異世界での異生活

なにがし

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105話 闘技祭での大災害

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──待て、待て、まてぇぇぇ。

 ヤスオは、まったく覚えのない罪に混乱した。確かに、マチルダの狙い通り騎士団は、やる気を出したが、肝心のヤスオがやる気を失った。

(やられたわね。マチルダの狙いは、部下達の生存率の向上かしら)

 騎士団員達は、剣を抜きヤスオに突きつけ闘技場の中央に追いやった。そして、全周を取り囲み戦闘態勢に入る。周りの観客すべてが、騎士団を応援しヤスオがバラバラに刻まれるのを期待していた。

「それでは、始め」

──ウォォォォォォ。

 マチルダの合図に反応して、騎士団全員がヤスオに襲いかかる。ヤスオの体は宙に浮き始め、手の届かぬところまで浮いた。

「ファーデロン、ミニテースタテガ」

ヤスオが聞いた事がない呪文を唱えた。騎士団は何が起こるか様子を見たが、何か起こる気配がない。何もないと安堵した瞬間、足元が大きく揺れると至る処から地面が隆起し始める。騎士達は大きな揺れにバランスを崩し、隆起した地面に足をすくわれる者や、壁に衝突する者が現れ、多くの者が地面に手をついた。

 それが収まると、大量の水が発生し、競技場内は排水が追いつかず水で溢れ、騎士達は水に呑み込まれていた。騎士達は鎧を纏っている上に泳げない。自らで文字通りの金槌を表現してしまい水の底でもがいていた。

 水が引くと強風が吹き荒れ競技場内にたくさんの竜巻が発生する。竜巻に巻き込まれた騎士達は上空へ飛ばされ地面や壁に叩きつけられている。

 多くの騎士達が倒れる中、数人の騎士が立ち上がり剣を握り構える。そんな騎士達を取り囲むように大きな火柱が上がり、襲いかかる。

──ゴロ、ゴロ、ゴロ。

 雷の鳴る音が聞こえ上空を見上げると、黒く染められた雲が渦を巻いていた。すると数多くの雷が地面に向かって落ちてくる。

「こ、これは、なんじゃ」

 闘技場内に、想定されるあらゆる自然災害が再現され、領主の顔は、青ざめ息を呑んだ。領主のみならず、貴賓室、観客席にいた者すべてが息を呑み目の前に起こっている大災害に、逃げるのを諦め、ただ早く終わって欲しいと祈った。

 すべてが終わると、闘技場中央にヤスオが立っていた。周りには所狭しと、騎士団員達が倒れている。ヤスオ以外立っている者はなく、100人いた騎士団は全滅していた。

「衛兵団、すぐに騎士団の救助にかかれ」

 チャーフィーの号令に、観客席にいた衛兵団員は我に返り、慌てて柵を乗り越え競技場内に突入していく。チャーフィーは、貴賓室から客席に飛び降り、そのまま柵を乗り越え競技場内に入り陣頭指揮を執った。

「治癒薬を急げ。誰も死なせてはならない」

 マチルダは貴賓室で涙を流していた。自分が手塩にかけて磨き上げた騎士団が、何の抵抗もできず一方的に攻撃され全滅した。まさか、こんな形で終わるとは、想定していなかった。

「ヤスオ、本当に皆殺しにしたのか?」

 涙ながらに、そう呟いた。衛兵達は、騎士達を抱き起し治癒薬を飲ませようとしていた。だが、治癒薬を飲むことなく、一人また一人と頭を左右に振りながら、立ち上がって来る。チャーフィーが部下達の報告を受け、大声を張り上げた。

「マチルダぁ。全員無事だ」

 ヤスオは攻撃前に、補助属性強化魔法2位の演舞魔法(周辺すべての人の武器・防具強化)と1位の鼓舞魔法(周辺すべての人の身体強化)を唱え、騎士達全員に強化魔法をかけて、自分自身の攻撃を防いでいた。

 ただ、地面が揺れて足をすくわれ、溺れて、空を飛んだら落下し地面に叩きつけられ、業火に巻き込まれ、雷がすぐ近くに落ちたのだ。さぞ、怖かったのであろう、全員戦意を消失していた。ただ誰1人、無様に悲鳴を上げたり、みっともなく命乞いをする者が出なかったのには感心した。

 騎士達は、ヤスオに対してその場で膝を地につけ頭を下げた。副団長がヤスオに近づき、膝を地につけ右手を胸に、頭を下げる。そして、観客席にいる者全員が、膝を地につけ頭を下げた。

「どうやら、我々はあなた様の怒りを買ってしまっていたのですね。謹んでお詫び申し上げます。なにとぞ、この罰をもって、ご勘弁願いたい」

 さすがに、これだけ見せつけられては、ヤスオがただのヒューマンではない事に気がつく。このような事ができるのは、アリアドネしか知らない。当然、神がマチルダを押し倒すはずもなく、マチルダが一計を講じた事も分かる。

「いいでしょう。今回はこれで、不問にします。ただし、勝手に百人斬りの刑を行っておきながら、上司に報告しなかった者達には、あなたが責任をもって処理をしなさい。いいですね」
「な、そのような事が。承知しました。必ず期待に応えてみせましょう」

 こうして、騎士団の一方的な敗北で、闘技祭は幕を閉じた。その後、領主と面会したが、あの大災害を見せられた後なので、これ以上ご機嫌を損なわないよう慎重に進められ、無難に終わった。もちろんヤスオの非礼に文句をいう者はおらず、逆に領主が機嫌を損なわないか周りは心配していた。領主との話が弾むたびに、臣下達は青ざめる。中には目を閉じ祈る者まで現れ、一体どの神に祈っているのかとヤスオを楽しませた。最後に、9人の救助と副団長救助、ミノ討伐の褒賞を受け取りヤスオは家路につき、臣下達を安堵させた。


 翌朝、ヤスオが出かける準備をしていると、玄関扉を叩く者がいた。扉を開けると3人が立っていた。マチルダとチャーフィー、それと、面会時、領主の横に立っていたおっさんだ。3人を家に招き入れ、お茶を差し出し用件を尋ねる。この時、マチルダの横におっさんが座り、おっさんはマチルダに睨まれ、チャーフィーから親指を立てたポーズをされていた。結果、おっさんの正面、チャーフィーの隣にヤスオが座る。

「まずは、わしから。名乗るのは初めてだな。わしは衛士長えじちょうを務める、マーク・ダ・ヴィカースだ。よろしく頼む」

 衛士えじ、そういえば、フランツがそう名乗っていた。衛士えじとは早い話、近衛騎士のようだ。ただ、守っているのが王族でないので、衛士えじと言うらしい。

「それで、その衛士長えじちょう様が何の用で、来られたのですか?」
「昨日の件で、我ら3人が務める組織がそなたに多大なる迷惑をかけたのは確かになった。お館様はその事で、えらく立腹され、我らにこの件を収めるよう特別命令を出された」
「はぁ、俺の頭の中のお姫様は昨日で、気が晴れたので気にしていないようですが」
「いや、それでもけじめとして、我が家臣が迷惑をかけた。すまなかった」
「あい分かった。そなたの家臣の無礼を不問といたそう。今後は、家臣への教育に一層の精進を期待する。…でよろしいですか?」
「かしこまりました。より一層の精進に努める所存にございます」
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