上 下
5 / 11

第4話 恋をすることは

しおりを挟む
「それでね、彼はとてもクールなの。どこと無く陰りがあると言うかーーミステリアスでーーでも優しいところもあるのよ。今朝も私を助けてくれた」
「ダリアが好きになる殿方ってどんな人だろうと思っていたけれど、意外なタイプね」
「健康的な人じゃない感じはするけど。でも悪い人じゃないわ」
放課後。ダリアは友人のカトレア・チャコールと、学園近くのアイスパーラーで買ったアイスを食べながらお話ししていた。

カトレアは初等部からアルカディア学園に所属しており、所作はダリアよりずっとお嬢様らしい。
ふわふわとした肩までくらいのクリーム色の巻き毛に、花びらのような透明感のある白い肌の儚げな少女。ポケーとしているおっとりさんだ。
初等部は初等部同士で固まる傾向があるが、カトレアは中等部から入学したダリアとも、分け隔てなく仲良くしてくれる。
「でも、出会って1日でそんなに惹かれるなんてこと、あるのね」
「まだ本当に好きになったのか、わからないけど……でも、あの人は他の人とは違う気がする」
ダリアはレモン味のアイスをすくって口に入れ、酸っぱくて口をすぼめた。
「明日の飛行訓練、EクラスとうちのFクラス合同だものね。見てみたい」
「来てくれるかしら。まだお話したいこと、たくさんあるものーーっと、カトレア、早く食べないと溶けてしまうわ!」
ぼうっと通りすがる人々や馬車を見ていたカトレアのアイスはドロドロに溶けている。今日はとても天気がよく空も青かった。
急いでアイスをすくうカトレアを見て、ダリアはクスリと笑う。

「ねえ、カトレアは誰か好きな人とかいないの?」
「いないわ。それに私、最近縁談の話があるし恋愛できないと思うの」
「え!! 結婚するの!?」
ダリアが立ち上がって驚くと、カトレアは首を横にふり、座るように促す。
「早とちりーー。それに結婚じゃなくて婚約よ。別に珍しい話じゃないでしょう? 隣のクラスのリコリスだって、今度婚約するかも、だなんて言っているし」
「それはーーそうかもしれないけど。私は婚約なんてしたくないわ……。自由に恋愛したい」
テーブルに頬杖をついて、ダリアは憂鬱になる。ダリアの家庭は貧乏のため、裕福な家庭に嫁いで欲しいと両親も思っている。そのため、爵位を上げるようないい縁談があったら絶対に勧めてくるに違いない。
そして両親のことを思うと、それを断ることもできないように思うのが、怖かった。
「でも爵位とかなんだか、心底くだらないと思うわ。アルカディアもそうだと思うけど、爵位でクラスわけだなんて差別よ」


アルカディアでは、爵位ごとにクラスが分けられ、クラスごとに授業の内容が違う。Aクラスの公爵からGクラスの男爵までといった風に。
公爵や伯爵といった上流貴族の家庭では当然のように施される教育も、男爵や子爵家できちんと施されているとは限らないことがあり、入学時点での学力差や教養の差はかなり大きいのは事実ではある。
「確かに入りたての頃は色々と覚えなきゃならないから爵位ごとにクラスを分けるのはいいけど、ある程度覚えてきたら混ぜてしまえばいいのに。実際、高学年になると作法とか身の処し方ではなくって実用的な技術や学問を中心に学ぶのだし、それは爵位なんて関係ないわ」
「でも、伯爵や公爵達の中には男爵や子爵と一緒に学ぶのを嫌がる人達もいるものね」
「封建的なのよ、みんな。別にいいじゃない、身分なんかに縛られなくたって……でも、シアンは身分とかは気にしていないのよ。革新的だわ」
「恋は盲目……」
ダリアはカラッと晴れた空を見上げて、ほうっと息をついた。
しおりを挟む

処理中です...