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2章 トラウマ
第16話 フィア、攫われる ※ルド視点
しおりを挟む……フィアが攫われた。
突然気配が消えた。
まるでこの世から消えてしまったのではないかという、とてつもない恐怖。
「フィア、フィア、どこに行ったの?」
冷静さがどんどん失われていく。
……俺からフィアを奪ったのは誰だ。
『ルイン、落ち着け。まずはお前の伴侶を探す方が先だろう?』
「……父さん」
ルドの父であるロナがルドの目の前に現れ、ポン、とルドの頭に手を置き、よしよしと撫でる。
『精霊魔法で見つけられないとなれば、魔族が関係しているぞ。怒りに我を忘れている場合ではないだろう?』
「……うん、そうだね。父さん、ありがとう。魔王城に行って来るよ」
『ああ、リナと一緒に後を追いかける』
「……母さんも?追いかけてこなくてもいいよ?」
『いや、リナが黙っていない。それに、心配なんだ。私達の息子と嫁のことだ。
ルインが怒りで我を忘れるのが目に見えているしな』
「ふふ、父さん達が来てくれるなら心強いよ。ありがとう。じゃあ、先に魔王城に行っているね【転移】」
精霊達にお願いをして、魔王城まで転移する。
***
……ドゴンッ。
魔王城の城門前に転移して、門を蹴って開ける。
少しイラついていたから、つい乱暴にしてしまった…。
ちょっとまずかったかな?と思うも、後の祭りである。
バタバタバタッ。
「「何者だ!」」
案の定、魔族が武器をこちらに向けながらゾロゾロと出てくる。
「魔王に用があるんだけど……」
「突然きた不審者を我らが魔王陛下に会わせるわけがないだろう!」
確かに扉を蹴破ったのは悪かったけど……
「そうなんだけどさー?……おたくらの魔族が、俺の大切な大切な伴侶を攫ったんだけど?どうしてくれるわけ?」
話しながらその時の喪失感と怒りを思い出してしまったため、若干威圧を込めながら言うと…。
「「ヒイッ」」
バタバタバタッ。
……ほとんどの魔族が倒れていった。
「……それは失礼いたしました。ですが、威圧を抑えていただいてもよろしいでしょうか?こちらにも被害が及びますので」
数人立っている内のいかにも執事、という格好をした、セピア色の瞳に眼鏡をかけた白髪の男が言った。
「君は?」
威圧を引っ込めながら言う。
「魔王陛下の側近であるクエノス国序列第2位のアガレスと申します。ご用件の詳細をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「俺の大切な伴侶が攫われたんだよ。それで、その攫ったヤツが魔族だって分かったから、魔王にソイツの居場所を聞くのが一番手っ取り早いと思って此処に来たんだ」
「左様でございましたか。して、なぜ魔族だと分かったのでしょう?」
「精霊魔法で追跡できないから」
「……どういうことでしょう?」
心底不思議だという顔をしてアガレスが言う。
「俺は"精霊王の王”の息子、つまり半神だ。半神の俺でさえ追跡できないなんて、俺の父さんか精霊魔法と相性の悪い魔族くらいなんだよ。で、俺の父さんはわざわざ息子の伴侶を攫う必要はないし、番の大切さを知ってるのに、そんなことする筈がない。これで理解できた?」
「……なるほど。私達も魔族がそのようなことをしていたという事実をたった今把握したばかりでして、どこの誰がやったのかは分かっておりません。
ですがこちらとしましても、そのような罪を犯した者を野放しにしておくわけにはいきませんので、詳しい話は魔王陛下の元で行いましょう。それでもよろしいでしょうか?」
「……分かった。いいよ」
魔王城の客間に案内されると、そこにはすでに魔王らしき人物がいた。
「やあ、はじめまして。クエノス国序列第1位のバエル・サーバスト・クエノスだよ。一応魔王もやってる。よろしくね?」
ホワイトブロンドの長い髪の毛に紅玉のように赤い目をした、外見はルドと同じくらいの年の青年が挨拶をしてくる。
「はじめまして?ルインドレッド・リード・カイルラント、一応半神だよ。よろしく?」
「うん。それで早速なんだけど、魔国の者が君の伴侶を攫ったんだって?」
「うん」
「はぁーあ。ったく誰だよそんなことしたの。誘拐とかこの国でも許されるようなことじゃないんだけどなー。むしろ結構重い罰になるんだけど……?」
「クエノス国も普通の国なんだね。魔族が暮らしているから、もっと犯罪とかが許されている国なのかと思ってた」
「クエノス国も普通の国だよ?人間や獣人と種族が違うだけだからね」
何より一番驚いているのは、魔王の気安さである。国の王とはこれ程までに気安くて良いのだろうか?
「全然話違うけど聞いていい?」
「なにー?」
「魔王ってそんな気安くていいの?俺が想像してたより何倍もチャラい感じするんだけど……?」
「ああ、これが素だよ?もっと魔王してる時は威圧出したり、威厳?が出るように振る舞ってるけど…」
「あ、そうなんだ。やっぱ疲れちゃうもんね?」
「そうそう、マジで疲れる。早く隠居したいもん」
本当に嫌だという顔をしながら言う。
思っていたより馬が合いそうだ。
初めはフィアを攫ったから殺してやろうと思っていたが、どうやらそれをしたのは別の者、というか犯罪者みたいだし、なかなか気に入った。
「クスクス。なんか馬が合いそうだね。これからよろしく?バエル」
「ふっ。仲良くしてね?なんて呼べばいい?」
「うーん、大体の人からはドレッドって呼ばれてて、仲の良い人からはルード、両親からはルインって呼ばれてる」
「じゃあ、ルードでいい?」
「うん、いいよ」
「ちなみに、最愛の伴侶からは?」
ニヤニヤしながらバエルが聞いてくる。
「なにニヤニヤしてるの。ルドだよ」
「やっぱ愛称っていいよねー。俺も最愛ができたらその人だけの名前で呼んでもらおーっと」
かなり話が脱線したが、これで魔王の協力が得られそうだ。
フィアの発見を急がないと。
見つけた時には手遅れでした、では済まされない。
「で、話を戻すけど。多分ルードの最愛を攫ったのはクエノス国のクソ貴族どもだと思う。
確かここ数日間で怪しい行動をとっていた者がいたはずだ。
どうせ暗殺者とか、それ専門にしている者を雇ったんだろう。
……クソ貴族どもに俺の警戒を掻い潜って人を攫えるほどの能力を持つ者は殆どいない。それだけの能力を持つ者は、此方側だからな」
「そっか。それじゃあ、早速行こう?俺は早くフィアを見つけたい」
また怒りを思い出し、静かに威圧を発しながら、バエルを急かす。
「ああ、そうだな。これを機に、クエノス国の貴族を一掃するか。友人も増えることだし。
……ああ、見つけた。ルードの最愛はクエノス国の最南にある領地の攫った貴族の別荘にいるらしい」
「了解」
「俺の転移で連れて行こう。飛ぶぞ」
精霊魔法は使えないが、自分自身の魔力から発動する魔法を使い、ルドとバエル、そしてその場にいたアガレスとクエノス国の兵士達は転移した。
***
バエルの転移で着いた場所は、そこそこ大きな屋敷だった。
着いてすぐにバエルが結界を解除してくれた為、フィアの匂いをやっと感じることができた。
屋敷の周りに魔族特有の結果が張ってあり、それによってフィアの匂い、感情の全てが伝わらないように封じられていたようだ。
フィアの感情が伝わってきた。
それは、とてつもない不安に恐怖と痛み。
なのに負けないという強い意志。
さすがフィア。
本当に強いな。
だが、ほどなくしてそれが恐怖に全て塗り潰された。
何があった?
まさか…嫌な想像が頭に浮かび、いや…まだ間に合う、と思い直す。
ルドは反射的にフィアの元へと向かっていた。
ーーーーーーーー
17話はちょっとキツめのシリアスで、気分が悪いので、24時に17話を更新した後に18話を6時に更新します。
シリアスが苦手な方は一緒に読んでいただくか、17話は流して読んでいただけるといいと思います。
どうぞよろしくお願いします。
応援ありがとうございます!
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