿に貴殿の事くれぐれも頼むと言われ気にかけておったが、教えることなどないではないか。ていのいい娘自慢をしおって。さらばだ、クロムウェル団長」
──父が衛士長に。
「そう、父が迷惑をかけました。これからもよろしく衛士長」
衛士長は、振り返ることなく手だけを振って去って行った。
その後、部屋に戻って扉が壊れているのを思い出した。これを直す、稟議書を私が作成して提出するのかなぁ。
──もう、憂鬱です。
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