前世:"武士"な男は悪役令息に忠誠を誓う

サミカルキ

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1,目覚め

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「家康様からの御命令ゆえ、お許し下さい。」

その日、関ヶ原の戦いを乗り切ったぞ!とうっきうきだった私は家臣に裏切られ儚く散った。




…はずだったのだが。




あれだけ熱くて仕方なかった腹の熱が引くと共に目が覚める。

「これは、一体…?」

私は死んだはずでは無かったのか…?

いや待て、私はこれを知っている、知っているぞ。

死んだと思った次の瞬間には幼子となって見知らぬ場所で目覚めているこの現象。

私はこれが一度目ではない。

…ならば私は、また転生してしまったのだろうか。

そう考えた瞬間、胃の腑が凍った。




私の一度目の人生はなんてことも無い、平成から令和を生きた日本の大学生だった。

だがある日の帰り道、通り魔に腹を刺されてしまう。あまりの激痛に、ああ、自分は死ぬのだと察し、大して未練もない現世に別れを告げて目を閉じた。

そして次に目が覚めたとき、私は齢三歳頃の幼子になっていた。

茫然とする私を傍らの女性が涙目で抱きしめる。

その女性は打掛姿のTHE古のお姫様だった。

それもその筈。私が二度目に生まれた世はまさに安土桃山時代。織田信長や豊臣秀吉、徳川家康がバリバリ現役の時代である。

そう、何故か私は過去に生まれ直していたのである。

それも武家の跡取り息子として。

そこからはもう大変だった。元未来人とは言え、日本史なぞ空っきしだった私は、取り敢えず織田→豊臣→徳川の順にくっついとこう!と頑張ったのだ。

本当に、本当に頑張ったのだが。

そもそも私の家は織田の配下だったため、織田→豊臣までは良かったものの、最後の最後で徳川家康に殺された。

関ヶ原の戦い以前から早々に豊臣派閥を裏切り、必死に徳川家に尽くしたというのに、だ。

「天下は貴方様のものです。」が一時期私の口癖になるくらいにはヨイショしてたのに。

あの狸爺、結局私を殺しやがって。きっと私の次には私の一族も皆殺しにしているのだろう。執念深い狸爺はこれだから。

私は徳川の下につくには些か豊臣に近すぎたのだろう。

家康の中で私は石川氏同様ブラックリスト入りの人物だった訳だ。

まあ、でもこれで良かったなとは思う。
これからの世が平和になったとして、その平穏を享受しながら生きながらえるには私は人を殺め過ぎた。

こんな私がのどかな日常など送ってみろ、枕元に今まで殺してきた奴らが化けて出るに違いない。

私はあまり心霊系が得意ではないからそれはちょっと遠慮したかった。

そんなこんなで家臣に背後からブスッと殺られ散ったわけだが。

私はまたしても幼い体で目覚めた。

これを絶望と言わずしてなんと言おう。

正直、私は前の世でトラウマ量産されすぎて転生はもうこれきりが良いと毎晩願っていたのだ。

ちなみに前世が余りにも濃くて私の前前世で形成された人格は前世の人格に殆ど呑み込まれてしまっている。

もう、転生など懲り懲りなのである。

それなのにこの仕打ち。

神よ、私は何かとんでもない悪行をしてしまったのだろうか。

そりゃあ前世では両手に足らぬ数の人を殺めてしまいましたが、それは戦乱の世に武家の長男として私を生まれ直させた貴方が悪いのでは?

前前世の私なんてそれこそなんにもやっていなかったと思うが。

本当にぼやっと生きていた。あの頃に戻りたい。

暫くそんなことを取り留めもなく考えて、やがてまた前の様に諦める。

どうせ祈ったところでこの現状は何も変わりはしないのだから、と。

さて、そうとなれば現状把握に努めねば。

今の私は三歳位の幼児で豪奢なベッドに寝かされていた。

洋風の部屋も随分と広く豪華なもので、今世の私の両親は相当金持ちのようだ。

ふむ、取り敢えず貧窮してご飯が食べられないということは無さそうだ。良かった。

前回も武家の息子だったしそういうところの運は良いみたいだ。前々回だって大学まで行かせてもらえていたし。

次は容姿確認だな。姿見は…ああ、あったあった。

これまた金ピカな装飾を施された姿見の前へとベッドを降りてテチテチ進む。

そこに写っていたのは、前前世、前世と同様の顔立ちをした黒髪黒目の幼子だった。

予想通りの容姿に安堵と共に少しのつまらなさを覚える。

前回も今回も一度目の生と全く同じ顔だったからこそ憑依や成り代わりなどではなく、自分の転生体なのだと確信できたが故に、余計な気苦労は無かったものの、こうも毎回同じだと少し飽きる。

まあ自分の顔に飽きるもクソもないのだが。

それに、この顔は表情筋が固くて不便なのだ。一度目の私がボサッとしていたせいで前回も今回も滅多に表情が動かない。

無表情というのはそれだけで怖がられやすいからな。この顔のせいで、戦国の世でも他の家臣の様に上手くゴマをすることが出来ずに苦労した。

…よし、今世は表情筋マッサージを日課にしよう。

姿見の前でもにもにと頬を摘んでいると、部屋の扉が叩かれ、メイドの声がする。

「坊ちゃま、アデル様がお見えです。」
「どうぞ。」

段々と定着してきた今世の記憶によると"アデル様"とは私の母上らしい。

"アデル様"と聞いて反射的に頬が緩む(当社比)。今世の私は母上がとても好きなようだ。

母子関係が良好そうで何より。

メイドが丁寧な動作で空けた扉から、それはもう綺麗な人がこちらに駆け寄ってくる。

「キキョウちゃん!」
「母上。」
「身体はもう大丈夫なの?」
「ええ、何ともありません。ご心配をおかけしました。」
「ああ、良かった!でもまだ寝てなきゃ駄目よ、また倒れてしまったら大変もの。」
「はい、母上。」

先程まで心配そうにオロオロしていた母上は私の返事を聞くと安堵したように眉を下げる。

が、次の瞬間にはベッドを抜け出していた息子を咎めんとキリリと眉毛を釣り上げる。

残念ながらこの人は雰囲気からしてほわほわしているため、眉を釣り上げたくらいでは全く威厳も怖さも感じられない。

「ご飯はもう食べられるかしら?」
「はい。」
「じゃあ消化に良いものを持ってきてもらいましょうね!」
「はい。」

こうして母上に言われるがまま食事を終わらせ、子守唄で寝かし付けられてしまう。

母上の子守唄が凄いのか幼子の睡眠欲が凄いのか、寝たふりをする気満々だった私はものの数秒であっけなく眠気に敗北してしまうのであった。

(まだ今世の事についてなにも分かっていないが、まあ次起きる頃には記憶も定着しているだろうし、ソレを頼ればいいか。)
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