18 / 38
第二章 恋愛相談
第17話 ゾーオ討伐
しおりを挟む
「まさか、ゾーオをこんな間近で拝む日が来るなんてな……」
結界の魔法により、憑代を失って姿を現したゾーオは先程と違い、はっきりと姿を見せていた。
俺達と同じぐらいの背丈をした、ナマケモノのような見た目のゾーオだ。
そして俺達に見つかった事に気付くと、後退りしながら距離を取るように、アパートの窓枠のそばにへと、
「アイツ逃げる気にゃ! また姿を消そうとしてるにゃ!!」
そして外へと飛び出し、こちらには目もくれず一目散に逃げて行った。
「どうしよシロルちゃん、また見えなくなっちゃった!」
見えなくなった?
結界内でも姿を消せるのか、ゾーオにも色んな個性があるのな……でも。
「大丈夫だ相澤、俺には見えてる。冷静に対処するぞ!」
「本当? じゃぁノア君お願い、塵も残さないよ!!」
「おぉい、ちゃんと手加減をだな──」
物騒な事を口にした彼女から、バイパスを通し力が俺へと流れ込む。
右手の先に集中する魔力は、今までの比でない事に気づいた。
しかし、もう遅く……。
「恋する乙女の敵は、絶対に許さないんだから! アムールエクレール!!」
相澤は、魔法を唱え終えてしまった。
俺の右手から放たれた閃光は、前方の扇状、ありとあらゆる物を焼き払い、光が通過した先は灰燼に帰した。
つまるところ、
「全壊してんじゃねぇか!!」
ゾーオを含め、自然物も人口物も、目の前に存在していた物は跡形もなく消滅していた。
現実には影響が出ないとは言え、罪悪感とストレスで吐きそうだ。
「あ、あれー……?」
流石の惨状に、言葉をつまらせる相澤。
大量破壊行為を見慣れているシロルでさえも、額に手を当て「あにゃー」っと言うレベルだ。
「え、えーっと……」
当の本人も、流石にやり過ぎた自覚は持っているらしい。
人の目って、こんなにも泳ぐのな?
「えへー。そう、結界があるし! そうだ、魔法を解く前に屋上に避難しなきゃね、誰かに見られたらマズイもん」
そして結局、俺達と視線を合わせぬままヒラヒラの衣装をなびかせ、そそくさと屋上へ飛んで行く相澤。
正直最近。
っというか最初から、俺はゾーオなんかよりこの魔法少女の存在のほうが恐ろしくてならない。
しかしこれも、借金返済のための労働と割り切り、彼女の後を追うことした。
「アジール、解除」
俺とシロルの到着を確認すると、相澤は結界を解いた。
すると世界は色を取り戻し、同時に破壊された町並みも元通りの姿を見せる。
何度見ても不思議な光景であり、心底ホッとする瞬間だ。
結界ありがとう、本当にありがとう!
その後、変身を解いた相澤は身を乗り出し下を見る。
「救急車が来たみたい。ねぇシロルちゃん、カナちゃんの好きな人……大丈夫だよね?」
「うにゃ。救急車隊が早期発見出来たから大丈夫だって言ってるにゃ」
確かにそう聞こえたが、あれは救急隊のセリフだったのか。
そう言えば聞いたことがある、猫の聴力は人の八倍とか言ったっけ?
まぁ大量破壊はともあれ、結果的には良かった。
何といったって、相澤の顔を曇らせずにすんだのだから──。
「えへー、今回は本当助けられちゃった。ノアちゃんが居てくれて良かったよ」
相澤はそう言うと、夕日をバックにスカートを翻し、こちらを向いた。
そこに、前回のような悲しげな表情は見られない。
年相応な無垢な笑顔は、夕日の魔法も相まって、俺の胸に少しばかりの熱を帯びさせた。
「あぁ、役にもたってみてるさ。なんたって魔法少女の使い魔だからな」
少し格好をつけた俺を、相澤はおもむろに抱き上げる。
そして「ありがとね」っと、ジッと見つめてきた……。
「あ、あぁ。で、でも不思議だよな、なんで俺だけにゾーオが見えたんだ?」
まっすぐ向けられた感謝に、何かこそばゆくなり俺は話題をそらすように、一つの疑問を投げかけた。
「あんな、兄さん。魔法ってのは願望や希望だったり、それこそ日常生活における心理も深く関わりがあるのにゃ」
「それってどういう事なんだよ」
願望や希望?
透視能力や、よく視える目が欲しい何て思い、一度も抱いたことが無い。
っと言えば嘘にはなるが、そんなの誰しも一度ぐらい考えることあるだろ?
人並み以上に、特別意識した事なんて無いんだけど……。
「思い当たる節はあるはずにゃ、例えば常日ごろ、周囲を警戒したり、誰かに付き纏われてないか気にしたりしてにゃいか?」
「……お、おぃ、それってつまり」
前言撤回だ、心当たりしかない。
シロルは小さな翼を広げ飛び立ち、俺の耳元に、
「澪のストーキングを知って、無意識に能力を開花させたって事だにゃ」
っと答えを呟き、すれ違いざまに空へと浮かんだ。
なんとも言えない、皮肉な笑みだけを残して……。
「わ、笑えない冗談だ」
笑えない。本当に笑えない……。
俺達のナイショ話に少し首を傾げたものの、相澤は気にした様子もなく「本当ありがとうね」っと、俺を抱きしめ頬ずりを始めた。
危機感を感じた俺は、彼女の手を振りほどこうと暴れるものの、なすがままに撫でくりまわされる。
そしてシロルは、そんな俺を置き去りに「まったく、不憫なオスだにゃ」っと一言残し、何処か遠くの空へと消えていった。
結界の魔法により、憑代を失って姿を現したゾーオは先程と違い、はっきりと姿を見せていた。
俺達と同じぐらいの背丈をした、ナマケモノのような見た目のゾーオだ。
そして俺達に見つかった事に気付くと、後退りしながら距離を取るように、アパートの窓枠のそばにへと、
「アイツ逃げる気にゃ! また姿を消そうとしてるにゃ!!」
そして外へと飛び出し、こちらには目もくれず一目散に逃げて行った。
「どうしよシロルちゃん、また見えなくなっちゃった!」
見えなくなった?
結界内でも姿を消せるのか、ゾーオにも色んな個性があるのな……でも。
「大丈夫だ相澤、俺には見えてる。冷静に対処するぞ!」
「本当? じゃぁノア君お願い、塵も残さないよ!!」
「おぉい、ちゃんと手加減をだな──」
物騒な事を口にした彼女から、バイパスを通し力が俺へと流れ込む。
右手の先に集中する魔力は、今までの比でない事に気づいた。
しかし、もう遅く……。
「恋する乙女の敵は、絶対に許さないんだから! アムールエクレール!!」
相澤は、魔法を唱え終えてしまった。
俺の右手から放たれた閃光は、前方の扇状、ありとあらゆる物を焼き払い、光が通過した先は灰燼に帰した。
つまるところ、
「全壊してんじゃねぇか!!」
ゾーオを含め、自然物も人口物も、目の前に存在していた物は跡形もなく消滅していた。
現実には影響が出ないとは言え、罪悪感とストレスで吐きそうだ。
「あ、あれー……?」
流石の惨状に、言葉をつまらせる相澤。
大量破壊行為を見慣れているシロルでさえも、額に手を当て「あにゃー」っと言うレベルだ。
「え、えーっと……」
当の本人も、流石にやり過ぎた自覚は持っているらしい。
人の目って、こんなにも泳ぐのな?
「えへー。そう、結界があるし! そうだ、魔法を解く前に屋上に避難しなきゃね、誰かに見られたらマズイもん」
そして結局、俺達と視線を合わせぬままヒラヒラの衣装をなびかせ、そそくさと屋上へ飛んで行く相澤。
正直最近。
っというか最初から、俺はゾーオなんかよりこの魔法少女の存在のほうが恐ろしくてならない。
しかしこれも、借金返済のための労働と割り切り、彼女の後を追うことした。
「アジール、解除」
俺とシロルの到着を確認すると、相澤は結界を解いた。
すると世界は色を取り戻し、同時に破壊された町並みも元通りの姿を見せる。
何度見ても不思議な光景であり、心底ホッとする瞬間だ。
結界ありがとう、本当にありがとう!
その後、変身を解いた相澤は身を乗り出し下を見る。
「救急車が来たみたい。ねぇシロルちゃん、カナちゃんの好きな人……大丈夫だよね?」
「うにゃ。救急車隊が早期発見出来たから大丈夫だって言ってるにゃ」
確かにそう聞こえたが、あれは救急隊のセリフだったのか。
そう言えば聞いたことがある、猫の聴力は人の八倍とか言ったっけ?
まぁ大量破壊はともあれ、結果的には良かった。
何といったって、相澤の顔を曇らせずにすんだのだから──。
「えへー、今回は本当助けられちゃった。ノアちゃんが居てくれて良かったよ」
相澤はそう言うと、夕日をバックにスカートを翻し、こちらを向いた。
そこに、前回のような悲しげな表情は見られない。
年相応な無垢な笑顔は、夕日の魔法も相まって、俺の胸に少しばかりの熱を帯びさせた。
「あぁ、役にもたってみてるさ。なんたって魔法少女の使い魔だからな」
少し格好をつけた俺を、相澤はおもむろに抱き上げる。
そして「ありがとね」っと、ジッと見つめてきた……。
「あ、あぁ。で、でも不思議だよな、なんで俺だけにゾーオが見えたんだ?」
まっすぐ向けられた感謝に、何かこそばゆくなり俺は話題をそらすように、一つの疑問を投げかけた。
「あんな、兄さん。魔法ってのは願望や希望だったり、それこそ日常生活における心理も深く関わりがあるのにゃ」
「それってどういう事なんだよ」
願望や希望?
透視能力や、よく視える目が欲しい何て思い、一度も抱いたことが無い。
っと言えば嘘にはなるが、そんなの誰しも一度ぐらい考えることあるだろ?
人並み以上に、特別意識した事なんて無いんだけど……。
「思い当たる節はあるはずにゃ、例えば常日ごろ、周囲を警戒したり、誰かに付き纏われてないか気にしたりしてにゃいか?」
「……お、おぃ、それってつまり」
前言撤回だ、心当たりしかない。
シロルは小さな翼を広げ飛び立ち、俺の耳元に、
「澪のストーキングを知って、無意識に能力を開花させたって事だにゃ」
っと答えを呟き、すれ違いざまに空へと浮かんだ。
なんとも言えない、皮肉な笑みだけを残して……。
「わ、笑えない冗談だ」
笑えない。本当に笑えない……。
俺達のナイショ話に少し首を傾げたものの、相澤は気にした様子もなく「本当ありがとうね」っと、俺を抱きしめ頬ずりを始めた。
危機感を感じた俺は、彼女の手を振りほどこうと暴れるものの、なすがままに撫でくりまわされる。
そしてシロルは、そんな俺を置き去りに「まったく、不憫なオスだにゃ」っと一言残し、何処か遠くの空へと消えていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる