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第12話 境界線の日常
しおりを挟む1. 教室の静寂
水泳県総体から二日が過ぎた。
3年6組、進学コースの教室。窓際の席に座る涼賀は、教科書を広げながらも、視線はグラウンドの向こう側へと向いている。
同じクラスの沙玖が、教室へ入ってきた。
「おはよう、涼賀。今日から練習再開?」
「……いや、今日はまだだ。顧問に『体を戻せ』って言われてる」
そこへ、同じくクラスメイトの大夢も合流する。二人のやり取りを背中で聞きながら、涼賀は何も言わずにペンを回した。
一方、廊下を挟んだ隣の7組。そこには拓海の姿があった。
同じ特進コースだが、クラスは別。拓海は自席で静かに過ごし、水泳で酷使した肩の筋肉をほぐしていた。
二人は、廊下ですれ違っても目を合わせることはない。校舎の中でその存在を感じ取ってはいるが、言葉を交わすどころか、近づくことすらしない。互いに県総体の結果を知り、その凄さを誰よりも理解している。だからこそ、今さら過去のような会話など必要ないことを、肌で感じていた。
2. 昼休みの売店
昼休み。3年生のフロアにある売店は、空腹を抱えた生徒たちでごった返していた。
「……パン、何とか確保できたよ」
沙玖が、涼賀と大夢の分のパンも抱えて人混みから戻ってくる。涼賀は受け取ったパンを無造作に齧り、窓の外を眺めた。
ふと視線を落とすと、売店から離れた廊下の隅で、一人でカロリーメイトを口にしている拓海の背中が見えた。涼賀はその姿を確認しても、声をかける素振りも見せず、すぐに視線を逸らした。
同じコースで学びながらも、競技の場を離れれば、徹底して干渉しない。それが彼らの心地よい距離感だった。
3. 異なる階のマネージャー
放課後。職員会議のため、全生徒たちが一斉に下校を始める。
一般コースの教室がある別の階から、マネージャーの萌歌が駆け下りてきた。
「みんな! もしかして駅まで一緒に帰る?」
萌歌が涼賀、沙玖、大夢の三人を捕まえる。コースもクラスも違う萌歌にとって、下校時のこの時間が幼馴染や友達と会える唯一の時間だ。
「ああ。駅まで沙玖たちと帰るよ」
涼賀が答える。
その時、少し離れた別の昇降口から、拓海が一人で校門へと向かっていくのが見えた。拓海は涼賀たちの存在に気づいているはずだが、振り返ることも、足を止めることもない。涼賀もまた、その背中を追うことはしなかった。
4. 帰り道:重ならない影
駅へ向かう道すがら、涼賀、沙玖、大夢、萌歌の四人が並んで歩く。そして、電車通学の萌歌と沙玖は駅へ向かい、自転車通学の大夢と涼賀は住宅街へクロスバイクを走らせる。
拓海は、1人で住宅街をクロスバイクで駆け抜けていた。一緒に行動することはないが、その歩調は不思議と重なっているように見えた。
「拓海、いつも1人で帰ってんのか……」
大夢が少し寂しそうに呟くが、涼賀は静かに首を振った。
「それでいいんだよ。今はそれぞれが、自分の内側にある熱と向き合う時期だからね」
「……でもあいつ、もう次のこと考えてる顔してたな」
大夢がボソリと独り言のように漏らす。
夕日に照らされた彼らの影は、決して交わることなく、それぞれの目的地へと伸びていく。
競技という極限の世界から戻ってもなお、二人の間には高い壁のような「静寂」があった。だがその壁の向こう側で、互いが同じ高みを目指していることだけは、誰に教わらなくても確信していた。
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