1 / 1
1,目覚め
しおりを挟む「家康様からの御命令ゆえ、お許し下さい。」
その日、関ヶ原の戦いを乗り切ったぞ!とうっきうきだった私は家臣に裏切られ儚く散った。
…はずだったのだが。
あれだけ熱くて仕方なかった腹の熱が引くと共に目が覚める。
「これは、一体…?」
私は死んだはずでは無かったのか…?
いや待て、私はこれを知っている、知っているぞ。
死んだと思った次の瞬間には幼子となって見知らぬ場所で目覚めているこの現象。
私はこれが一度目ではない。
…ならば私は、また転生してしまったのだろうか。
そう考えた瞬間、胃の腑が凍った。
私の一度目の人生はなんてことも無い、平成から令和を生きた日本の大学生だった。
だがある日の帰り道、通り魔に腹を刺されてしまう。あまりの激痛に、ああ、自分は死ぬのだと察し、大して未練もない現世に別れを告げて目を閉じた。
そして次に目が覚めたとき、私は齢三歳頃の幼子になっていた。
茫然とする私を傍らの女性が涙目で抱きしめる。
その女性は打掛姿のTHE古のお姫様だった。
それもその筈。私が二度目に生まれた世はまさに安土桃山時代。織田信長や豊臣秀吉、徳川家康がバリバリ現役の時代である。
そう、何故か私は過去に生まれ直していたのである。
それも武家の跡取り息子として。
そこからはもう大変だった。元未来人とは言え、日本史なぞ空っきしだった私は、取り敢えず織田→豊臣→徳川の順にくっついとこう!と頑張ったのだ。
本当に、本当に頑張ったのだが。
そもそも私の家は織田の配下だったため、織田→豊臣までは良かったものの、最後の最後で徳川家康に殺された。
関ヶ原の戦い以前から早々に豊臣派閥を裏切り、必死に徳川家に尽くしたというのに、だ。
「天下は貴方様のものです。」が一時期私の口癖になるくらいにはヨイショしてたのに。
あの狸爺、結局私を殺しやがって。きっと私の次には私の一族も皆殺しにしているのだろう。執念深い狸爺はこれだから。
私は徳川の下につくには些か豊臣に近すぎたのだろう。
家康の中で私は石川氏同様ブラックリスト入りの人物だった訳だ。
まあ、でもこれで良かったなとは思う。
これからの世が平和になったとして、その平穏を享受しながら生きながらえるには私は人を殺め過ぎた。
こんな私がのどかな日常など送ってみろ、枕元に今まで殺してきた奴らが化けて出るに違いない。
私はあまり心霊系が得意ではないからそれはちょっと遠慮したかった。
そんなこんなで家臣に背後からブスッと殺られ散ったわけだが。
私はまたしても幼い体で目覚めた。
これを絶望と言わずしてなんと言おう。
正直、私は前の世でトラウマ量産されすぎて転生はもうこれきりが良いと毎晩願っていたのだ。
ちなみに前世が余りにも濃くて私の前前世で形成された人格は前世の人格に殆ど呑み込まれてしまっている。
もう、転生など懲り懲りなのである。
それなのにこの仕打ち。
神よ、私は何かとんでもない悪行をしてしまったのだろうか。
そりゃあ前世では両手に足らぬ数の人を殺めてしまいましたが、それは戦乱の世に武家の長男として私を生まれ直させた貴方が悪いのでは?
前前世の私なんてそれこそなんにもやっていなかったと思うが。
本当にぼやっと生きていた。あの頃に戻りたい。
暫くそんなことを取り留めもなく考えて、やがてまた前の様に諦める。
どうせ祈ったところでこの現状は何も変わりはしないのだから、と。
さて、そうとなれば現状把握に努めねば。
今の私は三歳位の幼児で豪奢なベッドに寝かされていた。
洋風の部屋も随分と広く豪華なもので、今世の私の両親は相当金持ちのようだ。
ふむ、取り敢えず貧窮してご飯が食べられないということは無さそうだ。良かった。
前回も武家の息子だったしそういうところの運は良いみたいだ。前々回だって大学まで行かせてもらえていたし。
次は容姿確認だな。姿見は…ああ、あったあった。
これまた金ピカな装飾を施された姿見の前へとベッドを降りてテチテチ進む。
そこに写っていたのは、前前世、前世と同様の顔立ちをした黒髪黒目の幼子だった。
予想通りの容姿に安堵と共に少しのつまらなさを覚える。
前回も今回も一度目の生と全く同じ顔だったからこそ憑依や成り代わりなどではなく、自分の転生体なのだと確信できたが故に、余計な気苦労は無かったものの、こうも毎回同じだと少し飽きる。
まあ自分の顔に飽きるもクソもないのだが。
それに、この顔は表情筋が固くて不便なのだ。一度目の私がボサッとしていたせいで前回も今回も滅多に表情が動かない。
無表情というのはそれだけで怖がられやすいからな。この顔のせいで、戦国の世でも他の家臣の様に上手くゴマをすることが出来ずに苦労した。
…よし、今世は表情筋マッサージを日課にしよう。
姿見の前でもにもにと頬を摘んでいると、部屋の扉が叩かれ、メイドの声がする。
「坊ちゃま、アデル様がお見えです。」
「どうぞ。」
段々と定着してきた今世の記憶によると"アデル様"とは私の母上らしい。
"アデル様"と聞いて反射的に頬が緩む(当社比)。今世の私は母上がとても好きなようだ。
母子関係が良好そうで何より。
メイドが丁寧な動作で空けた扉から、それはもう綺麗な人がこちらに駆け寄ってくる。
「キキョウちゃん!」
「母上。」
「身体はもう大丈夫なの?」
「ええ、何ともありません。ご心配をおかけしました。」
「ああ、良かった!でもまだ寝てなきゃ駄目よ、また倒れてしまったら大変もの。」
「はい、母上。」
先程まで心配そうにオロオロしていた母上は私の返事を聞くと安堵したように眉を下げる。
が、次の瞬間にはベッドを抜け出していた息子を咎めんとキリリと眉毛を釣り上げる。
残念ながらこの人は雰囲気からしてほわほわしているため、眉を釣り上げたくらいでは全く威厳も怖さも感じられない。
「ご飯はもう食べられるかしら?」
「はい。」
「じゃあ消化に良いものを持ってきてもらいましょうね!」
「はい。」
こうして母上に言われるがまま食事を終わらせ、子守唄で寝かし付けられてしまう。
母上の子守唄が凄いのか幼子の睡眠欲が凄いのか、寝たふりをする気満々だった私はものの数秒であっけなく眠気に敗北してしまうのであった。
(まだ今世の事についてなにも分かっていないが、まあ次起きる頃には記憶も定着しているだろうし、ソレを頼ればいいか。)
1
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
英雄の溺愛と執着
AzureHaru
BL
転生した世界は前世でどハマりしたBLゲーム。最推しは攻略対象!ではなく、攻略対象達の剣術の師匠である、英雄の将軍閣下。メチャクチャイケオジでドストライクだった主人公はこのイケオジみたさにゲームをやっていた。その為に、ゲームの内容など微塵も覚えていなかった。
転生したからには将軍閣下を生でみないとというファン根性で付きまとう。
付き纏われていることに気づいていた将軍だか、自分に向けられる視線が他とは違う純粋な好意しかなかったため、戸惑いながらも心地よく感じていた。
あの時までは‥。
主人公は気づいていなかったが、自分達にかけらも興味を持たないことに攻略対象者達は興味をそそられ、次第に執着していく。そのことにいち早く気づいたのは剣術指南役の将軍のみ。将軍はその光景をみて、自分の中に徐々に独占欲が芽生えていくのを感じた。
そして戸惑う、自分と主人公は親子ほどに歳が離れているのにこの感情はなんなのだと。
そして、将軍が自分の気持ちを認めた時、壮絶な溺愛、執着がはじまる。
従者は知らない間に外堀を埋められていた
SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL
転生先は悪役令息の従者でした
でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません
だから知らんけど精神で人生歩みます
BLゲームの悪役に転生したら攻略対象者が全員ヒロインに洗脳されてた
さ
BL
主人公のレオンは、幼少期に前世の記憶を思い出し、この世界がBLゲームで、自身は断罪される悪役だと気づく。
断罪を回避するため、極力攻略対象者たちと関わらないように生きてきた。
ーーそれなのに。
婚約者に婚約は破棄され、
気づけば断罪寸前の立場に。
しかも理由もわからないまま、
何もしていないはずの攻略対象者達に嫌悪を向けられてーー。
※最終的にハッピーエンド
※愛され悪役令息
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
過去のやらかしと野営飯
琉斗六
BL
◎あらすじ
かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。
「一級になったら、また一緒に冒険しような」
──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。
美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。
それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。
昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。
「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」
寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、
執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー!
◎その他
この物語は、複数のサイトに投稿されています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる