[第一巻完結!]清心館女学院の探偵事情~銀髪の名探偵『日ノ宮雪乃』謎は解けても恋は解けない~

水星 透

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星と少女と、消えた名前

四章『幕は開かれた』

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開幕まで、三十秒。

教室の扉が閉じられた。逃げ場などないように。
古い校舎が作り出す音は、監獄を思わせる鈍く低い響き。

ホワイトノイズに続いて、オリーブの首飾りが流れ始めた。マジックショーといえば、これ、という曲だ。
話をしていた生徒たちは、パンフレットを閉じ、前方に目を向けた。こういうベタなのがいいのよね。と七々瀬は頷きながら舞台に集中した。

暗幕の後ろから部長らしき生徒が現れた。

「レディース・エンド・ジェントルメン」

女生徒ばかりの観客に向けて、お決まりの挨拶。

「可憐な乙女の園で、過激なマジックは少し刺激が強すぎるかもしれません――」

「ですが、ご安心を。事前に校内規程に沿った安全チェックは完璧に済ませております!」

「危険はまったくありません!」

観客にウインクを送るような仕草で、司会は茶目っ気を見せた。客席からまばらな拍手が飛んだ。

「まずは二年による剣を呑むマジックからどうぞ!」

全くよどみなく口上をべると司会を進行していった。続けて黒マントを羽織はおった、雰囲気たっぷりな女生徒が現れると、マントの下から小道具のサーベルを取り出す。

この公演はどこまでも定型のマジックショーに従っていくようだ。女生徒は刃を指で弾いたり、紙を切り裂いたりして、その硬さの確認をした。ドラムロールがたっぷり三十秒ほど続き、観客の期待を高めた。

それから、おもむろに顔を上げて剣を口にすべり込ませていく。七々瀬は興奮しながらその技に見入った。

その後も、トランプに書かれた絵が実際に出てくるマジック。続いて上半身と下半身が別々になるもの――
これは斜めから見るとすぐバレてしまうもので、笑いを誘った。そんな女子校の奇術部とは思えない、華麗
な技の数々。

観客の歓声が静かな熱気を帯びていた。

七々瀬にとっては、タネがわかるものばかりなのが、ほんの少しだけ残念だったけれど。
十五分ほどのショーの後、再び部長が現れた。
舞台脇には出演を終えた部員が並んでいる。

「最後の大技には観客の皆さんにもご協力いただきます!」

さて……我は!と思うものは!部長は周りを見渡す。
誰も手をあげない。

「おっと、この栄誉ある、演目に参加したいお客様はいらっしゃらない?」

「では、僭越ながら私が――!」

ドラムロールが止まると同時に暁希を指差した。

暁希は目を見開いて、大袈裟に驚いている。
七々瀬は仕込みの友人を選ぶための招待だったと気づいた。舞台へ上がる刹那、暁希は振り返りざまにウィンクを返した。緞帳から漏れた光が、微かに瞳の奥で揺れた。

「舞台はこれからだよ」

そう告げるように。
暁希は、フラフープの輪に黒い布が縫い付けられた小道具の真ん中に立った。部員が、暁希の足元から手慣れた動作で引き上げた。

一度全身をすっぽりと頭まで隠されたが、暁希の顔がまた現れた。まだ、消失していないことを示すようだった。暁希は、二言三言何かを喋ったが、七々瀬には聞こえなかった。

再び頭の上まで、ゆっくりとリングの布が覆い隠す。
カウントダウンの後、部員がサッと手を離すと、床に落ちるリング。

音の輪郭に、彼女の存在が残る舞台。
けれど、その役者はもうどこにもいなかった。

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