[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

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赤りんご青りんご事件~名前のない色

十四章『マーク・ロスコ――赤』

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「わからずやはそっちだよ。才能があるのに、どうして生かさないの?」
二人の心がぶつかって、二つの炎が美術室を満たした。それは絵の具よりも夕焼けよりも鮮やかだった。

「どうして――ありのままの千里を恐れるの?」

百瀬先輩の手を振り払う天目先輩。髪を乱したまま言葉を続けた。

「私、千里ちゃんの絵が本当に好きで」

天目先輩は、足を引き摺るように百瀬先輩に一歩近づいた。

「そんなすごい子が清心館に入学するって聞いて、ずっと楽しみにしてたの」

「でも千里ちゃんは、私の絵が好きだって。描いてみたいって。私の絵なんて、ただ見たままを描いているだけで、芸術なんかじゃないのに」

声が微かに震えた。天井のライトが黒髪に吸い込まれるようだった。

「そう言ったのに、強くお願いされて……」

「それで私が色を選んであげていたんです。千里ちゃんはわがままだよ――」

髪を振り乱しながらの声は、か細かった、けれど、室内に響き渡った。

「私は私にできることを、それだけを一生懸命やってきた。少しでも、そこに才能があると信じなければ、続けることはできなかったよ」

天目先輩は一瞬の息継ぎをして、また一歩近づいた。

「千里ちゃんが、私をここまで引っ張り上げてくれたのよ。なのにどうして、生まれ持ったその力を、捨てようっていうの」

声はもう震えていなかった。
目の前の百瀬先輩を、まっすぐ見据えている。

百瀬先輩の目と髪が、その言葉に炎のように揺らめいた。

「わがまま?わがままって何?みんなと違う世界が見えるって――」

「そんなにいいものだと思う?」

イーゼルを払いのけた。
ぶつかり合う音が、絵の具が散乱するように静寂を色で染めた。

百瀬先輩の怒りが、形になったような響きだった。

「天才が、本当に天才でありたかったのか……そう考えたことはある?」

怒りと悲しみが混ざり合った声だった。

「ゴッホの再来なんて言われて、喜んだこともあった……でも!」
「今は……絶対に言われたくない!」
「私は!百瀬千里なんだから!」

声が、怒りとなってガラスの上を波打った。

「私は、普通の人より恵まれているのかもしれない」

「そう言われることもある」

「でも私には決して手に入らないものがある」

絞り出す声。

「それはみんなが当たり前に持っている『普通』」

「それが『才能』そのものなのよ」

言葉は、滲む絵の具のようにゆっくりと広がった。
強い怒りと悲しみが、百瀬先輩の自信をかき消していた。

「才能を持って生まれたかったんじゃない」

「椿姫のようにただ絵が好きで、自分らしい表現ができれば良かった」

その声に柔らかな憧れと愛情が滲んだ。

「君が、君の絵が好きだった」

「特別に生まれついたら、特別に生きなければいけないの?」

「一度でいいから同じ色を見て、描いてみたかった」
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