異世界に降り立った刀匠の孫─真打─

リゥル

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第一章 グローリア大陸編

第47話 世界初の漫画本?

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 俺達は、ティアとの約束を果たすためフィーデスの街に到着してすぐに、彼女の勤めているギルドへと向かった。

「お帰りなさいませフォルトゥナ様! 私とても……とても心配しておりました! 無事で何よりです」

 カウンターから上半身を乗り出し、両手でトゥナの手を握るティア。

 俺も居るんだけど、完全に蚊帳かやの外だな……トゥナしか見えていない。
 ここまでくると常軌じょうきいっしている気がするけど……。

「ありがとうティアさん、心配を掛けてごめんなさい……。そうだ! 早速なんだけど素材の買い取りをお願いしたいのだけど」

 手を離し、席に着きなおしたティアが「はい、かしこまりました」と、満面の笑みを向け、トゥナと素材のやり取りを始めた。

 まぁ、こちらは任せておいても問題ないか? むしろ俺に、やれる事がない!

 それにしても、このギルドに来る度に、周りがこちらを見てヒソヒソと何やら話してるのが気になる……。
 前の食事会からだよな? 特に女性が多い気がする……気になって仕方ない。

「トゥナ、そっちは任せていいか? 俺はちょっと外に出るから」

「良いわよ。買い取りと、打ち合わせが終わったら教会に行くから、先にいってて」

 俺は片手をあげて「任せた!」っとハーモニーが待っている馬車へ、逃げるように向かった。

 ギルドを出るとすぐそばで、小さな体で精一杯、背伸びをしながら馬車馬の毛繕いをして待っている、ハーモニーの姿があった。

「あれ? ずいぶんと早かったんですね~?」

「何て言うか、中に居づらくてな?」

 どうやら、トゥナやティアは気づいていないようだけど、周りの視線に敏感なのは、協調性を重んじる日本人特有の感性かもしれないな……。

『違うカナ。それは、カナデがビビりで挙動不審なだけカナ? 環境のせいじゃ無いモン』

 と、ツッコミを入れるミコ。──こいつ……的確に痛いところを突いてくるな? 今回は、どんなお仕置きをしてやろうか……。

 何気なく目の前の小さな大人のレディーをみて。──あ! そうだと、視線調査の打開策を閃いた。

「ハーモニー。一つ、頼みがあるんだけど?」

「え~……カナデさんのお願い事ですか? 少しだけ考えさせてください~」と、考える素振りを始めた。

 まぁ、嫌なら無理に頼むほどの事でもないんだけど……。あの視線が、どうにも気になるんだよな?
 俺の勘が告げてるんだよ。これはきっと、何かある! って……。

 そんな俺の顔を見てか「冗談ですよ、最近子供扱いするから困らせたかったのです~」とハーモニーは満面の笑みだ。

「では、用件を教えてください。私に協力出来ることがあれば喜んで~」

 今回は、彼女の好意に甘えさせてもらおう。
 自分の事だけならほかっておくが、トゥナやティアが、何かの事件に巻き込まれてるかもしれないしな?

 俺はお願いの内容を伝え「よろしく頼んだよ」と、またハーモニーの頭を撫でてやった。

 嫌がりながらも目を細め、気持ち良さそうに撫でられるハーモニーを見ると、ついからかいたくなるんだよな……。

「も~う~!」

 口を尖らせながらもギルドに入っていくハーモニー。──なんだかんだ律儀に動いてくれるんだよな? 可愛いやつめ。

 さて、ハーモニーに頼んだお願い事も、時間はかかるだろう。その間何をしてようか?

 ──しかし、時間がかかると思いきや、ハーモニーは物の数分でギルドから、何故か慌てるように出てきたのだ。

「どうだった? 何か情報はつかめたか?」

 俺が彼女に頼んだのは、あまり顔の割れてなさそうなハーモニーによる、他の冒険者、職員への聞き取り調査だ。──この愛らしい外見だ、知っていれば断ることも出来まい……。

「え~っとですね~……何ていったらいいのでしょうか~?」

 俺と目を合わさず、明らかに挙動不審なハーモニー。──まさか、さっき頭を撫でて怒ったのか?

 そんな彼女をよく見ると、何やら先ほどは持っていなかった、一冊の本を背中に隠し持っているようだ。

「なんだ? バッチリ情報手にいれてきてるじゃないか」

 俺は彼女の手からソレを引き抜き、奪い取った。

 ハーモニーの「あっ!」っと言う声と共に、俺はその本のページをめくったのだった──。

「──な、何だよこれ……」

 なんと──そこに描かれていたのは、トゥナとティア、そして俺の、三角関係を描いた十八禁ものの同人誌だったのだ!
 しかも、ご丁寧にも羊皮紙ではなく、紙を使った一品だ。

「トゥナリア王子とティアーラ姫の恋、その最中、略奪愛を企むカナデ王子。物語はクライマックスへと迫っていく……。三人の恋の行く末は。って、何だこりゃ!」

 っていうか、何で俺だけそのまんまの名前なんだよ! 悪意しか感じないぞ!
 しかもよくよく見ると、カナデ王子が狙ってるのって、トゥナリア王子って書いてあるぞ! 何だこれ……BL本じゃねぇか!

 目の前には、俺を見て何やらモジモジするハーモニー……。──な、なんだよ……その視線は。

「あ、あの~大変お聞きしにくいのですが……御三方は、そう言ったご関係で~?」

 と、目の前のハーモニーも、ギルド内の冒険者と同じ様な視線を俺に向けてきた。

「いやいや、これフィクションだよ! 想像の産物だから! だいたいトゥナも女の子だろ!」

「そ、そうですよね……スミマセン。こう言うの初めて見たもので~……」

 気まずそうな顔をしながら顔を背けるハーモニー。──情報収集を頼んだのはオレだけどさ? こんなチビッ子に、こんな過激な内容の本を渡すって……何考えてるんだよ? 倫理観の違いか? そうなのか?

 しかし、彼女が動揺する気持ちは分かるな。そうだよな? 異世界に同人誌なんて普通無いもんな……。
 そもそも、事実を描かれない、漫画のような空想で描かれた本ってあるのか? あっても、聖書のような正典せいてんぐらいか?

 ──じゃぁ何か? これを見た一部の人は、これが事実だと勘違いする事もあると言うことか!?
 こ、これは不味いぞ? くそぉ~! 犯人が見つかり次第抗議してやる! なんで俺だけ本名なんだよ! もっと魅力的に描け! って……。

 ──冗談はさておき……。

 しかし、犯人を見つける手だてもない。
 ひとまず今は、俺のイメージ低下以外の害は無い……か? 
 この件は保留にしよう。この手の情報は一人じゃ捌ききれない! 俺の手に余る。
 頃合いを見てティアに相談しようか……。当事者だしな?

 トゥナに教えるのは……。ダメだ! 彼女にこの世界はまだ早い!
 今はやる事もあるし、まずそちらを優先しよう。

 先程の俺の説得に、若干半信半疑な雰囲気をかもし出しているハーモニーと共に、この後二人で教会に向かったのであった。
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