異世界での異生活 ~騎士団長の憂鬱~

なにがし

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14.いたいけな青年を騙すなんて許せない

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 私の本気の殺気に青年は心底怯えた。腰を抜かして、その場に座り込み、失禁していた。

「ひぃぃぃぃ」

──はて?私はこの青年をどこかで見たような…いや、誰かに似ているのだ。誰だっけ?

「あぁぁ、そういう事でしたか」

副団長カヴェナンター殿が、頭を掻きながら書類に目を通し、何やら納得していた。その書類は、おそらく新人3人の経歴書。

「団長。この者は、ハリー大隊長の推薦で予備隊に入っています」
「やはり、そうか。名は?」
「ビル・センプルです。」

センプル?ああ、思い出した。私が大隊長になる前の前任が、センプルだったな。確か、ボブ・センプル。平民出身で功績をあげ、お館様より名字を与えられた英雄だったな。その息子か。何となくだが、似ているな。

「さてビル殿。予備隊員でありながら、騎士団員のふりをして、随分楽しんだようじゃないか。理由を聞かせてもらえぬか?」
「お前を、おとしめるためだ。失脚させて、仕返しするためさ」
「それで、空いた大隊長の席にそなたの父を再任させると、ハリー殿と約束でもしたか?」
「……」

 ボブ・センプルは下男から功績を上げ続け、大隊長にまで昇進しレスボンドリームを成した英雄だ。だが、その姿はハリボテで、他人の功績や成果を騙し取ってきたクソ野郎だ。彼の功績で、彼自身がやり遂げたものなど何一つなかった。昇進するごとに部下達に無理難題を押し付け、その成果のすべてを自分のものにしてきている。なんでもない事をいかに大変だったかを創作して伝え、父やお館様を騙した大罪人だ。報連相の徹底が口癖で、部下達からは報連軍曹ほんれんぐんそうと揶揄されていた。
 そもそも、報告と相談は下から上に来るのがほとんどだが、連絡のほとんどは上から下に来るものだ。つまり、報連相の徹底とは部下達だけでなく、上司も徹底しないと意味がない。そんな事も分からず部下達に強要してきたのだから、部下達がやる気をなくすのも無理はない。この無能のせいで、第1大隊の団員は、好き勝手な行動をするようになり、崩壊してしまった。

 そんな状況を打破するために、父はこの無能を追放し、代わりに私を当てたのだ。引継ぎもなく、立て直しに尽力させられ、相当の苦労をさせられた。私の方が恨みたいくらいだ。
 だが、そのことを息子に伝えても、何も利益を生まないし、そもそも信じないだろう。さて、どうしたものか。

「もし、私が失脚しても、そなたの父が帰って来ることなどないぞ」
「はぁ?何を言っている」
「なぜなら、次の団長がそこにいる副団長だからだ。例えハリー殿が副団長に昇進しても、人事に関しては進言する事しかできない。決定権は団長にある」
「そして、私がお前の父を復帰させることは絶対にない。なぜならお前の父を追放させるよう前団長に進言したのが、私だからだ」
「くそぉぉぉ、お前だったのかぁぁ」

 そもそも、ボブ殿は本当に我々を恨んでいるのか?第1大隊が崩壊してからは、部下達は何一つ言う事を聞かず苦労していたと聞く。人望がないのはもちろん、剣技も下の下で、勝負をすればほとんどの部下に負ける実力だったとか。追放された時は、一応は沈んでみせたが、その苦労から解放され、日に日に顔色がよくなったと聞いている。

「さてレオ殿。ハリー殿には騙されていたのだから、かばう必要はないだろう?そなたの行動はすべてハリー殿の指示と言う事でいいのだな?」
「ああ、そうだよ」
「偽通知書を届けたのは、そなただな」
「ああ、ハリーさんから手紙を渡され、冒険者組合に届けた」
「騎士団の制服はどうした?」
「ハリーさんが保管してある場所と鍵の場所を教えてくれて、そこから盗んだ」
「わかった。今後はハリー殿とは距離を置き、私達を見返すならそのような卑怯なやり方ではなく、正々堂々と実力で見返して欲しい。父に恥じない成果を期待している。下がっていいぞ」
「なぁ、俺は、ハリーさんに踊らされていたのか?」
「そういう事に、なるかな」
「親父は今、悠々自適の生活を送っている。でもそれは、お前達に洗脳されたからだとハリーさんから聞いた。そうでないと、追放されたのにニコニコとしているのがおかしいから。…でも、何となく分かったよ。親父は追放されたのではなく、解放されたのだと。…昔の事といい、悪かった」

 レオは深々と頭を下げ、部屋を後にした。
 そういえば大隊長に成り立ての頃、包丁を持った少年が突っ込んで来た事があったな。私がヒラリとかわすと家の壁にぶつかり、持っていた包丁で顔を切っていた。慌てて保護して治療をしようとしたが、家と家の狭い隙間に入って逃走してしまい保護できなかった。あの時の少年が彼なのか。

「チハはいるか?」
「はぁいぃ。なんでしょうぉぉ」

 チハはソファーの影に隠れていたが、私の呼びかけに頭だけ出して返事をした。

「何故、隠れる?」
「いえ、なんでも。それで、ご用件は何でしょう?」
「床掃除を、頼む」
「ひえぇぇ、やっぱりぃぃ。かしこまりました」

「うぇぇぇぇぇぇ」

 チハは、ツンとする刺激臭が漂う水溜まりの拭き掃除を始めた。その瞳から涙を浮かべ、それが作業に対してか、刺激臭に対してかは、本人にしか分からない。

「団長、困りましたな。レオの証言に証拠がありません。このままでは、レオの妄言だと言い張られたら罰する事ができませんぞ」
「今の段階では、副団長への命令違反と、レオの制服窃盗を手伝った罪だけだな。おっと、私の名を語った文書偽造もあったな」
「命令違反は、中隊長には告げたと言えば、言った、言わないの論争になって行き詰ってしまいます。レオの窃盗も口を出しただけですから、言ってないとしらを切れば同様です。通知書はメンガンダル殿が破り捨てたので、残っていません」
「バレても、罰せられないよう仕組んだか」

 この賢さを別の方向に使って欲しいものだ。さて、どうしたものかと考えるが、その前にやる事がある。特命失敗の報告だ。

──あぁぁぁ、憂鬱だ。
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