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103話 無礼者には恥辱の制裁を
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だが、そのマチルダの背後より、同じように美しい姿をした女性が近づいてくる。その姿にも周りの臣下や侍女達の視線が集中した。
「あら、騎士団長。随分気合が入っているわね。お目当ての男性でも来るのかしら?」
後方からだが、その声に聞き覚えがある。
「その気持ちの悪いしゃべりを止めろ、衛兵団長。そなたこそ、気合が入っているじゃないか?」
「そりゃぁ、この後大きなイベントが待っているのだから気合ぐらい入れるさ」
──大きな、イベント?
騎士団は、有事か災害が起きなければ、これといった仕事がない。普段は訓練と演習の毎日だ。そこで、定期的に日頃の訓練と演習の成果を披露する機会が与えられる。それが本日行われる闘技祭だ。祭りと言っても、騎士達の実力を見せるものなので、安全保障上、一般には公開されない。城の関係者のみの観戦なのだが、これがなかなか盛り上がる。
特に騎士同士の一騎打ちは、剣闘士の戦いのようで人気がある。さらに、城に勤める侍女や女性文官などの女性達にアピールできるので騎士達は気合が入る。衛兵も数少ない出会いの場となり同様だ。女性達もこの日ばかりは競って身だしなみを整える。ただし制服での観戦が義務づけられているので、気合を入れるのは、もっぱら顔周りに集中している。
ただ、騎士団長と衛兵団長は例外で2人はいつもと変わらぬ姿で毎回参加していた。だが、今回は違った。マチルダもチャーフィーも格好こそいつも通りの制服だが、髪と顔の表面には多くの予算が投入されており、黙っていればかなり美しい貴族令嬢に見えた。特にチャーフィーは、普段は髪を上げ衛兵団のベレー帽を身に着けているが、今日は髪を下ろしベレー帽は腰のベルトに挟んでいた。
チャーフィーはマチルダが連れている人物を覗き込む。
「ヤスオ殿、すでに来ておられたか」
「チャーフィーさん、一昨日ぶりです。見違えましたね。とてもお綺麗です」
「ありがとう、嬉しい。それと、私の事は呼び捨てで構わない。それで、どうしてこのような場所におられるのだ?」
「マチルダに案内されて、ここまで。平民ですが、図々しくも食事をご一緒にしようと思いまして」
「そうでしたか、ならば私も同席しよう。ヤスオ殿にはヒューマンの位など関係ないでしょう」
チャーフィーは身体を左右にくねらせながら、かわいらしく話し周りを魅了した。だが、マチルダだけは、普段とはかけ離れた態度のチャーフィーに鳥肌を立て膠着し、放心していた。だが、同席するという言葉に我に返り、反論する。
「待て、待て。そなた、私とヤスオの邪魔をすると言うのか?」
「あら?本日の来賓に対して、そなただけの接待では物足りないでしょう。美女二人に囲まれ、両手に花の方がヤスオ殿も嬉しいのでは?」
マチルダがヤスオを城の食事に誘ったのは、自分の普段の生活を知ってもらうためと、二人きりでゆっくりと食事を堪能するためだ。だが、ここで衛兵団長に遭遇した時点で、企みの半分は失敗した。このまま黙っているような奴ではない事は、マチルダがよく知っている。露骨な邪魔をされるくらいなら同席した方がマシと考え観念した。
城の食堂は位によって座る席と注文の受付箇所が違ってくる。もちろん提供される料理の内容も違う。ヤスオは、士官席に案内され席に着くと、二人はヤスオを置いて注文に向かった。士官席に見覚えのない平民が、見た事のない美女二人を引き連れ座っているので当然周りからは、やっかみの視線が送られてくる。その中の同じ士官席で食事をしていた、文官らしき男が食事を中断してヤスオに近づいてきた。
「おい、貴様。見たところ平民のようだが、ここは貴族専用の食堂だ。ましてや、この場所は、役職付きの者しか利用できぬ。さっさと立ち去り、下男用の食堂に移動したまえ」
──えーと、この人誰?
声をかけてきた人に覚えがなく、どのくらいの地位の人か分からないので、言う通りにした方がいいのか、反発した方がいいのか判断できずにいた。結果、キョトンとして、二人が戻ってくるのを待った。
「おい。聞こえているのか?」
『おい』
文官の後ろから声が聞こえ、振り返る。そこには、睨みつける二人の美女がいた。
「おお、君達は見たところ貴族令嬢であるから、ここでの食事は問題ないよ。ただ、ここの席はダメだよ。あちらの下級席に行かなきゃぁ。そうだ、私と一緒に食事をしよう。ならばここの席でも問題ないから」
『…………』
「どうかしたかい?しかし、この城に君達みたいな美女がいるなんて知らなかったよ。そちらの女性は、格好からして騎士団所属か。肩の鎧を着けているなんて、まるでクロムウェル団長みたいだね。もう一人は、衛兵団所属だね。その腰のベレー帽はコメット団長のトレードマークだから身に着けないのは賢明だね」
「クロムウェルだ」「コメットだ」
「その声?………。えぇぇぇぇぇ。こ、これは失礼しました。いやぁぁ、見違えました。とても婚期を過ぎたお歳には見えない」
──キン。
一瞬、食堂内に金属音が響き渡る。チャーフィーは、両手を後ろにまわし、瞳を伏せてその無礼者に語りかける。
「よいか、その男は平民ではあるが本日の来賓で、お館様と面会するお方だ。ゆえに我々で接待しておる。これ以上、邪魔するなら下級席で食事をするようになるが、よろしいか」
「そ、それは大変、失礼しました」
男は慌てて席に戻ろうとするが、何かが足に絡まりバランスを崩し倒れ込み、顔面を床にぶつけた。鼻血を出しながら、その何かを確かめる。それは、自身が身に着けていたスラックス。男は自分がパンツを露出しているのに気づくと、慌てて立ち上がりスラックスを持ち上げる。だが、ベルトが締まらない。よく見るとバックルの半分がなくなっており、破片が床に転がっていた。男は食事を止め、スラックスがずれ落ちぬよう気遣いながら走って食堂から出て行った。その異様な姿に食堂内は笑いで包まれる。
「マチルダ、やり過ぎだ。あの者はしばらくここには、来られないだろう」
「何を言っているチャーフィー。私がやらなければ、そなたがやっていただろう」
「あら、騎士団長。随分気合が入っているわね。お目当ての男性でも来るのかしら?」
後方からだが、その声に聞き覚えがある。
「その気持ちの悪いしゃべりを止めろ、衛兵団長。そなたこそ、気合が入っているじゃないか?」
「そりゃぁ、この後大きなイベントが待っているのだから気合ぐらい入れるさ」
──大きな、イベント?
騎士団は、有事か災害が起きなければ、これといった仕事がない。普段は訓練と演習の毎日だ。そこで、定期的に日頃の訓練と演習の成果を披露する機会が与えられる。それが本日行われる闘技祭だ。祭りと言っても、騎士達の実力を見せるものなので、安全保障上、一般には公開されない。城の関係者のみの観戦なのだが、これがなかなか盛り上がる。
特に騎士同士の一騎打ちは、剣闘士の戦いのようで人気がある。さらに、城に勤める侍女や女性文官などの女性達にアピールできるので騎士達は気合が入る。衛兵も数少ない出会いの場となり同様だ。女性達もこの日ばかりは競って身だしなみを整える。ただし制服での観戦が義務づけられているので、気合を入れるのは、もっぱら顔周りに集中している。
ただ、騎士団長と衛兵団長は例外で2人はいつもと変わらぬ姿で毎回参加していた。だが、今回は違った。マチルダもチャーフィーも格好こそいつも通りの制服だが、髪と顔の表面には多くの予算が投入されており、黙っていればかなり美しい貴族令嬢に見えた。特にチャーフィーは、普段は髪を上げ衛兵団のベレー帽を身に着けているが、今日は髪を下ろしベレー帽は腰のベルトに挟んでいた。
チャーフィーはマチルダが連れている人物を覗き込む。
「ヤスオ殿、すでに来ておられたか」
「チャーフィーさん、一昨日ぶりです。見違えましたね。とてもお綺麗です」
「ありがとう、嬉しい。それと、私の事は呼び捨てで構わない。それで、どうしてこのような場所におられるのだ?」
「マチルダに案内されて、ここまで。平民ですが、図々しくも食事をご一緒にしようと思いまして」
「そうでしたか、ならば私も同席しよう。ヤスオ殿にはヒューマンの位など関係ないでしょう」
チャーフィーは身体を左右にくねらせながら、かわいらしく話し周りを魅了した。だが、マチルダだけは、普段とはかけ離れた態度のチャーフィーに鳥肌を立て膠着し、放心していた。だが、同席するという言葉に我に返り、反論する。
「待て、待て。そなた、私とヤスオの邪魔をすると言うのか?」
「あら?本日の来賓に対して、そなただけの接待では物足りないでしょう。美女二人に囲まれ、両手に花の方がヤスオ殿も嬉しいのでは?」
マチルダがヤスオを城の食事に誘ったのは、自分の普段の生活を知ってもらうためと、二人きりでゆっくりと食事を堪能するためだ。だが、ここで衛兵団長に遭遇した時点で、企みの半分は失敗した。このまま黙っているような奴ではない事は、マチルダがよく知っている。露骨な邪魔をされるくらいなら同席した方がマシと考え観念した。
城の食堂は位によって座る席と注文の受付箇所が違ってくる。もちろん提供される料理の内容も違う。ヤスオは、士官席に案内され席に着くと、二人はヤスオを置いて注文に向かった。士官席に見覚えのない平民が、見た事のない美女二人を引き連れ座っているので当然周りからは、やっかみの視線が送られてくる。その中の同じ士官席で食事をしていた、文官らしき男が食事を中断してヤスオに近づいてきた。
「おい、貴様。見たところ平民のようだが、ここは貴族専用の食堂だ。ましてや、この場所は、役職付きの者しか利用できぬ。さっさと立ち去り、下男用の食堂に移動したまえ」
──えーと、この人誰?
声をかけてきた人に覚えがなく、どのくらいの地位の人か分からないので、言う通りにした方がいいのか、反発した方がいいのか判断できずにいた。結果、キョトンとして、二人が戻ってくるのを待った。
「おい。聞こえているのか?」
『おい』
文官の後ろから声が聞こえ、振り返る。そこには、睨みつける二人の美女がいた。
「おお、君達は見たところ貴族令嬢であるから、ここでの食事は問題ないよ。ただ、ここの席はダメだよ。あちらの下級席に行かなきゃぁ。そうだ、私と一緒に食事をしよう。ならばここの席でも問題ないから」
『…………』
「どうかしたかい?しかし、この城に君達みたいな美女がいるなんて知らなかったよ。そちらの女性は、格好からして騎士団所属か。肩の鎧を着けているなんて、まるでクロムウェル団長みたいだね。もう一人は、衛兵団所属だね。その腰のベレー帽はコメット団長のトレードマークだから身に着けないのは賢明だね」
「クロムウェルだ」「コメットだ」
「その声?………。えぇぇぇぇぇ。こ、これは失礼しました。いやぁぁ、見違えました。とても婚期を過ぎたお歳には見えない」
──キン。
一瞬、食堂内に金属音が響き渡る。チャーフィーは、両手を後ろにまわし、瞳を伏せてその無礼者に語りかける。
「よいか、その男は平民ではあるが本日の来賓で、お館様と面会するお方だ。ゆえに我々で接待しておる。これ以上、邪魔するなら下級席で食事をするようになるが、よろしいか」
「そ、それは大変、失礼しました」
男は慌てて席に戻ろうとするが、何かが足に絡まりバランスを崩し倒れ込み、顔面を床にぶつけた。鼻血を出しながら、その何かを確かめる。それは、自身が身に着けていたスラックス。男は自分がパンツを露出しているのに気づくと、慌てて立ち上がりスラックスを持ち上げる。だが、ベルトが締まらない。よく見るとバックルの半分がなくなっており、破片が床に転がっていた。男は食事を止め、スラックスがずれ落ちぬよう気遣いながら走って食堂から出て行った。その異様な姿に食堂内は笑いで包まれる。
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